NoblesseΘOblige

持つべき者の義務。
そして、位高きは徳高きを要す。

7、ある日の大きな事件の始まり

2012-07-07 | 海の向こうの家の事情。




 いつだって、きっかけはどこにでも潜んでいた。
 僕らの関係は一口で言えるものではないが、あえて簡単に言ってしまえば『犯罪者』と『被害者』だ。僕が『犯罪者』で、美都が『被害者』だ。そこまできつい関係ではない。もう少し、いやかなり砕けた関係だが、その立ち位置がなんともいえない……。
 僕は美都を「かくまう」ために、海沿いの家を用意し、警察からか、美都の親からか、ここからでは見えない何かから守っているのか、よく分からないが、僕はとにかく自分の勘で進んできた。そして今、壁にぶち当たるということだ。

 「………うそだろ…おい」

 僕はいつものように、自分の部屋、つまり一階でラジオを聞いていた。美都も朝ごはんを食べていたため、この部屋にいた。美都は、朝ごはん代わりというアイスキャンディをなめながら、僕に近づいた。

 「どしたの?お兄さん」

 「コレ……聞いてみろ」

 僕は、ラジオを美都の方に向けた。美都はラジオに耳を傾ける。

 「……現在、高校二年生の一之瀬竜樹さんと中学二年生の立原美都さんはともに行方不明になってから4日が立っており、また4日前に都内のゲームセンターで目撃されています。なお、目撃情報によると2人はともに行動していたとみられ、警察は、一緒に誘拐されたものと見ております。しかし、誘拐犯からの脅迫などは、両者の両親ともに届いておらず、事故と事件、二つの線で捜査しております。また、一之瀬竜樹さんのご両親は………」

 「もういいよ」

 美都は、耳をふさぐようにして言った。

 「もういい、聞きたくない。いや、いや、いやぁ!やめて……」

 「み、美都…落ち着け!」

 僕はラジオをすぐに消し、美都はふらふらと自分の部屋に行こうとするが途中で足がもつれてしまい、倒れこむ。僕は美都に駆け寄り、美都を抱き寄せる。

 「いやだ……あの人が来る。お…お父さんが……来るよ…………。お父さんが……お父さんが、捜索願出したんだよ…。アタシを……美都を連れ戻すんだ…。嫌…帰りたくない…帰ったら、また…また……」

 美都はそこで言葉がつまった。美都の目には大粒の涙が浮かんでいて、いつこぼれてもおかしくなかった。僕は何も言うことができない。大丈夫だ、なんて無責任な言葉は言えない。僕が何かできるという保証はない。まさか僕まで探されるとは思ってなかった。僕の親はどうせ警察が来たときでも適当なことしか言わないのだろう。だとしたら、美都の父親が何かしらの情報をつかんで僕も一緒に届を出したのだろうか。そんな推測をしながら、僕はまだ美都を抱きしめる。美都はもう既にぼろぼろと涙をこぼしていて、その表情は恐怖で埋まっていた。

 「美都……」

 「うぅぅ…(ヒック。何よ…お兄さん」
 
 「……まだ僕はここにいる。まだ捕まってないよ。まだ帰らなくていいんだ」

 今の僕にはこれしか言えない。それでも、コレが一番いいと思った。
 このあとしばらく、美都が泣きやむまでずっとこうしていた。その間に、一度だけ美都が自分の事を「アタシ」といわず、「美都」といったことなど忘れてしまった。

 「それで……一体どうすんのよ。お兄さんまで探されるなんて考えてなかったし…」

 「そうだな…ったく。うちの親は何を言ったんだ。別にプチ家出としか言ってないのに…」

 「ん~なんか………」

 「なんだ?言いたいこと言えよ」

 「お兄さんの家族って……楽しそう」

 美都が本当にうれしそうに言った。美都は今まで、こんな温かい家庭にあこがれて過ごしてきたのだろうか。はっきり言って僕にはわからないが…そうなのかもしれない。僕はふと考える。このことが全部すんだら…全部解決したら、普通の友達として、僕の家族を紹介してやりたい。『犯罪者』と『被害者』ではなく……。