Mid-Pleistocene Beasts' Rivalry ❷
更新世中期ヒグマ(カミエンシス)
引き続き、更新世中期・ユーラシアのマンモスステップを代表する大型動物相を描いた風景画の、一部を紹介しています(鉛筆一本での絵画です)。
前回問いかけた食肉類Xの正体とは、
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この、ヒグマの古亜種でした❕
具体的には、更新世中期にユーラシア広範に分布した巨大亜種、Ursus arctos kamiensis です。
次回、全景をアップしますが、一体全体、どんな作品になるのか?(各動物の配置、構図とか、想像もつかないだろうと思います)
作品に登場する主要タクソンについて、アップデートを要する新知見を中心に、第一次資料(学術論文。各論文のタイトルを巻末に明示)参考のもと、比較的詳細な記述を付していきます。
第四紀ヒグマのサイズ変遷
ホラアナライオンのサイズ変遷のパターン、即ち更新世中期(フォシリス段階)に最大に達した後、同後期から最終氷期(スぺレア段階)にかけて漸次的に小型化したことについて、この記事に詳述した。その他多くのタクソンにおいても、更新世中期に史上最大級の個体群が頻出したことについても、言及した。
ホラアナライオン同様、汎ユーラシア規模の分布を持つ食肉類の一つ、ヒグマにも、相似したサイズ変遷のパターンが当てはまる。
上述のホラアナライオンのサイズ変遷を例証したMarciszak率いる研究チームが、欧州のヒグマのサイズ変遷にも焦点を当て、形態測定学的調査を実施している(Marciszak et al., 'Ursus arctos L., 1758 from Bukovynka Cave (W Ukraine) in an overview on the fossil brown bears size variability based on cranial material', 2015)。性別、地理、層序学的区別に基づき仕分けされた、263体に及ぶ頭骨サンプルを対象としたもの。
その結果、ヒグマも更新世中期に最大のサイズに達し、以降、更新世中期終盤→更新世後期→最終氷期→完新世→現生個体群と、時代が下るごとにサイズの縮小を経ていることが確かめられた。
更新世中期個体群の雄成獣の頭骨長は、平均454.1㎜、最大477.0㎜。以降の時代の個体群と比べて、著しく大型である。参考に、更新世後期の個体群の平均頭骨長が414.8㎜(いずれの寸法も、after Marciszak et al., 2015)。
もとよりヒグマは個体群ごと、地域ごとのサイズ差が著しいのだが、欧州における巨視的なサイズ変動としては、明瞭に漸減傾向が看取されるということ。その原因として複数考えられようが、Marciszak et al. (2015)は、局地的・世界的気候変動がもたらす影響を、主要因に挙げている。
大型古亜種、カミエンシス(史上最大のヒグマ 当復元画)
更新世中期個体群に該当する古亜種は、中国周口店で最古(およそ62万年前)の化石が見つかり、その後西方~欧州にも生息域を広げた、Ursus arctos kamiensis(欧州での最古の化石記録はおよそ55万年前)。
この古亜種について、古くはKurten('Pleistocene Mammals of Europe' 127ページ)の「'some even big enough to have been described incorrectly as the cave bear' (サイズ的にも遜色ないことから、誤ってホラアナグマと記載されてきた)」という言及がみられる。
上述のごとく、雄成獣の平均頭骨長は、454.1㎜(431.0mm~477.0mm)(Marciszak et al., 2015)。
カミエンシスの形質特徴としては、前額部の凸状隆起、比較的幅広の吻部などが挙げられ、これらは以降の更新世個体群や欧州現生亜種とは明瞭に異質で、現生カムチャッカヒグマ(Ursus arctos beringianus)と相似するという。
(更新世中期・ユーラシアのヒグマ古亜種、カミエンシス Ursus arctos kamiensis 生体復元画)
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更新世中期の古亜種と現生カムチャッカヒグマの頭骨形質が類似する理由について、Marciszak et al. (2015) は言及しておらず、これがサイズの大型化(現生カムチャッカヒグマも、雄成獣の頭骨長が403mm~436mmになる大型亜種)に伴うアロメトリック変化に起因する類似なのか、或いは、カムチャッカヒグマがカミエンシス系統の生き残りなのか、判然としない。
いずれにせよ、カムチャッカヒグマ、ひいてはカムチャッカヒグマから派生したと考えられる北米アラスカのコディアックヒグマは、カミエンシスの諸特徴を今に伝える亜種群ということが言えそうだ。ヒグマの古亜種と現生亜種との系統的関連性については、更なる解明に期待したい。
北アフリカ分布の更新世中期個体群?
ヒグマが更新世中期に最大サイズに達した経緯は上記通りだが、その最大個体群はユーラシアではなく、北アフリカに分布していた可能性もある。
これは、de Alvarado et al.による2021年の学術論文(タイトルは巻末に明記)の中に見出される(控えめに言って、欧米の古生物通の間でもほとんど(全く)知られていないであろう!)情報だ。
北アフリカ、モロッコ・Grotte des OurのMIS11地層(およそ42万年前、更新世中期。MIS(海洋酸素同位体ステージ)11は、過去50万年間で最も温暖な間氷期の頃に該当する)でヒグマ古亜種の歯と下顎骨の一部が出ており、de Alvarado et al.(2021) によると、このヒグマは歯のサイズ、下顎骨の長さ共に、更新世欧州に分布した既知のいかなるヒグマ標本をも、凌駕するらしい。
MIS11のモロッコ分布個体群は、Ursus arctos bibersoni なる学名の下、亜種分類されている。
ただし、ユーラシアのカミエンシスはモロッコと近傍のイベリア半島にも分布していたので、この「ビベルソニ」は、カミエンシスの南方個体群にすぎないという説もあるようだ。また、上述の歯や下顎骨について、de Alvarado et al.(2021)は寸法など詳細を記していない。
ゆえに、混乱を避ける意味でも、私の記事中ではカミエンシスを史上最大古亜種として一律的に扱った次第。
ともかく、ユーラシア産(カミエンシス)と北アフリカ産(ビベルソニ)のどちらの方が大きいにせよ、史上最大のヒグマ個体群が更新世中期に分布していた、という事実に違いはないだろう。
そのことと関連して、最後に、更新世後期のヒグマ古亜種、「プリスクス」についても触れておく必要がある。
更新世後期の古亜種との「混同」
更新世後期から最終氷期にかけてのユーラシア個体群に該当する古亜種としては、古くから「ステップヒグマ Steppe Brown bear」の呼称が当てられてきた、Ursus arctos priscus が挙げられる。欧米のコアな(?)古生物愛好家の間ですらも、このプリスクスをヒグマの史上最大亜種として誤認(と言って語弊があるなら、カミエンシスと混同)している場合が間々、見受けられる。
プリスクスとカミエンシスとでは分布域はともかく、生息年代、形質、平均サイズとも異なる(Marciszak et al., 2015、de Alvarado et al., 2021)とされるので、混同は絶対に避けるべきと思う。
ヒグマの更新世後期及び最終氷期の頃の個体群(つまりはプリスクス)のサイズについては、先に雄の平均頭骨長414.8㎜と紹介した通り。この個体群にはGargas産の巨大な標本(頭骨長452㎜)も含まれるとはいえ、更新世中期個体群(平均頭骨長450㎜超)とは、比べるべくもない。
そして、次回記事は当作品のフルバージョンおよび、更新世中期の大型草食獣、さらに別の大型クマ科種(亜種)についての言及も加えます。一体全体、どんな作品になるのでしょう?お楽しみに!
ホラアナグマ系統最大種、Ursus ingressus(ガムスルツェン・ホラアナグマ)
(カミエンシスヒグマは、ホラアナグマ系統最大種たるガムスルツェン・ホラアナグマともコンテンポラリーであった)
参照学術論文
(Marciszak et al. 'Ursus arctos L., 1758 from Bukovynka Cave (W Ukraine) in an overview on the fossil brown bears size variability based on cranial material', 2015)
(Marciszak et al. 'Steppe brown bear Ursus arctos “priscus” from the Late Pleistocene of Europe', 2019)
(de Alvarado et al. 'Looking for the earliest evidence of Ursus arctos LINNAEUS, 1758 in the Iberian Peninsula: the Middle Pleistocene site of Postes cave', 2021)
参照文献
(B. Kurten 'Pleistocene Mammals of Europe', 1968)
イラスト&文責 Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)
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