一寸の兎にも五分の魂~展覧会おぼえがき

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図版がすばらしい『カリカチュアでよむ19世紀末フランス人物事典』白水社刊

2013-07-07 | 展覧会
先日開催された東京ブックフェアで、鹿島茂先生+倉方健作先生の『カリカチュアでよむ19世紀末フランス人物事典』(白水社刊)を買ってきました。



今から100年以上前、1878年から1899年のパリで刊行された『今日の人々(レ・ゾム・ドージュルデュイ)』469号すべてのカリカチュア(戯画)を、簡潔な人物紹介とともに掲載したのが本書、『カリカチュアでよむ19世紀末フランス人物事典』です。


(裏表紙 どれが誰だかわかりますか?)

先日東京堂書店で開催された刊行記念のトークショーは仕事で行けなかったものの、本は欲しいなあと思っていた矢先に、ブックフェア会場で白水社のブースに平積みされていたので思わず手にとってしまいました。


(背表紙もおもしろい)

今どきめずらしく函に入っているので、書店でも中を見るのはためらわれたのですが、今回は白水社の方(偶然、この本の担当編集者の方でした!)が「ぜひ中を見てください」とおっしゃってくださったので、拝見しましたらすごいことになっていました。

なんといっても、図版がすばらしいのです。

とりあげられた人物の特徴を諷刺をきかせて表現した、いわゆるカリカチュアが主体ですが、極端にデフォルメしたり揶揄したような表現のものばかりではなく、描かれた人物の内面の深みを示唆するような味わい深い作品も多いことに目をひかれました。

469も図版があるので描き手もさまざまですが、有名なところでは、

猫のポスターで有名なスタンランがトゥルーズ=ロートレックのポスターで有名なシャンソン歌手、アリスティド・ブリュアンを描いたり、


(左がスタンランが描いたアリスティド・ブリュアン、右がスタンランが描いたスタンラン本人←やっぱり猫がたくさんいますね。画像がぼけぼけですみません)

トゥルーズ=ロートレックがアンリ・ソムを描いたり、

ジョルジュ・スーラがポール・シニャックを描いたり、

ポール・シニャックがマクシミリアン・リュスを描いたり、

エミール・ベルナールがゴッホを描いたり、

カミーユ・ピサロがセザンヌを描いたり……

と、画家が画家を描いたものも多く(特に後半で)、非常に味わい深い作品が並んでいます。

私の好みで画家系の人物のみとりあげてしまいましたが、実際には文学者、芸能人(と言っていいのかな、俳優・女優、歌手など)、政治家、学者など、あらゆるジャンルの「時の人」が選ばれています(イメージとしては、『アエラ』の表紙の19世紀末版みたいな感じです)。

どういう人がどういう描かれ方でとりあげられているかを見るだけでも、いろいろな情報を得ることができ、それだけで知と情報の宝庫です。

そしてなんといっても、それぞれの図版が非常に美しい。

もとの冊子の保存状態がよいということもあるのでしょうが、色あいも繊細で、ざらざらした紙質までくっきりとうかびあがるほどクリアな画質。

撮影がうまく、色校正にも相当気を使わないとこの仕上がりにはならないはず。

それぞれの人物に、鹿島先生と倉方先生による簡潔かつ興味深い人物紹介が載っているので、資料としても非常に役立ちます。

19世紀末フランスの美術や文学に関心がある方であれば、必ずや得るものが多い1冊です。特に人文系大学院生はもちろんのこと、人文系専門書の編集者も常備しておいて損はないかと。

私自身、正直言って中身をみるまでは12,000円という価格設定は「欲しいけど、ちょっと手が届かないかなあ」と思っていました。でも、12,000円を469人で割れば、一人頭25.5円だそうです。そう考えれば、リーズナブル!

とにかく、あまりに図版が美しく、かつおもしろいので家でじっくり読みたくて購入しました。

鹿島先生が「これが出せたら死んでもいいと思うたぐいの本があるものだが、本書もそうした1冊であることは間違いない」とまでおっしゃるのもうなずけるほどのクオリティの高さです。

14日からは練馬区立美術館で「鹿島茂コレクション3 モダン・パリの装い」展も開催されます(以前の紹介記事はコチラ)。



こちらの図録(求龍堂より一般販売もあり)もものすごく丁寧に作業を進めているとツイートされていましたので、楽しみですね。



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