し さ く の た の し み
Poem
3
「よよの声」
「よよ」は迷子になってしまいました
せっかく仲間たちと遊んでいたのに
もう どこにいるのか分からなくなってしまったのです
アスファルトの「へり」を
もと来た道を見つけようと歩いていると
民家のベランダには はためく色とりどりの洗濯物
ひらひらとはためく 洗濯物はとても楽しそう
「よよ」は 自分もあの物干しざおにつかまって
ひらひらと はためいてみたくなりました
”よおし ぼくも はためいていよう 風とともだちだ”
「知らない家に 勝手に入ってはいけないよ
おじゃましますって 言わないとダメなんだ」
そんなことばを思いだしたのは
民家のベランダによじ登り
物干しざおにつかまって はためきだしてから
ずいぶんたってからのことでした
”わっ!しまった!”
あわてた「よよ」が いちもくさんに
物干しざおからおりようとした時です
みどり色の 短い「しっぽ」がひっかかり
干してあった ちいさなくつしたが
風といっしょに飛んでいってしまったのです
”ああ!どうしよう・・・”
「よよ」はまっさおになって追いかけましたが
そう簡単には つかまりません
くつしたはたぶん 赤ちゃんのくつした
なくなったのがわかると 大問題だ
きっと お父さんと お母さんは 一生懸命さがすにちがいない
くつしたは もうどこかに飛んでいってしまい
とても とても 見つかりません
「よよ」の飛び出した目から なみだが出そうです
「よよ」は ”ごめんなさい”を言うために
その民家の玄関口で 家族が帰って来るのを
待つ事にしました
玄関口には大きなくつや赤いくつ ちいさなくつや
サンダルが ばらばらに ありました
「よよ」は それを見ているだけで
家族の楽しい語らいが聞こえてきそうで
なんだか うれしい気持になりました
「よよ」はだいぶん待ったけれども いつまでたっても
誰も帰って来る気配はないのです
そのうち うとうとと うたた寝してしまいました
うとうとしている間に 「よよ」は夢を見ました
仲間たちが「よよ」をさがして 集まって来る夢
”みんな ありがとう” そう言って目覚めると
誰もいません そして
もう 外は暗くなっていました
それでも「よよ」は いつまでも いつまでも 待っていました
あなたの家の玄関口に 「よよ」は待っていませんか?
あなたの帰りを 待っていませんか?
うれしそうな声で ”ごめんなさい”って聞こえたら
それは「よよ」かも知れません
おしまい
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