左心低形成症候群ってご存知ですか?

お腹の中の赤ちゃんが先天性心疾患の左心低形成症候群という指定難病なので、ブログを始めた新米パパ

夢と現

2024-10-26 23:25:30 | 日記
沈黙が続いた。

時間にして1分~2分あるかないかだったと思う。

言葉に表せないほど重い空気に晒されて、時間もどれほど経ったかわからない。

ドクターは沈黙を破った。

「手術の手順と言いますか、どの様な手術を行うか説明しますね。」

まずは二心室と単心室という2つの種類があると。

二心室の方がより心臓に近い。

単心室の方は読んで字の如く、心室を1つのみなので、本来の心臓の形とは違う。

しかし、両方ともに言えるのは、そもそも息子の心臓は普通の心臓に比べるとパワーがとても弱いのだ。

「これが非常に難しくて二心室を取りたいんです。でも二心室を目指すからと言ってやっぱり難しそうだ!ギリギリまで二心室を引っ張ったせいで単心室に切り替えようとした時には、単心室に切り替えた方がリスクが高いこともあります。なので非常に見極めが難しい手術でもあります。

ノーウッド手術の事。
人工の動脈みたいな物が入ること。
フォンタン手術のこと。
一定の年齢までに4回の手術を行うこと。
その手術にはそれぞれ条件があり、心臓のサイズやパワーなどクリアしないと出来ないこと。
4回の手術を全て行えずに亡くなる子供もいるのが現実であること。

言葉が出ない。

妻が口を開く。

「成功率とかはどうなんですか?」

私よりも冷静に現実をみていた。

ドクターは答える。

「そもそも症例数が少ない病気でうちでも1年に1件あるかどうかです。何件も連続で成功した時もありますが、さっきも言いました様に症例数の母数が少ないので、1件亡くなってしまうと成功確率という話になると一気に減少してしまいます。症例をたくさん扱っている病院だと成功確率が高いです。ただ平均すると70~80%ほどでしょうか。」

70~80%。
死ぬ確率が20~30%もあるのか。

自分の母が続ける。

「全部手術が成功したら普通に生活できるのか?」

ドクターは答える。

「普通をどう考えるかですが、それは難しいと思います。

妻は聞く。

「日常生活が普通に行えたりとかは?」

ドクターは答える。

「手術が4回成功しても走ることは難しいでしょう」

私も聞く。

「寿命はどれくらいなんですか?」

ドクターは答える。

「平均寿命よりはどうしても短いです。」

何を聞いていいのか。

何を聞けば良いのか。

頭が一気に脳みそではなく、スポンジに変わってしまったのかと思うくらい声が出ない。

ドクターは続ける。

「なので、選択をしてもらわないといけません。うちで手術をするのか。隣県にある病院だとうちよりも成功確率も高く、この症例も多く扱ったところがあります。どちらで手術と治療を受けられるかを選んでもらいたいです。」

思考が追い付かない。

妻は聞く。

「答えは早い方がいいんですか?」

ドクターは答える。

「早い方がいいです。週数が進んでいますし、遅くなればなるだけリスクも高くなる部分もあります。なので今週はしっかりとご家族さんで話し合ってもらって…そうですね。週明けとかに返事をもらえればと思います。」

まるで人の気持ちを考えてないかのように淡々と伝えてくる。

しかし、医者という仕事は激務なのは、想像は出来る。

このドクターにも私たち以外にもたくさん抱えている患者さんがいるのもわかる。

私達家族は私達家族を大切にして欲しいと思う。

しかし言い方を悪く言えば、ドクターからすれば症例に難しさ等はあれど、最善を尽くすだけ。

何人の内の1人の患者なのだ。

しかし怒りなどは出てこない。

今の現状を受け入れるので精一杯。

しかし、現状をすぐに受け入れるほど、簡単な話でもない。

両の手のひらで水をすくう形を作り、そこに水を上からかけられると、多少はすくえるが、多くが零れ落ちてしまう。

かろうじて涙は出なかったが、悲しみや悲痛と言った感情は、堪えきれず。

虚無感。
虚無感。
圧倒的な虚無感。

思考が止まる。

誰か分かるなら最適解を教えてくれよ。

何故。

よりによって。

うちの子なのだと。

色んなマイナス感情が湧き上がるばかりであった。




2024.10.10

2024-10-24 22:59:42 | 日記
ついに転院の日を迎えた。

一抹の不安を抱えたまま。

思ったよりも寝れたので良かった。

この日は自分の母も転院なので、荷物が多いとの事で、手伝ってくれる運びとなっていた。

まずは実家に母を迎えに行く。

母「寝れたー?」

俺「今日ありがとねー!思ったより寝れたー」

母「良かったじゃん!でも東広島からこっちの方の病院やけ遠くなるねー」

俺「そうなんよー。てかさ妻ちゃんが怖いこと言うてくるんよー笑

と言い、例の画像と病名を伝える。

母「なんか怖いねー。まぁ大丈夫よ!なんとなく!」

10月入ってからは天気もなかなかぐずついていたが、この日はめちゃくちゃ晴れてて気分も晴れやかでいい事が起こりそうな予感がしていた。

私自身も「まぁ無さそう!いけるいける」と楽観的だった。

お昼頃に着いて、妻の転院の準備や軽くご飯の調達などを済ます。

妻は救急車で運ばれる。

VIPかな????笑

私たちは自家用車で後ろを着いていくもルートが違ったので、別ルートで向かった。

転院先の病院に着くと、まずは胎児エコー。

何人の産科の先生が見るねん笑

おそらく東広島の病院から、情報も回っているからだろう。

産科の部長を始め、少なくとも6人は確認できた。

研修医らしき人もいた。

私の横の方で耳馴染みなさすぎる英語や英語の略称(ASMRみたいなやつ)が飛び交う。

なんのこっちゃわからん。

しかし、沈黙の中の診察ではなく、なんとも和やかな雰囲気である。

「お?大丈夫そうか?取り越し苦労か?」と少し安心した。

そこで30分ほど診てもらい、次は胎児の循環器のエコーだと言われる。

んんんん???

エコーと言うからこれで終わりなのかと思ったら!?

循環器のエコーとな!?!?

心臓をより詳しく見ます的な!?!?

最初からそこで良かったのでは!?と思いつつも、色々とあるのだろう。

うちの子は今の現段階で、逆子が直らずに帝王切開が濃厚であった。

そして成長曲線も見たりしていたのだ。

いわゆる産むまでは産科で仮に何かあれば、そこから先は産科ではなく、心臓とか循環器のドクターのお仕事なのだ。

私みたいにズブの素人で、妻ほどでは無いにしろ、毎日の仕事と洗濯物の持っていったり帰ったりとで、明らかにリズムを狂わされていた。

そこに加えて、不安要素も隠し味で追加しときました〜ってね!

やかましいわ。どんな料理研究家やねん。

そして心臓のエコーは妻のみで、20~30分ほど時間が経過しただろう。

私と私の母が呼ばれ、診察室の中へ。

そして、どうやら小児循環器の部長さんが説明してくれる様子だった。

診察室には
産科の部長
小児循環器の部長
そして記録をしてくれる循環器のドクター
と中々のメンツがそこにはいた。

小児循環器の部長さんが口を開く。

「週数がだいぶ進んでいたので、心臓を直接見る形ではなく、肋骨が出来てきつつあるので、その隙間から心臓を診させてもらいました。そして診断確定とは言い切れませんが、様々な角度から診て、総合的に判断させてもらいました。」

そして心臓のイラストが描いてある紙を用意され、

普通の血液や酸素の流れ。

それぞれの動脈や血管や心臓の4つの部屋のそれぞれの役割。

やめてくれ。

めちゃくちゃドキドキする。

もう頷くしか出来ねぇ。

人口密度のせいなのかめちゃくちゃ暑い。

通常の心臓の説明を一通り聞いた。

「次にですね。赤ちゃんの心臓の動きはですね」
と普通の心臓が描いてあるイラストに修正テープを施して、我が子の心臓の動きや何がどうなのか説明をされる。

修正テープが施されるということは、普通では無いというのは想像に難しくない。

そこで3つ言われた。

「大動脈縮搾」
「僧帽弁狭窄症」
「左心低形成」

ん????


左心低形成と言うたな????

後に調べて分かったことだが、左心低形成(心臓の左心室が通常と比べて小さい)だけでこの左心低形成症候群という名前では無いらしく、上記の3つないし2つが伴う事で症候群となり「左心低形成症候群」と名前になるそうです。

違ってたらごめんね❤

3つの状態を言われた時に

これが絶句なのだと生まれて初めて感じた。

声が喉から出てこないとかでは無い。

声や言葉そのものが、脳みそにすら浮かばないのだ。

頷くことが精一杯。

なんなら、事前に調べていた。

心の準備が出来ていた。

妻に感謝すべきなのだろうか。

私は、涙腺を締める為に、何も無い診察室の天井を一瞬見上げ、煌々と光る電灯すら恨めしくも感じた。

重苦しい空気。

すごい。

何だこの空気は。

えぐい。

えぐすぎる。

夢なら。

悪夢なら早く覚めてくれよ。

焦りと不安と現実逃避

2024-10-23 22:32:36 | 日記
妻自身も不思議がっていた。

何故調べたのだろうかと。

とある友人が話を聞いてくれてたそうで

お腹に赤ちゃんがいるお母さんが、普段しない考えや行動をする時は、お腹の中の赤ちゃんの性格に似ている時があるらしい。

と言ったものだった。

だからお腹の子は賢い子かもねー!とありがたい言葉も頂いた。

共通の友人なので、ほんまにいつも助けて貰ってます。

しかし、ただ似ているだけ。

確率を調べてみると

近しい症例を含めると1/5000。

ピンポイントの症例だと1/10000。

ふぅ。

な〜〜〜〜〜んや。

めちゃくちゃ低確率やんけ!!

当たりゃーへんわ!

と楽観的な自分。

そうプラスに考えた時に幅を広く感じたい為か色んな事を調べては

うわぁ…

うちの子…これなんかなぁ…

怖いぜよ…どうしよ…

となっている自分がいた。

仕事でも不安からか口数が減り、笑顔も少なくなったのが、自分でもわかった。

しかし、机上の上の空論。
自分が思う良くないことはたいてい当たらない。
など自分の不安をかき消すだけの言葉を心の中で、自分に投げかけては打ち消す。

この時、妻は本当はどう思っていたのだろうか。

私は「まさか〜」の気持ちがまだあったが、お腹に宿している当人である。

私よりは、もしかしたら確信めいた物があり、伝えずにいてくれて、人知れず涙していたかもしれないと今となっては思う。

妻と自分だと、どちらかというと私の方が感情的というか直情的というか。

アニメや映画で先に泣いたり、しっかり泣くのは私の方なのだ。

ということは、不安要素を伝えられると、より不安に感じるのは私の方なのだ。

だから、不確定要素だが不安を煽ってしまうのではないかと。

自分の方が大変なはずなのに、私の心を案じてくれた妻の優しさには、頭が上がらない。

この時思ったのが、
何も知らずに仮にこれを診断されたとしたら、本当に不安で仕方なかったと思う。

しかし、心の準備をさせてくれたのだな。

妻に。
そして不意に調べさせたお腹の中の息子に感謝である。

コノヤロー不安ばっか煽りやがって〜

2人とも帰ってきたら覚えてろよー

とおチャラけるが、

心の片隅、脳みその一部

常に名前がチラつく

「左心低形成症候群」

そんなわけない
違う違う
そもそも見間違いで、心臓もきっと元気さ。

言い聞かせ、10月10日の転院の日を迎えた。

疑惑

2024-10-20 08:58:09 | 日記
「これうちの子のにめちゃくちゃ似てない?」
と、とある画像と一緒に送られてきた。

そこには画像元のリンクも一緒に貼り付けてくれてた。

それよりも画像の方だ。

うん。似てる。

似てるなんてもんじゃない。

うちの子のか?

そう感じてしまうほど酷似していたのだ。

まだドクターからの診断も何も無い。

診断がないというのも不安な物だ。

うちの子の心臓は何か重大な物を抱えているのか?
それとも成長過程であって、大丈夫な物なのか?

ドクターは毎度「うーん」と言葉を濁しているようにも感じていた。

しかし私も妻も初めての子。

経験がない以上はドクター以上に信用出来る物を何一つ持ち合わせていなかった。

少しでも参考に…もしかして自分たちの中で何か理解出来る部分もあるかもしれない。

そう思い、リンクをタップする。

…。

……。

………。

人間とは、色んな状況で、最悪を想定する生き物だと、私は思っている。

私は一旦、リンクを閉じて、妻に

「めちゃくちゃ似てるやん」

と送った。

妻も普段は、「なるようになるさ」体質で、肝が割と座っているタイプなのだが、何故かふと気になって調べてみたようだ。

私も検索をかけてみようと思い

「胎児・心臓・左側・小さい」

と検索をした。

同じ症例がそこには、出てきた。

あくまで疑惑。

それも、医療知識もない夫婦の。

我が子を思うばかりについ調べてしまったのだ。

そこには、

「左心低形成症候群」

の文言が、たくさん出てきたのだ。

その中に、「難病情報センター」の文字すらあるではないか。

私は、いつもより目がかっぴらき、息をするのも一瞬忘れるほどの衝撃があった事を覚えている。

読む。

読む読む。

読む読む。

検索して、その症例の名が出ている記事はだいぶ読んだと思う。

YouTubeでも調べた。

手術のやり方や用語の話も含めて。

「本当にうちの子がこれだったら…」と思うと、その日は不安とこの子の産まれてからの未来を思うと。

人間とは、色んな状況で、最悪を想定する生き物だと、私は思っている。

それは、もちろん私もだ。

最悪を想定すると、耐えられず、涙が溢れてしまった。

しかし、それは、まだドクターから診断されたわけではない。

違う違う。

そんなわきゃーない。

めちゃくちゃ低い確率だ。

難病?なーに言ってるだ?

とは思うが、画像とうちの子のエコー検査での心臓の形。

見れば、見るほどに。

不安を通り越して笑っちゃうくらいに



「似ているよ」

日常の非日常

2024-10-17 11:45:19 | 日記
そこからしばらくは妻の面会に行ける時は行き、荷物の受け渡しをした。
面会時間は13:00~16:00で1日2名までで15分程度だ。

このご時世だ。
コロナも流行っている。
本当に五類なのだろうか?
インフルと同じってマ??
明らかにコロナの扱いがデカすぎるだろう。
いつまでこんな事やってんねん
と思いながらも

妻がいる病棟には今から出産を控えてるお母さん達。
そして出産を終えて束の間の休息を入れているお母さん達。
そしてこれからたくさんの幸せに包まれるであろう新生児達。
が同じフロアにいるのだ。

そりゃー仕方あるめぇ。てやんでぇ。

妻の10月1日の入院の理由は
子供のサイズが小さい事。
成長曲線の小さいを更に下回っていた。

次に切迫早産のリスクがあるという事。
子宮口が短いという物だった。

そしてもう1つが血糖値が高く妊娠糖尿病なのでは?という懸念。

この3つの理由だった。

しかし翌日の検査等々で糖尿病ではない。
その後日、子宮口も初日より長くはなっていると言われた。

となると残されているのは息子の事が気になるのである。

東広島にあるとある病院で主治医が2名付いてくれて、連日の様にエコーや胎児の鼓動を感じたりしていると妻からは連絡がマメに入っていたので状況はすごくわかりやすかった。

来る日も来る日も同じ検査。
来る日も来る日も同じ状態。
来る日も来る日も同じコメント。

私は妻が何のために入院しているのか少し疑問にすら思い始めていた。

切迫早産のリスクとして下腹部や足の付け根が張るというものがどうやらあるらしい。
うちの妻は足の付け根が張って痛いというのが良くあった。

一週間ほど経った頃。
妻には張りを抑える為に24時間の点滴が入ることになった。

その姿は我が子を思う母の姿であったが、私は辛い思いをさせてしまってすまないという罪悪感が常にあった。

本当に妊娠をすることがどれだけ大変なことなのか産まれる前から痛感する。

出来ることなら代わってやりてぇけど…俺注射苦手だしなぁなんて心では思う私は弱虫毛虫ダンゴムシだろう。

それでも面会に行くと笑顔を見せてくれる妻。

妻は幼少の頃に入院生活があり、その時の事を思い出す様だった。

しかし、我が子の命の為に懸命に耐えてくれているのだ。

そんな妻が、泣いた。
しんどいと。

子供の事の心配や自分の過去のある種のトラウマの部分と1人で戦わせてしまっていたのだ。

連れて帰りたい!と思うがそれも出来ない事実とやるせなさに胸がどうにかなってしまいそうではあった。

私は慰めて励ますことしか出来ない。

こんな時に男はなんと無力なのだろうかと嫌になった。

そしてある日。

妻からこんなラインが飛んできたのだ。