国立新美術館で開催中の「貴婦人と一角獣」展(1回目のレビューはこちら)。

開催当初は比較的空いていたようですが、約一か月がたったいま、連日、かなりの方が足を運んでいるようです。
土、日はかなりの人手を予想していたものの、なんとかなるかとの思いから先週の土曜日の夕方に行ってみたら、あまりの人出に入り口から中を覗いただけで断念。
翌週、気を取り直して仕事のあいまに足を運んでみたらなんと休館日の火曜日(←みなさま、お気をつけください)……。
じゃっかんテンションは下がりましたが、こうなったらもう、意地でももう一度ゆっくり見たいとの思いから、なんとか仕事をやりくりして、平日の午後にもう一度行って参りました。
午後14時近くということで、土曜日の午後よりは空いていました。が、それなりの人。
しかし、タピスリーが展示されているメイン会場はかなり広く、またタピスリーそものもかなり大きくて高さがあるため、人の頭でふさがって見られないということにはならないと思います。

(《貴婦人と一角獣》タピスリーの展示風景)※主催者の許可を得て撮影したものです。
たとえば、今回展示されている宝飾物ですと、腰の高さあたりに展示されていたりするので、前に人垣ができるとまったく見えなくなりますが、タピスリーに関してはそういうことはなさそうです。

(<触覚>の展示風景。頭よりかなり上に画面があるので、人垣ができても大丈夫)※主催者の許可を得て撮影したものです。
また、わたしが行ったときはひとつのタピスリーを時間をかけて丹念に見る方は比較的少なく、少し待っていれば前のほうがあくので、近くからじっくり見ることができました(←一箇所にじっと固まってしまうと、場合によってはほかの方の迷惑になるので、最前列でじっくり見る場合は適宜、周囲に気を配ったほうがよいですが)。
今回、もう一度じっくり拝見してあらためて感服したのは、ゴブラン織りでありながら、描写が驚くほど細かく、繊細だということです。
貴婦人の髪の毛、一角獣や獅子のたてがみのひとすじ、毛並みまでを織り出し、貴婦人や侍女の豪華な衣装の光沢(生地によって光沢にも微妙な違いがある)や透けるヴェール(<聴覚>の侍女)を表現する高度な技に、あらためて驚かされます。
下絵を描いた画家はもちろんのこと、織師(複数いたことでしょう)もまた、相当な腕利きを集めて作られたことが実感されます
一方、配色も工夫されており、こちらは下絵の画家の色彩についての敏感なセンスを感じさせます。たとえば樹木の葉っぱを表現するために、少なくとも6~7種類のさまざまな階調のグリーンが使われています。
画家の神経は細部の描写にまで行き届いており、口を明けた獅子(<味覚>)の歯が一部黒ずんでいたりするのもほほえましい。
じっくりと本物を見たあとには、《貴婦人と一角獣》の高精細デジタル映像を大画面で見られるスペースもあります。
6面のタピスリーを「貴婦人」「一角獣と獅子」「動物たち」といったいくつかのテーマごとに紹介しています。
たとえば、6人の貴婦人だけを拡大して並べて見せたり、6頭の一角獣だけを取り出して並べて見せたりするのですが、並べてみると実はかなり違うことが実感できたりして、大変おもしろいです。
これらの写真は本展覧会の公式図録にも掲載されているので、家に帰ってじっくり確認することもできますが、なんといっても高精細デジタル映像、非常にきれいな画面で、実際の展示ではそこまでなかなか見られないような細部も拡大して見られたりできます。
せっかく本物が見られるのに、映像を見たってしょうがない、という考えもあるかもしれませんが、これはこれで大変よく工夫されているので、一見の価値ありです。
これらの画像を見たうえで、また展示室に戻ると、またあらたな視点でタピスリーと対峙することができるかもしれません。
ところで《貴婦人と一角獣》の連作タピスリー、もし一枚もらえる、としたらどれを選びますか?
どうしても一枚ということでしたら、わたしは<視覚>を選びます(なので、グッズのゴブラン織りミニトートバッグも<視覚>にしました)。

(《貴婦人と一角獣》〈視覚〉1500年頃 羊毛、絹、フランス国立クリュニー中世美術館 RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom
この一面だけ、樹木は二本しか描かれず、メインで登場するのも貴婦人と獅子と一角獣のみ(侍女はいない)ということで、一番シンプル。みな座っているのでゆるやかに三角形をなす構図にも安定感があります。タピスリーそのものも一番小さく(といっても縦横3メートル以上はありますが)、こぢんまりしていますが、洗練された印象を与えます。
そしてなんといっても、貴婦人と一角獣が親密な雰囲気なのがほほえましい。
一角獣が貴婦人のひざに乗せた前足や一角獣の首筋に貴婦人が添えた手の表情には、なんともいえない親密さと優しさが感じられます。
ほかの貴婦人の顔だちが現代的な美人顔(たとえば<味覚>や<聴覚>など)なのに対して、<視覚>の貴婦人は中世的な古風な顔だちなのも、中世から新しい時代への過渡期に作られたこのタピスリーの時代性を端的にあらわしているように思えてなりません。
もちろん、どのタピスリーもすばらしく、<我が唯一の望み>を筆頭に豪華で、洗練されていて、とにかくひたすら美しい。
この連作タピスリーが何を表しているかについては、さまざまな議論が交わされているようですが、ここに描かれているのが当時の人々が思い描く理想郷(ユートピア)のひとつであると考えてもそう間違ってはいないのではないでしょうか。
いまはもう、永遠に失われた中世の夢に、見る者をいざなってくれるタピスリー。
東京での展示は7月15日まで。あと一か月半は東京で見られます。その後は大阪へ。
この機会を逃すともうなかなか来日はしないと思われますので、ぜひ本物をお確かめください。
くどいようですが、休館日は月曜日ではなく、火曜日です。お間違えなく!
おまけ:《貴婦人と一角獣》6面のタピスリーのうち、あなたはどれが好きですか?→教えて!ランキング

開催当初は比較的空いていたようですが、約一か月がたったいま、連日、かなりの方が足を運んでいるようです。
土、日はかなりの人手を予想していたものの、なんとかなるかとの思いから先週の土曜日の夕方に行ってみたら、あまりの人出に入り口から中を覗いただけで断念。
翌週、気を取り直して仕事のあいまに足を運んでみたらなんと休館日の火曜日(←みなさま、お気をつけください)……。
じゃっかんテンションは下がりましたが、こうなったらもう、意地でももう一度ゆっくり見たいとの思いから、なんとか仕事をやりくりして、平日の午後にもう一度行って参りました。
午後14時近くということで、土曜日の午後よりは空いていました。が、それなりの人。
しかし、タピスリーが展示されているメイン会場はかなり広く、またタピスリーそものもかなり大きくて高さがあるため、人の頭でふさがって見られないということにはならないと思います。

(《貴婦人と一角獣》タピスリーの展示風景)※主催者の許可を得て撮影したものです。
たとえば、今回展示されている宝飾物ですと、腰の高さあたりに展示されていたりするので、前に人垣ができるとまったく見えなくなりますが、タピスリーに関してはそういうことはなさそうです。

(<触覚>の展示風景。頭よりかなり上に画面があるので、人垣ができても大丈夫)※主催者の許可を得て撮影したものです。
また、わたしが行ったときはひとつのタピスリーを時間をかけて丹念に見る方は比較的少なく、少し待っていれば前のほうがあくので、近くからじっくり見ることができました(←一箇所にじっと固まってしまうと、場合によってはほかの方の迷惑になるので、最前列でじっくり見る場合は適宜、周囲に気を配ったほうがよいですが)。
今回、もう一度じっくり拝見してあらためて感服したのは、ゴブラン織りでありながら、描写が驚くほど細かく、繊細だということです。
貴婦人の髪の毛、一角獣や獅子のたてがみのひとすじ、毛並みまでを織り出し、貴婦人や侍女の豪華な衣装の光沢(生地によって光沢にも微妙な違いがある)や透けるヴェール(<聴覚>の侍女)を表現する高度な技に、あらためて驚かされます。
下絵を描いた画家はもちろんのこと、織師(複数いたことでしょう)もまた、相当な腕利きを集めて作られたことが実感されます
一方、配色も工夫されており、こちらは下絵の画家の色彩についての敏感なセンスを感じさせます。たとえば樹木の葉っぱを表現するために、少なくとも6~7種類のさまざまな階調のグリーンが使われています。
画家の神経は細部の描写にまで行き届いており、口を明けた獅子(<味覚>)の歯が一部黒ずんでいたりするのもほほえましい。
じっくりと本物を見たあとには、《貴婦人と一角獣》の高精細デジタル映像を大画面で見られるスペースもあります。
6面のタピスリーを「貴婦人」「一角獣と獅子」「動物たち」といったいくつかのテーマごとに紹介しています。
たとえば、6人の貴婦人だけを拡大して並べて見せたり、6頭の一角獣だけを取り出して並べて見せたりするのですが、並べてみると実はかなり違うことが実感できたりして、大変おもしろいです。
これらの写真は本展覧会の公式図録にも掲載されているので、家に帰ってじっくり確認することもできますが、なんといっても高精細デジタル映像、非常にきれいな画面で、実際の展示ではそこまでなかなか見られないような細部も拡大して見られたりできます。
せっかく本物が見られるのに、映像を見たってしょうがない、という考えもあるかもしれませんが、これはこれで大変よく工夫されているので、一見の価値ありです。
これらの画像を見たうえで、また展示室に戻ると、またあらたな視点でタピスリーと対峙することができるかもしれません。
ところで《貴婦人と一角獣》の連作タピスリー、もし一枚もらえる、としたらどれを選びますか?
どうしても一枚ということでしたら、わたしは<視覚>を選びます(なので、グッズのゴブラン織りミニトートバッグも<視覚>にしました)。

(《貴婦人と一角獣》〈視覚〉1500年頃 羊毛、絹、フランス国立クリュニー中世美術館 RMN-Grand Palais / Franck Raux / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom
この一面だけ、樹木は二本しか描かれず、メインで登場するのも貴婦人と獅子と一角獣のみ(侍女はいない)ということで、一番シンプル。みな座っているのでゆるやかに三角形をなす構図にも安定感があります。タピスリーそのものも一番小さく(といっても縦横3メートル以上はありますが)、こぢんまりしていますが、洗練された印象を与えます。
そしてなんといっても、貴婦人と一角獣が親密な雰囲気なのがほほえましい。
一角獣が貴婦人のひざに乗せた前足や一角獣の首筋に貴婦人が添えた手の表情には、なんともいえない親密さと優しさが感じられます。
ほかの貴婦人の顔だちが現代的な美人顔(たとえば<味覚>や<聴覚>など)なのに対して、<視覚>の貴婦人は中世的な古風な顔だちなのも、中世から新しい時代への過渡期に作られたこのタピスリーの時代性を端的にあらわしているように思えてなりません。
もちろん、どのタピスリーもすばらしく、<我が唯一の望み>を筆頭に豪華で、洗練されていて、とにかくひたすら美しい。
この連作タピスリーが何を表しているかについては、さまざまな議論が交わされているようですが、ここに描かれているのが当時の人々が思い描く理想郷(ユートピア)のひとつであると考えてもそう間違ってはいないのではないでしょうか。
いまはもう、永遠に失われた中世の夢に、見る者をいざなってくれるタピスリー。
東京での展示は7月15日まで。あと一か月半は東京で見られます。その後は大阪へ。
この機会を逃すともうなかなか来日はしないと思われますので、ぜひ本物をお確かめください。
くどいようですが、休館日は月曜日ではなく、火曜日です。お間違えなく!
おまけ:《貴婦人と一角獣》6面のタピスリーのうち、あなたはどれが好きですか?→教えて!ランキング
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