電子カルテに薬価を表示させると処方行動が変わるか？

JAMA Intern Med 2023. doi:10.1001/jamainternmed.2023.3307

多くの患者は処方薬に対して自己負担 (out-of pocket: OOP) 額を負担している。薬価のために必要な薬が処方されないことは修正可能な死亡率と関連している。

リアルタイムベネフィットツール（real-time benefit tool: RTBT）は電子カルテの機能であり、臨床医（医師、ナースプラクティショナー、フィジシャンアシスタント）がオーダーする薬剤や治療薬について、推定 OOP 薬価（すなわち、交渉価格や患者の免責金額を考慮したもの）を表示する。著者らは、臨床医が OOP 薬価を見た後に投薬指示を変更するかどうかを評価するために、単一医療機関における RTBT の記録を調べた。

方法

University of Colorado Health（UCHealth）の RTBT の記録を調査対象とした。

UCHealth RTBT は、臨床医からのリクエストまたはアラートによって薬価推定値を表示する。アラートは、最初の薬剤より処方箋 1枚あたり少なくとも0.15ドル安い代替薬が存在する場合、または代替薬が施設内の薬局で入手可能な場合に表示される。

2019 年 7 月から 2022 年 6 月までの期間、RTBT 価格推定値が表示される頻度と、RTBT 価格推定値を見て最初の薬剤を変更した臨床医の数を測定した。

線形回帰を用いて、1 オーダーあたりの潜在的なコスト削減効果（最初に選択した薬と最も安価な代替薬との間の 30 日 OOP 価格の差）によって処方変更される割合を患者の特性別に比較した。

結果

889人の臨床医（女性473人[53.2％]、男性246人[27.7％]、170人[19.1％]、情報欠落あり）と1,877,649件の処方オーダーを解析対象とした。これらのオーダーのうち、181, 887件（9.7％）にRTBT 価格の推定値が表示された。臨床医からの要求で表示された推定価格はわずか 0.9% であり、99.1% は臨床医がオーダーに署名する際にアラートで表示された。

全体として、臨床医が RTBT 価格推定を見た後に変更された処方オーダーは 12.3％であった。調整後の分析では、臨床医は、潜在的なコスト削減が20 ドル以上である場合、および特定の薬物クラス（喘息および慢性閉塞性肺疾患治療薬、抗高血糖薬、心血管治療薬）においてより頻繁に薬剤を変更したが、精神療法薬については変更しなかった（図）。

図: コスト削減額による処方変更の頻度

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患者の社会人口統計学的特徴は、処方オーダーの変更とは関連していなかった（表）。

表: 患者特性別の処方変更の頻度

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考察

この横断的研究では、臨床医が RTBT の推定価格を確認した場合、8 件に 1 件の割合で処方オーダーが変更され、潜在的なコスト削減効果が 20 ドル以上の場合は 6 件に 1 件の割合で変更された。

ほぼすべての RTBT 価格推定値がアラートで表示されたことから、臨床医が薬剤を処方する際に価格についての情報を求めていないことが示唆された。

臨床医が薬剤を変更することと患者の特性は関連しておらず、RTBT が患者全体の薬剤変更に等しく影響することが示唆された。

本研究の限界は、解析が単一の医療機関のデータに基づいており、知見が他の医療システムに一般化しない可能性があることである。また、臨床医が患者と価格の見積もりや薬の変更について話し合ったかどうかについては評価できなかった。

患者の経済的制約を知った臨床医は、しばしば道徳的・職業的な義務として代替選択肢を探すことが報告されている。しかし、RTBT の推定薬価を見た後でも、OOP が 20 ドル以上節約できる場合であっても、臨床医はほとんど常に最初の選択を維持することがわかった。

今後の研究では、薬物療法を変更する価値がある患者のコスト削減の閾値、電子カルテのアラートの仕様、および RTBT の表示（例えば、代替薬の提案）が薬物療法の変更とどのように関連しているかを調べる必要がある。

これらの努力により、アラートの煩わしさを最小限に抑えながら、これらのツールから最大の利益を得ることができるであろう。

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