下記の記事は日刊ゲンダイデジタルからの借用(コピー)です
私たちは日頃から、病院、訪問看護ステーション、地域包括ステーション、居宅介護支援事務所、地域包括センター、その他施設やケアマネジャーなど多くの業種や職種の方々と連携し、保険診療を一体となって支えています。
特に重要なのは、総合病院と同等の質の高い医療を、在宅でも提供するということであり、それが地域の方々の安心につながると考えています。
患者さんの中には、入院生活に馴染めないなどさまざまな理由で、在宅医療に切り替える方が少なくありません。そういった方々にとっても最後の砦であり、そのための一丁目一番地ともいえるものが私たちの目指す“断らない診療所”です。すべての患者さんを断らずに受け入れて最後まで寄り添うという考え方ですが、実際にそれを行うのは、言葉で言うほど簡単ではありません。ですがこの「断らない」という姿勢の継続が、その地域におけるインフラとしての価値を高めると考えます。
以前にもこんな患者さんがいました。
その患者さんは55歳の独居男性で、2型糖尿病、糖尿病の合併症による末期腎不全、透析困難症、閉塞性動脈硬化症などたくさんの病気を抱えていました。もともと関西の旧家の地主の家の生まれで、ご自身も若くして3軒もの店舗を切り盛りするオーナー料理人でしたが、病気療養で若いうちから引退し、やがては入院のため上京。
しかし当初入院した病院では、もともと持つ激しい気性から暴言や破壊行動をたびたび繰り返し、結果、退院を余儀なくされ、病院を転々としていました。
そのうち病状悪化で通院がままならなくなり、在宅医療がスタートしました。しかし、暴言や破壊行動は変わらず、訪問看護事業所のスタッフがストレスで疲弊。その訪問看護事業所は撤退する事態に。そこで私たちは、ケアマネジャーさんたちと対策会議を重ね、複数の訪問看護事業所に協力を仰ぎました。
このまま患者さんを見放したら、ご近所の方などとのトラブルの果ての孤独死です。仮に道端での行き倒れなら救急車を呼ばれ搬送となる可能性は高い。それを未然に防げるからこそ存在価値を持つ在宅医療であり、その役割を自ら放棄することはできませんでした。そして、訪問する医師やスタッフの人数を変更するなどしてより多数の目を入れながら、この患者さんの在宅医療をなんとか続けられました。
元料理人だった患者さん。好物だったラーメンや焼きそばも、自ら作って食べた時などは、おいしかったと感想を教えていただいたりもしました。
最期まで自宅で自分らしく穏やかに過ごしてほしい。その結果、この患者さんも好きなものを作って食べ、好きな時間に寝て起きる生活で、いつしか暴言も収まり、最期は絶縁状態にあったお姉さんが見守る中、旅立たれていきました。
このように私たち在宅医療は、病気を診ると同時にその患者さんの生活全体も診るチームなのです。
下山祐人
あけぼの診療所院長
2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。
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