敗血症と敗血症性ショック
N Engl J Med 2024; 391: 2133-2146
敗血症は、感染に対する反応異常により生命を脅かす急性の臓器機能障害をきたす症候群であり、世界的に大きな健康負担となっている。米国では、院内死亡の 3 分の 1 以上が敗血症に起因しており、その費用は 2017 年に 380 億ドルを超え、敗血症は院内死亡の最も一般的な原因であると同時に、入院費用の最も高額な原因でもある。
ギリシャ語の sepo(σηπω、「腐る」と訳される)に由来する敗血症 (sepsis) は、何千年もの間、病気と死亡の主要な原因となってきた。1992 年の最初の現代的定義によると、敗血症は感染に対する過剰な炎症反応とされ、体温、心拍数、呼吸数、白血球数の 2 つ以上の異常として定義される全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory responce syndrome: SIRS)の存在によって認識される。その後、敗血症は、感染に対する宿主の反応異常による生命を脅かす急性臓器機能不全として再認識されるようになった(表 1)。
表 1. SIRS の定義の変遷
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SIRS は宿主の非侵襲的反応を反映する可能性があるため、現在では敗血症の定義には含まれていないが、この症候群の認識は依然として感染症の特定に有用である。
世界的な疫学
敗血症は世界的な問題であるが、その原因、発症率、転帰は地域や年齢によって異なる。症例の約 85%は低·中所得国に集中しており、敗血症に関連した死亡も不釣り合いに多い。特に、社会的脆弱性が最も高い地域で罹患率 (年齢で調整) が最も高くなっている。マラリア、腸チフス、デング熱を引き起こす病原体や、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus: HIV)、結核との相互作用など、関与する病原体が多様であることも、サハラ以南のアフリカやその他の低・中所得国に負担をかけている。
最も一般的な感染部位は、肺(症例の 40-60%を占める)、腹部(15-30%)、泌尿生殖器(15-30%)、血流、皮膚または軟部組織であり、地理的な差異もある。最も一般的な原因はグラム陽性菌またはグラム陰性菌感染であり、次いで真菌またはウイルス感染であるが、パンデミック時にはウイルス性敗血症の発生率が劇的に増加することがある。
カンジダ血症の危険因子には、長期の重症疾患、カンジダ定着、留置カテーテル、粘膜炎、進行した肝疾患、完全非経口栄養、免疫不全などがある。真菌性敗血症のその他の原因で多いのは、常在真菌および pneumocystis jirovecii である。これらの日和見病原体の危険因子には、免疫抑制、長期の好中球減少、環境曝露、および慢性肺疾患が含まれる。26 ヵ国の小児集中治療室(intensive care unit: ICU)を対象とした世界的な有病率調査では、敗血症症例の 21%がウイルス感染に起因していた。
敗血症はどの年齢層の患者にも起こりうるが、その発生率は年代によって著しく異なる(図 1)。
図 1. 米国における年代別の敗血症の疫学
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2017 年の敗血症による死亡者数 1,100 万人のうち、26%が 5 歳未満の小児であった。免疫不全は敗血症のリスクを増大させ、日和見菌の病原性を高めるため、新生児期および幼児期の過剰リスクの一部は免疫系の未熟さによって説明できる。敗血症の発症率は、免疫機能を低下させる慢性疾患、特にがん、重度の免疫不全、血液透析を必要とする腎臓病の患者においても高い。米国の成人における敗血症による入院の 20%以上ががん患者であり、長期血液透析を受けている患者では敗血症の発生率が約 40 倍に増加する。
敗血症の定義の変遷と認知度の向上により、本疾患の疫学的評価は複雑化している。入手可能な最良の世界的データによると、1990 年から 2017 年にかけて、敗血症の発生率は約 35%、関連死亡率は約 50%減少している。
生物学的特徴
免疫調節異常
感染に対する分子反応はよく分かっていないが、一般的には、敗血症は臓器機能不全をもたらす免疫反応であるとされている。敗血症への進行は、病原体の病原性や存在量だけでなく、自然免疫の活性化、相対的な免疫抑制、免疫寛容の破綻 (maladaptive tolerance mechanism) などの宿主の特徴にも影響される。サイトカインの増加、過剰な骨髄造血、好中球-内皮トラップ(neutrophil-endothelial traps: NETs)の生成など、多様な炎症反応が臓器傷害に寄与し、免疫恒常性の破綻を永続させる(図 2)(敗血症の生物学的特徴に関する詳細な考察は、NEJM.org で本論文の全文とともに入手可能な補足付録に記載されている)。
図 2. 敗血症の病態生理
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さらに、分子プロファイリングにより、患者の遺伝子発現、分泌蛋白および代謝産物、白血球集団における複数の反応パターンが明らかになっている。特定の高リスク分子サブフェノタイプは、特定の治療法に対する反応性に差がある可能性があり、臨床試験の焦点となっている。高リスクのサブタイプであるマクロファージ活性化様症候群 (macrophage activation-like syndrome) もまた、炎症亢進の特徴を有しており、臨床試験が進行中である。
過剰な炎症が起こっているだけでなく、敗血症患者では程度の差こそあれ、自然免疫系と適応免疫系が抑制されている。主要な免疫エフェクター細胞である末梢血単球 (peripheral-blood monocyte) は、エンドトキシン耐性 (endotoxin tolerance) と呼ばれる現象でサイトカイン分泌が低下している。リンパ球減少症(絶対リンパ球数 <1000 /hpf)は敗血症の際によくみられ、リンパ球減少が持続すると死亡リスクが増加する。リンパ球減少は、リンパ球のアポトーシスとリンパ球新生の減少によるものであり、制御性 T 細胞 (regulatory T cell) の増加は、他の多くの免疫細胞の増殖とエフェクター機能を抑制する。
敗血症において炎症亢進と免疫抑制が同時に進行していることは、恒常性を回復させるための介入策が一筋縄にはいかないことを示すが、これらの一見相反するプロセスは関連している可能性がある。病原体や損傷シグナルに対する初期の反応は、酸化的リン酸化から解糖へとエネルギー産生をシフトさせる引き金となる。敗血症患者から採取した単球は、サイトカイン刺激 を繰り返すと「免疫麻痺 (immune paralyzed)」に陥り、解糖、酸化的リン酸化、 β 酸化が欠損する。敗血症患者から得られたリンパ球は、免疫疲弊のマーカーを発現することが多いが、これは特定の T 細胞集団に内在するものかもしれないし、T 細胞の高度の活性化を反映しているのかもしれない。CD8+ T 細胞の慢性的な刺激により、疲弊した機能低下 T 細胞が産生される可能性があり、敗血症患者における劇的な T 細胞の活性化は死亡リスクの上昇と関連することが研究で示されている。
血管系の調節不全
血管系は敗血症における主要な傷害部位である。内皮はサイトカイン、ケモカイン、傷害シグナルに対する豊富なレセプターを発現しており、病原体や組織傷害に迅速に反応するように準備されている。血管系の研究は難しく、血管の生検が行われることはまれであるが、複数の欠陥が同定されている。敗血症では、血管内皮を血球や血小板から絶縁する保護バリアである糖鎖が血管から脱落し、NET 形成や白血球や血小板の接着を引き起こしやすくなる。補体系の活性化は宿主の防御に不可欠であるが、補体の活性化が亢進すると、組織に大きな損傷と微小血管血栓症 (microvascular thrombosis) が引き起こされる。健康な状態では血管内皮の透過性は、白血球と栄養素を感染部位に動員するように調節されているが、敗血症の際には内皮透過性の調節が失われることが多い。臨床的には、この血管調節障害は低血圧、血漿の血管外 (サードスペース) への流出、まれに播種性血管内凝固障害 (disseminated intravascular coagulopathy) として現れる。血管バリア機能を高める治療法は、敗血症の動物モデルにおいて生存期間を延長させたが、これらの治療法についての臨床試験は不足している。活性化プロテイン C やスタチンなど、炎症と血管活性化の両方を標的とするいくつかの治療法は有望であるが、治療反応が患者のサブグループによって不均一であるという結果がしばしば得られている。
臨床症状および評価
感染部位、病原体、1 つまたは複数の臓器の急性機能障害、およびベースラインの健康状態の組み合わせが多いため、臨床症状は実に多様である。患者はしばしば、感染の一般的徴候および症状(例えば、発熱または低体温および倦怠感)と、感染部位に特異的な症状(例えば、咳嗽、排尿困難や紅斑)、ならびに急性臓器障害の症状(例えば、錯乱、乏尿や呼吸困難)を有する。しかし、敗血症を早期に発見することは難しい。なぜなら、その症状は不均質であり、時間の経過とともに進展し、疾患の初期には微妙な場合があるからである。さらに、一般的な徴候や症状は敗血症に特異的ではなく、薬物(β 遮断薬や解熱剤など)によってマスクされることもある。
重症感染症患者、あるいは急性臓器障害を呈し、その原因が非感染性であることが明らかでないすべての患者において、敗血症を考慮すべきである。感染症を呈する患者については、臨床所見、検査所見から急性臓器障害が疑われないか検討するべきである。白血球増加または白血球減少、10%以上の幼若顆粒球、高血糖、クレアチニンおよび乳酸値の上昇などが、敗血症に特徴的な一般的検査所見である。発熱や局所的な感染徴候がない場合でも、精神状態の変化、低血圧、呼吸困難、糖尿病性ケトアシドーシスや肝硬変のような慢性疾患の急性増悪を伴う患者では、敗血症を考慮すべきである。
臨床的評価においては、感染部位と原因の確認、臓器機能と循環動態の評価に重点を置く。感染を評価するための一般的な検査としては、疑われるフォーカスに応じて、画像検査、培養検査、抗原検査(溶連菌抗原やレジオネラ抗原の検査など)、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応病原体検出パネルなどがある。米国では、敗血症の可能性を判定する 3 種類の分子診断検査が市販されているが、日常診療にはまだ取り入れられていない。臨床的には明らかでない低灌流のスクリーニングのために、すべての患者で乳酸測定を行うことが推奨される。
管理
敗血症の管理は、感染制御、循環動態の安定化、臓器障害に対する支持療法に重点を置いている(補遺の表 S1)。免疫系の恒常性の回復も目標であるが、現在の臨床管理の構成要素ではなく、現在進行中の研究の焦点である。本節では、感染制御と蘇生に関する一般的な治療原則に焦点を当て、現在進行中の研究分野に焦点を当てる。
感染制御
感染症の治療には、すべての細菌および真菌感染症、ならびに敗血症を引き起こす多くの寄生虫およびウイルス感染症に適応となる抗菌薬療法と、状況によっては適応となる外科的感染源制御がある。治療開始時に原因病原体が判明していることはまれであるため、最初の抗菌薬療法は経験的であることが多い。経験的抗菌薬レジメンは、感染が疑われる部位、地域の疫学的状況、および非定型または耐性菌のリスク因子に基づいて、最も可能性の高い病原体をカバーすべきである。抗菌薬耐性プロフィールを含む病原体の地域疫学的プロフィールの知識は、初期治療の選択に有用である。
さらに、臨床医は、過去の培養で検出された病原体や感受性、特定の感染症に罹患しやすい体質や治療法、非定型病原体に曝露された可能性のある社会歴、感染部位や感染症の種類を示唆する徴候、症状、検査データなど、各患者のリスク因子を考慮すべきである。過去に抗菌薬に曝露され、医療システムに接触したことのある患者は、耐性菌に感染するリスクが高いため、ガイドラインではそのような患者に対して、より広い初期適用範囲を推奨している。逆に、抗菌薬の使用に伴う副作用を避けるため、感染症の原因である可能性が低い病原体に対しては、適用を控えるべきである。例えば、嫌気性菌をカバーする抗菌薬は、健康な腸内細菌叢を減少させ、有害な臨床転帰と関連するため、多くの患者では使用を避けられる。
培養検査など病原体同定する検査の結果が得られたら、抗菌薬療法は、同定された病原体をカバーし、同定されていない耐性菌をカバーしないように絞り込むべきである。抗菌薬療法の期間は、感染部位と感染タイプに合わせ、さらに臨床的反応によって決定すべきである。感染源対策には、感染源の除去、病原体負荷の軽減、正常な感染除去を阻害する解剖学的異常の是正を目的とした外科的介入が含まれる。感染源管理のための一般的な処置には、感染した臓器の摘出(例、盲腸)、感染した血管内デバイスの除去、感染部位に近接する解剖学的閉塞の緩和(例、胆道または泌尿生殖器の狭窄)、膿瘍または感染した体液貯留のドレナージが含まれる。抗菌薬療法と同様に、感染源管理は一刻を争うものであり、その遅れは、特にショック状態にある患者の死亡率の上昇と関連している。すべての介入にはリスクが伴うため、手技による感染源管理の有益性と緊急性を判断するには、クリティカルケアチームと手技チームとの協議が重要である。
循環動態の安定化
低血圧または組織低灌流が疑われる(例えば、乳酸値の上昇)患者に対しては、速やかな循環動態の安定化が重要であり、過去または現在進行中のいくつかの臨床試験の焦点となっている(表 2)。
表 2. 2015 年度以降の敗血症についての主な臨床研究
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晶質液 (crystalloid) の静脈内投与は、血管内容積の減少を是正し、前負荷を回復するための第一選択の治療法であるが、蘇生へのアプローチは時代とともに進化している(補遺で論じている)。
ガイドラインでは、ほとんどの成人患者にとって妥当な初期輸液量として、30 mL/kg を推奨している。30 mL/kg の輸液量では許容できない副作用が生じる可能性のある患者では、臨床反応を注意深く観察しながら、連続的なボーラス(例えば、成人では 250-1000 mL)で行うべきである。30 mL/kg の輸液をを含む蘇生バンドル (resuscitation bundle) の実施は、中等度の乳酸値上昇(2-4 mmol/L)、慢性腎臓病、または心不全を有する敗血症患者の生存率の改善と関連することが報告されている。
輸液量が不足していても、過剰でも有害である。観察研究では、輸液量と転帰の間に U 字型の関係が示されている。過剰蘇生による害は、酸素投与または人工呼吸器の使用が制限されている環境で特に顕著になる可能性がある。しかし、過剰輸液の害を示した臨床試験では、多くの場合 30 mL/kg をはるかに越える量の輸液を行っていた。例えば、簡易重症敗血症プロトコール 2(Simplified Sevre Sepsis Protocol-2: SSSP-2)試験では、通常ケア群と高輸液負荷群にランダムに割り付けられ、高輸液負荷は死亡率上昇と関連すると結論された。しかし、最初の 6 時間で投与された輸液量は、通常ケア群で 2.0 L(50 ml/kg 以上)だったのに対し、高輸液負荷群では中央値で 3.5 L(70 ml/kg 以上)であり、相当な輸液負荷を行っていた 。敗血症患者には、0.9%生理食塩水よりも乳酸リンゲル液のようなバランス溶液の使用が望ましい。
初期蘇生後、低血圧と血管内容量減少が続いている患者に対しては、蘇生を継続した場合と、「輸液負荷を緩和する (fluid-liberal)」アプローチや「輸液量を制限する (fluid-restrictive)」アプローチをとった場合とで、同様の転帰が得られている(表 2)。輸液反応性は、少量の輸液負荷(例えば、4 ml/kg)あるいは受動的に下肢を挙上して右心への静脈還流を増加させた場合の心拍出量 (stroke volume) の変化に基づいて評価することができる。敗血症性ショック患者 124 人を対象とした多施設共同無作為化試験では、一回拍出量の変化(非侵襲的心拍出量モニターで測定)に基づいて輸液と昇圧剤 (vasopressor) の調節を行う群に割り付けられた患者は、通常のケアを行う群に割り付けられた患者よりも、腎代替療法(5% v.s. 17%, P = 0.04)および侵襲的機械的換気(18% v.s. 34%, P = 0.04)を必要とする可能性が低く、生理学的な評価に基づいて蘇生処置を調節することを支持する所見であった。しかし、重要な臨床転帰について検出力のある、より大規模な試験が必要である。
初期輸液にもかかわらず重篤な低血圧が持続する患者には、昇圧剤静脈注射が正当化される。ガイドラインでは、初期平均動脈圧(mean arterial pressure: MAP)を 65 mmHg とすることが、より高い MAP 目標値よりも推奨されている。65 歳以上の血管拡張性ショック患者 2,600 人を対象としたこの試験では、低血圧を許容する群(MAP 目標値 60-65 mmHg)では、通常治療よりも昇圧剤の使用が少なく、90 日後の調整死亡率が低かった(調整オッズ比、0.82;95%信頼区間 [cofidence interval: CI], 0.68-0.98)。
MAP 以外に、乳酸濃度と毛細血管再充填時間 (capillary refill time) は、蘇生と昇圧剤投与の指針となる追加情報を提供する。ANDROMEDA-SHOCK 試験では、敗血症性ショック患者 424 人を毛細血管再充填時間に基づいて蘇生を調節する群と乳酸濃度に基づいて蘇生を調節する群とに無作為に割り付けた。MAP が 65 mmHg 以上であるにもかかわらず、割り付けられた蘇生法が失敗した患者には、輸液の追加、MAP 目標値の引き上げ、強心剤 (ionotrope) の投与が行われた。毛細管再充填時間に基づく蘇生法を受けるように割り付けられた患者は、乳酸濃度に基づく蘇生法を受けるように割り付けられた患者よりも死亡率が低かった(34.9% v.s. 43.4%;P=0.06)。ベイズ法による再解析では、毛細管再充填時間に基づく蘇生法を受けた方が死亡率が低くなる確率が、複数の仮定確率分布にわたって 90%以上であることが示された。抗菌薬、輸液、昇圧剤による治療にもかかわらず臨床経過が悪化している患者については、感染制御を再考し、抗菌スペクトルがより広域の抗菌薬の使用、感染部位をより明確にするための画像検査、または感染源に対する外科的介入が必要かどうかを判断することが重要である。
昇圧剤を継続的に投与されている患者には、補助的な「ストレス用量」のグルココルチコイド(ヒドロコルチゾン [hydrocortisone] 200 mg/日 ± フルドロコルチゾン [fludrocortisone] )を考慮すべきである。メタアナリシスでは、死亡率の低下に関しては相反する結論となっているが、グルココルチコイドの併用により、ショック、人工呼吸、ICU 滞在の期間が短縮することが一貫して示されている。最近の観察研究の再検討では、ヒドロコルチゾンへのフルドロコルチゾンの追加は、ヒドロコルチゾン単独よりも優れており(死亡率の調整差, -3.7%ポイント;95%CI, -4.2~-3.1;P<0.001)、有害性のシグナルはなく、ベイズネットワークメタ解析では、併用はヒドロコルチゾン単独よりも全死因死亡率の低下と関連していた。ストレス用量のグルココルチコイドは平均的な患者には有益であるが、その有益性は患者によって異なるため、臨床医は、ストレス用量のグルココルチコイドによる治療を開始および継続するかどうかを決定する際に、ショックの重症度とグルココルチコイドに関連する有害事象のリスクとを比較検討すべきである。バソプレシン追加の用量閾値は不明であり、現在、多施設共同試験(ClinicalTrials.gov番号、NCT06217562)で評価中である。
回復と長期的転帰
敗血症は生命を脅かす急性疾患であるだけでなく、認知障害、機能障害、慢性的な健康障害の新規発症や悪化など、他の疾患の発症にも関与する、 高齢者では、敗血症による入院は、新たな機能制限(入浴や着替えが自立できないなど)の発現と、中等度から重度の認知機能障害の有病率の大幅な増加(入院前 6.1% v.s. 入院後 16.7%)と関連している。敗血症性ショックの小児 389 人を対象とした前向きコホート研究では、生存している小児の 35%が 1 年後にベースラインの健康関連 QOL を回復していなかった。
長期にわたる健康障害の結果、敗血症以前に就労していた患者の多くが復職できないでいる。2010 年から 2021 年にかけて、敗血症で入院する前に就労していたノルウェーの敗血症生存者 12,260 人を対象とした研究では、6 ヵ月時点で 40%が復職していなかった。
敗血症による入院中に発症する健康障害だけでなく、患者は敗血症の治癒後数ヵ月から数年の間に、さらなる健康悪化、再入院、死亡のリスクが高まるが、これらの転帰は年齢や既往症では十分に説明できない。敗血症生存者を対象とした縦断的研究では、研究参加者の 3 分の 2 で炎症マーカーと免疫抑制マーカーの持続的な活性化が認められ、これは全死因死亡率の上昇と関連していた。この所見は、免疫系が恒常性に戻れないことが、感染症の再発や慢性疾患の進行のリスクにつながる可能性を示唆している。敗血症からの回復を促進する特異的な治療法はまだ確立されていないが、プライマリケアのフォローアップと積極的な症状評価を伴う多因子介入は、生存率の改善と関連している。
論争や不確実性のある分野と今後の研究
診断
敗血症は、感染に対する宿主の反応異常による急性臓器不全症候群として認識されている。しかし、宿主の反応異常の詳細や、その存在を確認するための診断的検査はまだ確立されていない。さらに、感染をリアルタイムで確認したり、その特徴を明らかにしたりする能力も限られている。タンパク質ベースおよび転写産物ベースのツールはともに、敗血症のリスクを予測するものとして米国および欧州で承認されているが、その使用によって転帰が変わるかどうかはまだわかっていない。新しいツールが導入された場合には、臨床ワークフローへの導入と患者中心の転帰への影響を検証する必要がある。
敗血症の亜型
敗血症の異質性は、前臨床研究の進展や標的治療法の同定を阻害する要因として長い間指摘されてきた。過去 10 年間に、血液中の白血球における遺伝子発現に基づく亜型、病原体を含む臨床データ、血漿バイオマーカーを含む、小児および成人の敗血症の新たな亜型がいくつかの研究によって同定され、報告されてきた。さらに、これらの分類を臨床試験データに事後的に適用したいくつかの例では、治療反応における質的な違いが確認されている。
治療効果の不均一性
臨床試験では平均的な治療効果が得られるが、敗血症という疾患の幅広い不均一性を考慮すると、個々の敗血症患者に期待される治療効果を十分に反映していない可能性がある。ベッドサイドでの管理を改善するために、個々の患者における治療効果を予測することに強い関心が寄せられている。個々の治療効果を推定するために機械学習を用いた臨床試験データを事後的に分析すると、敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの有益性に顕著なばらつきがみられた。
標的治療
敗血症の管理は、抗菌薬、感染源管理、蘇生、臓器不全のサポートに重点を置いている。血管透過性を含む宿主の調節異常のサブタイプに対処する特異的治療についての知見は不足している。いくつかの薬剤やデバイスが研究されており、臨床的に対処可能な時間枠で宿主の反応特性を同定し、特徴づける努力が進められている。
低・中所得国における敗血症
低・中所得国では敗血症の症例数と死亡者数の割合が不釣り合いに高いが 、ほとんどの臨床試験は高所得国で実施されている。世界的な敗血症の転帰を改善するためには、敗血症の負担が最も大きい地域における医療インフラと研究を強化することの意義が大きい。
結論
敗血症は、感染に対する宿主の反応異常による生命を脅かす急性臓器障害と定義され、世界中で疾病と死亡の主要な原因となっている。感染部位、原因病原体、および急性機能不全が生じる臓器は実に多様であるため、敗血症の認識と特異的治療法の開発は一筋縄にはいかない。宿主の免疫反応の調節障害は敗血症の病態の鍵を握っているが、現在の治療法は感染症の管理と低灌流からの回復に重点を置いている。敗血症の実用的なサブタイプを同定し、宿主の調節異常に対する標的療法を開発するための研究が進行中である。
元論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2403213