米連邦準備理事会(FRB)が1週間余りで2回にわたり利下げを実施した。「金融市場はまだかなりの緊張状態にある」。利下げにあたって1月30日の声明文は、冒頭でこう指摘した。世界的な連鎖株安のさなかに実施した前回22日の緊急利下げの後も、事態が依然として楽観を許さないと率直に認め、金融関係者と懸念を共有したものだ。
昨年9月以降、フェデラルファンド(FF)金利の下げ幅は合わせて2.25%。金利水準も年3.0%まで下がった。それでも声明は「必要に応じて迅速に行動する」と述べ、追加利下げに含みを残した。FRBは今や、景気後退が現実のものになりかねないことを意識している。30日発表された昨年10―12月期の実質国内総生産(GDP)の伸びは前期比年率0.6%に鈍化した。
バブル崩壊後の日本の経験では、景気が後退し物価も下落する悪循環にいったん陥ると、経済はなかなか自律的な回復軌道に戻れない。地価や株価など資産価格の下げが企業や家計に損失を負わせ、不良債権問題が深刻になると、金融システムは機能不全に陥る。バーナンキ議長が懸念するのはこうした事態だろう。
幸いにも、米国はまだデフレに陥っていない。総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは10―12月期にプラス2.5%だった。実質成長率に物価上昇分を加えた名目成長率は、前期比年率3.2%を維持している。FRBがもう一段利下げすれば、FF金利が名目成長率を下回る状況がはっきりするだけに、金融はかなり緩和気味になるだろう。
長い目で見て資産価格は名目成長率に沿って動く。バブル崩壊で住宅価格の調整は避けられないにせよ、3%程度の名目成長率を保てるようなら、そうした調整をある程度なだらかにできるかもしれない。
もちろん、経常赤字国である米国が急速な金融緩和に踏み切ると、ドルの信認が揺らぐ恐れもあるし、不況下のインフレを招くリスクもある。バーナンキ議長は綱渡りだ。
日本の景気が後退する恐れが出れば、日銀は利下げという選択肢を排除すべきではない。今は米政府の減税とFRBによる利下げの効果を見極めるときだろう。
NKKKEI