民家協のオモニたち(1000回目の木曜デモ、10.16、ソウル・タプコル公園)
もう20年ほど前になるが、『オモニの紫のスカーフ』(キム・テイル監督、1995年製作)というドキュメンタリー映画を見た。国家保安法違反の容疑で無期懲役を宣告され、30年近い歳月を韓国の獄中で過ごす息子...。その息子の釈放を信じ、待ちわびる一人の老母を描いた作品だった。
彼女は毎週、愛する息子を一日も早く釈放させるために、同じ境遇の女性たちと集会で訴え続けた。“紫のスカーフは”、息子や娘を、夫を、獄に奪われた韓国女性たちが集会で着用するシンボルなのだ。
ソウルに居ると、毎日のように何処かで定期集会が開かれる。よく知られているのは毎週水曜日、日本大使館前で開かれる「日本軍慰安婦問題の解決を求める水曜デモ」だろう。1992年1月に始まり、すでに1140回を越えている。韓国内だけでなく、世界的にも最長記録の集会ではないだろうか。
昨今の『朝日新聞』誤報訂正に便乗して、あたかも“慰安婦問題は不当な濡れ衣”とでも言わんばかりの日本政府である。だが、「戦時下における非人道的な性奴隷制度」という国際社会の認識には、いささかの変化もない。“河野談話を継承する”のが日本政府の真意なら、日本軍慰安婦問題の本質を直視すべきであろう。
開催回数で「水曜デモ」に肩を並べるのが、『民主化実践家族運動協議会(民家協)』主催の「良心囚の釈放を求める木曜デモ」だ。第1回目の「木曜デモ」はソウル市鐘路区のタプコル公園前で、1993年9月23日に開かれている。
それから21年の歳月を経た10月16日、1000回目の集会が開かれた。この日もオモニたちは“紫のスカーフ”を着用し、通り行く市民たちに国家保安法の不当性を訴えた。今も韓国の獄中には、39名の「良心囚」が収監されている。
以下に紹介するのは、10月16日付『オーマイニュース』に掲載された、1000回目の集会に関する報告記事である(KJH)。
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002044276
「グッバイ国家保安法!」民家協・木曜デモ、1000回目の叫び
紫のスカーフをかぶった10人余りのオモニたちが舞台に上がった。続いて登場したのは、真っ赤なバラを一輪ずつ手にした「統一広場」の元非転向長期囚たちだ。そのバラを一輪また一輪と、会員たちが感謝の気持ちを込めてオモニたちに手渡した。大きな歓声と拍手が鳴り止まない。
『民主化実践家族運動協議会』(民家協)が主催する「木曜デモ」が、16日で 1000回目を迎えた。1993年9月23日に最初の集会を開催して以降、民家協は21年にわたって毎週木曜日の午後2時、ソウル市鍾路区タプコル公園の3.1門前で「国家保安法撤廃と良心犯釈放を要求する集会」を続けてきた。
この日も、同じ時間、同じ場所で集会は開かれ、500個余りの紫の風船を飛ばすセレモニーで始まった。400余名の市民は「一、二、三」の掛け声とともに、真っ青に澄んだ空に向かって風船を飛ばした。紫のカラーには“苦難の中でも希望を持とう”という意味が込められているそうだ。
舞台には、民家協常任議長のチョ・スンドクさん登場した。かつて、息子が国家保安法違反の容疑で投獄されたチョ議長は、「統一と平和、進歩を追求する数多くの人たちにとって、木曜デモが‘オモニの暖かい懷’になるよう願っています。これからも多くの激励と愛を分かち合いたいです。民主家族の皆さん、愛(サラン)を贈ります!」と呼びかけ、大きな拍手を受けた。
1985年創立当初の民家協は、拘束者家族の親睦・互助団体だった。1993年に文民政権が登場すると、民家協も良心囚の釈放運動を展開するようになった。だが、当時の金泳三政府が釈放したのは、満期出所を目前に控えた良心囚に限られていた。
それで民家協は、全ての良心囚釈放と国家保安法撤廃を掲げて同年9月23日、「木曜デモ」を開催することになった。 第1回目の集会では、0.5坪の独房に収監された非転向長期囚の人権問題を、韓国社会において初めて公論化している。
「木曜デモ」はそれ以降、国家保安法撤廃と良心囚釈放のスローガンにとどまらず、外国人労働者や良心的兵役拒否者の人権擁護など、運動の領域を広げてきた。民家協によれば 、国家保安法違反容疑者と良心的兵役拒否者などを含め、韓国内には現時点で39人の「良心囚」が収監されているという。
民家協はこの日に発表した決議文で、「数十年間の血で書かれた民主化運動の歴史があるものの、民主的で人権が保障された社会になるための課題は今も山積している。木曜デモは苦痛を受ける人々やその家族たちと共に、これからも続くだろう」と表明している。そして、▲良心囚の全員釈放、▲国家保安法の撤廃、▲自主・民主・統一のための闘争を決議した。
1000回目を迎えた「木曜デモ」の祝辞では、進歩政党や市民団体の代表たちが朴槿恵政権に対する批判の声を高めた。ペク・キワン統一問題研究所所長は「良心囚が監獄にいる必要がない。監獄に行くべきは朴槿恵大統領だ。国を分裂と混沌に陥らせた朴槿恵勢力を監獄に!」と訴えた。
クォン・ナッキ「統一広場」代表は、「木曜デモをいつまで続けるのだろうか。人には寿命があり、団体も寿命があるものだ。民家協は民主主義が成熟すれば不要になる団体だが、朴槿恵政権の登場で、民家協の寿命はかなり伸びそうだ。」と語っている。
次に、政党の解散審判訴訟を抱えている統合進歩党のイ・ジョンヒ共同代表が発言した。 「朴槿恵政権の進歩党解散要求は民主主義を破壊し、祖国の自主的統一に努力してきた市民団体を強制的に解散させようとの宣言だ。維新(朴正熙政権)復活の現独裁政権に対抗すること、そして進歩政党の強制解散を防ぐことが、木曜デモに集うオモニたちの愛を守ることだ」。
引き続き、イ・ジョンミ正義党副代表が「社会を改革するために息子や娘たちが、再び獄に囚われることがないように願う。病の身にもかかわらず良心囚の手を握るオモニたちを思い、良心囚のいない社会をめざして努力する」と決意を表明した。