ロドス島の薔薇2・労経研

経世済民のために・・・

内田樹「国旗国歌について」

2015年06月18日 | 国内政治経済

 

国旗国歌について

国立大学での国旗掲揚国歌斉唱を求める文科省の要請に対して、大学人として反対している。
その理由が「わからない」という人が散見される(散見どころじゃないけど)。
同じことを何度もいうのも面倒なので、国旗国歌についての私の基本的な見解をまた掲げておく。
今から16年前、1999年に書かれたものである。
私の意見はそのときと変わっていない。

国旗国歌法案が参院を通過した。
このような法的規制によって現代の若者たちに決定的に欠落している公共心を再建できるとは私はまったく思わない。すでに繰り返し指摘しているように、 「公」という観念こそは戦後日本社会が半世紀かけて全力を尽くして破壊してきたものである。半世紀かけて国全体が壊してきたものをいまさら一編の法律条文 でどうにかしようとするのはどだい無理なことだ。


ともあれ、遠からず、この立法化で勢いを得て騒ぎ出すお調子者が出てくるだろう。式典などで君が代に唱和しないものを指さして「出ていけ」とよばわった り、「声が小さい」と会衆をどなりつけたり、国旗への礼の角度が浅いと小学生をいたぶったりする愚か者が続々と出てくるだろう。
こういう頭の悪い人間に「他人をどなりつける大義名分」を与えるという一点で、私はこの法案は希代の悪法になる可能性があると思う。
一世代上の人々ならよく覚えているだろうが、戦時中にまわりの人間の「愛国心」の度合いを自分勝手なものさしで計測して、おのれの意に添わない隣人を「非 国民」よばわりしていたひとたちは、8月15日を境にして、一転「民主主義」の旗持ちになって、こんどはまわりの人間の「民主化」の度合いをあれこれを言 い立てて、おのれの意に添わない隣人を「軍国主義者」よばわりした。こういうひとたちのやることは昔も今も変わらない。
私たちの世代には全共闘の「マルクス主義者」がいた。私はその渦中にいたのでよく覚えているが、他人の「革命的忠誠心」やら「革命的戦闘性」についてがた がたうるさいことを言って、自分勝手なものさしでひとを「プチブル急進主義者」よばわりしてこづきまわしたひとたちは、だいたいが中学高校生のころは生徒 会長などしていて、校則違反の同級生をつかまえて「髪が肩に掛かっている」だの「ハイソックスの折り返しが少ない」だのとがたがた言っていた連中であっ た。その連中の多くは卒業前になると、彼らの恫喝に屈してこつこつと「プロレタリア的人格改造」に励んでいたうすのろの学友を置き去りにして、きれいに髪 を切りそろえて、雪崩打つように官庁や大企業に就職してしまった。バブル経済のころ、やぐらの上で踊り回っていたのはこの世代のひとたちである。こういう ひとたちのやることはいつでも変わらない。
いつでもなんらかの大義名分をかかげてひとを査定し、論争をふきかけ、こづきまわし、怒鳴りつけることが好きなひとたちがいる。彼らがいちばん好きなのは 「公共性」という大義名分である。「公共性」という大義名分を掲げて騒ぐ人たちが(おそらくは本人たちも知らぬままに)ほんとうにしたがっているのは他人 に対して圧倒的優位に立ち、反論のできない立場にいる人間に恫喝を加えることである。ねずみをいたぶる猫の立場になりたいのである。
私は絶対王政も軍国主義もスターリン主義もフェミニズムも全部嫌いだが、それはその「イズム」そのものの論理的不整合をとがめてそう言うのではない。それ らの「イズム」が、その構造的必然として、小ずるい人間であればあるほど権力にアクセスしやすい体制を生み出すことが嫌いなのである。
正直に言って、日本が中国や太平洋で戦争をしたことについて、私はそれなりの歴史的必然があったと思う。その当時の国際関係のなかで、他に効果的な外交的 なオプションがあったかどうか、私には分からない。たぶん生まれたばかりの近代国民国家が生き延びるためには戦争という手だてしかなかったのだろう。
しかし、それでも戦争遂行の過程で、国論を統一するために、国威を高めるために、お調子者のイデオローグたちが「滅私奉公」のイデオロギーをふりまわして、静かに暮らしているひとびとの私的領域に踏み込んで騒ぎ回ったことに対しては、私は嫌悪感以外のものを感じない。
小津安二郎の『秋刀魚の味』の中に、戦時中駆逐艦の艦長だった初老のサラリーマン(笠智衆)が、街で昔の乗組員だった修理工(加東大介)に出会って、トリ スバーで一献傾ける場面がある。元水兵はバーの女の子に「軍艦マーチ」をリクエストして、雄壮なマーチをBGMに昔を懐かしむ。そして「あの戦争に勝って いたら、いまごろ艦長も私もニューヨークですよ」という酔客のSF的想像を語る。すると元艦長はにこやかに微笑みながら「いやあ、あれは負けてよかった よ」とつぶやく。それを聞いてきょとんとした元水兵はこう言う。「そうですかね。そういやそうですね。くだらない奴がえばらなくなっただけでも負けてよ かったか。」
私はこの映画をはじめてみたとき、この言葉に衝撃を覚えた。戦争はときに不可避である。戦わなければ座して死ぬだけというときもあるだろう。それは、こど もにも分かる。けれども、その不可避の戦いの時運に乗じて、愛国の旗印を振り回し、国難の急なるを口実に、他人をどなりつけ、脅し、いたぶった人間がいた ということ、それも非常にたくさんいたということ、その害悪は「敗戦」の悲惨よりもさらに大きいものだったという一人の戦中派のつぶやきは少年の私には意 外だった。
その後、半世紀生きてきて、私はこの言葉の正しさを骨身にしみて知った。
国難に直面した国家のためであれ、搾取された階級のためであれ、踏みにじられた民族の誇りのためであれ、抑圧されたジェンダーの解放のためであれ、それら の戦いのすべては、それを口実に他人をどなりつけ、脅し、いたぶる人間を大量に生み出した。そしてそのことがもたらす人心の荒廃は、国難そのもの、搾取そ のもの、抑圧そのものよりもときに有害である。
現代の若い人たちに「公」への配慮が欠如していることを私は認める。彼らに公共性の重要であることを教えるのは急務であるとも思う。しかし、おのれの私的 な欲望充足のために、「公」の旗を振り回す者たち(戦後日本社会で声高に発言してきたのはほぼ全員がその種類の人間たちである)から若者たちが学ぶのは、 そういう小ずるい生き方をすれば、他人をどなりつける側に回れるという最悪の教訓だけだと私は思う。
国旗国歌法によって日本社会はより悪くなるだろうと私は思う。だが、それは国旗や国歌のせいではない。
 

※出典
「内田 樹の研究室」
http://goo.gl/A06iQC
 
 
 
 

「日本維新の会」国政進出

2012年09月09日 | 国内政治経済

「日本維新の会」国政進出 「八策の下結集」 理想と打算交錯

産経新聞2012年9月9日(日)08:02

「日本維新の会」国政進出 「八策の下結集」 理想と打算交錯
(産経新聞)

 ■TPP慎重派参加/公明推薦前のめり

 橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」がいよいよ、国政進出の号砲を放った。「既成政党の打破」を掲げ、次期衆院選での勢力拡大と政権獲得を目指す。その支柱になるのが基本政策「維新八策」であり、橋下氏は「集団(維新)をまとめるための軸」ともいう。しかし、政策を軸に政治を動かす「理想」と、打算が渦巻く「現実」とのギャップが早くも表面化している。(今堀守通)

 「価値観を一緒にしないと、困難を一緒に乗り越えていけない。既存の政党では決定できないようなことが、維新八策の下に集まったメンバーなら決定できる」

 維新八策の意義をこう訴える橋下氏は、とりわけ環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)問題を強調する機会が多い。「農協改革なんて自民も民主もできない。TPPに賛同できる人は農協改革も賛同できるメンバーだ」として、既成政党との対立軸になる政策だというのだ。

 一方、大阪維新幹事長の松井一郎大阪府知事は「日教組、自治労、官公労にべったり支援されてきた方とは無理だ」と、民主、共産両党の議員を激しく突き放す。

 ◆政策すり合わせなく

 しかし、現職議員らの維新新党への合流の可否を判断する9日の公開討論会には、松野頼久元官房副長官ら3人の民主党議員が出席する。しかも松野氏は、民主党の「TPPを慎重に考える会」の幹事長だった。

 松野氏は先月下旬のテレビ番組で「政策論でTPP反対なのではない。民主党はTPPでなく、EPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)推進だったからだ」と釈明したが、すでに新党参加が認められるのは確実とみられている。自民党の石破茂前政調会長は8日のテレビ番組で「政策はどうでもいいから入れてね、というのはよくない」とクギを刺した。

 一方、7日には、橋下、松井両氏が公明党の白浜一良副代表と会談、公明党が次期衆院選で擁立する9小選挙区の候補者を支援することを伝えた。大阪と兵庫の計6選挙区については、維新として推薦を出す方針だ。しかし、公明党とは八策を基に政策のすり合わせをしていない。「大阪都」構想実現に向け、大阪市議会で公明の協力を得るための「見返り」なのだという。

 ◆首相は市長の部下?

 橋下氏は8日の記者会見で、自らの国政進出を改めて否定した。新党本部を大阪に置くことも含め、「大阪から国を変える」ためで、市長と新党代表との兼務についても「プライベートな時間を削ればいいだけだ」と強調する。

 しかし、政治判断を迫られる場面で代表が東京にいないと政党活動、場合によっては国政の停滞を招く。維新が衆院で第一党になると、国会議員団長が首相候補になる。国会議員団長は代表の部下なので、市長が首相に指示するという異常な現象も生じかねない。

 
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国家社会の変革というのは実に大変な大事業である。橋下徹氏が、既成政党の劣化にともなうて、国民の政治や日本の将来に対する不安に乗じて、国民の支持を集めていることは理解できる。
 
しかし、この会議に集まった人々が、本当に既成の政治家や官僚たちと比較して、優れた哲学、卓越した行動理論を持っているかというと、大いに疑問である。「維新の会」も徐々に具体化されその実態がわかってくると、それに託した期待が大きかっただけに、その失望も反動として大きくなるのではなかろうか。
 
国家の哲学について、この維新の会に集まった人たちが、まともな理念や綱領を持ち得ているかというと、本日の公開討論会を聞いていてもわかったように、失望を味わった者も少なくないというのが実感ではなかったろうか。が多いのというのが実態ではなかろうか。
 
むしろ、共産党のように、また、カトリック教会のように、50年、100年、150年といった時間のスタンスで、しっかりとした哲学と理念をもって地道な日常の実践に徹底的に従事する団体の方がよほど尊敬に値するのではないだろうか。
 
 

民間給与3年ぶり増加

2011年09月16日 | 国内政治経済

民間給与3年ぶり増加、平均6万円増の412万円 2010年  
国税庁調査

2011/9/16 20:33
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 民間企業に勤める人が2010年1年間に支給された平均給与は412万円で、前年を6万1千円(1.5%)上回り3年ぶりに増加したことが16日、国税庁の民間給与実態統計調査で分かった。景気回復が反映されたとみられるが、調査期間は東日本大震災前で、専門家はこうした回復基調が続くかどうかは不透明とみている。

 調査は国税庁が民間企業約1万8千社を抽出し、パートや派遣労働者を含む約26万人の給与から推計。給与の内訳では給料・手当が1.2%増の353万9千円、賞与が3.6%増の58万1千円でいずれも増加した。

 業種別では「電気・ガス・熱供給・水道業」が前年比10.5%増の696万円でトップ。「金融業・保険業」が589万円で続いたが、前年比では5.8%減った。一方、民間企業に昨年1年間勤務した給与所得者の女性は1823万人で、過去最多だった。

 ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次主任研究員は「景気回復が給与にも反映された結果だが、震災の影響や世界経済への不安感が広がっており、今年分の所得改善は難しいだろう」と指摘している。


1%の“インフレ目標”完成? 日銀、28日に政策会合

2011年04月28日 | 国内政治経済

1%の“インフレ目標”完成? 日銀、28日に政策会合

2011/4/27 15:56 ニュースソース 日本経済新聞 電子版  

日銀は28日、金融政策決定会合を開く。資産購入拡大など追加緩和策は温存する方向だが、望ましいインフレ率を対外的に示す「中長期的な物価安定の理解」は、見直しがあり得る。4月に就任した白井早由里審議委員(前慶応大教授)が、前任の須田美矢子氏と異なり「望ましい物価上昇率の中心は1%」という点で他のメンバーと足並みをそろえるなら、1%が日銀にとっての事実上のインフレ目標である点が明確になりそうだ。それは同時に、「女性の審議委員は(物価上昇により警戒的な)タカ派」という“常識”が崩れる可能性が出てきたことも意味する。

 「物価安定の理解」は、正副総裁および審議委員からなる政策委員会メンバーが、中長期的にみて物価が安定していると理解する消費者物価上昇率の水準を出し合って決めたものだ。日銀はインフレ目標と呼ばないが、それに近いものと見なして差し支えない。見直しが必要かを点検する作業を年1回やっており、昨年4月末に決まった現行の内容は「委員の大勢は1%程度を中心と考えている」となっている。

 これを読んで、何となくインパクトが弱いと感じる人もいるだろう。「大勢は」が入っているためだ。3月に退任した須田前審議委員が他のメンバーと比べて低めのインフレ率を主張したことへの配慮から入れた文言である。後任の白井氏が「1%を中心と考えている」物価観を持っているなら、1年ぶりとなる今回の点検作業で「大勢」を落とせる。過去数年間、「物価安定の理解」は「1%」が徐々に強調される形で変遷を経てきており、「大勢」がなくなれば、1%の“インフレ目標”がいわば完成するわけだ。物価だけを過度に重視せずに資産価格などにも目配りして政策を運営するという建前もあるため、日銀は公の場でそう明言はしないだろうが……。

 その結果、どんな効果が生まれるのか。日銀はかねて、ゼロ金利政策解除の時期を決める際に「物価安定の理解」を主な物差しとして使うとしてきた。「中心は1%」をはっきりと打ち出せば、1%の物価上昇が見通せない限り日銀は利上げしないという受け止め方が市場にさらに浸透するだろう。長期金利を低位安定させる時間軸政策の効果が強まる可能性も指摘される。ただ、時間軸効果が強まるかは、日銀が今回、同時にまとめる物価見通しにも左右される点には留意が必要だ。また、日銀は表向きは認めないだろうが、政策委メンバー全員が同じようなスタンスをとるようになれば、今後1%をさらに上げて時間軸効果を強める追加緩和の合意形成がやりやすくなる面もありそうである。

 では、肝心の白井氏の出方はどうなるのか。審議委員就任時の記者会見でヒントは与えなかったが、須田氏のような主張はしないのではないかという声が日銀内や市場で聞かれる。その結果、「1%が中心」とする点で白井氏が他の委員と足並みをそろえるなら、デフレよりインフレのリスクを重視するタカ派という従来の女性審議委員のイメージを変える動きという見方も出そうだ。

 1998年の新日銀法施行後、政策委員会のメンバーのうちひとりは女性枠と見られていて、白井氏は3代目。初代の篠塚英子氏は超低金利政策に批判的な発言が目立ち、2代目の須田氏は長期金利低下を促すための国債買い増しに反対するなど、いずれもタカ派的だった。白井氏が須田氏より高い物価上昇率を主張するなら、その分将来の利上げ時期が遅れる可能性を受け入れることを意味する。それだけで白井氏をハト派と決めつけるのは早計だが、タカ派とはいいにくくなるかもしれないのである。いずれにせよ、白井氏がどんな物価観を披露するのかを注視したい。

(編集委員 清水功哉)


2010年第22回参院選

2010年07月16日 | 国内政治経済
 

投票率57.92%=前回より微減-総務省発表・参院選

 総務省は12日午前、第22回参院選の投票率(選挙区)を発表した。全国平均は57.92%で、前回2007年の58.64%を0.72ポイント下回った。33道府県で前回より落ち込んだ。
 投票率を都道府県別で比較すると、高かったのは、島根県の71.70%、鳥取県の65.77%、福井県の65.26%の順。最も低かったのは沖縄県の52.44%で、宮城県の53.34%、広島県の53.51%と続いた。また、男性58.38%、女性57.49%だった。 (2010/07/12-07:11)

 


田母神論文 「国を常に支持」が愛国か

2008年12月22日 | 国内政治経済

資料

http://suga.blog01.linkclub.jp/index.php?itemid=218761
朝日新聞2008年12月22日朝刊

 

ジョン・ダワー 米マサチューセッツ工科大教授


 太平洋戦争の開戦問題は、田母神俊雄・前航空幕僚長の論文「日本は侵略国家であったのか」の核心の一つで、日本が「ルーズベルトの仕掛けた罠(わな)」にはまって真珠湾(パールハーバー)攻撃を決行した、と論じている。

 米国にとって「パールハーバー」は記憶から消し去れない出来事だ。01年の9・11米同時テロと、これに続く米国主導のイラク戦争という選択は、その記憶を思いがけず衝撃的な形でよみがえらせた。

 米各紙は9・11を真珠湾攻撃になぞらえ、見出しに「インファミー(不名誉)」を掲げた。真珠湾攻撃に対し、当時のルーズベルト大統領が使った「不名誉のうちに生きる日」を下敷きにした表現だ。ブッシュ大統領もこれに反応し、9・11を「21世紀のパールハーバー」と日記に記した。通俗的なこの連想は、ブッシュ政権による02年9月の「先制攻撃」政策発表、半年後のイラク侵攻というブーメランとなった。真珠湾攻撃も9・11事件も米国に挑む戦争として強く非難した米国が、今度は自らが戦争の道を選択したのである。

 米の著名な歴史家アーサー・シュレジンジャーは、「予防的自衛」のブッシュ・ドクトリンは「日本帝国の真珠湾攻撃と驚くほど似ている」とし、「今度は我々米国人が不名誉に生きることになる」と鋭く見抜いた(03年3月)。

 □ ■ □

 だが、大半の米国人は愛国主義に目を曇らされ、米国の安全への重大な挑戦とする政府側にくみした。戦争は早期に終結し、イラク戦後の体制変革も円滑に進むというブッシュ政権の保証を信じ込んでしまったのである。

 ブッシュのイラク戦争は、相手の特質や能力を真剣に考察することなく、戦争をいかに終わらせるかの展望もない「戦略的な愚行」(米海軍史家サミュエル・モリソンの50年代初頭の指摘)という点で、日本による真珠湾攻撃との類似性を想起させる。半世紀以上前に日本が犯した「戦略的な愚行」は今では皮肉にも、もはやそうユニークなことではないようだ。

 冒頭の、太平洋戦争の開戦を「ルーズベルトの罠」とする田母神論文の主張は、綿密な検証に耐え得る事実にも論理にも支えられていない。

 この主張は陰謀史観そのものだが、米国では半世紀余も前に信用できないとして退けられた2つの説を反映している点は興味深い。一つは、ルーズベルトの外交政策を非難する孤立主義者が引き合いにした「バックドア・トゥー・ウオー(戦争への裏口)」説。かれらは、アジアへ侵略しナチスドイツと同盟を結ぶ日本を米国がなだめすかすことで戦争を回避できたし、そうすべきだったと論じた。もう一つは、40年代後半から50年代に吹き荒れたマッカーシズムという政治的魔女狩りの中で唱えられた、「共産勢力」が操っていたとする説だ。

 □ ■ □

 では、日米間の戦争は避けられたのか。これについては日本語と英語の何万ページもの関係文書や学問的研究がある。なぜ、米日間の外交交渉が戦争を食い止められなかったのかについてはいつも論議の対象になるが、陰謀史観はこの問題を説明できない。

 米国が、日本の中国侵攻・占領、そしてナチスドイツとの同盟を支持すべきだったとでもいうのだろうか。田母神論文には、この件に関する膨大な資料をまともに検討した形跡がない。日本の中国支配を単純に肯定するだけで、当時のアジアの危機をいかに解決できたかについてを問いただした形跡もうかがえない。

 どこの国でも、熱に浮かされたナショナリストがそうであるように、彼は他者の利害や感情に全く無関心であるかにみえる。中国人や朝鮮人のナショナリズムは、彼の描く絵には入ってこない。

 アジア太平洋戦争について、帝国主義や植民地主義、世界大恐慌、アジア(特に中国)でわき起こった反帝国主義ナショナリズムといった広い文脈で論議することは妥当だし、重要でもある。戦死を遂げた何百万もの日本人を悼む感情も同様に理解できる。

 しかし、30年代および40年代前半には、日本も植民地帝国主義勢力として軍国主義に陥り、侵攻し、占領し、ひどい残虐行為を行った。それを否定するのは歴史を根底から歪曲(わいきょく)するものだ。戦後、日本が世界で獲得した尊敬と信頼を恐ろしく傷つける。勝ち目のない戦争で、自国の兵士、さらには本土の市民に理不尽な犠牲を強いた日本の指導者は、近視眼的で無情だった。

 国を愛するということが、人々の犠牲に思いをいたすのではなく、なぜ、いつでも国家の行為を支持する側につくことを求められるのか。

 ◇
朝日新聞2008年12月22日朝刊「国を常に支持が愛国か」
 38年生まれ。専門は日本近代史。主著「敗北を抱きしめて-第二次大戦後の日本人」でピュリツァー賞受賞。(朝日新聞2008年12月22日付 声・主張10面12版)

【防衛利権】

2008年07月25日 | 国内政治経済

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【防衛利権 蜜月の構図】

秋山理事を脱税容疑で逮捕 防衛企業顧問料2億3000万円隠す

2008年7月25日

防衛関連企業や商社からのコンサルタント料約2億3000万円を隠し、所得税計約7400万円を脱税したとして、東京地検特捜部は24日、所得税法違反(脱税)の疑いで、社団法人「日米平和・文化交流協会」専務理事の秋山直紀容疑者(58)を逮捕、東京国税局と合同で協会の事務所などを捜索した。

 前防衛次官守屋武昌被告(63)=収賄罪などで公判中=の汚職事件は、日米の防衛産業と政官界を結ぶパイプ役とされる秋山容疑者の逮捕につながった。

 脱税した資金の一部は、秋山容疑者が所有する高級外車や高級腕時計の購入に充てられたとみられるが、特捜部は秋山容疑者から防衛族議員らへの資金提供の有無など、使途の全容解明を目指す。

 秋山容疑者は脱税疑惑について本紙の取材に「あり得ない。心当たりがない」と否定。特捜部の調べにも容疑を否認しているもようだ。

 調べによると、秋山容疑者は2003-05年の3年間で、協会の会員だった防衛商社「山田洋行」など防衛関連企業からコンサルタント料名目で、秋山容疑者が管理する米国口座に入金させるなどの手口で、計約2億3200万円を隠し、所得税計約7400万円を脱税した疑い。

 資金の受け皿となったのは、秋山容疑者が日本支社の顧問を務める米国法人「アドバック・インターナショナル・コーポレーション」(ロサンゼルス)や米国非営利法人「カウンシル・フォー・ナショナル・セキュリティー」(ワシントン)の名義などの3口座。

 特捜部は、これらの法人が実体のないダミー法人で、秋山容疑者が事実上口座を管理していたと判断。入金された資金は必要経費を除いて、個人の雑所得とみているもようだ。

 アドバック社は、山田洋行が福岡県・苅田(かんだ)港の旧日本軍毒ガス弾処理事業の下請け受注を目指し、秋山容疑者へ約1億円を支払った際の送金先。同社元専務宮崎元伸被告(70)=贈賄罪などで公判中=が参院証人喚問で「(秋山容疑者から)頼まれて現地対策費として支払った」と述べていた。

http://www.chunichi.co.jp/hold/2008/ntok0011/list/200807/CK2008072502100005.html 

 

 


天下り 多額の退職金

2007年06月16日 | 国内政治経済

天下り 多額の退職金

 社会保険庁長官のポストは、1962年の同庁設立以来、旧厚生官僚が独占してきた。唯一の例外が、小泉純一郎前首相が04年、社保庁不祥事の改革の切り札として民間から起用した現長官の村瀬清司氏だ。厚生労働省内の序列では、長官は事務次官や厚生労働審議官と並ぶポストだ。

 人事院などによると、長官の年収は2036万円。勤続期間が35年前後の官僚出身の長官ならば、退職金は6000万円以上になるという。

 長官は退官後も、社保庁や厚労省関連の公益法人などへの再就職を繰り返すケースが多い。こうした「天下り先」からの多額の報酬と退職金が国会でも問題視されている。

 例えば、85年8月から86年6月まで長官を務めた正木馨氏は退官後、5法人を渡り歩いている。全国社会保険協会連合会(1年1か月)、社会保険診療報酬支払基金(6年1か月)などで理事長などを歴任し、現在、5か所目の財団法人に再就職している。衆院内閣委員会で細野豪志氏(民主)は「(正木氏が天下り先で得た)報酬や退職金の総額は3億円以上ではないか」と指摘した。

 社保庁長官の厚遇ぶりへの批判から、厚労省は6月7日、歴代長官12人の天下り先と退職金の推計額を参院厚生労働委員会に提示した。天下り先からの退職金の合計額は、最高で3100万円。これ以外にも、多くの元長官が天下り先から役員報酬などとして、月額100万円前後の高給を得ていた。

 自民党内からも、年金記録漏れ問題を放置してきた歴代長官の責任を問う声が強まっており、「退職金を返還すべきだ」との意見も出ている。ただ、法的には退職金の返還は強制できないため、何らかの返還を求める場合、あくまで本人の自主返納となりそうだ。

 また、政府は、有識者による「年金記録問題検証委員会」を総務省に設置。歴代長官らの責任を追及する考えだ。

2007年6月16日  読売新聞)
 
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