高齢者の大腸がん検診はいつまで続けるべきか
JAMA Netw Open 2024; 7: e2447806
米国の診療ガイドライン作成機関は、高齢者は 75歳 まで大腸がん(colorectal cancer) 検診を継続することを一様に推奨している。しかし、プライマリ・ケアにおけるこれらのガイドラインの実施には、大腸がん検診の中止または継続に関する患者の希望を引き出すなどの課題がある。
Brotzman らは、75 歳で大腸がん検診を中止するよう勧告された場合に患者がどのような反応を示すかというこの疑問に答えるため、全国を代表する高齢者調査のデータを用いた。彼らは、米国の 50 歳以上の成人を対象とした 2 年ごとの縦断的コホート研究である Health and Retirement Study のデータを用いた。
参加者は次のような質問を受けた。「ガイドラインでは、患者は75歳になったら大腸がん検診を受けるのをやめるよう推奨されている。これは、75 歳以上の多くの健康な患者にとって、検査の害が新たな癌を発見する利益よりも大きい可能性があるためである。この推奨は個人的にどの程度受け入れられますか?」
回答者の 40%近くが、このガイドラインはやや受け入れがたい、あるいは非常に受け入れがたいと答えており、回答者は余命が長い(10 年以上)か短い(10 年未満)かにかかわらず、同様の反応であった。
この報告は、大腸がん検診の中止勧告を患者がどのように受け止めるかについての理解を深めるものである。Brotzman らは、患者の推定余命にかかわらず、かなりの患者が 75 歳で定期検診を中止するという推奨に同意しないという強力な証拠を示している。
患者が反対する理由はいくつか考えられる。多くの高齢者は大腸がんの一次検診ではなく、大腸ポリープの既往歴があることからサーベイランスの目的で大腸内視鏡検査を受けている。従って、これまで定期的なサーベイランスの大腸内視鏡検査を受けてきた患者に、検査を中止してもよいと告げることは、患者にとって予期せぬことであり、気になることであろう。
大腸ポリープの既往歴から、大腸がんの発症リスクはどの程度あるのか、大腸内視鏡検査を受ければリスクはどの程度低下するのか、患者は当然疑問に思うであろうが、臨床医はそのような疑問に答えることができないかもしれない。患者はまた、自分が高齢であるために検査を受けられないのではないかと心配するかもしれない。
腺腫から癌になるまでの期間、有益性を得るまでのタイムラグ、大腸内視鏡検査に関連する有害事象のリスクなどの概念は直感的なものではなく、患者はリスクコミュニケーションにまつわる表現に振り回される可能性がある。「75歳以降の検診で新たながんが見つかる可能性は低い 」ではなく、「75歳以降の検診は長生きするのに役立つ可能性は低い 」と書かれていれば、回答者の中には異なる回答をした人もいたのではないかと推測される。
一般的に使用されている米国予防サービス作業部会 (the US Prevetive Services Task Force: USPSTF)、大腸癌に関する米国合同学会作業部会 (US Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer)、米国癌学会 (American Cancer Society) によるガイドラインは、著者らが引用した米国内科学会 (American Collage of Physician) のガイドラインとは若干異なる高齢者検診へのアプローチを示唆していることに注意することが重要である。これらのガイドラインでは、「臨床医は平均的なリスクの 75 歳以上の高齢者と余命が 10年に満たないものに対して大腸がんのスクリーニングを中止することを勧めるべきである。これらのものは臨床医から説明を受けたうえで 76-85 歳でも大腸がんのスクリーニングを継続するかどうかを個別に話し合うことを推奨する。85 歳以上では大腸がんのスクリーニングはしない。」と平明に書かれている。
検診について患者と医師が話し合う際には、患者の全体的な健康状態や余命、検診歴、ポリープ歴、嗜好などを考慮すべきである。Brotzman らの論文に引用されている American College of Physicians のガイドラインは、75 歳以降の平均的リスクの成人に対して検診を中止することを推奨している点でユニークであり、がん死亡リスクが低すぎて検診を正当化できない場合について異なる視点を示している。したがって、高齢者の 40%近くが検診中止の推奨に同意しないという Brotzman らの報告は、臨床医を落胆させるものでも驚くべきものでもない。むしろ、この結果は、検診の選択肢を検討する機会が与えられた場合に、患者がどのような懸念を示すかを現実的に示している。臨床医は、多くの患者が検診の中止について不安を抱くことを予想できる。両者の懸念について理解を深め、大腸がん検診をいつまで続けるかを共に考えるためには、意思決定の共有による対話を行うことが最も重要である。
興味深いことに、年齢と平均余命に基づくがん検診のカットオフについて、医師は患者と同様の見解を持っている可能性がある。プライマリ・ケア医および婦人科医を対象に、がん検診の電子カルテ(electric health record: EHR)リマインダーを停止する時期について調査した簡単な報告では、52.4%が 75 歳以下で停止することを選択し、42.0%が 75 歳から 85 歳の間の閾値を選択し、5.6%が 85 歳でもリマインダーを停止しないと回答した。また、医師はリマインダーの停止に平均余命のしきい値を参考にするかどうかについても調査された。その結果、32.0%は 10 年以上、53.1%は 5 年から9 年の間のしきい値を選択し、14.9%は平均余命が 5 年未満でも EHR リマインダーを停止しないと回答した。これらのデータの一つの解釈として、医師は、おそらく患者と同様に、年齢や余命によって決定される包括的なカットオフに依存するのではなく、がん検診について話し合う機会を維持したいと考えている。別の調査では、相当数の医師(24.7%)が、がん検診を中止する基準として余命を用いることに消極的であった。
患者の希望と臨床医の推奨を一致させるための最適な戦略は、リスクコミュニケーションと希望の引き出しに関する臨床医のトレーニングを強化することであろう。私たちの 1 人が以前に行った研究では、プライマリケア医が高齢者と大腸がん検診について会話するためのトレーニングを受けたところ、患者は診察においてより多くの意思決定が共有され、大腸がん検診のさまざまな選択肢について医師と話し合う可能性が高まったと報告している。このような種類の介入を開発する際には、提案された介入について患者の視点がどのようなものであるかを把握しておくことが重要である。Brotzman らは、余命の短い患者ほど大腸がん検診の中止を選択しやすいという考え方に異論を唱え、大腸がん検診を何歳で中止するかという決定に直面した場合、多くの患者が戦略的で個別化されたガイダンスを必要とすることを示唆することで、大腸がん検診に関する高齢者の視点に関する文献を追加した。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2827337