下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
みなさんは何人兄弟・姉妹ですか? それとも、一人っ子ですか?
そもそも今の日本は少子化なのだから、一人っ子が多いのでは、と思われるかもしれません。確かに、以前と比べて「一人っ子」比率は上がっているとはいえ、それほど劇的に増えたわけではありません。
日本では、かつて「夫婦と子2人」が標準世帯といわれた時代がありました。2015年国勢調査によれば、1人以上の子を持つ、44歳までの母親の同居児数の平均は1.83人でした。
2015年の出生動向基本調査においても、結婚継続15~19年の夫婦を対象とした調査では、子を持つ夫婦の平均は2.06人(子無しの夫婦も合算した完結出生児数は1.94人)でしたので、出産した女性はほぼ2人を産んでいると言ってよいと思います。
一人っ子は少数派?
つまり、夫婦と子世帯に限れば、依然として「夫婦と子2人」という標準世帯を維持しているということです。少子化という話題が起きるたびに、まるで女性が出産をしなくなったかのような誤解を招きますが、決してそうではありません。出生数が年々減少しているのは、子を産む対象年齢の女性人口が減少しているという「少母化」によるものです(『出生数90万人割れは「少母化」が最たる原因だ』参照)。
また、平均世帯人員数が4人に達しないのは、単身世帯や高齢の夫婦のみ世帯の急激な増加によるものであり、出生数の減少だけではないということはまず認識しておくべきでしょう。
さて、私の主宰するソロもんラボにて、1都3県の20~50代未既婚者約1万5000人を対象にそれぞれの兄弟姉妹構成について調査しています。それによれば、一人っ子18.3%、2人兄弟姉妹49.6%、3人以上の兄弟姉妹32.1%と、8割以上が2人以上の兄弟姉妹となっています。
厚生労働省が実施している『21世紀出生児縦断調査 第15回(平成28年)』の中に、2010(平成22)年に生まれた子どもの兄弟姉妹構成が掲載されていますが、そこでも一人っ子は17%にすぎませんでした。やはり、全体的に見れば、8割には兄弟姉妹がおり、一人っ子は2割にも達していない少数派になるのです。
そのうえで、ソロもんラボの調査結果を2015年国勢調査の配偶関係別人口と掛け合わせて、兄弟姉妹構成別の50歳時未婚率(生涯未婚率)を推計してみました。
男女とも「一人っ子」の未婚率は1都3県平均の男性25.2%、女性15.5%(全国平均は男性23.4%、女性14.1%)を超えています。男性に関しては、平均を上回っているのは「一人っ子」だけです。兄弟姉妹の数が多いほど未婚率は減少しているところを見ても、ざっくりいえば「2人以上の兄弟姉妹がいる場合は、結婚率が高く、一人っ子は未婚率が高い」と言っても支障ないでしょう。
付き合った異性の数を比較
続いて、それぞれの兄弟姉妹構成で、今まで付き合った異性の数、つまり、恋愛経験人数の平均値について比較してみましょう。恋愛経験なので、20~30代の未既婚男女だけに限定して比較したいと思います。
これによると興味深い傾向が見られます。未婚男性・未婚女性・既婚女性については、いずれも「一人っ子」の恋愛人数がもっとも少なく、兄弟姉妹数が多いほど恋愛人数も増えています。
しかし、なぜか既婚男性だけは、逆の傾向です。「一人っ子」の既婚男性が、ほかのどれよりも恋愛経験人数が豊富なのです。平均4.8人は、既婚女性の3.7人よりも多く、未婚男性の2.3人と比較すると倍以上の開きがあります。女性の「一人っ子」の恋愛人数が少ないのは、厳しい親の目の影響でしょうか。
要するに、「一人っ子」は、男女とも生涯未婚の可能性が高いのですが、恋愛人数に関すれば、既婚男性「一人っ子」のいわば独り勝ちなのです。これはいったい、どういうことでしょうか。
平均年収を比較してみると…
この連載でも「結婚と経済力の問題」について、たびたび話題にしてきました。未婚男性は「金がないから結婚できない」と嘆き、実際、未既婚男性を比較すれば、既婚男性のほうが高年収であることは明白です。
都道府県別の未既婚の年収比較はこちらを参照ください(『「金がないから結婚できない」と嘆く人の大誤解』)。「一人っ子」の既婚男性だけが突出して恋愛人数が多いのは、もしかして、彼らの年収が高いからでしょうか。同じ20~30代未既婚男女別に平均年収を比較したグラフが以下です。
既婚男性以外は、一人っ子だろうと、兄弟姉妹がいようと、年収に大きな差はありませんが、「一人っ子の既婚男性」だけは、突出して平均年収も高いことがわかります。50歳時未婚率だけを見て判断してしまうと、「一人っ子は男女とも結婚できない」と早合点してしまいがちですが、こうして、恋愛経験人数や年収なども加味して見ると、また違う景色が見えてきます。
よく「一人っ子」は、親の愛情を一手に受けて育ったため、わがままでマイペースで、一人遊びが好きで内向的な面がある分、協調性に乏しいなどと言われたりもします。
そう聞いてしまうと、「ソロ活」好きな特徴とも合致するため、「結婚に興味ないのだな」と思わず納得してしまいそうになりますが、「一人っ子」の既婚男性の豊富な恋愛経験を実現する社交性を考えると、一概にそうとは言えない気がします。
「貧乏子沢山」という言葉がありますが、あれはまったくの逆で、むしろ、世帯年収が低いほど子の数は少ないというのが事実です。2017年の就業構造基本調査から、夫婦と子世帯だけを抽出して「一人っ子世帯」と「2人以上の子を持つ世帯」の構成比を比較したのが以下のグラフです。
同じ「一人っ子」でも二極化
明らかに、低年収世帯に「一人っ子」は集中しています。世帯年収300万未満では7割を占めます。一人っ子世帯を、2人以上の子がいる世帯が上回るのは、世帯年収500万円以上です。
つまり、子どもを2人産み育てるためには500万円以上の世帯年収がないと厳しいということが読み取れますし、「3人産み育てる」のはそれ以上必要だということです。貧乏子沢山どころか裕福じゃないと子は産めないのです。
かといって、世帯年収が上がれば上がるほど子の数が比例して増えるかというと、そうでもなく、世帯年収1000万円あたりで頭打ちになり、世帯年収2000万円を超える富裕層になると、逆にまた「一人っ子」比率が増えてしまいます。言うなれば、同じ「一人っ子」でも、貧困層と富裕層に二極化しているのです。2番目の子を「経済的に産めない」前者と「選択的に産まない」後者とでは、子どもの置かれた環境は大きく変わるでしょう。
家庭の経済環境は、子の進学や就職に大きな影響を及ぼします。学力があっても、学費がないことで進学を断念し、高卒で就職をせざるをえない子も少なくありません。その逆に、親の信用や経済力で幼稚園からエスカレーター式に大学まで直行できる子もいます。
残念ながら、令和の現代でも、学歴はその後の生涯賃金に大きく反映します。厚労省の「2019年賃金統計調査」によれば、退職金を含まない正社員の生涯賃金は、大卒で大企業に就職した場合は3億1000万円ですが、高卒で中小企業に就職した場合は1億8000万円弱です。その差は、1億3000万円も違います。
親から受け継ぐのは、生物学的な遺伝子だけではありません。親の経済力もまた遺伝します。親の経済環境が、そのまま子どもの未来の経済状況を決定づけてしまう場合もあるからです。もちろん、親によって子の未来がすべて宿命づけられているとまでは言いませんし、子は子の人生を自分で切り開いていくことも可能ですが。
つまり、「一人っ子だから」という兄弟姉妹構成に、結婚や恋愛ができない直接的な要因があるわけではなく、とくに、結婚に際して自身の経済力を問われる男性にとって、「豊かな一人っ子」と「貧しい一人っ子」との間の明暗をくっきり分けてしまうのです。
経済的不安もなく自由に恋愛を楽しむ前者と、なかなか収入が上がらず、日々の生活に精いっぱいで、結婚どころか恋愛すらままならない後者との格差。これは、そのまま未婚化・少子化へとつながっていく問題でもあります。
荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト
続きあり
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