「あ、もしもし?うん、僕だよ。………は?オレオレ詐欺ならぬボクボク詐欺だって?
何くだらないこと言ってんだよ。自分の息子の声も忘れたのか?………え?私に息子はいないって??
冗談言ってんじゃねぇよ。それより、うん。最近また帰ってなかったけど、ちょっとした家出だ。
心配すんな。まだまだ帰らない予定だから、うん。父さんにヨロシク言っといてくれ」
「あ~もしもし?2年の久坂先生いますか?…………あ、もしもし?えっと、一之瀬です。
はい。えっと、休学届って、電話でもOKでしたよね?……はい。ちょっと、家庭の事情…その他もろもろにより…
はい。……はい。あ、受理されました?案外ちょろいなこいつ……………あ、いえ、なんでもありません。
はい。なにも言ってません。はい、じゃあ、そういうことでお願いします」
「あ~もしもし?あれ、家政婦さん??あ~そうそう。竜樹だよ。
うん、ばあさんに、あの海辺の別荘借りるからって伝えといてくれ。………え?いま体調崩してるって?
……ふうん。フェンシングのやりすぎねぇ…。まあ、ばあさんらしいや。
とりあえず、電気ガス水道だけ使うからって伝えといて」
僕は立て続けに、3本の電話を入れた。今までの失踪のあと繕いと、これからの保証だ。本当は、美都の学校にも一報入れたかったが、やめることにした。僕は誰かという説明を入れなくてはならない。親にまで連絡がいったら厄介だ。僕の番号が知られてしまうのだから。
「お兄さん…面倒くさくない?」
「なにがだ?」
「わざわざ、やらなくてもいいことを、アタシがいるばっかりにやらなきゃいけないこと…」
「別に、面倒なんかじゃないけど」
「どうして?」
「どうしてっていわれても……」
「………そだよね」
「いや。美都が困ってるなら、それはやらなきゃいけないことだよ。僕が美都の事情を知ってるんだ。僕がやらないでどうする?」
「………」
「美都は周りを気にしすぎだ。もっと欲張っていい。もっと甘えていい。もっと悪いことしていい。もっと怒られていい。もっと泣いたっていいんだ。それを僕が教えてあげないでどうする?」
美都はぐっとうつむいたまま、小さな拳を握った。容姿的な意味ではなく、美都はまだ子供だ。自分ではもう中2だからと大人だと思ってるかもしれないが、世間一般から見ればまだまだ子供。その姿は小さくもあり、背伸びをして、大きくなろうとしているのも分かった。
「……そんな厨二的な発言して大丈夫?美都は一生忘れないよ?」
「うわ…やべぇな、それは。今からでも前言撤回させてくれぇ!!!」
「だーめっ☆」
「可愛く言ってもだめだ。記憶を消してくれ」
「だーめっ☆」
こんな普通の、平凡とはいえないかもしれないけど、普通の暮らしが続けれたらいい。そんなことを考えながら過ごす日々が続く、海辺の小さい家。僕だっていつまでも平和に暮らせたらいいと思ってる。でもその考えとは裏腹に、いつだって裏腹に、悪いことは起こってるんだ。