下記の記事は日経グッディ様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。記事はテキストスタイルですので画面は出ません。
年齢を重ねるとともに健診でメタボに関わる異常値を指摘されはじめた、あるいは体重が徐々に増えてきた、と気になる人も多いだろう。緩やかな糖質制限食=ロカボを提唱する北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長の山田悟さんは、「ロカボの食事で食後血糖値の上昇を抑えることによって、肥満をはじめとした生活習慣病への連鎖を上流で食い止めることができると考えています」と言う。今回は、ロカボと病気予防、気になるアンチエイジングとの関係についても聞く。
メタボの上流にあるからこそ注意したい「食後高血糖」
前回(「ロカボで肥満・血糖値対策を! 『昼間の眠気』を撃退する効果も」)は、不規則な生活や運動不足になりがちなタクシー運転手やコンビニ従業員がロカボの食事を実践した結果、肥満やメタボ数値だけでなく睡眠時無呼吸症候群にも改善が見られた、という研究について紹介した。山田さんは、「健康的な食事法は、おいしく、楽しく、続けられるものでなくてはならない」という思いのもと、「ロカボ」(*1)を提唱している。前回でも紹介したが、ロカボは「緩やかな糖質制限食」のことで、3食の食事の糖質量を20~40g程度、1日の糖質量を70~130gにする食事法のこと。これにより食後の血糖値の急上昇(食後高血糖)を抑えることができる。
2008年に「The New England Journal of Medicine」という医学雑誌に、こんな研究が掲載された。「糖質制限食」と「カロリー制限食」、「地中海食」をそれぞれ2年間続けた結果、糖質制限食が他の食事法よりも体重が減少し、中性脂肪値を下げ、善玉コレステロールが増え、糖尿病の人のHbA1c(1~2カ月間の血糖値の平均を見る指標)が改善する効果が高いと報告された(*2)。
この研究を知ったことをきっかけに、山田さんはそれまで医療現場で行ってきた「カロリー制限」の食事指導を見直し、食べることに満足しながら続けられる「ロカボ」という食べ方を研究、指導してきた。そして、「ロカボは、糖尿病だけでなく、加齢によって進行するメタボリックドミノのリスク低減につながる食事法です」と言う。
どういうことだろうか。
「メタボリックドミノ」とは、慶應義塾大学の伊藤裕教授が提唱した概念だ。生活習慣病といわれる肥満、高血圧、食後高血糖、脂質異常症などの危険因子が一人の患者に集積していくことを「メタボリックシンドローム」という。これらの危険因子が集積すると、虚血性心疾患(心臓に栄養を送る血管が細くなったり詰まったりする状態)や脳血管障害(脳に栄養を送る血管が細くなったり詰まったりする状態)を発症し、死に至ることになる。最上流には生活習慣があり、肥満が上流に存在する(下図を参照)。それぞれの危険因子が時系列とともにドミノ倒しのように連鎖していくことを「メタボリックドミノ」と呼んだ。
伊藤裕教授が提唱する「メタボリックドミノ」(日本臨床 2003;61:1837-43をもとに作成)
山田さんはこのメタボリックドミノの源流に糖質の摂取過剰、そこからくる食後高血糖がある、とする「メタボリックドミノ 山田version」を提唱している(下図)。
図の最上流にある「糖質摂取過剰」からどのようにメタボリックドミノが倒れていくのか。山田さんは以下のように説明する。
1
糖質のとりすぎによって、食後高血糖が起こる
↓
2
食後高血糖を抑えるためにインスリンをたくさん出さなければならず、大量に出たインスリンによって血糖値が急降下して急激な「飢餓感」が起こる。なお、食後高血糖が長年続くと空腹時血糖値も上昇、糖尿病の発症につながる
↓
3
飢餓感によって空腹感が増し、食べ過ぎる、という食習慣が定着する
↓
4
肥満、脂質異常症、高血圧などのメタボリックシンドロームが悪化していく
これまでは、食べ過ぎ(=カロリーのとり過ぎ)がエネルギーの余剰を招き、脂肪の蓄積や内臓肥満を引き起こし、内臓脂肪からインスリンの働きを邪魔する物質が分泌されて高インスリン血症、さらには食後高血糖を引き起こす、という考えが主流だったという。このため、医療現場でも長きにわたって「カロリー制限」が指導されてきた。
一方で、最近になって上記のメカニズムとは異なる、興味深い肥満のメカニズムが提唱されたと山田さんは話す。「2018年に栄養疫学研究者であるハーバード大学のデビッド・ルードヴィヒ教授が肥満のメカニズムについて新たな考察を提示しました(*3)。彼の考察でも、『糖質のとりすぎが出発点となり、空腹感が増して食べ過ぎて肥満となる』と示されています。この考え方によって、ロカボの食事がなぜ肥満を改善し、おなかいっぱいまで食べても減量が可能になるかを説明できるのです」(山田さん)。
(JAMA Intern Med. 2018;178:1098-1103.より改変)
私たちは忙しいときなどに、コンビニのおにぎりだけを2、3個食べるような食事をしてしまいがちだが、糖質を過剰にとるそんな生活習慣を変えないと、さまざまな疾病を招くことになるのだ。
食後高血糖は30~40代に進行し、50代以降に糖尿病へ
メタボリックドミノが食後高血糖を起点として進行し、ドミノ倒しの下流に行くに従って、命に関わる病気へと発展していく。健康寿命を延ばしたいなら、「食後高血糖」のうちに改善することが重要ということが分かる。
では、どのぐらいの年代から食後高血糖に注意すればよいのだろう。山田さんは以下のように説明する。
20代
社会人になるとともに生活習慣が乱れ始め、食生活が変わる
30代
運動量が減り、体重が明らかに増え始める。食後高血糖が起こり始める
40代
高血圧、空腹時高血糖、脂質異常などメタボに関する数値の異常が表れ始める。
糖尿病を発症する人も
50代以降
糖尿病を発症するなど症状が悪化していく。
動脈硬化や生活習慣病が進行
「20代のうちは多少糖質をとり過ぎていても、体の恒常性を保つ機能が正常に発揮され、上昇した血糖値はインスリンの働きによってすみやかに下がります。しかし、乱れた食生活により糖質摂取過剰が続き、運動量も減ると、30代ぐらいから食後高血糖が起こり始めます。元からあるインスリン分泌の働きも年齢とともに低下するため、40代からメタボに、50代以降は病気の悪化が深刻化していきます。このため、30代のうちに一度、食後高血糖が起こっていないかチェックすることをお勧めします。また、妊娠を考えている人も、妊娠中はインスリン抵抗性が生じて血糖値が上昇しやすく母子ともにトラブルが起こりやすくなるので要注意です」(山田さん)。
問題は、通常の健診で測定する「空腹時血糖値」では、食後高血糖は分からないこと。「文字通り、おなかがからっぽの時に測定した血糖値であって、食後高血糖を検出する検査ではありません。空腹時血糖値に問題が表れるのは、限りなく糖尿病に近い病態になったときなのです」(山田さん)。
しかし、現在は食後血糖値への認識が広まり、薬局やドラッグストアの「検体測定室」で食後血糖値を測ることができる。1検査につき500円ほど、所要時間15分程度で計測が可能だ(*4)。
山田さんは、「おにぎり2個と野菜ジュース1パックで、合計糖質量が100gほどになります。このセットを食べた1~2時間後に血糖値測定をすること」を勧める。このとき、血糖値が140mg/dL以上になると「食後高血糖」と想定される。
住んでいる地域や勤務先近くのドラッグストアに「検体測定室」がないかチェックしてみよう。どの年代の人も、ぜひ一度、自分自身の食後血糖値を確かめてみたい。
*4 人間ドックなどで「経口ブドウ糖負荷試験」を受けても、食後の血糖値を把握することは可能。
ロカボの食事は、骨や筋肉を量・質ともに保護する
ロカボの食習慣は、食後高血糖を防ぐのはもちろん、糖質を控える代わりにおかずをしっかりとる食事となる。筋肉や骨の維持に重要なたんぱく質もしっかりとることができるため、アンチエイジングの面でもいい影響が期待できそうだ。
近年、アンチエイジングにおいて「筋肉」の重要性が指摘されていることは多くの方がご存じだろう。高齢になってたんぱく質の摂取量が減ると、筋肉が衰え、転倒・骨折などのリスクが高まり、最終的に寝たきりなどの要介護状態になる危険性がある。こうした背景もあり、昨年改定された厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」の2020年版では、50歳以上のたんぱく質の目標摂取量の下限が引き上げられている。
つまり、高齢になってもたんぱく質をしっかり摂取したほうがいいわけだが、おかずをがっつり食べてOKのロカボなら、たんぱく質は不足しにくく、筋肉を維持しやすくなるというわけだ。「ロカボの食事は、骨や筋肉を、質・量ともに保護していきます」(山田さん)。
また、糖質の摂取量を抑え、血糖値が高い状態を防ぐことは、最近、老化の要因の1つとしてクローズアップされている「糖化」を抑えることにつながるのもポイントだ。
糖質の摂取量が多く、血糖値が高い状態になると、余った糖は体内のたんぱく質にくっつき、たんぱく質が劣化してAGEs(advanced glycation end products=糖化最終生成物)という老化物質が生成される。「AGEsが体内に蓄積すると、体内の組織のたんぱく質が変性し、機能低下が起こったり、炎症が引き起こされる、ということが明らかになってきました」(山田さん)。
私たちの体の多くはたんぱく質で構成されている。例えば、肌や髪、骨などに含まれるコラーゲン(たんぱく質の一種)に糖化が起こるとコラーゲンは硬くなり弾力を失うという。実際、糖尿病の患者は、高血糖状態が続いているために、体内でもAGEsがたくさん蓄積され、肌の張りが低下し、黄色くくすんだり、シワが定着しやすくなるという。
「髪の毛のこしも失われ、骨ももろくなります。さらに、糖尿病網膜症、腎症、神経障害といった糖尿病の合併症ともAGEsは関連します」(山田さん)
糖化を進める最大の要因は、体内にある過剰な糖質なので、その対策の柱は糖質の摂取を抑えることだ。「ロカボを実践すると、血糖値が上昇しにくくなりますので、効率よくAGEsの産生を防ぐことができます」と山田さんは話す。
◇ ◇ ◇
山田悟(やまだ さとる)さん
北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長、食・楽・健康協会代表理事
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます