下記の記事は日経グッディ様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
「脂肪」には、どんなイメージがあるだろうか?「うまみ」たっぷりな半面、過剰摂取による生活習慣病リスクのイメージを持つ向きも少なくないだろう。ただし、健康を促進する「脂肪」もある。生活習慣病のリスクを下げることができる「魚の脂肪」だ。最近では養殖技術が進化し、魚の大きさやうまみはもちろん、「栄養たっぷりの脂肪コントロール」までできるようになったようだ。生活習慣病リスク軽減にも関わる魚肉の魅力アップの動向について、健康ジャーナリスト結城未来が愛媛大学南予水産研究センターの後藤理恵准教授に聞いた。
魚の脂肪は体にいいことで知られている。写真は小型マグロ類「スマ」の養殖の様子(愛媛大学南予水産研究センター提供)
「魚の脂肪」がさまざまな疾病リスクを下げることをご存じだろうか。
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小・中型魚や脂の多い魚をとることで、日本人男性の糖尿病発症リスクが低下
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魚介類由来の脂肪酸が多いほど、循環器疾患の死亡リスクが低い
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n-3系多価不飽和脂肪酸の多い魚をたくさんとっていると、膵臓がんや肝臓がんの発生リスクが低い
などが研究データで明らかになっている(過去記事「コロナボケ解消には『魚』がいい? 脳を活性化させる食事のツボ」参照)。
そのためか、近年、世界では注目度が上昇。年々消費量が上がっている。その一方で、魚大国であるはずの日本では「魚離れ」と言われるようになったのは残念なところだ。
――後藤准教授「私も健康のことを考えて、なるべくお魚の脂を意識して食べるように心がけています。ただ、調理が面倒くさいとか臭いが気になるなどの理由で、お魚を敬遠される方はいらっしゃるのでしょうね。食べやすく工夫されて売られているものも多くありますので、毛嫌いせずに注目していただきたいものです」
確かに、切り身はもちろん新鮮な魚をその場でさばいてくれるところも増えてきた。でも、味が苦手な人もいるだろう。
餌のコントロールで「みかん風味」の魚も!
――後藤准教授「最近では養殖の技術が上がっていて、餌のコントロールで栄養や味を変えられるようになっています。例えば、みかんの果皮やオイルを添加した餌を与えれば、みかん風味の魚を作ることもできるようになりました」
魚にかんきつ類の汁をかけてさっぱりと楽しむこともあるが、身そのものがみかん風味なら、よりおいしく食べやすそうな感じもする。
――後藤准教授「実際、愛媛県の『みかんブリ』や『みかん鯛』は回転寿司のメニューにも入っていて、魚が苦手な女性やお子さんたちを中心に人気のようですよ」
そういえば、家畜でも同様の取り組みが行われている。例えば飲食店などで見かけることもあるブランド豚の「イベリコ豚」。ドングリなどを食べさせることで脂身にオレイン酸を多く含む独特のうまみの肉質を実現している。餌によって“味”をよりおいしくできるのは家畜同様、「養殖魚」の魅力のようだ。
――後藤准教授「栄養たっぷりの魚肉も実現できます。必須脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)などをたくさん含んでいる餌を使えば、それらをより多く含んだ養殖魚に育ちます。高知大学が企業と一緒に開発した『プレミアムDHAブリ』などがそうですね」
DHAは、脳などの神経組織に多く含まれる「脳に必須の栄養素」として知られている。青魚に多く含まれているが、養殖では注目の栄養素を増やすこともできるようだ。
アニサキスのない魚、毒のないフグも可能?
――後藤准教授「養殖なら餌を冷凍餌や人工飼料にすることで、寄生虫アニサキスのない『サバの刺し身』も味わえますよ。唐津市と九州大学の共同研究により誕生した『唐津Qサバ』など、最近では各地でサバの養殖が始まっています。養殖では、餌の管理で猛毒テトロドトキシンのないフグも実現できるのです」
寄生虫「アニサキス」で苦しんだ経験のある人もいるだろう。サバを筆頭にサケ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、イカなどに寄生するアニサキス。加熱や冷凍により死滅させることができるが、生や不十分な冷凍・加熱で食べた時に食中毒を引き起こすことで知られている。生きたまま人間の体内に入り込むと、胃壁や腸壁にかみつき、激痛を起こすのだ。どうやら養殖技術の向上で、おいしい刺し身を安全に食べることができるようになったらしい。
ただ、「養殖」というと「あまり大きく育たないのではないか」と思う人もいるかもしれない。
――後藤准教授「そういう印象があるなら、大きな誤解です。養殖では管理しながら育てられるので、逆に好みの大きさにすることができるのです。実際、私たちの愛媛大学ではスマ(愛媛県南予が北限の亜熱帯に生息する小型のマグロ類)の養殖を行っていますが、産卵時期を変えることで、出荷サイズをコントロールできる技術を作り上げています」
スマはマグロの近縁種で、養殖は通年きめ細かな脂がのっているという。
大きさによって変わる魚の魅力とは何だろうか?
――後藤准教授「魚は大きさによって味も変わります。例えば、スマを若い頃に刺し身にすれば、淡紅色で爽やかな味。月齢が増えて大きくなると、深紅色に変化し味わいも深くなります。餌の工夫で、体に良いとされる脂たっぷりの大きさの魚も育てられるのです」
スマの刺し身。
養殖魚の餌に心配な添加物を入れて無理やり太らせるようなことはないのだろうか。
――後藤准教授「養殖魚の餌は国で定められている基準がありますので、なんでもかんでも餌に入れられるわけではありません。畜産や家禽(かきん)と同じですよ」
「養殖魚」は限られた環境の中で育っているので、運動不足で筋肉の締まりがよくないのではないかというイメージもある。
――後藤准教授「魚にはエラを動かして呼吸する魚と、マグロやスマ、サンマのように泳ぎながらエラに水を送って呼吸をする魚に分けられます。そのため、養殖でもその魚に合わせて健康維持のための運動環境を整えていると考えて良いです。イメージとしては、放牧されている牛や豚。決められたスペースで過ごしているだけで、ストレスを与える環境ではないと考えてください」
「魚」というと天然魚のイメージが強いが、養殖技術の向上で養殖魚も魚のうまみを楽しむための大きな選択肢になってきたようだ。
――後藤准教授「そもそも、魚本来のうまみを楽しめないと栄養豊富な魚が苦手になってしまうかもしれませんね。天然魚は、季節によっては脂がのらず味が落ちる時期があります。でも養殖魚の場合、産卵期などの痩せてしまうような時期には販売制限をして、基本的には良い状態の魚しか販売しませんし、餌飼料の配合によって脂がのるようにもできますので、季節を問わず安定したおいしさを楽しむことができます」
考えてみれば、ウナギのほとんどが川でとれた天然の稚魚を人間の手で育てた「養殖魚」だ。ウナギは一般に受け入れられているのに、なぜ他の魚だとなじみが薄いのだろうか?
――後藤准教授「魚の養殖は畜産に比べて歴史が浅いため、まだまだ知られていないことが多いのかもしれませんね。気になるようでしたら、養殖企業のホームページを見てください。企業ごとに凝らしている工夫や環境に配慮した取り組み、安心安全な生産状況や最新情報をチェックすることができますので、安心できると思いますよ」
魚のうまみを楽しむための取り組みは年々向上しているようだ。「天然」「養殖」両輪で魚の脂肪を楽しみながら、生活習慣病のリスクを下げたいものだ。
後藤理恵(ごとう りえ)さん
愛媛大学南予水産研究センター准教授
生命科学研究部門 魚類繁殖生理学。北海道大学大学院水産科学研究科博士課程修了。メリーランド工科大学生物工学研究所 リサーチアソシエイト。北海道大学人材育成本部女性研究者支援室 特任准教授。現在、生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター)の「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて、小型マグロ類スマの品質に関する研究開発を進めている。
結城未来(ゆうき みく)
エッセイスト・フリーアナウンサー
テレビ番組の司会やリポーターとして活躍。一方でインテリアコーディネーター、照明コンサルタント、色彩コーディネーターなどの資格を生かし、灯りナビゲーター、健康ジャーナリストとして講演会や執筆活動を実施している。農林水産省水産政策審議会特別委員でもある。
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