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南北関係の現状を憂う

2015年06月05日 | 三千里コラム

「平和を願う書道作品展」を主催した『錦山塾』のカン・ミンジャ代表(6.2,ソウル)



『6・15南北共同宣言』の15周年を期して、民族共同行事をソウルで開催する準備が進められてきました。しかし、南北の政府当局は互いに不信と対決の基調を維持しており、共同行事の実現は困難な状況です。

6月1日、『6・15共同宣言実践北側委員会』は南の民間団体に書信を送りました。「韓国政府が“政治色のない純粋な社会文化次元での行事に限って許可する”という条件を付けている状況では、民族共同行事のソウル開催は不可能だ。ソウルとピョンヤンで分散開催せざるを得ない」との趣旨でした。

南の統一運動団体は「無条件でのソウル開催保障」を政府に要求し、14日までの期限で抗議の籠城中です。南北の政府当局が相互に和解・協力への姿勢に転じ、関係改善に向かうことを訴えます。最近の南北関係に関するニュースとして、以下の3編を紹介します(JHK)。

①在日民族芸術団体『錦山塾』が、ソウルで開催した「平和を願う書道作品展」。
②韓国での中東呼吸器症候群(MERS)感染拡大を受け、南北が防疫に協力する動き。
③韓国政府の『国際鐵道協力機構』への加入が、北の反対で挫折。


①日本でも“私たちの願いは統一”:「平和を願う書道作品展」(6月3日付『統一ニュース』)

5月31日~6月3日にかけ、ソウル市仁寺洞の白岳美術館で「平和を願う書道作品展」が催された。主催したのは在日同胞民族芸術団体の『錦山塾』。2日、記者の取材を受けたカン・ミンジャ『錦山塾』代表は「ここに来たくても来れない会員たちがいます。とても残念なことだし、解決すべき問題だと考えます」と、遺憾の思いを語った。

彼女は還暦を過ぎた年齢だとは信じられないほど、活気に満ちていた。そして、一緒に来れずに作品だけ参加した会員たちの思いを代弁するかのように、切々と語るのだった。「韓国籍」でない「朝鮮籍」を保有する在日同胞は、まだ韓国の地を踏むのが容易ではない。

カン代表は書道展の開催趣旨を、次のように語った。「統一は直ぐに実現するだろうと思って生きてきたのだが...。このごろは、死ぬ前に統一するのだろうかと、懐疑的になったりもする。それでも、在日同胞の民間団体が韓国との交流を続けながら、日本でも統一への思いを持って生きていることを知らせたかった。」

カン代表と会員たちは『錦山塾』を結成し、金大中政権の2003年、『釜山日報社』で初めての展示会を開いた。2007年(盧武鉉政権)には高麗大学校で二回目の展示をし、今回が三回目だ。
「‘平和を願う書道作品展’ですから、平和が来るまで継続するのでしょう?」と冗談まじりに尋ねたら、「続けないとね。会員たちが私より熱心に望んでいます」という返事が、矢のように帰ってきた。

48点に達する展示作品のなかには、統一に対する熱望を筆にしたためた作品をはじめ、『訓民正音』の解例本を几帳面に写した作品などが目を引いた。また、日本語で作家の心境を込めた作品も幾つかあった。

会員たちは設立33年になる『錦山塾』で、カン代表の指導を受けながら南の「宮書体」は言うまでもなく、北の「清峰体」や「玉流体」などもあまねく習得している。ハングル書道の実力を、10年以上も磨いてきた実力派たちだ。

「『錦山塾』の他にも、在日同胞2世たちが主軸になってハングル書道を研究する団体が少なくない」と、カン代表は耳打ちしてくれた。


②北から「MERS」検疫設備を要請、政府は支援の用意(6月4日付『聯合ニュース』)

韓国政府統一部によると、6月2日、北朝鮮当局から「熱感知カメラ」など検疫装備を支援してほしいとの要請があったという。開城工業団地に出入りする人員の、マーズ(中東呼吸器症候群)感染有無を判定するためである。

韓国政府は昨年11月、北側の要求でエボラ・ウイルスの検疫装備を支援した前例がある。それで、今回も北側の要請を受け入れる方向で検討中だという。

政府当局者は「エボラ・ウイルス拡散の際に、熱感知カメラ3台(1台当たり1500万ウォン)を北側に貸与し、返却してもらった。当時の熱感知カメラを北に支援する計画だ。これらの装備は、南の勤労者が出入りする北側事務所と、北の勤労者が開城工業団地を行き来する際に通過する出入口に、それぞれ設置されるだろう」と語った。

韓国政府も、開城工業団地を行き来するすべての南側人員を対象に、発熱検査を実施することにした。統一部の当局者は「これまでは開城工団から復帰する人員に対してだけ発熱検査をしたが、今後は開城工団に入る人員に対しても発熱検査をする計画だ。マーズ・ウイルスが北側地域に拡散しないよう、万全を期するつもりだ」と述べた。

外貨獲得のために中東地域へ大量の勤労者を派遣している北朝鮮は、韓国で発生したマーズ・ウイルスの感染に注目している。2013年度に北朝鮮が中東地域に派遣した労働者数は、カタール:約2千人、クウェート:約4千人、アラブ首長国連邦:約1千人、リビア:約250人、などである。

先月23日、『朝鮮中央通信』は「南朝鮮で死亡率が高い呼吸器性伝染病の感染」という題名でマーズ・ウイルス発病のニュースを初めて伝えたが、その後も時々刻々、関連したニュースを報道している。

『朝鮮中央放送』も3日、マーズ感染による韓国での死亡者発生を伝え、「呼吸器系の伝染病ウイルスが南朝鮮全地域で急速に伝播している。感染患者が30人に達しており、人命被害が拡大している」と報道した。

今回の事態伴い、北朝鮮が開城工業団地への出入りを統制したり、7月開催予定の「光州・2015夏季ユニバーシアード大会」への参加を見合わせるなど、南北交流にも悪影響を与えないか、憂慮されるところである。

政府関係者はこれに関して、「北側は我が方のマーズ患者発生に対して憂慮しているが、この問題は、北も“南北が一緒に対処すべきだ”との立場だと理解している。マーズ拡散による開城工業団地への出入り制限は、今のところ確認していない」と説明した。

キム・ヨンヒョン(東国大学・北韓学科)教授は「前例を見ると、国内の防疫能力が不十分な北朝鮮は、伝染病に極めて敏感に反応する。“初期に封じ込める政策”を堅持してきたので、ある時点で南北間の人的交流を制限する可能性もある」と憂慮した。


③韓国の『OSJD』加入、北の反対で挫折(6月4日付『統一ニュース』)

6月2日からモンゴルのウランバートルで、第43回『国際鉄道協力機構(OSJD)』の長官会議が開催された。『OSJD』はユーラシア大陸の鉄道運送を総括する機構だ。韓国政府が正会員としての加入を推進していたが、北朝鮮の反対と中国の棄権で失敗に終わった。

国土交通省は6月4日、「全方向的な加入活動により会員国の全面的な支持を確保し、去る4月の社長団会議を順調に通過した。最終段階の長官会議で北朝鮮が強力に反対の立場を貫いたので、残念ながら次回を期することになった」と明らかにした。『OSJD』は27ヶ国の全会一致制による運営なので、会員国のうち一国だけが反対しても、議案が否決される。

国土交通省は「韓国代表団長のヨ・ヒョング次官が、本会議の直前に北朝鮮側団長のチョン・ギルス鉄道相と会った。“韓国の加入は南北間の鉄道連絡を強化し全域の鉄道発展の契機になるだけでなく、北朝鮮にも大きな実利になる”と説明して協力を要請した。長官会議での公式演説を通じて、会員国の賛同と拍手を引き出すことにも成功した」と述べ、その間の活動を紹介した。

また、「今年は正会員に加入できなかったが、積極的な加入活動により、北朝鮮を除くすべての会員国から韓国加入の共感を得ることができた。新入会員の加入手続き変更(全員一致⇒2/3の同意)に対しても、活発な議論が進められたので改善を期待する」と明らかにした。

『国際鉄道協力機構』のショズダ議長は、「北朝鮮を除くすべての国が韓国を支持したわけで、近いうちに正会員としての加入を確信する」と語った。今回、北朝鮮と中国を除いた全会員国が韓国を支持した。特に、ロシア、ポーランド、モルドバ、グルジア、ウクライナ、チェコ、カザフスタン、リトアニア、ハンガリー、ラトビアなどの諸国が、本会議で韓国の加入を支持する発言をしたという。

ヨ・ヒョング次官は「今回の長官会議を通じて、北朝鮮を除く会員国から明確な支持を引き出した。会議録に韓国支持の意見が公式記録されたので、正会員加入に一歩近寄ったといえるだろう。正会員加入に向け引き続き努力する一方、朝鮮半島縦断鉄道と大陸鉄道を連結するための準備も、関係機関と協議して滞りなく推進するつもりだ」と明らかにした。

今回、韓国の正会員加入に関する投票で、なぜ北朝鮮が反対票を投じたのか。ある消息筋は「投票前日の6月3日、韓国政府は射程距離500km(北朝鮮全域を網羅:訳注)のミサイル発射実験をしたではないか。南北の両当局には、関係改善の意志がないように見える」と評した。

韓国の『OSJD』正会員加入が挫折したことで、朴槿恵大統領が掲げる「ユーラシア・イニシアチブ」と「シルクロード・エクスプレス構想」は、今後も説得力を失うだろう。北朝鮮における「新義州~開城」の鉄道・道路を連結する事業も、習近平主席が強力に推進している「一帯一路」事業に優先権を奪われる可能性が高くなった。