2013年5月11日(土)、5月文楽公演の初日の幕があきました。
今月の文楽は、土日、平日問わず、すべての日が初日前にsold outという、絶好調の売れ行きだそうです。
演目は、以下の通り。

第一部
「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」から
熊谷桜の段
熊谷陣屋の段
近松門左衛門生誕三六〇年記念
「曾根崎心中(そねざきしんじゅう)」から
生玉社前の段
天満屋の段
天神森の段

第二部
「寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」
近松門左衛門生誕三六〇年記念
「心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)」から
北新地河庄の段
天満紙屋内より大和屋の段
道行名残りの橋づくし
私は、初日は第二部に行ってまいりました。

この「満員御礼」の札が連日掲げられるのですねえ。
今日は雨だったのでかさ袋が隣に見えるのがちょっとなんですけど……。
「寿式三番叟」では、ここしばらく休演されていた住大夫師匠が復帰され、
あのお声で「それ豊秋津州の大日本……」のあの「だあいにっぽん」という響きが聞けたのがうれしかったです。
そして、「三番叟」といえばあの踊り狂う場面での三味線のリフレイン。だんだん早くなりますが、あれがどれだけ神業かということは、ほんのちょっとかじったものにはわかるはず。
一の糸をあれだけ早く弾くというのは、尋常なことではないのです。プロである以上は当たり前のことなのでしょうが、何度聞いてもすごい。心躍る演目です。
「心中天網島」は、文楽でははじめて拝見する演目。
本来、心中物は苦手なんですが、「河庄」の紙屋治兵衛と兄・孫右衛門とのやりとりは、数年前、南座の顔見世で藤十郎さんと段四郎さんで見たのがものすごくおもしろかったので、文楽でもぜひ見たいと思っていた演目。
それから、心中物で個人的に楽しみなのは、敵役の存在。
「曽根崎心中」では徳兵衛と九平次、「冥途の飛脚」では忠兵衛と八右衛門、そして「心中天網島」では治兵衛と太兵衛。
この、青字のほうが敵役なのですが、どの演目でも似たようなキャラ。いけずうずうしくて嫌味ったらしくて、金で女の心も買えると思っているいやな奴です(どっかにいそうですねえ、こういうの)。
当然、主人公の女たち(つまり心中の相手の女性)からは総すかんを喰っているのですが、それがまた気に入らないので余計に主人公や相手の女性にからんでくる。
そのからみが、結局主人公2人を死の淵に突き落とすことにもなるわけですが、その一連のやりとりが実におもしろくできているのです。
何がおもしろいって、敵役を語っているときの太夫さんを見ているのがおもしろい、のです。
何しろ、太兵衛のセリフになったとたん、実にいや~な「へへーん」という顔つきに豹変し、にくたらしい言葉を吐き散らす。ほかの役の語りになると、しおっとした表情になる。その豹変ぶりが実におもしろい!
それだけ、役になりきっているということでしょうか。
太夫さんはひとりで何役も語り分けるので、瞬間的にいろいろな役に切り替わる、その様子が声だけでなく顔の表情や全身のしぐさにもあらわれて、「見ても」おもしろいのです。
今回は、「河庄」を語るのが千歳大夫さんと嶋大夫さんという、実に表現力豊かなお二人なので、語っている様子を見ているのがおもしろくて、おもしろくて。
これからご覧になる方は、ぜひ、人形だけでなくちらっと床のほうも見てみてください。
ふだんは三味線が何よりも気になる私ですが、今回ばかりは太夫の語りも気になります。でももちろん、清介さんの三味線、歯切れがよくていつものようにかっこよかったです。
私としては心中物は原則的にストーリーに納得がいかないので(主人公の男にも大いに納得がいかない)、こういうちょっと違った(うがった)視点でもおもしろさを見つけて中和しているのかもしれません。
しかし実際のところ、先にご紹介した5月文楽公演のパンフでも、「心中天網島」の真の主役はおさんというようなことが書いてあり、「河庄」の後の「大和屋の段」で登場する妻おさんの心の機微がこの演目の見所でもあるようです。
しかし、見るほうの側(自分のこと)がお子様なので、大人の女性の懐の深さはいまひとつよくわかりませなんだ(スミマセン)。
次回、もう一度うかがうので、今度はそこらへんのところがもう少しわかるようになればいいな、と思っております……。
結局、私の精神性も太兵衛レベルなんだろうか……反省。(でも、あの三味線のマネするところなんか、馬鹿馬鹿しくってすごくおもしろいんだもん)。
そして、最後の「道行名残の橋づくし」。治兵衛と小春が心中の場所へと向かう「道行」と心中の場面が繰り広げられるのですが……。
治兵衛がちょっと予想外の死に方で、軽くショックを受けてしまいました。あまり詳しくは書きませんが、人形なので、死ぬとほんとにくたっとなっちゃうのでかえって空恐ろしい。
ここも三味線がずらっと並んで聴かせどころ満載。でも、最後の最後で、ちょっと動揺してしまいました……。
今回の5月公演では、第一部では「曽根崎心中」がかかっており、近松門左衛門の「心中物」の名作を一度に味わえます。
そういうこともあってか、大人気の5月文楽公演。
個人的には、第一部の「熊谷陣屋」も非常に楽しみ(やっぱり、時代物のほうが性にあってるかも)。
チケットはぎりぎりになって出ることもあるようなので、あきらめないで、まめに劇場のチケットセンターに問い合わせてみてください。
おまけ情報①:以前、ご紹介した「渡邉肇 × 堀部公嗣『人間・人形 映写展』」の記事にも書いた、「曽根崎心中」お初が美しいクリアファイルは、5月初日では国立劇場小劇場の売店でも売っていました。入って左奥のほうの売店です。とてもきれいですし、クリアファイルなので独特の透明感があって◎。人形が好きな方はぜひ。
おまけ情報②:しつこいようですが、先日の勧進公演で販売していた限定手ぬぐい、5月文楽公演でも販売してます。ほしい方は売り切れる前に迷わずゲットしてくださいね~。
今月の文楽は、土日、平日問わず、すべての日が初日前にsold outという、絶好調の売れ行きだそうです。
演目は、以下の通り。

第一部
「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」から
熊谷桜の段
熊谷陣屋の段
近松門左衛門生誕三六〇年記念
「曾根崎心中(そねざきしんじゅう)」から
生玉社前の段
天満屋の段
天神森の段

第二部
「寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」
近松門左衛門生誕三六〇年記念
「心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)」から
北新地河庄の段
天満紙屋内より大和屋の段
道行名残りの橋づくし
私は、初日は第二部に行ってまいりました。

この「満員御礼」の札が連日掲げられるのですねえ。
今日は雨だったのでかさ袋が隣に見えるのがちょっとなんですけど……。
「寿式三番叟」では、ここしばらく休演されていた住大夫師匠が復帰され、
あのお声で「それ豊秋津州の大日本……」のあの「だあいにっぽん」という響きが聞けたのがうれしかったです。
そして、「三番叟」といえばあの踊り狂う場面での三味線のリフレイン。だんだん早くなりますが、あれがどれだけ神業かということは、ほんのちょっとかじったものにはわかるはず。
一の糸をあれだけ早く弾くというのは、尋常なことではないのです。プロである以上は当たり前のことなのでしょうが、何度聞いてもすごい。心躍る演目です。
「心中天網島」は、文楽でははじめて拝見する演目。
本来、心中物は苦手なんですが、「河庄」の紙屋治兵衛と兄・孫右衛門とのやりとりは、数年前、南座の顔見世で藤十郎さんと段四郎さんで見たのがものすごくおもしろかったので、文楽でもぜひ見たいと思っていた演目。
それから、心中物で個人的に楽しみなのは、敵役の存在。
「曽根崎心中」では徳兵衛と九平次、「冥途の飛脚」では忠兵衛と八右衛門、そして「心中天網島」では治兵衛と太兵衛。
この、青字のほうが敵役なのですが、どの演目でも似たようなキャラ。いけずうずうしくて嫌味ったらしくて、金で女の心も買えると思っているいやな奴です(どっかにいそうですねえ、こういうの)。
当然、主人公の女たち(つまり心中の相手の女性)からは総すかんを喰っているのですが、それがまた気に入らないので余計に主人公や相手の女性にからんでくる。
そのからみが、結局主人公2人を死の淵に突き落とすことにもなるわけですが、その一連のやりとりが実におもしろくできているのです。
何がおもしろいって、敵役を語っているときの太夫さんを見ているのがおもしろい、のです。
何しろ、太兵衛のセリフになったとたん、実にいや~な「へへーん」という顔つきに豹変し、にくたらしい言葉を吐き散らす。ほかの役の語りになると、しおっとした表情になる。その豹変ぶりが実におもしろい!
それだけ、役になりきっているということでしょうか。
太夫さんはひとりで何役も語り分けるので、瞬間的にいろいろな役に切り替わる、その様子が声だけでなく顔の表情や全身のしぐさにもあらわれて、「見ても」おもしろいのです。
今回は、「河庄」を語るのが千歳大夫さんと嶋大夫さんという、実に表現力豊かなお二人なので、語っている様子を見ているのがおもしろくて、おもしろくて。
これからご覧になる方は、ぜひ、人形だけでなくちらっと床のほうも見てみてください。
ふだんは三味線が何よりも気になる私ですが、今回ばかりは太夫の語りも気になります。でももちろん、清介さんの三味線、歯切れがよくていつものようにかっこよかったです。
私としては心中物は原則的にストーリーに納得がいかないので(主人公の男にも大いに納得がいかない)、こういうちょっと違った(うがった)視点でもおもしろさを見つけて中和しているのかもしれません。
しかし実際のところ、先にご紹介した5月文楽公演のパンフでも、「心中天網島」の真の主役はおさんというようなことが書いてあり、「河庄」の後の「大和屋の段」で登場する妻おさんの心の機微がこの演目の見所でもあるようです。
しかし、見るほうの側(自分のこと)がお子様なので、大人の女性の懐の深さはいまひとつよくわかりませなんだ(スミマセン)。
次回、もう一度うかがうので、今度はそこらへんのところがもう少しわかるようになればいいな、と思っております……。
結局、私の精神性も太兵衛レベルなんだろうか……反省。(でも、あの三味線のマネするところなんか、馬鹿馬鹿しくってすごくおもしろいんだもん)。
そして、最後の「道行名残の橋づくし」。治兵衛と小春が心中の場所へと向かう「道行」と心中の場面が繰り広げられるのですが……。
治兵衛がちょっと予想外の死に方で、軽くショックを受けてしまいました。あまり詳しくは書きませんが、人形なので、死ぬとほんとにくたっとなっちゃうのでかえって空恐ろしい。
ここも三味線がずらっと並んで聴かせどころ満載。でも、最後の最後で、ちょっと動揺してしまいました……。
今回の5月公演では、第一部では「曽根崎心中」がかかっており、近松門左衛門の「心中物」の名作を一度に味わえます。
そういうこともあってか、大人気の5月文楽公演。
個人的には、第一部の「熊谷陣屋」も非常に楽しみ(やっぱり、時代物のほうが性にあってるかも)。
チケットはぎりぎりになって出ることもあるようなので、あきらめないで、まめに劇場のチケットセンターに問い合わせてみてください。
おまけ情報①:以前、ご紹介した「渡邉肇 × 堀部公嗣『人間・人形 映写展』」の記事にも書いた、「曽根崎心中」お初が美しいクリアファイルは、5月初日では国立劇場小劇場の売店でも売っていました。入って左奥のほうの売店です。とてもきれいですし、クリアファイルなので独特の透明感があって◎。人形が好きな方はぜひ。
おまけ情報②:しつこいようですが、先日の勧進公演で販売していた限定手ぬぐい、5月文楽公演でも販売してます。ほしい方は売り切れる前に迷わずゲットしてくださいね~。
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