the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

更新世中期・超獣ライバリー① 🦁 ステップ(モスバッハ)ホラアナライオン VS 剣歯猫 ホモテリウム❕ (次回プレヒストリック・サファリ全景の一部)& ホモテリウムの新しい復元

2023年07月23日 | ライオン系統特集(期間限定シリーズ)
Mid-Pleistocene Beasts' Rivalry
 🔥ステップ(モスバッハ)ホラアナライオン VS  剣歯猫 ホモテリウムのパック🔥
 
 

(⬆ 超大判オリジナルサイズ画像(高画質)) All images by ©the Saber Panther(All rights reserved)

この生体復元画は、
'Geographic and temporal variability in Pleistocene lion-like felids : Implications for their evolution and taxonomy'(2022)の主任執筆者で、第四紀化石肉食獣、特にライオン系統研究の世界的第一人者、コメニウス大学のMartin Sabol教授のご指導のもと(pers. comm.)、描いた作品となります。

Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved) コピペなども禁じます(copy and paste isn't authorized)

 
 
Species

ステップモスバッハホラアナライオン(更新世中期段階のホラアナライオン) Panthera (spelaea) fossilis

ホモテリウム属種 Homotherium latedens

ステップバイソン Bison prisca

 

この作品は、更新世中期・ユーラシアのマンモスステップを代表する大型動物相を描いた風景画の、一部。全景を間もなくアップしますが、その前に今回と次回、部分的に紹介していく形をとらせてください(かつて、「エポック別にアフリカの三大猛獣」について発表したときと、同様にです)。
 
作品に登場する主要タクソンについて、アップデートを要する新知見を中心に、第一次資料(学術論文。各論文のタイトルを巻末に明示)参考のもと、比較的詳細な記述を付していきます。
解剖学的見地から従来説を見直し、新たに提起されている、シミターキャット(ホモテリウム属)の新復元についても説明します。
 
 
場面
更新世中期のユーラシア中西部(中央シベリア)、マンモスステップ。およそ45万年前
 
協力してステップバイソンを仕留めた、若きステップホラアナライオンの兄弟。獲物の横領を試みて取り囲んだシミターキャットのパック(敢えて、ライオンのようなプライドではなく、イヌ科的にパックと表現してみる)を、追い払わんとしている。
 
しかし、一頭のフォシリスの視線は遠方の丘陵に向けられていた、眼前の剣歯猫など心中にないといわんばかりに!
 
黄金色のその瞳孔には、自らの不倶戴天の敵ともいうべき、屈強たる食肉類の姿が映じていたのだ。

この「食肉類 X」の正体とは? 次回に続く…
 

ちな、鉛筆一本での絵画です。尚、ここに描かれている「ホラアナライオン」は、更新世中期のフォシリスPanthera fossilis)段階のタクソンで、一般に認知されている最終氷期のホラアナライオン(スぺレア種 Panthera spelaea)とは異なることを、了承ください(このブログに親しんでくださっている読者には、説明は不要でしょうけど)。

 


ホラアナライオンシミターキャットの熾烈な競合

ホラアナライオン系統とともに、鮮新世終盤から更新世ユーラシアの大型ネコ科タクソンを代表する一種、シミターキャットHomotherium latidens)。古DNA情報の解析により、ヴィラフランカ期以降の全北区に分布したホモテリウム個体群は、すべて同一種(ラティデンス)に帰属することが判明しており、非常な繁栄を示した剣歯猫である。
 
遺伝的・形態的諸特徴から、史上唯一、長距離持続型の狩猟に特化したネコ科種と考えられている。サイズは現生南部ライオン(Panthera leo melanochaita)に匹敵する大きさ(推定195kg以上)で、おそらくは群れを形成したというから、更新世のファウナ全体で見ても、まさに脅威的な存在だったはずだ。
 
ホモテリウムはユーラシアではおよそ30万年前に絶滅したと考えられていたが、オランダ・北海で見つかった標本の年代が2万8000年から3万年前と判明したことで、ユーラシアでも北米同様、更新世後期終盤まで存続していたことになる。よって、同様にユーラシア広範に分布したホラアナライオン系統とは、更新世全体を通して生息域が重複していた。
 
共に開けた環境系に適応した大型ネコ科種で(ホラアナライオンが現生レオ種のようにプライドを形成したか否かは判らないが)、両者は激烈なる競合関係にあったものと推察される。これほど長きにわたり、ホラアナライオン系統とホモテリウムが共生できた事実は、驚きに値しよう。
 
 
当復元画では、ホラアナライオン系統(Panthera (spelaea) fossilis, Panthera spelaea, Panthera atrox)はレオ種と異なり単独性であったという仮説を採用しつつも、この場面では、若い兄弟が二頭がかりでステップバイソンを仕留めた、という設定である。獲物の横領を試みて取り囲んだホモテリウムの「パック」を、追っ払おうとしている。
 
もっとも、ネコ科史上最大級のフォシリス(Marciszak et al., 2022 の研究で、推定体重500kg超という(過大なようにも響くが)言及がある)にしてみれば、ホモテリウムは一対一では相手にもならなかったかもしれない。
 
ホモテリウム・ラティデンスが小柄に映るかもしれないが、前述のように本種は現生南部ライオンと同等の大きさであって、フォシリスの驚異的サイズが実感されるだろう。フォシリスの既知の最大頭骨はフランス・シャトー産で、長さ485㎜にもなる。
 
しかし、頭数を揃えたホモテリウムのパックは、当然、ステップホラアナライオンにとっても大きな脅威だ。
 
 
ただ、今回はホラアナライオンとホモテリウムの異種間競合について考察するよりも、ホモテリウムの新しい復元のありかたについて、少しく触れてみたい。

 
ホモテリウム・ラティデンスの新しい復元画について
旧来、ホモテリウムなどシミター型剣歯猫は、閉口状態では上顎犬歯の歯冠が上唇から突き出て、下唇の外側にフィットする形で復元されてきた。一方で、ダーク型剣歯猫のスミロドンに比べて、シミター型剣歯猫は上顎犬歯と下顎フランジ間の隙間が狭く、この間隙に下唇の筋肉や軟部組織、毛皮などを付加すると、上顎剣歯が下唇の外側に収まることは考えにくい、という意見も聞かれた。
 
そんな折、Anton et al., 2022 がフランス・ペリエ産のホモテリウム・ラティデンスの完全頭骨の形態分析と、現生ライオン、トラ、ヒョウの解剖学的分析とを併せて実施(Anton et al., 'Concealed weapons: A revised reconstruction of the facial anatomy and life appearance of the sabre-toothed cat Homotherium latidens (Felidae, Machairodontinae)', 2022)。その結果、やはりホモテリウムの上顎犬歯が閉口状態では下唇の外側にフィットしないことが示された。
 
実は現生のヒョウ属種(特にトラ)とウンピョウも、上顎犬歯の歯冠は上唇からはみ出るほど長いのだが、閉口状態では下唇内部の軟部組織が上顎犬歯の歯冠を包摂する構造であることが分かった。これらを踏まえ、シミターキャットの妥当な復元として、閉口状態では上顎犬歯が下唇内部に収まる形での復元画が提起されている。
 
当復元画でも、Anton et al.(2022) の新しい仮説を踏襲させていただき、手前のホモテリウム個体の上顎犬歯が、下唇内部の軟部組織の中に納まる様子を描いてみた。(下図)


(シミターキャット、ホモテリウム・ラティデンスの新復元画 )
Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)


一方、ダーク型剣歯猫のスミロドンの場合、上顎犬歯と下顎フランジとの間隙が比較的大きく、閉口状態では上顎犬歯が下唇の外側に突出していた可能性が高いとのこと。要は、スミロドンについては従来からの復元が妥当、ということだ。
 
してみると、バルボウロフェリス科の大型種のように、「長大なダーク型犬歯を有し、しかも下顎フランジが過度に発達し、上顎犬歯との間隙が狭い」タクソンの場合、一体、どう復元すべきなのか??? 
 
と、新たに疑問が生じてしまうのだが…。


(バルボウロフェリス・フリッキ Barbourofelis fricki 生体復元画)
(Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)

 


(スミロドン・ファタリス Smilodon fatalis 生体復元画)
ご覧のように、スミロドンにおいては、上顎犬歯は下唇の外側に露出していただろう
Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)
 


フォシリス(ステップホラアナライオン)の復元についても一言
更新世中期のフォシリス(ステップホラアナライオン)の頭骨形質は、のちのスぺレアとは明瞭に異質で、直近の Sabol et al.(2022) の報告によれば、前額部が凸状に隆起していることが顕著な特徴をなす(当復元画でも、その点を強調している)。更新世後期のスぺレア、そして現生レオ種(ライオン)は、この前額隆起の程度が小さくなり、鼻骨から矢状陵にかけてのラインが直線状に近くなっている。
 
他方、シミター型剣歯猫の頭骨の場合は、その真逆が真なりで、剣歯猫は額の隆起を欠き、鼻骨から矢状陵にかけてのラインがほぼ完全に直線状なのである。その辺の対照的な違いも、吟味してもらえたらと思う。
 

(前額部が顕著に隆起したフォシリスのプロファイル)
Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)
 
 

参照学術論文
(Sabol et al., 'Geographic and temporal variability in Pleistocene lion-like felids : Implications for their evolution and taxonomy'', 2022)
 
(Marciszak et al., 'The Quarternary lions of Ukraine and a trend of decreasing size in Panthera spelaea'', 2022)
 
(Turner et al., 'Climate and Evolution: Implications of some extinction patterns in African and European Machairodontine cats of the Plio-Pleistocene', 1998)
 
(Barnett et al., 'Genomic Adaptations and Evolutionary History of the Extinct Scimitar-Toothed Cat, Homotherium latidens', 2020)
 
(Anton et al., 'A revised reconstruction of the facial anatomy and life Appearance of the saber-toothed cat Homotherium latidens (Felidae, Machairodontinae)', 2022)
 
参照文献
(A. Turner et al., 'The Big Cats and their fossil relatives', 1998)
 

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