事件のあったと公園と思われる画像。このような木々に囲まれていては、集団暴行があっても気づかないな
(画像は御願塚古墳)
兵庫県伊丹市で昨年10月、同市立中2年の男子生徒=当時(14)=が上級生らに集団暴行を受けて死亡した事件の記事
2009/10/17 08:24更新
「俺の方が強い」-。何気なく口にした一言が凄惨な“集団リンチ”に発展した。兵庫県伊丹市で今月4日、同市立中学2年の男子生徒(14)が、同じ中学3年の男子生徒(15)ら複数の中学生から殴るけるなどの暴行を受け、17日朝、死亡した。なぜ暴行がここまでエスカレートしてしまったのか。関係者の衝撃は計り知れない。
■顔面に複数の靴跡
救急隊員が駆けつけたとき、少年は意識不明の状態であおむけに倒れ、辺りには大量の血が飛び散っていた。顔面には複数の靴底の跡。「子供同士のけんかではない」。思わず息をのんだ。
事件があったのは4日午後。住宅街の中心にあるにもかかわらず、周辺を木で囲まれ、人目に付きにくい古墳公園が現場となった。
捜査関係者によると、暴行は最初、被害生徒と同じ学校の3年生徒による1対1のけんかから始まった。別の中学校の数人の男子生徒は列を作って見ていたという。
しかし、3年生が優勢となり、馬乗りになって殴るなど一方的な暴行が1時間近く続き、被害生徒がふらつくようになると、傍観していた生徒たちも周辺から暴行に加わり、けんかを続けるように要求。被害生徒はその数十分後、ぐったりと倒れ込んだ。
ここで初めて我に返った加害生徒たちは被害生徒のほおをたたき、名前を呼び掛けるなどしたが反応がなく、放置して逃走。約400メートル離れた公衆電話から「ハヤシ」という偽名を使って119番し、事件が発覚した。
翌日、4人が傷害容疑で伊丹署に逮捕された。
■「悪口を言われ…」
「悪口を言われたので、腹が立っていた」
最初にけんかを始めた男子生徒は、同署の調べにこう供述する。
学校や市教委などによると、被害生徒が今年9月ごろ、この生徒を名指しした上で「けんかしたらおれの方が強い」などと発言したのをきっかけに2人の関係が悪化。学校側は「相手にしないように」「脅したりしないように」などと指導。被害生徒が謝罪するなどトラブルは沈静化したと判断していたが、事件を防ぐことはできなかった。
2人が通っていた中学校の校長は「当時は理解してもらえたと受け止めていたが、結果的に十分指導できたとは言い難い」と唇をかみしめる。
一方で、校長は「(どちらが強いなどの言動は)中学生ならよくあること」と頭を抱えた。捜査関係者も驚きを隠せない。「そんな悪口だけでここまでやるのか。普通では考えられない」。
■“暴走”した“普通”の少年たち
少年の非行問題などに詳しい関西学院大法学部の鮎川潤教授(犯罪学)は今回の事件を「悪口を言われたことで激高し、タイマン(1対1のけんか)で自分の方が強いことを再確認する、いわば古典的な手法」とした上で、「年少少年(中学生~高校生低学年)は年長少年(18~19歳)と比べ、法知識や経験が薄いため、どうしてもけんかがエスカレートするケースが多い」と中学生特有の心理が背景にあったとの見解を示す。
同署などは現在、「夜遊び仲間」とされる逮捕された4人のつながりや動機面を含め、事件の全容解明を急いでいる。
ただ、いずれも「非行に走るなど日常生活に大きな問題はなく」(両校の校長)、警察でさえ「全くノーマークだった」(捜査関係者)という“普通”の少年たちが引き起こした重大な事件に、関係者のショックは今も尾を引いている。
鮎川教授も「こうしたケースを未然に防ぐのは非常に難しい」と事件の根深さを指摘している。