統合進歩党の解散判決に抗議する弁護人(12.19,憲法裁判所法廷)
2年前の12月19日、朴槿恵氏は僅少差(51.6%の得票)で大統領に当選しました。この日は彼女にとって、歴史的な記念日です。今年の記念日には、憲法裁判所が特別なプレゼントを用意しました。統合進歩党に対する解散命令です。昨年11月に政府が提出した違憲解散請求を、「8対1」という圧倒的多数で決定したのですから、テレビ・ニュースに映った大統領のご満悦な表情も無理からぬところです。
朴槿恵大統領の政治報復
多くの評論家が指摘するように、憲法裁判所の判決は大統領の意向を全面的に汲んだもので、“政治報復”と見なされています。2年前の大統領選挙で、候補者たちのテレビ討論会が実況中継されました。その際に、統合進歩党の候補だった李正姫氏は、朴槿恵候補の実父・故朴正煕大統領を厳しく糾弾しました。
大日本帝国の将校として植民地統治に服務した彼の日本名(高木正雄)を挙げ、父を尊敬して止まない娘に「親日派・軍事独裁の後裔」と迫った李正姫氏は、まさに“逆鱗”に触れたわけです。「あなたを落選させるために立候補した」と“無謀な”宣戦布告をした李正姫氏が、当選した朴槿恵大統領から報復を受けることは、充分に予測されることでした。
朴槿恵大統領はペットの犬を溺愛し、官邸にもお気に入りの珍島犬が二匹います。彼女は最近、珍島犬を側に置く理由として「飼い主に忠実で、相手に噛み付いたら肉を引きちぎるまで離さないから」と述べています。政敵に対する彼女のすさまじい敵愾心を、端的に示す逸話です。
そして、昨年は統合進歩党に対する“内乱陰謀”事件を仕掛け、即時解散と所属議員5名の資格剥奪という今回の判決で、“とどめを刺した”のです。野党の大統領候補(金大中)を日本から拉致したり、公安事件を捏造し在野人士を多数処刑した父親に、優るとも劣らぬ執念と言えるでしょう。
反対政党の強制解散は、決して朴槿恵大統領の専売特許ではありません。支持基盤の脆弱な歴代独裁政権が愛用した手法です。1959年、李承晩政権は進歩党を強制解散させ党首の奉岩を国家保安法違反の容疑で処刑しました。また、1961年5月、クーデターで執権した朴正煕はすべての政党を解散させています。そして1972年10月には戒厳令を宣布して国会を解散させ、政党の活動を全面禁止しました。次の全斗煥も負けていません。1979年12月に粛軍クーデターを敢行し、すべての政党を解散させたのです。
憲法裁判所の使命
このように、韓国の現代政治史において政党の強制解散は、独裁政権による民主主義の破壊と蹂躙を象徴する暴挙でした。87年6月、民主抗争の成果として現行憲法が採択され、大統領直接選挙制と憲法裁判所の設置が実現しました。政党の解散権限を政府ではなく憲法裁判所に付与したのは、権力の横暴を阻止し、政党活動の自由という民主主義の核心を擁護するためです。しかし今回、憲法裁判所はその歴史的使命を忘れ去り、権力者の忠犬に成り下がる愚行を犯したと言えます。
今回の判決は、憲法の名で憲法の精神を否定する“自害行為”に等しいものです。では、なぜこのような愚行が可能だったのでしょうか。憲法裁判所の裁判官構成を見れば容易に理解できます。韓国の憲法裁判所は所長を含め9名の裁判官で構成されます。大統領が3名(所長を含む)、最高裁(大法院)長官が3名、国会が3名(与野党が各1名を推薦、残り1名は合議で選出)の任命権を持っています。
最高裁長官は大統領が任命します。現長官は極めて保守的な人士です。彼が選ぶ裁判官の性向は、“推して知るべし”ですね。つまり、大統領は自身の持ち分と最高裁長官および与党の指名権を合わせると、すでに7名を確保しているわけです。政党の違憲解散決定は、6名の賛成があれば可能です。
今回の「8対1」という評決は、野党の推薦した裁判官だけが強制解散に反対したことを意味します。とりわけ、朴槿恵大統領が任命したパク・ハンチョル所長は、公安検事出身の裁判官です。政府が違憲解散請求を出した時点で、統合進歩党の運命は既に決まっていたのかもしれません。
こうした手法を見ていると、朴正煕政権の維新憲法を思い出します。彼は戒厳令を宣布して憲法を改悪し、大統領間接選挙制に変更しました。しかも、選挙人(国会議員)の3分の1を大統領が自ら任命することで、長期執権への道を突き進みました。立候補さえすれば、自動的に大統領になれるシステムを導入したわけです。恥知らずな茶番劇でした。
判決の問題点
憲法裁判所が宣告する「政党の解散」判決は厳格な基準によらねばならず、制限的に適用されるべき制度であることは言うまでもありません。韓国も参加している『ヴェニス委員会』(世界的な憲法協議会)は、政党解散の条件として「民主的憲法秩序の転覆を目的とした暴力の使用または暴力の主張、それを通じた基本的人権の損傷がある場合に限る」と規定しています。
憲法裁判所はしかし、18回に及んだ弁論(審理)過程で、統合進歩党が暴力革命を追求したという証拠を何一つ発見できませんでした。しかも、政府が解散請求の根拠とした“内乱陰謀”に関しては、ソウル高裁で無罪が宣告されています。そして、内乱実行の主体とされた“革命組織(RO)”についても、ソウル高裁はその実体を認定しませんでした。“内乱陰謀の関連者”とされた人たちの自宅からは、一丁の銃も、一本の竹槍も、武器らしい物は何も発見されていないのです。
ところが憲法裁判所は、統合進歩党に対し“北朝鮮式の社会主義”を追求する違憲政党だと断定しました。その根拠が振るっています。所長を始め8名の裁判官たちは、「綱領には書かれていない“隠された目的、真の目的”を感知した」というのです。驚くべき、いや病的な想像力です。あるいは、“読心術”に長けているとでも言うべきでしょうか?
統合進歩党の前身である民主労働党は、その綱領に「社会主義の理想と価値」を掲げていました。それを、当時は公安機関が何の問題にもしませんでした。ところが、統合進歩党の結成に伴い「社会主義の理想と価値」を削除して「進歩的民主主義」に代えたところ、それは「北朝鮮の指導者が建国初期に使用した用語だ」と難癖をつけ、“北朝鮮式の社会主義”を追求していると強弁するのです。
判決文のどこを読んでも、事実認定において確実な証明は見当たりません。仮説と憶測、論理の飛躍が随所に見られるだけです。判決文というよりも、独裁政権下で量産された公安事件の起訴状を彷彿とさせます。判決文で注目に値するのは、ただ一人「勇気ある反対者」となったキム・イス裁判官の少数意見です。彼は次のように警鐘を鳴らしました。
「北朝鮮の主張や用語と似ているからといって、北朝鮮への追従性が直ちに証明されると見てはならない。...‘進歩的民主主義’は、‘実質的民主主義を実現すること’とも見ることができる。政府と権力に対する批判を“北朝鮮との連係性”を口実に弾圧しようとする試みを阻むためにも、厳格な根拠を持って判断しなければならない。
...強制的政党解散は民主主義体制の最も重要な要素である政党の自由、政治的結社の自由に対する重大な制約を招く。...一部党員たちの逸脱行為は嘆かわしいが、それは進行中の裁判を通じて刑事処罰を受ければいいのであって、彼ら“主動勢力”が何年間にもわたって、数万名もの党員を操ったというのは妄想にすぎない。これは‘部分をもって全体を罵倒する’ことであり、‘性急な一般化’の誤謬である。
...政党解散の可否は原則的に、選挙など政治的公論の場に任せなければならず、政党解散制度はたとえその必要性が認められるとしても、最大限に最後的・補充的用途で活用されなければならない。」
今後の課題と展望
統合進歩党の強制解散を契機に、朴槿恵政権は進歩勢力への攻勢を拡大するでしょう。大統領官邸からの公文書流出など内政の破綻が原因で、朴政権への支持率は一時、37%に低下しました。危機脱出のために公安政局を造成するのは、保守勢力の常套手段です。キム・ジンテ検察総長は憲法裁判所の判決直後、緊急の「公安対策協議会」の開催を指示しました。
かつて西ドイツでは、共産党の強制解散に伴い12万6千余名の党員や支持者が調査を受け、6千~7千名が刑事処罰されたそうです。朴槿恵政権が描いているのも、そうした公安政局なのでしょう。「統合進歩党解散を求める国民運動本部」などの極右団体が、李正姫代表を始めとする全党員を、国家保安法違反の罪状で検察に告訴しています。検察は告訴を口実に統合進歩党を「利敵団体」に規定し、主要な幹部党員を立件・拘束しようとの目論見です。
一方、進歩勢力は「統合進歩党の強制解散に反対し、民主主義を護る円卓会議」を中心に、より広範な国民戦線の結集に向けて準備をはじめました。今後、熾烈な攻防が予想されます。統合進歩党は前回の総選挙で10.3%(220万票)の支持を得た第三位の政党でした。その後に弾圧を受け分裂したとはいえ、6月の地方自治選挙でも4.3%を得票しています。
12月19日、憲法裁判所は民主主義の時計針を87年6月抗争以前に逆行させました。しかし、軍事独裁を打倒し民主化の道を切り開いてきた、韓国民衆の力強い歩みを押し止めることはできません。「働く者のための社会」を理想に掲げ出発した進歩政党...。その15年に及ぶ偉大な軌跡を、朴槿恵政権が消し去ることはできないのです。
統合進歩党の名は中央選挙管理委員会の名簿から抹消されましたが、働く者たちの、進歩政治に対する熱望が消えることはないのです。人間の歴史は常に、働く者たちが主人となる方向へと発展してきました。決して、財力に物を言わせ「ピーナッツ・リターン」の横暴をするような者たちが主人となる方向では、ありません。
最後に、今は朴槿恵の軍門に降ったかつての抵抗詩人、金芝河の詩を引用してこのコラムを終えます。(JHK)
「焼けつく喉の渇きで、お前の名を呼ぶ。民主主義よ、マンセー(万歳)!」