フリーランスで企業等から業務委託を受けて働いている方は残業代を請求できるか?
→ フリーランスも労働基準法上の労働者と見做せる場合がある
コロナ禍の終わりがなかなか見えない中、企業の採用抑制や人員整理等の影響、働き方の意識変化等から、「フリーランス」と呼ばれる、一人親方のような自営業の方が増えたと言われています。
厚労省の定義によれば、「フリーランスとは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」とされています(厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」より。)。
「フリーランス」という横文字言葉のイメージから、作家やデザイン関係、IT関係の開発者等を連想する方もいるかも知れませんが、職種に限定はなく、要は会社等と雇用契約を結ばず、独立業者として働いている人すべてが該当します。
しかし、フリーランスといいながら、その実態が従業員(企業に雇用される労働者)と変わらないケースが増えています。その場合の問題点は、実態が労働者なのに、フリーランス(自営業者)だからという理由で、いくら長時間働いても固定金額の報酬しかもらえない(=残業代が出ない)、稼働中に事故があっても労災の適用が無い、途中で契約を簡単に打ち切られる(≒不適切な解雇)等で、そういった問題が増加しているようです(厚生労働省「フリーランス・トラブル110番」参照)。
フリーランスの方を保護する法律としては、独占禁止法、下請法等、独立した企業人同士の関係を調整する法律の他に、上記従業員性が認められれば、労働基準法や労働組合法という労働者保護の為の法律(その他にも最低賃金法等いろいろ)が適用されることになります。
労働者保護の為の法律は、「雇われている労働者は弱い立場(であることが多い)」ということから経済的側面、身体的側面、安全の面等いろいろな手当がなされています。
もし「依頼業務の内容が過酷過ぎないか」、「業務遂行の条件が厳しすぎないか」、「長時間労働が余儀なくされる」、その他仕事の仕方、場所、時間の拘束が厳しい等があれば、上記「フリーランス・トラブル110番」に相談してみることをお勧めします。
このブログでは、過去の裁判例を参考に、フリーランスの方が企業と業務委託的契約(独立した取引者として一定の作業を行う契約(「役務提供型」と言われます))を結んだとしても、労働者と見做される場合について考えてみます。
(なお、労働基準法上の労働者とされる基準と労働組合法上の労働者とされる基準は少し違います。労働組合法は、「団体交渉」に重点がありますので、労働基準法上の労働者より広い概念です。ですので、労働基準法上の労働者にあたらなくても労働組合法上の労働者として保護される場合もあります。)
労働基準法上の労働者と争った裁判例を参考に、
雇用契約じゃないけど「労働者」とされる場合はどんな時?
1.以下の3つの裁判を見て、裁判所が「雇用契約を交わしてない。」、「業務委託契約ということで働いている」等の時、どのような基準で労働者と判断しているのか考察したいと思います。
(1)最高裁平成8年11月28日判決
トラック持ち込みで、会社の指示により製品の運送業務に従事していた原告が、製品の積み込み作業中に負傷したが、労災保険が適用されず休業補償給付が受けられなかったため、従業員性(労働者性)を争って提訴した。
(2)大阪地裁令和2年12月11日
運転代行業社と業務委託契約をしていたドライバーが、従業員(労働者)であるとして残業代等を請求した事件
(3)東京地裁令和2年3月25日
コピーライターである原告は、途中から固定給(固定報酬)になり原則。会社事務所で勤務していたが解雇(契約解除)された。そこで、従業員(労働者)であるから解雇無効として提訴した。
2.労働基準法上の労働者であるかの一般的判断基準
労働基準法第9条を基に、以下のような基準が、一般的なものとして、行政庁および裁判所で採用されています。
労働基準法の「労働者」の判断基準について
(リンク:昭和60年12月19日労働基準法研究会報告 の基準を基礎に、判例の視点等分類)
1 「使用従属性」に関する判断基準
cf.労働基準法 第9条
「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下『事業』という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
→ 上記第9条「使用される者」ということから、「指揮監督の下での労働」が一つの大きな基準となります。
イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
ロ 業務遂行上の指揮監督の有無
業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
その他(例えば、指示されれば予定業務以外をしなければならないのは労働者性に傾く)
ハ 拘束性の有無
→ 勤務時間や勤務場所の拘束の程度、管理の強度(タイムカード管理等)
二 代替性の有無 -指揮監督関係の判断を補強する要素-
→ 下請けまでいかなくても、本人の判断で代りの者や補助者を使えるのは指揮監督が弱い方に傾く
(2)報酬の労務対償性に関する判断基準
→ 上記第9条「賃金を支払われる者」ということから、「支払われる報酬が労務(労働)の対価であるか?」がもう一つの大きな基準となります。
2 「労働者性」の判断を補強する要素
→ 上記2つが原則的な基準ですが、裁判にいたる事例は限界的なものが多いため、上記2つを判断するための目安となるような要素(基準)として以下を検討します。
(1)事業者性の有無
イ 機械、器具の負担関係 業務に使用する機械や器具を自分で準備しているのは事業者性に傾く
ロ 報酬の額 著しく高額だったり、諸費用の自己負担等は事業者性に傾く
ハ その他 本人の独自の商号利用や独自の第三者責任がある等は事業者性に傾く
(2)専属性の程度
イ 他社の業務に従事することが制度上制約/時間的余裕がなく事実上困難等
ロ 報酬に固定給部分がある、業務の配分等により事実上固定給となっている等
(3)その他
契約・採用手続きの具体的内容、源泉徴収の有無や厚生年金・健康保険への加入の有無
服務規定や退職規定、福利厚生の適用の有無等…を検討
3.裁判結果
(1)最高裁平成8年11月28日判決
労働者性否定 → 労働者ではないとされたので、労災は適用されず。
理由の(超)概要:
業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していた。指示は運送物品、運送先及び納入時刻等、運送という業務の性質上当然に必要とされるものだけ。時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やか。源泉徴収はなく、社会保険にも加入してない。
よって、専属的に運送業務に携わっており、運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、運賃がトラック協会基準より低いとしても、労働者といえない。
(2)大阪地裁令和2年12月11日
労働者性否定 → 労働者ではないとされたので、残業代等は支払われず。
理由の(超)概要:
翌週の出社予定について,定型の書式を用いて,各日ごとに「出社」,「連絡」,「休み」の三種類から選択して記入するという方法で連絡することから、ドライバーは出社する日を自由な意思で決定することができるとされていたのであり,タイムカードの管理も無い。出社時は事務所に赴く必要あるが、その後は、事務所待機でも歓楽街等で打診を待つことも自由だったのだから勤務場所についても拘束されていなかったということができる。
よって、労働者ではない。
(3)東京地裁令和2年3月25日
労働者性肯定 → 労働者とされたので、解雇無効となり、解雇後の給与等の支払が必要
理由の(超)概要:
コピーライティング業務の他、顧客に対する窓口業務も行っていた。業務が割り振られると基本的に断れず、報酬は固定給の月給制で、給与明細が発行され源泉徴収もされていた。平日は会社事務所に出所して8時間以上勤務。月2回の定例会議では進捗状況の確認も受けていた。机やパソコンは会社のものを使用しており、交通費等も会社支給であった。
よって原告は、事業者ではなく労働者である。
以上が上記3つの裁判の結果ですが、もっと詳細に判例がどういう基準をどう認定、判断したかの一覧表を以下にアップしています。興味があればご覧ください。
フリーランス・業務委託の労働者性が問題になった裁判例は他にも沢山あり、検索すれば弁護士さんや社労士さんがアップされているブログ等があると思います。
厚生労働省等のサイトにもアップされています。必要な方は参照すれば参考になると思います。以下をクリックするとそのサイトに移動できます。
4.最後に
まだまだコロナ禍による混乱が続いており、各分野では過重な労働の負担が生じている方もいらっしゃると思います。看護、介護、保育等直接対人のお世話が必要な分野、また運送業や宅配業等、よくニュースにもなっています。
人はみな体が資本です。体を大切になさってください。
また、正当な労働に対しては正当な見返りがあるべきです。
直接的なのは報酬ですが、もし、労働者と同じ様な扱いだと感じられている方で残業代等を請求したいと思われている方は、残業代計算の一助として、下記割増賃金計算用のエクセルが使えるかも知れません。必要ならば利用なさって下さい。
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