レポートバンク

主に企業の財務や経営について分析するブログ。

銀行の経営状況と再編

2021-02-09 18:50:53 | 企業分析
銀行の数が多くあって相互に競争することは、「金利の引き下げ」「接客サービスの向上」「アプリ機能向上」など良いことが多いのだが、特定行向けATMや他行振込手数料など負の側面もあった。

特にオンラインサービスとコンビニATMで入出金・振込み・住宅ローンまで出来るようになった現代において、店舗が地元に沢山あることは消費者にとって昔ほど良いことでもない。

そうなると、消費者の視点からは銀行が多数あることについて、他行振込料金の負担など負の側面に自然と目がいくことになる。

この点について、2019年には三菱と三井住友でATMの共同利用化が行われ(プレスリリース)、地方銀行の統合によって店舗等も統合が進むなど、確実に消費者を取り巻く環境は負の側面撤廃に向けて前進を続けていて、今なおその途上にある。

【背景】 
その背景には銀行ビジネスが「低金利の長期化」や日銀の金融資産購入による「社会のお金の量増加」により儲かりにくくなったことが挙げられる。
お金が沢山社会にあるので貸す時に高い金利を取りづらくなったのだ。また、日本の国債も金利を付けてくれなくなり、国債で人々の預金を運用しても儲かりにくくなっている。

NHKの記事で赤字になっている地方銀行も報道されるなど厳しい経営環境は、やるべく店舗やATMの維持費を減らすことに銀行を向かわせており、これが共通化や統合に進めるのだ。
直接消費者から見えないところでは、決済や資金運用を担う後方部門やシステムの共通化も取り組まれていて、SBIグループはこれを提供することで地銀を助けつつ銀行連合の結成を意図している。
そして規模が大きくなった銀行は実際に稼ぎに占める経費の割合が低い。(独立行政法人のまとめた説明)

加えて、菅政権の改革の一つとして地銀再編に対する独占禁止法の特例を作ったことがあり、地銀の数は2020年に100行を下回った(ウェブ記事)など再編の気運は加速している。

【今後】
こうした動きは今後も続くはずだ。例えば背景の一つである低金利は、
「資金を借りたい人」<「資金を貸したい人」
という図式があるから成り立つのだが、日本は少子高齢化で20-65歳あたりの人口は減っている一方でお金を持つ高齢者は増えており、この図式が崩れることは当分ないことが大体予測できるからだ。

但しこれは先進国の必然ではない。移民を受け入れ、先進国でありながら人口が増え続けているアメリカはこのようなことがなく経済成長を続けている。
ラグビーで民族多様性を感じさせた日本ではあるが、積極的にチャレンジして経済的成功を掴もうとする移民受け入れが仮に進むのであれば他の在り方もあるのかもしれない。
マクロ環境を反映する銀行の経営状況をみていくと今後の社会の豊かさをどう確保するべきか考えさせられる。
これからの動向も引き続き見ていきたいと思う。

様々な業界について過去のトレンドもふまえつつ動向をみているレポート。銀行業界もみている。

コロナ下の会社と従業員

2021-02-08 22:37:35 | その他
コロナ下の経営では、同じ業界であっても非対面・非接触をうまく実現して売上を守れたかどうかにより、企業の業績に明闇が分かれた。
多くの店が閉店に追い込まれた(NHK記事)飲食業界でも日本マクドナルドは営業最高益という成果を出しており(日経記事)、
トレーニングサービスを提供する業界ではジム運営などの対面サービスが軒並み苦境であり、同様の成果をもたらすオンラインサービスに顧客が流れたようだ。(東洋経済記事
また、出光とENEOSは同じ業界だが直近の業績は異なった。

売上減少の続く側の企業の経営者であれば、意図した通りに経営を進められない不安から通常より会計上のごまかし(違法かどうか問わず)の誘惑が増えてしまうこともあるのではないか。同業他社より弱い業績になったとしたら尚更だ。
会計上のごまかしは投資家や銀行に思っている以上のリスクをおわせ、金融に混乱をもたらすものだ。本当ならもっと有効活用される用途があったはずのお金を収益性の低い事業に投入することとなれば社会にとっても損失である。
違法なもの、すなわち粉飾決算の具体例については会計士のウェブ記事にいくつかまとめられていた。
ここにあげられていたのは、

・在庫の量をごまかしてしまう
・(おそらく取引先の倒産などで)回収できない売掛金を残し続けてしまう
・架空の受注データを作ってしまう
・現金の額をごまかしてしまう
という手法である。

経営者でなく従業員の立場としてみたとき、もし粉飾決算やそれに類することが身の回りであった場合には、ウェブ記事では告発も言われているが、今どき転職が早いのではないかと思う。
総務省の統計によれば2019年の転職者数は350万人を超えており、統計局の就業者数約6700万人というデータからすれば、
「20人に1人が2019年に転職した」
ということを物語っている。
コロナで対面ビジネスの業容は縮小だが、非対面ビジネスは企業業績を見る限り業容を拡大しているところもある。
社会の労働意識の変化によって転職が普通になっている現在、様々な企業に応募をしたり、仲介業者に情報を聞いてみるのも面白いだろう。(僕自身転職したとき、仲介エージェントと何人も話したが、ベテランの人に色々な話を聞けたのは面白かった)

対面営業ができないという直接的な苦境だけでなく、
経営の不振を正面から受け止めて銀行や従業員等に向き合う苦しさや、経営陣がそのような選択ができない場合に対応策を考えなければならない苦しさなど、間接的な苦境がまだ世の中にあるのではないかと思うとコロナ禍のダメージは深い。
1人の社会人としては、勤務先企業の財務や人材市場など、広くアンテナを持つべき状況であると思う。

様々な業界や企業の情報を整理しているレポート


信頼度の高い情報収集

2021-02-05 20:35:00 | その他
世の中には多くのテーマで様々なレポートがあるもので、調べ物をしようとしてもどこを当たれば良いのか分からなくなることがある。
この不便を解消する為に作ったのがリンクと説明集の「アクセルボード」というサイトで、例えば政府など公的機関から出ている経済系レポートのページでは、IMFや世界銀行、FRBといった海外機関から日本銀行など国内機関まで幅広く扱うレポートを見つけ出しており、そこそこ役に立つのではないかと思っている。

この中から一つ旬のものを取り上げると、やはり今後の世界経済の見通しに関するもので、先月出されたIMF予測だろう。(これは日本語で読める)

IMF(国際通貨基金)は1945年から続く国際金融安定化の為の機関であり、世界から経済・財政政策のエキスパートが集まる組織だ。この組織の予測によれば、今年後半にはワクチンの効用と各国政府の経済政策で世界経済が持ち直し、
・2021年には5.5%
・2022年には4.2%
の成長を見込んでいるという。

日頃のニュースに本当か分からない、もっと知りたいものが出た時、より信頼度の高い情報源にあたるのはいかがだろうか。


企業価値に関する考え方

2021-02-04 23:08:52 | 企業分析
企業価値を高めようという号令を職場で聞くことがあるがよく分からないという人は多いのではないか。
かつて自分もそのようなことがあったが本や関連資料を読んでも長々としてよくわからず、企業価値向上といっても具体的に誰が何をすれば良いということなのか悶々とした。

日本公認会計士協会が2013年に出した『企業価値評価ガイドライン』は公開されていて無料でダウンロード出来るものの170ページあって読み難く、
マッキンゼー社の『企業価値評価』は上下そろえると9,000円を超え読み難く、
結果として「企業価値」という言葉は号令に使われるもののあまり関わることのないもののように思われる。

企業価値を向上した取り組みとはどのようなものなのか調べると、日本取引所が具体的に説明をつけて企業を表彰しているウェブサイトが見つかる。

このサイトの中で企業価値を高めた取組みとして認めた企業の評価ポイントを数年分さかのぼってみていくと、
・ROE(Return On Equity)という「企業の自前の資産額」に対する年間利益額の比率、
・ROIC(Return On Invested Capital )という「企業が事業に用いる総額」に対する年間利益額の比率
といった指標を用いて、「資本生産性を踏まえた経営管理の仕組みを構築」するということになっている。

この経営管理の仕組みとは何かみていくと、2014年度に大賞を取ったオムロン社が具体的に説明している。
(オムロン社は立石一真氏による創業以来の優良企業であることに加え、2007年から有力経営コンサルタントである冨山和彦氏が長く社外取締役を務めた会社でもあり、その経営管理システムには当代一流の知見が結集されているのではないかとも思っている)

このウェブサイトの説明(特にページ下部のPDF)によれば、この経営管理の仕組みではROICの式から指標を一つ一つ導き出し、
・一人あたり生産台数
・在庫月数
等といったレベルに分解して社員全員へ共有している。会社の業務成績と活動が結び付き、共有のものさしとして機能するよう検討されているのだ。
また、経営陣の製品・サービス群の管理もROICの観点から行われている。
(これらはダイヤモンド誌のウェブ記事でも説明されている。)
そしてこの経営管理のもと、その後も優良な業績が続いている。

つまり、「企業価値向上に努めなさい」と呼びかけられた場合、具体的に何をするとどれくらい企業価値に貢献するのか分かるような指標の設定や説明が無かったら、それは経営陣の努力不足、或いは一流の仕事をしていないということではないかと考え、

・「(ドラフトを作って)こんな感じで作ってはどうでしょうか」
・「一流企業はこんなものを作ってますがうちでも作りませんか」

と提案してみるタイミングであると考えるのが良いのではないか。ROICは大前研一氏の企業参謀(1975年)にも紹介されている指標であり、長く有効活用されている優れた分析ツールであると思う。

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