一寸の兎にも五分の魂~展覧会おぼえがき

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チェーザレ 破壊の創造者

2011-09-23 | 読書
遅ればせながら、やっと読みました、『チェーザレ 破壊の創造者』(惣領冬美,講談社)。



歴史物、しかもルネンサス期のイタリアとくれば興味がわかないはずもない。

しかも現役の研究者と二人三脚で時代考証をしながら、一次資料にもバンバンあたって新しいチェーザレ・ボルジア像を漫画で作り上げようという壮大な試みとくれば、読まない手はない。

果たして、前評判の高さを裏切らないものすごい質の高さは感じられた。

何しろ、絵がうまい。活躍時期が長い漫画家の場合、どうしても途中から絵が変わってしまって「前のほうがよかった」と思うケースが多いのだが、惣領冬実の場合は昔の漫画を読んだことがないせいもあるのだろうが、とにかく今の絵も大変うまい。なんといっても、年齢を問わず男がよく描けている。

もし、中高生の頃にこの漫画に出合っていたら、間違いなくベスト5に入るお気に入りだったに違いない。

もっともこの点については、今となってはそれほどのめりこむものもなく、「うーん、きれいな絵」で済んでしまう自分が我ながらちょっとさびしかったりもするのだが、まあそれはよいとして。

もっとも驚かされるのは、教皇と皇帝の対立とか、あの時代のヨーロッパ精神史の根幹をなす思想問題を真正面から扱ってしまうスケールの大きさである。なにしろ、漫画で「カノッサの屈辱」とかダンテの『神曲』とかが、そのうわっつらをなぞるだけでなく、一つ一つの意味するところ、その後の歴史に投げかけた影響を含めて、克明に表現されるのである。そういうテーマを漫画で表現すること自体、一見無謀とも思えるのだが、そこに真正面から切り込んでいく姿勢そのものがすごい。それを商品として受け入れ、企画を通した『モーニング』編集部もすごい、と言わざるを得ない。

ただ、今のところ(8巻までの間に)チェーザレがまだ16、7の若者で、「破壊の創造者」たる本領を発揮する段階には至っていないので、いつになったらそういう姿が見られるのかなあ、と思ったりはしますがね。

あと、ところどころに妙に青春ドラマっぽいエピソードが混ざっていたりするのは、ちょっと違和感というか「なくてもいいかな」と思ってしまったりはするのだが、おそらくそういう読者サービスがないとさすがに重過ぎるのであろう。

実はこれを読もうと思い立った直接の動機は、その直前に『ミケランジェロの暗号-システィナ礼拝堂に隠された禁断のメッセージ』(B・ブレック他、早川書房)を読んだこと、もう一冊『ロレンツォ・デ・メディチ暗殺事件』(M・シモネッタ、早川書房)を読もうと思っていた矢先だったから、ということがある。どちらも、チェーザレとほぼ同時代がテーマのもの。引き続き、ルネサンスの隠されたミステリーに挑戦、である。
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