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若者が地方から逃げ出す本当の理由 流入のカギは「適度な無関心」

2021-11-08 15:30:00 | 日記

下記の記事は日経ビジネスオンラインからの借用(コピー)です。  記事はテキストに変換していますから画像は出ません

都市と地方では、商業施設や飲食店の密度など生活利便性の違いも大きいが、人間関係の違いも大きい。簡単に言えば、都市の人間関係は比較的希薄で新しい住民もなじみやすいが、地方の人間関係は濃密で、移住者が地域コミュニティーとの関係づくりに悩むことも多い。そして、それは地方で生まれ育った若者にとっても負担となっている。筆者の過去の研究からは「親しみやすさ」が住民の幸福度を向上させることが見えており、そのためには外部からの人口流入が必要だ。
 筆者は、全国を対象として50万人以上から回答を得た「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」を企画・設計・分析しており、「街の住みここち」「街の幸福度」「住み続けたい街」といったランキングを発表している。
 データを分析してみると、ある興味深い結果が得られた。都市と地方には埋められない居住満足度の差があるが、一方で幸福度にはあまり差がないのだ。
圧倒的に高い都市部の住み心地を支える“適度な無関心”
 筆者の2019年の論文「居住満足度の構成因子と地域差の実証分析」では、街の居住満足度を構成する因子は8つあること、その中で「親しみやすさ」因子が最も影響が大きく、かつ、政令市と中核市(県庁所在地および人口20万人以上の市)、その他の市、町村で評価に大きな差があることが示されている。
居住満足度と因子の関係および幸福度
 都市規模別の分析結果である上の表を見ると、住み心地、すなわち地域の居住満足度は、政令市を1とすると中核市は0.96、その他市は0.88、町村は0.89と低くなっている。
 居住満足度に与える影響は、「親しみやすさ」が最も大きく、政令市の「親しみやすさ」を1とした場合、中核市では-0.22、その他の市では-1.80、町村で-1.62と政令市以外の評価が極端に低い。この親しみやすさとは、「気取らない親しみやすさ」「地元出身でない人とのなじみやすさ」「地域の繋がり」「近所付き合いなどが煩わしくないこと」「地域のイベントやお祭りなど」といった要素を含んでおり、分かりやすく言えば、地域のお祭りで見知らぬ子がいても、「どこの子?」などと詮索しないような、新しい住民を受け入れる受容性のことである。
 こうした受容性は、ジェンダーフリーやマイノリティーへの包摂、寛容性といった話ではなく、もっとシンプルで、適度な無関心と距離感によって形成された緩い人間関係、ということになる。地方では、生まれた時からのことをお互いに知っているのが当たり前、という世界もあるが、それを押しつけず、たまに見かける、住んでいる場所も知っているが名前は知らない、といった人がいる状態を受け入れる、ということが重要なのだ。
 そして、親しみやすさだけではなく、生活利便性や交通利便性にも都市と地方では大きな差がある。これは社会資本の格差であり、全ての地域で差を埋めていくことは現実的ではない。
 こうした親しみやすさや生活利便性の低さが、若者が地方から都市部へ流出し、戻って来ない大きな理由になっていると思われる。実際、筆者の2021年の論文「個人属性および価値観・街への志向性を使った居住満足度の推定」では、多くの人にとって地方に住むよりも都会に住んだときのほうが居住満足度が高まるという推定結果が得られている。「住めば都」という言葉があるが、生まれ育った場所が必ずしも住みやすいというわけではないのだ。
 さて、こうした若者の地方から都市部への流出を防ごうと、「地方創生」が叫ばれている。内閣府の地方創生のウェブサイトには、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」として、「人口減少を克服し、将来にわたって成長力を確保し、『活力ある日本社会』を維持する」ため、「稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる」という4つの基本目標と、「多様な人材の活躍を推進する」「新しい時代の流れを力にする」という2つの横断的な目標が掲げられている。
 これをまとめれば、就業機会をつくり、人口を増やし、地域の魅力を高める、ということであり、実際に様々な政策が立案され、民間からも提案や提言がある。とはいえ、先ほど述べたように居住満足度には大きな差があり、ここを埋めるのは容易ではないだろう。そこで注目したいのが「幸福度」である。前出の表を見ると、幸福度は、その他の市が0.97、町村が0.98であり、政令市とほとんど変わらない結果となっている。
目指すべき地方創生は「幸福の格差」の解消
 しかし実は、細かく見ていくと実態は異なる。確かに平均値で見ると大きな差が出ないのだが、自治体の人口に注目すると幸福度が大きく違っていることが分かる。
 散布図を作ってみると、人口と幸福度の相関はかなり低い(相関係数:0.251)が、人口が少ない自治体では、幸福度が大きく分散していることが分かる。実は、地方で幸福の格差が広がっている可能性があるのだ。
自治体別幸福度と自治体人口
※自治体の国勢調査人口の単位は「万人」
 この結果を見れば、人口が少ない自治体の幸福の格差を小さくしていく、住民の幸福度を上げていく、ということが、地方創生の大きな目標の一つになる可能性が見えてくる。そして、幸福度を上げていくことを考えるのであれば、幸福度の構造を解明することが必要になる。
 連載でも何回か取り上げた筆者の2018年の論文「住まいが主観的幸福度に与える影響」では、幸福度に対して地域の居住満足度や建物に対する満足度の影響が有意にあり、それ以上に家族関係の満足度や健康・食生活の満足度といった個人によって大きく異なる要素の影響が大きいことが示されているが、地域差についての分析は行っていない。
 そのため、最新の住みここちランキングの個票データを用いて分析を行ったところ、以下のような興味深い結果が得られた。
    1. 20歳代の幸福度が最も高いが、30歳以上になると幸福度の年齢差はほとんどない。
    2. 女性のほうが(偏回帰係数:0.365)、結婚したほうが(同:0.595)、子どもがいたほうが(同:0.206)、幸福度が高い。
    3. 家族関係の満足度が高いと幸福度が高まり(同:0.456)、仕事への満足度が高いと幸福度が高まる(同:0.173)。
    4. 居住満足度関連では、生活利便性や交通利便性の影響はかなり小さいが、親しみやすさが高いと幸福度が高まり、その効果は5万人未満の自治体で顕著に高い(同:0.118)。
    5. 居住建物に対する満足度は「親しみやすさ因子」よりさらに幸福度への効果が大きい(同:0.242)。
    6. 居住自治体の幸福度平均が高いと(周りの人の幸福度が高いと)、幸福度が高まる(同:0.619)。
    7. 自分が社会の上流だと思うと幸福度は高まり(同:0.118)、下流だと思うと幸福度が下がり(同:-0.181)、劣等感があると幸福度が下がる(同:-0.146)。
    8. 世帯年収の多寡は、幸福度にほとんど影響を及ぼさない。
    9. 人口密度や人口増加率は、幸福度にほとんど影響を及ぼさない。
    10. 街に誇りを持っている、街への愛着がある、街に貢献したいと思うといったいわゆるシビックプライドに関連する項目と多文化共生や多様性に対する意識は、幸福度にほとんど影響を及ぼさない。
※偏回帰係数とは多変量解析で使われる用語で、絶対値は幸福度に対する影響の大きさを、正負の符号はプラスなら幸福度を上げ、マイナスなら幸福度を下げることを示す。
 以上のように、幸福度に影響するのは家族関係や階層意識など個々人の内的な要因によるものが大きく、外的な要因には「親しみやすさ因子」くらいしかないという、興味深い結果となっている。
人口増加は目的ではなく、受容性向上を通じた幸福度向上のための手段
 地方創生では、人口をどうやって増やすのかも議論になることが多いが、筆者の2020年の論文「地域の居住満足度と人口増減の関係」では、「イメージ因子」「親しみやすさ因子」「生活利便性因子」が人口増加にプラスの影響を及ぼしていることを示した。また、「街の住みここちランキング2020総評レポート」の構造方程式モデリングを用いた分析でも、やはり「イメージ因子」「親しみやすさ因子」「生活利便性因子」が人口増加にプラスの影響を与えており、「街に誇りを持っている」「街に住み続けたい」といったシビックプライド関連の項目も人口増加に「親しみやすさ因子」の半分程度の影響があることが示されている。
 注目すべきなのは、「親しみやすさ」が、地域の人口増加にも幸福度にも共通して、プラスの影響を与える点だろう。
 ここでいう「親しみやすさ」とは前述したように、適度な無関心と距離感によって形成された緩い人間関係を前提とした、新しい住民を受け入れる受容性のことだ。人口増加と緩やかな人間関係は、相互に影響を及ぼし合っていると考えるべきだろう。人口が増えること=新しい住民が入ってくることで、「親しみやさ」が向上して、それがさらに人口流入に寄与するというものである。
 人口流入が少ないうちは、新しい住民に対して従来の濃密な地域の人間関係に加わるよう強く求めることができるが、新しい住民が一定数を超えてくると、そうした圧力が浸透せず、結果として新しい住民は、緩やかな人間関係を形成することができ、それが街の雰囲気を変える、という可能性である。
 このとき、住民が増えるようにするためには、新しく住宅が供給されることが必要で、一定の政策的支援も検討されるべきだ。新しい住宅への満足度は当然高く、それが住民の幸福度を押し上げる効果もある。そして住宅は、5~10戸といったある程度まとまった規模で供給することで、旧来の濃密な人間関係への同調圧力を弱め、新しい住民が緩やかな人間関係を形成することに役立つだろう。
 こうして考えれば、人口増加は、親しみやすさ、すなわち新しい住民への受容性の向上を通じた、地域住民の幸福度向上のための手段であることが分かる。その意味では、一定規模の人口流入があるだけでも街の親しみやすさは向上し、それが住民の幸福度も向上させる可能性があるわけである。
 ただし、このときの人口流入は、大都市からのU・Iターンによって実現できるケースは限定的で、多くは周辺自治体との人口の奪い合いにならざるを得ないことに注意する必要がある。そして、それは新たに住宅を購入できるだけの経済的余裕のある若年層人口の獲得競争となることを意味する。
 既に日本全体では人口が減少している状況の中、そうした競争に飛び込むのか、それとも現状を受け入れるのか。住民の幸福度の状況も考慮しながら、首長や議員、一部のリーダー・有識者の意見や希望ではなく、住民の総意を確認しながら進める街づくりが求められているのではないだろうか。
宗 健

麗澤大学客員教授・大東建託賃貸未来

追記:要約すれば大きな都会ほど他人に干渉されず自由に生活できる、地方はすべて不便で他人の目がうるさい。これは国や自治体がどんなに頑張ってもどうしようもない。

 



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