The continent of pleistocene GIANTS
鮮新世末葉に起こった生物地理学上の大事件、「アメリカ大陸間大交差 Great American Interchange」を経て、「閉ざされた大陸」であった南米にも、旧世界由来の「外来種」が滔々と流入してくる結果となりました。未知なる相手との競合に蹂躙され、南米固有の異節上目、南蹄目、滑距目が誇っていた多様性は軒並み減少しましたが、十分に対抗し、生き残った種類もあります。
のちの更新世の南米動物相というのは、鮮新世末までのそれとは質実ともに劇的な様変わりを遂げたわけですが、外来種かエンデミック種かの別を問わず、上記未曽有の大試練を逞しく生き残った、いわば精鋭たちであると言えましょう。
のちの更新世の南米動物相というのは、鮮新世末までのそれとは質実ともに劇的な様変わりを遂げたわけですが、外来種かエンデミック種かの別を問わず、上記未曽有の大試練を逞しく生き残った、いわば精鋭たちであると言えましょう。
特に、パタゴニアを含む大陸の南部一帯では大型動物相の際立った多様性がみられ、この点では当時のアフリカをはじめ、他のいかなる地域をも凌駕していたと主張する向きもあります。生態系の豊穣さに反して大型動物相には乏しいという、現在の南米の事情と照らしてみれば、まさに対極にあったわけです。
二種のゴンフォテリウム科の長鼻類、地上性ナマケモノ複数種、史上最大の巨熊と同サーベルタイガー、現生パンタナル亜種より一回り大柄なジャガー、南米特産のトクソドン属種、マクラウケニア属種、グリプトドン属種、デディクルス属種・・・等々。「巨獣の時代(=更新世)」を象徴するような、強大でアイコニックな当時の顔触れは、思うだに豪華さを極めていました。
しかし、前置きはこのくらいにしませう。
二種のゴンフォテリウム科の長鼻類、地上性ナマケモノ複数種、史上最大の巨熊と同サーベルタイガー、現生パンタナル亜種より一回り大柄なジャガー、南米特産のトクソドン属種、マクラウケニア属種、グリプトドン属種、デディクルス属種・・・等々。「巨獣の時代(=更新世)」を象徴するような、強大でアイコニックな当時の顔触れは、思うだに豪華さを極めていました。
しかし、前置きはこのくらいにしませう。
さっそくご覧いただいているのは、まさしく更新世パタゴニアの主な大型動物相であります。
ⓒサーベル・パンサー
手前から:
テラーバード(小~中型) species of either Phorusrhacinae, Patagornithinae or Mesembriornithinae
ミナミアメリカジャイアントショートフェイスベアArctotherium angustidens
オオナマケモノ Megatherium americanum
グリプトドン属種 Glyptodon clavipes
ノティオマストドン属種 Notiomastodon platensis
更新世ジャガー Panthera onca mesembrina
トクソドン属種 Toxodon platensis
個々の動物について過去にも仔細に触れる機会があったはずなので、ここでは幾つかアップデートを要する個所に触れるのみとします。
アメリカ大陸に産した数ある地上性ナマケモノのうち、最大種としてあまりに有名な「オオナマケモノ」(Giant ground sloth : Megatherium americanum)。全身骨格は、小山のごとき高さを強調する意図の上でか、後脚で直立した姿勢で復元されることが多く、推定体重も縷々、アフリカゾウ並みと喧伝されています。
史上最大のクマですらも、傍らに並ぶと小柄に錯覚されてしまうほど、オオナマケモノの巨獣ぶりには有無を言わせぬものがありますが、四足立ち状態での通常の肩高を見るに7フィート前後であり、頭胴長(尾を除く)は最大で約4mとなります(Sargis, Dagosto)。オオナマケモノの骨格は重厚、かつ部分的には鎖帷子のように重層構造をなしてすらいますが、アフリカゾウと体の各ディメンジョンを比較すれば明確に劣るものであり、この両者のサイズを同等とみなすことには、少々無理があるようです。
地上性ナマケモノを退け、更新世南米で最大の陸獣の座にあったのは、とりもなおさず長鼻類、二種のゴンフォテリウム科の大きいほう、ノティオマストドン属種だと考えられます(私の個人的な見解です)。
ノティオマストドンとは耳慣れない属名だと思いますが、より認知度の高いステゴマストドンをはじめ、未整理のシノニムとともに混用されてきました。今年5月にギリシャのテッサロニキで開催された、第六回「国際化石長鼻類会議(International Conference on Mammoth and their relatives)」※にて、なおざりになってきた南米ゴンフォテリウムゾウ(SAG)の体系的系統分類の刷新がなされ、有効タクソンとして2属2種のみが、それぞれCuvieronius hyodon, Notiomastodon platensis の正式名称で、認められる運びとなっています。(Mothe, Avilla, Kellner, 2014)。
ボリヴィアとペルーに限定的な分布を持つキュヴィエロニウス属種とは対照的に、ノティオマストドン属種は南部を中心に広範な地域で繁栄していました。ノティオマストドンの前方突出した長い頭骨、胴長短肢で頑強な全身骨格には、「アルカイック長鼻類」の典型的な特徴が残存しています。肩高(2.5~2.8m)は有意にアフリカゾウを下回りますが、より重厚なつくりの骨格から、推定体重は平均で5~6トンほどに達したと考えられており、アフリカゾウとも大差はなかったようです。
さて、手前には快足を飛ばし移動中の肉食鳥が見えます。中型でさほど恐ろしげではありませんが、フォルスラコス科に属するれっきとした'terror bird' であります。
2009年に、南米南部(ウルグアイ)の後期・更新世地層からフォルスラコス科種の付蹠骨が発掘されました(Alvarenga, Jones, Rinderknecht, 2010)。北米のティタニス属、および南米のデヴィンセンツィア属種が鮮新世-更新世境界の頃に死滅して以降、フォルスラコス科の系統は断絶したという従来説が、覆ったことになります。「テラーバード」絶滅の主な原因として、上述のアメリカ大陸間大交差がもたらした外来肉食獣たちとの競合が挙げられてきましたが、意想外に長く存続した種類もあったということです。
本種はフォルスラコス亜科ティタニス属と共有する形態を持つと同時に、最小のテラーバード群として知られるシロプテルス亜科との類縁性は否定されています(Alvarenga, Jones, Rinderknecht, 2010)。
※余談ですが、この会議に参加した知人がおり、レジュメ等見せてもらいました。日本からご参加の研究者の方とも、交友の機会を持たせていただいたそうです。
ノティオマストドンsp. の形態監修は、EoFauna。
ブログで発表してきたモノクロのドローイング作品群は、後にデジタル着色する予定です。
当方のイラストの、無許可での転用は、禁止いたします。
絵、文責 ⓒサーベル・パンサー
それくらいあれば現在のトラのように
ゾウやメガテリウムといった巨獣の若い個体を
襲う事も可能だったのではないか...と
妄想してしまいます。
あと、キュビエロニウスは北米にいたのでしょうか?NEOの図鑑では、キュビエロニウスは北米にもいたと書かれていますが、本当でしょうか?
そもそも、絵がステゴマストドンみたいなので、怪しいです。たとえ、いたとしても、つじつまが合わないです。理由は、コロンビアマンモスがやって来たときには、もう北米のゴンフォテリウム科は滅びかけになり、その後に滅んだからです。
キュビエロニウスがいた年代とコロンビアマンモスのいた年代が同じなので、つじつまが合いません。
係にあり、事実、形態はかなり似ています。
ゴンフォテリウム科が北米ではマストドンとマンモスの勢力に押されて衰退したことは事実でしょ
うが、キュヴィエロニウス属が大陸間大交差を経て後もしばらく北米で存続していたことも、また
確かなようです。もっとも、キュヴィエロニウスの分布はその頃にはキャロライナやフロリダといっ
た南東部地域の一部に限定されていたようですね。意外にもメキシコ以北に分布していた形跡が
途絶えるのは、更新世の終盤のようです。
南米のゴンフォテリウム科種(SAG)はこのグループでは後発の、最もアドヴァンスな形質を備え
た種類と言えますが、ノティオマストドン属に至って特にその傾向が強いようです(もちろん、ゴン
フォテリウム科のなかでは、ということです)。幼体であっても、下顎の「牙(tush)」は消失してい
ました。ところで、キュヴィエロニウスの子では下顎tushというアルカイックな形質が残存してい
たというのは、ギリシャの国際化石長鼻類会議で初めて披露されたばかりの、新しい知見の一つ
と認識しています。
そういえば、アルゼンチンで見つかった化石はマストドンの牙だったのでしょうか?
あとパタゴニアにスミロドンはいたのでしょうか?
南米のゴンフォテリウム科種(SAG)として、上述の2属2種のみを正式に認定するに至る研究
成果が、直近の化石長鼻類会議で公にされたのです。南米産ステゴマスストドン属種やハプ
ロマストドンchimboraziとして分類されていた複数種が、ノティオマストドンplatensisという1
種に帰される結果となった。リオデジャネイロ州連邦大学の研究チームの報告書によれば、ス
テゴマストドン属は北米の一部に限定的な分布を持つばかりで、南米のゴンフォテリウム科種
と同属に扱うことはできないとの説明があります(Mothe, Avilla, Kellner, 2014)。
余談ですが、南米のステゴマストドン属種を(全て)ノティオマストドン属種に帰する分類刷新に
関しては、私の復元画を活用されている英国オックスフォード大学paleogeography and
environment のChris Doughty博士も、最近の論文の中で言及されていました。
もうひとつ、SAGの最新分類が引き起こす注目点として、中新世の南米大陸に産したとされた
謎多きアマフアカテリウムperuviumの「処遇」をめぐる問題があります。アメリカ大陸間大交
差以前の時期に長鼻類が南米にいた形跡は皆無であったので、本種の発見は、定説を覆す
事件であると、当時の学会を騒がせたようです。上述の報告書ではしかし、本種の形態は更
新世のSAG(キュヴィエロニウスhyodonとノティオマストドンplatensisのどちらであるのかに
ついては、明言されていない)の変異可能性(morphological variability)の範囲内であると
して、本種のspecific statusも生息年代も、否定されています。要するに、SAGは2属2種の
みであるとする結論に、収束します。
SAGの系統分類をめぐっては今後もさらに推移、変動する可能性もあるでしょうが、少なくと
も、更新世のSAG分類に限って言えば、現時点では当説を受け入れる他はないのではない
かと思っています。どうでしょうか。
スミロドンpopulatorはパタゴニアにも分布していました。
それと、諸事情によりリクエストの長鼻類の復元画を含むサファリ記事のアップが遅れています
が、もうちょっと待ってください。質問のいくつかには、そのアップの際に返信すると思います。
(長文で失礼します)
そういえば、ドエディクルスの尾の先が当たった肉食動物の化石は最近見つかったのでしょうか?
あと、アメリカ大陸大交差の前にいた長鼻目は、アフリカ大陸から海を越えてきたという可能性はあるのでしょうか?あと、その長鼻目の姿を絵で見たいです。