与一から出て来た生き物の記録

奇妙な生き物。早朝の自宅ガレージ奥の「与一」の中から、様々な働きをする者たちが生まれています。その有様と効能の記録です。

そらの物語17・「大調査の進展」

2010-02-27 05:49:58 | そらの物語


「大調査の進展」


 



 


 ー  「Hiたかお」からの報告書  - 


「よも清さん」へ


ボクの活動形態の「変更」を申請します。 理由は、先日「ネコ」と「そら」との間で若干の問題が発生したのですが、それは酒気帯びの「ネコ」による「わいせつ行為」を「そら」がうけたというもので、行われた事について当の本人の「ネコ」より聞かされました。この一件で「そら」の被害は「鼻血が出た」のみで、心身ともに傷ついたのは むしろ「ネコ」本人の方で、「ネコ」はその事から大切な事を学び取っている様子で、結果的には一件落着しております。


しかし今後、ボクが不在の間に「そら」に、「わいせつ行為」を含む危険が起こらないとも限りません。     「えびす」メンバーは根本的に信用できるのですが、それ以外で「もしも」が起こってしまったら と思うと、夜も眠れません。 そこで、現在のボクの「寝屋川・与一 ~ 京橋・なないろ」の移動を取りやめにしたいと思うのです。つまり、ボクのみ、「与一」に帰らない。 ボクの不在をなくすために、「そら」と「えびすメンバー」と寝食を共にし、「そらの守護」に徹する事を通じて「大調査」の進展を図る、というシフトに変更をお願いしたいのです。


回答をお願いします。


 


ー  返答  ー


「Hiたかお」くんへ


活動形態の変更の申請、了解しました。 検討の結果、あなたが「与一」に帰らない事は了解できません。   理由は、あなたが「とても おしゃべり」だからです。 知っての通り、「月の者」の危険は、私たち「生きもの」に止まらず人間にも及ぶ可能性が高いのです。あなたの「おしゃべり」によって、あなたはもとより、「えびすメンバー」をも、その危険にさらす事になってしまっては、この「大調査」に何の意味も無くなってしまいます。   実際、その「おしゃべり」によって、今まで何回もあなた自身が危険と遭遇した事を考えると、この変更は   了解しかねるのです。 しかし、あなたの「そら」の守護に徹したい想い、「大調査」にかける想いは、     私も皆も、全く同じであります。


そこで、あなたのシフト変更について次の様に確定しました。 


「Hiたかお」のみ早出・残業の長時間シフトとします。時間帯は「カイさん」が起きだす前に「なないろ着」の  出発とし、終了時間は「そら」や「えびすメンバー全員」が完全に寝静まったのを確認するまで、とします。   あなたの送迎は、京阪電車の運行時間をオーバーすると思われますので、行き帰り共に「おがた」によるものとします。  京阪電車の使用は、「そら」を「盗難スクーター」から引き離す目的もあったので、その事については別に工夫が必要になるでしょう。また、かなりの長時間シフトになる為、2名の増員をしますので、あなたが指揮をしてあげて下さい。派遣するメンバーは「ゆきりん」と「ぽち」の2名です。知っての通り、「ゆきりん」と「ぽち」は不具合を持っています。あなたの指揮のもと、一生懸命に働いてくれる事は間違いないのですが、様々な考慮を必要とするので、そのあたりはあなたにお任せします。



 


この様なやり取りが行われた即日 


たて続けに「Hiたかお」からと「FA637」から


新しい報告があった


これは 「大調査」の大きな進展に通じる 極めて重要な


そして 私たち全員が 心躍るような報告であった


 


ー  「Hiたかお」からの報告書  -


「よも清さん」へ


「ゆきりん」と「ポチ」の増員、ありがとうございます!ボクの新シフト、万事了解しました!ところで昨日「よも清さん」に報告書をあげてすぐ、「カイさん」から一通、そして「ヘビ」からも新しい資料を頂きました。両方とも「和解マン」に関連していると思われる資料であります。「カイさん」からは、本年正月明けに配られたビラ、「オフィス・和解マン」の雇用契約書で、なんと「サソリ」がこれに参加していた、との事であります!しかも、「サソリ」はそれから様子がおかしい、との事なのです。 そして、その話しを「カイさん」としている最中に、「ヘビ」がもう一つの資料を持ってきてくれたのです。それは「カイさん」が提示してくれた雇用契約書と同じ派遣会社の、こちらはタウン・ワークの「募集広告」であります!しかも、こちらは未だ「募集中」なのです!!下記です!


先着100名限定!一斉大募集!!


ガッつり稼ごう!!超ド短期!時給1600円!!


一日夜勤でお給料は即日 日払い!!


なんと、「ポスティング」だけで、このオイシイ時間給!!


あなたもゴールデン・ウィークを前に、


「ヒューマン・ワークス」で一発稼ぎませんか?!!


定員になり次第、募集は打ち切りますので、お早めに!!


 


これは「サソリ」の部屋から出てきたもので、今から一週間後の4月28日の一夜のみで、「ヘビ」曰くは、この広告に大きく「○」を付けて持ち物や集合時間のメモ書きが「サソリ」の筆跡で記されている事から、「サソリ」はこれに行く、との事であります!!この広告には「和解マン」云々の派遣先企業名は掲載されていませんが、「ポスティング」という職種にもかかわらず時間単価が1600円という破格な金額である事と、「一夜だけの夜勤」、「当日・日払い」などの条件から、本年はじめの あの「オフィス・和解マン」のビラの「第2弾」である事はまず、間違いないでしょう。


ここで提案ですが、かねてより様子のおかしかった「サソリ」の、このアルバイトが行われる当日、「カイさん」と「ヘビ」はこっそり「サソリ」の状況を見に行く予定をしています。 それにボクも同行し、「FA637」と連携しながら「和解マン」の正体に迫りたい、と考える次第です。 当日、「和解マン・本人(?)」が出てくるかどうかは予測できませんが、大きな手がかりを掴める事にまちがいありません!


回答をお願いします!!


 


ー  返答  ー


「Hiたかお」くんへ


賛成です!しかし当日「FA637」は、 ”別件” で多忙な為、あなたの安全と「万が一」に備え、メンバーは  まだ未確定ですが、攻撃的な「生きもの」を応援に派遣します。 その間、あなたが不在の「そら」の近くには、「ゆきりん」と「ぽち」に任せると良いでしょう。 どうか、無事故で!!!


 


 


ー  「FA637」からの報告書  ー


「よも清さん」へ


お疲れ様です。 ご存知の通り、私が個人や企業のPC端末や、個人情報の内部に介入し閲覧する際、スパイ・ウェアや新種のウィルスと判断され一旦ブロックされるので、それを解除してからでないと私の調査は始まりません。 この、一つ一つの、タイプの異なるウィルスバスターやセキュリティー・ソフトのブロックを解除する作業は、時には一つの情報を閲覧できるようになるまでに、一日仕事となる場合も少なくありません。


それに調査が完了した後も、私が介入したPC端末内のデータに異常が残らぬ様、細心の注意をしなければならないのです。 何件かは私の調査完了後に、ネットワーク異常を起こしたり、そのPCユーザーに「$$$$をインストールしてください」等の勝手な動作を起こしてしまい、迷惑をおかけしてしまったので、こうした事が起こらないように、完全に元の状態にまで修復するまでが、私の作業なのです。 これは「よも清さん」でも想像しかねる程の膨大な作業となるのです。


ところが一ヶ所だけ、「ノォ・ブロック」のPC端末を発見したのです。 これは、今時ありえない事です。個人でも企業でも、「ノォ・ブロック」で入り込める端末など、皆無に等しい。 これは 明らかに「私がデータ内に介入するのを認識していて、わざと介入できる様にしている」としか思えません。 そこで試しに 私の介入後 数日間、修復作業をせずに放置してみたのですが、ネット環境の異常や、私以外が原因となってのトラブルは起こりませんでした。 やはり、スパイ・ウェアやウイルスはしっかりとブロックしているのです。 これは、私以外のスパイ・ウェアやウィルスはしっかりブロックして、私だけ入り込めるように、あえて 意図的にしているという事なのです。 間違いありません。


私たちを認識しているのは「Hiたかお」君関係の「えびすメンバー」と「そら」、そして「毒ちわわ」のみ。


・・・・・という事は・・・・・・と考える訳です!!


この不可解なPC端末のある位置は、城東区・鴫野町(しぎのちょう)、112ー16、企業内の一台、      業務用の普通のノートブック型パソコンです。企業名は「優しさ倉庫」。 その事務所の中の在庫管理を専らとする、事務所内では「3」と名づけられたパソコンです。 


今後、この事にたいして、私はどのように対応すればよいのでしょう?回答をお願いします。


 


ー  返答  ー


「FA637」へ


連日の複雑な作業、本当にお疲れさまです。


その不可解なPC端末の調査ですが、何を目的としてあなたの介入を許可しているのかが、まず わかりませんし、そのPC端末に対して何んらかの動作をすることは、「私たち」全員にとってかなり危険度の高い調査となる可能性があります。 したがって、今は、あなたが介入した状態はそのままに、修復もせず、「静観」でお願いします。 重要ですので、くれぐれも「動作」は起こさぬ様、お願いします。


 


私たちは 連日の「大調査」のやり取りの中で


特に大切な事は この様な「報告書」を介して行うのが常である


日常的な出来事は 「与一」に帰った時に


楽しく「おしゃべり」すれば 良いからである


一方 そのころ「そら」と「ネコ」と「Hiたかお」は


「カイさん」に 「マロニーとかつおぶし忘れたから、買ってきて」


と言われ ローソンに買出しに出かけていた


今夜の「なないろ」は 鍋


これは「えびすメンバー」にとっては 新しい神様 


「ゆきりん」と「ぽち」の歓迎の為である


 


 


ココさん&Tomoyukiさん&井川一族のたくらみ

2010-02-19 05:12:19 | 家族の本当の物語

ココさん&Tomoyukiさん&井川一族のたくらみ


 


いつも、早朝からハイ・テンションの僕は、その日は朝から・・・・


というか、「早朝」すぎて、午前4時をまわった頃にはすでに


睡魔との格闘を始めていた。



「生きものたちカレンダー・2月」


通常であれば、ここで睡魔に敗北し、はっ!!!と目覚めるのは7時ごろ。


しかし、この日は僕の「お嫁ちゃん」もハイ・テンションでフル稼働だったため、


「二度寝」の危機は回避できた


「さんのみやって どこや??」とつぶやきながら、


息子の「みなみ(陽己)」をたたき起こし、娘の「すず(珠月)」にミルクを与え、


大はりきりの「お嫁ちゃん」の勢いは止められない。


そう・・・・この日は家族みんなが楽しみにしていた「オフ会」だったからだ。


もともと保育所に行く予定だった「みなみ」と「すず」は、


「微熱がある」との事で保育所を休ませていたが、


家族総出で大阪・梅田駅につく頃には、


「みなみ」と「すず」を心配して電話を下さった「さつき保育所」の先生に、


「これから三宮でblog友達と会いに行きます」と、


正直に話している僕だった。


先生に「無理はしないように、楽しんで来て下さいね~」と


あたたかい言葉をいただき、感動している僕の横で、


「あっ!!!!!


ほにゅうびんわすれてしもた!!!」


と、顔面蒼白の「お嫁ちゃん」。


急遽、梅田で降りて、「哺乳瓶」を探したが・・・・


これが案外、「薬局」に置いてない


この「オフ会」を取り仕切っていた「Tomoyukiさん」に一報入れ、


遅れる旨伝えると、「遅れるって言っても井川さん、早い目に出発してるから、


今からだと、ちょうどココさんの到着と同じくらいだから、大丈夫ですよ~


と、冷静かつ安心感一杯のTomoyukiさん。


「お嫁ちゃん」共々、「三宮についてから探そう!!」と気を取り直していると、


今度は僕の足元で唐突に、


「うああああ!!


”いかわみなみ”、でんしゃごっこするぅ~!」


「みなみ」が号泣しだしたのだ。しかも、なぜかフルネームで(笑)。


そう、梅田を歩く道すがら、百貨店のショー・ウィンドウに、


小さな線路と電車のおもちゃが飾られてあるのを見て、”ひらめいた” のだ。


「”いかわみなみ”!!、”いかわみなみ”!!


”いかわみなみ”!!


でんしゃごっこするうぅぅぅ~!!!!」


「みなみ」は、いったんこうなると、


それこそ「この世の終わりか?」というくらいに派手に泣き叫びだす


 


これは、かなり長丁場となり、「ココさん」、「Tomoyukiさん」との


感動的な初対面の間も関係なく続き、


Tmoyukiさんに「しんかんせん」のおもちゃを買ってもらって、


いとも簡単に終結する


「哺乳瓶」も無事Tomoyukiさんの奮闘でGet!!


この日のTomoyukiさんは、「井川ファミリー」が次々に起こす問題を


まさに ”ちぎっては投げ、ちぎっては投げ” という働きで、


この「オフ会」を大成功の楽しい一日へと導いた、といえる。


他人事のように書いていますが、心から感謝してますよ~!!!


 


で、


その「オフ会」の具体的な内容は


下の「ココさん」のBlogでお楽しみ下さい


 


http://blog.goo.ne.jp/koko_honey/e/82a3dafe6ea54a1befcbb28260988a0a


 


そらの物語16・「清滝とうげ」

2010-02-10 10:58:00 | そらの物語


「清滝とうげ」


 


「ネコ」は「そら」に押し当てた顔はそのままに、脱げかけになった「そら」のジーンズを下ろそうとしたが、羽交い絞めのままでは上手くいかない。なんとしても抵抗の姿勢で足をばたつかせる「そら」のやわらかな内腿が、「ネコ」の強い腕に痛ましくぶつかるだけだ。そうと分かると、今度は自分のズボンのベルトを緩めだした。


カシャッ     わずかな音。


突然、「そら」の身体が大きくのけぞり、「ネコ」の顔からいったん離れ、力いっぱいの ”頭突き” が炸裂した。一発!二発。  眼のまわりで何かが光った様な突然の激痛によろめく「ネコ」。  言葉をふさがれた「そら」の、顔全体での力のかぎりの抵抗は、見事、成功した。


二人ともその場から跳ね飛ぶ様に倒れこみ、ビールやチューハイの空き缶がそこかしこに飛び散り、今まで暴れるように絡み合っていた二人の物音が、急に静まり返ったこの部屋に、やまびこの様に聞こえそうだ。


・・・・・・・・・鼻血。


  「そら」の形の良い小ぶりな鼻から、 ”頭突き” から一拍あけて、大量の鼻血・・。


「 ”ちぃ”出たやんか!!!! はなから ”ちぃ” や!!!!」 怒り頂点の「そら」はあちこちに転がったビールやチューハイの空き缶をめちゃくちゃに蹴り飛ばし、食べさしのスナック菓子を投げ散らした。アルコールの力も借りた大量の鼻血は止まる事はなく、口元を通り過ぎ、あごの下まで伝い、乱れたタンクトップの中までしたたり落ちた。 鼻から下の赤いマスクをした様に、顔中に広がる「赤」。 暴れながらの流血は、どれほどの惨事があったのか という程、二人の足元のあちこちに飛び散り、いくら手で拭いとっても腕や服まで「赤」に染まるばかり。 大量の流血は、「海」か「磯辺」に似た、生臭い匂いがする。 「そら」は怒りにまかせて灰皿から何から目に付くもの全てを「ネコ」に投げつけ、突然の目もくらむ痛みに顔を覆ってうずくまったままの「ネコ」は、黙して投げつけられるがままだ。 うずくまったままの「ネコ」のまわりに、部屋中の物品が積み上げられたころ、「そら」は ”ふっ” と我にかえり、改めて「ネコ」を見た。


・・・・・・・・・大きなむらさき色の ”たんこぶ” 。


「ネコ」の額のちょうど中心に、取って付けた様な、大きなむらさき色の ”たんこぶ” 。


「ネ・・・・・・ネコ、何?それ??何つけてんの?それ??」 と「そら」に言われて、「ネコ」はあらためて自分の額をさわってみた。 「あ・・・・”たんこぶ” や・・・」。


酔っていたとはいえ、自分の行った事、行おうとした事を冷静に後悔しはじめた「ネコ」は言葉につまり、取り合えず しだいに丸い形に膨れ上がる ”たんこぶ” の「へり」を指でなぞっている。 考えてみると、「6号」は、彼女とケンカして不満だった自分に率直に付き合い、酔った自分が不満勝手に作った流れに率直に乗せられて、その結果、傷ついてしまった。自分は「6号」という仲間を、者を言わない「人形」か、絶対服従の奴隷の様に扱ってしまった・・・・・。 「ネコ」はそう考えると、いよいい「今、話すべき言葉」が見つからず、ひたすら額の「丸」をなぞるしかない。


突然に「そら」が笑いだした。


「何??それぇ??!!あははは!!変な ”たんこぶ” !!まる~くて、しかもむらさきいろになってるで!!それ何??テープでピタッとはりつけた、”くらげ”がでてきたみたいやで!!!あっはっはっは!!!おもろすぎ!!!」 


突然にゲラゲラ笑い出した「そら」。 笑いは止まらず、「ネコ」に近寄り、大きくなり続ける ”たんこぶ” をちょっと突付いてみてはしゃがみこんで笑っている。「ネコ」は自分が帰宅してから今までの展開を考えると、あまりに唐突なこの大笑いにア然としたが、自分のした事、「6号」がされた事を考えると、更なる後悔の気持ちと、それにしても あまりに単純に笑える「そら」の思考が、どうしようもなく痛ましく感じた。 突然、失っていた言葉が蘇ってきた。


 ・・・・・・・・・6号、ごめん・・・・・・・・


一旦「侘び」を口にすると、何故か心底悪い事をしてしまったという感情があふれ出し、心が痛い。 「・・・しまった・・・・6号、ほんま・・・ごめん・・・・」


撃ってはいけない者を撃つ罪悪感と似ている。 両手を広げて友好を求める丸腰の民間人を撃ち殺す兵士のような。 汚してはいけないもの。 それを汚してしまうと、汚れてしまった「それ」よりも、自分自身が汚れているような、何かに負けた感じ。


「いいよ、ネコ」 と「そら」はひとしきり笑い転げた後、鼻血のふき残りがあちこちついた、そのままの笑顔で言った。 その笑顔には、何の曇りもない。


「いいよ、ネコ。ごめんって言うたから、もう、いいよ!」


 


 


幼い頃、いつも「ネコ」についてまわっていた五つ年下の男の子がいた。 「ネコ」が同学年の仲間たちと「やんちゃ」をする時、自分もやりたそうに、いつも付いてまわっていた。 可愛い奴だと感じていた。 蜂の巣があった。 そのころからつるんでいた「ヘビ」が、一計を案じた。  ”皆で蜂を退治しよう” 。 年下の子も、その男らしい挑戦に目を輝かせた。 しかしそれは、本当に退治するのではない。 巣を落とされ、怒り狂って飛び回る蜂の大群から、明らかに逃げ遅れるその年下の子の反応を、ちょっと離れて、ふざけて見てみよう。 それは見事に成功し、逃げ遅れたその子は、怒り狂う蜂の大群に八方から取り囲まれ、それを少し離れた所から、指差して皆で笑った。


そのうち どうしても逃げ切れない、無数の蜂に刺されるがままのその子が、ついにうずくまり、顔だけを手で隠して「ううう!!ううう!!」と嗚咽ともうめきともつかない、声をあげている。 半ズボンから出た足や、顔を覆う腕に無数の赤い斑点が広がり始め、しまいには顔を上げ、中を睨んで狂った様に泣き叫びだした。  それは「蜂がしているひどい事」ではなく、「自分たちがしている、ひどい事」。 「ネコ」は、「ヤバイ!」と感じた。 皆も「ヤバイ」と感じ、あわてて皆で棒切れや虫取り網で蜂を追い払った。 この難を逃れた赤い斑点だらけのその子は、


ーーおれだけドン臭くて、ごめんーー


と言った。 その時「ネコ」の心は、何かに刺された様に、たまらなく痛かった。


 


もっともその痛い思い出と、今の出来事は状況も種類も違っているが、苦しい程の心の痛みは同じだった。


「ほんまに、ごめん!!6号、思っきし、殴っていいぞ!!」 「そら」は「ネコ、何回も何回も言わんでも、もう ええって言うたら もお ええの!!ごめんって言うたから、いいよ!」 と穏やかに言って、逆に「ネコ」を慰める様に「ネコ」の大きな背中を ”よしよし” して微笑んでいる。 「ネコ」は、再び撃たれた様に言葉をなくし、急に溢れてきそうな涙を隠そうと、「そら」から見えない方にうつむき「そうやんな・・・」とだけ言った。 これではまるで「そら」が「ネコ」に何かして、悲しい思いをした「ネコ」を慰めているようだった。 「ネコは、へコんでいる」と思った「そら」は、「なあなあ、ネコのその ”たんこぶ” と、おれの ”はなぢ画像”、写メールで撮ってあそぼか!!」 と つとめて明るい声で言った。 「あははは!それ、おもろいな!!でも、みんなに送ったりせんとってや!!」と「そら」の提案に乗り気になることで、上手く涙をごまかす事に成功した「ネコ」。 自分の携帯をどこのポケットに入れたかあちこち弄って探す「そら」は、かたまり始めた血痕がパラパラ落ちても気にも留めず、新しい思いつきに嬉しそうな横顔のまま、「それにしても、おれの ”ファースト キス” がネコって、これ、さいていやな!!」と笑いながら言って、「うん、ほんまやな!!」と二人で笑った。


 


「おい!!!なんや??このごちゃごちゃは!!!」と、残業で疲れた体を引きずってかえってきた「1号」が、「なないろ」に入るなり言った。 「おまえら、何しててん??」。


「そら」は「あ!1号、お疲れ!!」と、いつもと変わらない、元気な声だが、「ネコ」は微妙だ。


”この「ごちゃごちゃ」の理由を1号にどう説明すれば・・・・”  「いや、1号、実はオレ・・・・・」と言いかけたが、上手く言葉にならない。 「なあ、1号、カイさんもヘビも、サソリも、みんな どっか行っておもろないから、ネコと宴会やってたら、ごちゃごちゃになったわ!!!おれ、かたずける勇気ないわ!!」 「あほ!! ”ないわ” とちがう!!キチンと片付けんと、あかんがな!!たのむで!!」と1号。 この会話の流れのまま調子を合わせていればいいものを、「ネコ」は再び「1号」に、「1号、ごめん、オレ・・・・」と、反省報告を言わずにおれない。しかし、やっぱり心にこもる思いを「ことば」にあらわすのは、今の「ネコ」には困難だ。 「そら」は「ネコ」が、何を話そうとしているのか分からなかったが、とりあえず黙って「片付け」を ”イヤそうに” 始めた。


「なないろ」のリビングのあちこちについた血痕は、相当な大喧嘩の修羅場であったかのように、 何かを「1号」に物語っている。「ネコ」はそれを「1号」に話そうとしているのじゃないか? 「1号」は疲れた頭で少し考え、「ネコ」の言葉を待った。「 ”オレ” がどないしたんや?」。こんな時の「1号」の顔は、普通にしてても怒っている様に見えて、今の「ネコ」にはかなり ”キツ”い。     「いや・・・1号、オレが悪かってんけど・・・6号が・・6号と・・・・その・・」。  


ーーオレが悪かってんけどーー 


 1号はこの一言で、もう全部聞かなくてもよかった。


「おいっ!ネコ!、そこらへんの片付けはほっといて、 ”清滝(きよたき)” 攻めに行こか!!」


「清滝とうげ」    それは、暴走族とは違い、「走り屋」とよばれる若者たちが、スピードとコーナーリングのテクニックを競い合う、S字カーブの連続した生駒山の山道だ。アップ・ダウンも多いが、山の上からの夜景も美しい。合わせて、事故も多い。  「そら」がすぐに「食いついて」来た。


「ああっ!!!きよたき!!行こ!!行こ!!」 「ネコ」の顔はいっぺんに明るくなり、「そやな1号!!一発、攻めよか!!」 「なあ、1号!おれ、1号のケツにのっかるわ!!」 「よっしゃ!決定やな!」


 


「清滝とうげ」に3人で向かう道中、「1号」が急に「6号、運転、かわったろか?」と言い出し、「そら」の ”ケツ” に「1号」という危険な体勢で「とうげ」に向かった。163号線を進み、少し外れたところからしだいにコーナーの急な登り道が始まる。ここを100キロ以上のスピードで上りきると、視界の隅にはちらちらと壮大な町の夜景が広がる。しかし、その美しい夜景の方に一瞬でも気を取られると、命取りのスピードである。


「ネコ」の前を疾走する、「そら」の運転する1100CCの ”ケツ” で、大柄な「1号」が、小柄な「6号」につかまったまま、うとうとしている。相当に疲れている・・・「ネコ」は「1号」に「ありがとう」と思いながら、視界の隅に広がる美しい夜景と同じくらい、夜の「とうげ」を風を切って「攻め」る自分たちが、美しいように思えた。


 


 


 


そらの物語15・「春の夜長」

2010-02-09 13:45:12 | そらの物語


「春の夜長」


 


 


「ネコ」は何かの理由で彼女とケンカし、酒やビールをどっさり買って、


皆に愚痴ろうと思い帰って来たら、そこには「6号」しかいなかった。


「6号」は何も物音のしない「なないろ」のリビングで、


寝転がって「じゃがりこ」をかじりながら、携帯をいじっている。


中途半端に寒さのやわらぐこの4月の夜、


つけっぱなしの暖房が、換気の良くないこのリビングでは蒸し暑いくらいで、


すぐそこにあるリモコンで、ちょっと切れば良いものをそのままに、


ひざ下で切ったジーンズに、タンクトップ1枚のいでたちの「そら」は、


 ものぐさ満開だ。



「ネコ、おかえり」 と、携帯から目を離さずに「そら」。 「あれっ??みんな帰ってないの?6号だけ??」。  「そうや、みんな、どっか行ってるな」。 「ふうん・・・」と言いながら、愚痴のはけ口を失った「ネコ」は、リビング内をぼんやり見回してみたが、抱えていた酒やビールの入った袋の底が抜け、中身が転げ落ちた。「あっ!! ”いちばんしぼり” がでてきた!!」と転がるビールを わざわざ一つ一つ指差して「そら」。  「なあ!6号、2人で宴会やろか!!おまえ、思っきし未青年やけど、オレがゆるしたるわ!すきな奴、取れ!!」「へえぇ~ どれにしよかなぁ・・・」 どれも飲んだ事のないアルコール飲料の品定めを始める「そら」。 こうして2人の宴会は始まった。


宴もたけなわ、初アルコールでゆでだこみたいに真っ赤になった「そら」に、こちらもしだいに言葉がもつれる程に酔いのまわった「ネコ」が言った。 


「6号、おまえ、よく見るとおれの女よりも ”肌” きれいな・・・・・」 「そら、そうやろ!!おれは  まだ、新しいからな!!」 「ちょっと、触っていい??」 「はい!どうぞ!」と即答の「そら」は、「ネコ」の顔のまん前に肉付きの良くない少女のような ”ふくらはぎ” を突き出した。 「へぇぇ・・・・・」 ひざ下で切ったジーンズから突き出した青筋の浮いた ”ふくらはぎ” は逃走する時用の筋肉のみで、体毛の薄さがなおの事 少女のようだ。アルコールの力の及びにくいこの ”やわな裸足” の、あちこちについた擦り傷 切り傷はピンク色に変色し、駆け巡るアルコールの威力を示している。


「なあ6号、遊びでいいからオレの女になって、甘える仕草をやってくれへん??」 と妙なテンションの「ネコ」。 「おれはちょっと女みたいやから、似合ってるかもな!!」と「そら」は「ネコ」の真横に密着して座り、冗談である事の明らかなトーンで「ねえ、あなた、すきよ!」と言って、タンクトップの胸元をはだけてウインクして見せた。 「ネコ」は 「うぉっほ!!ええ感じや!!おまえって、めっちゃ可愛いやん!!」と「そら」の肩を ”がしっ” と抱きしめて、これもまた冗談である事の明らかな力で押し倒そうとした。「そら」は「あははは!!マジ??うそやろ??」と笑いながら、覆いかぶさる「ネコ」を避けようともがいた。 「あっはっはっ!!6号、遊びやって遊び!!なあ、”ねえちゃん”!!ヤらせろ!!」とAV男優か何かの調子で、さらに「接近戦」に非力な「そら」を羽交い絞めにしてみた。「あほか!おっさん、くるしいって!!!ネコっ!!はなせよ!!」


「そら」を強く抱きしめてみると、つけっ放しの暖房のせいで、 ”あまくない飴”の様なわずかな汗のにおいと、小奇麗な小動物の様な 未だ子供っぽい果物的な体臭が、なぜか生なましく、「そちら」の方向へ向けての「ネコ」のスイッチを入れた。 「なあ、6号、気持ちええ事したるわ!!おまえ、まだ知らんやろ?ズボン脱いでみ!!」 「えええっ?!いらんって!!そんなん、いらん!!気持ちよくない!!」 その話しに あまり前向きでない「そら」の、青白い腕をしっかりと捕まえた「ネコ」は、あらためて ”そういう目線” で間近で逃れようとする「そら」を見つめて、これから自分が進んでしまうであろう方向を思ってか、笑顔をなくしている。 「ネコ、やめよう・・・・これ、おもんないで・・・おれ、いやや。」そう訴える「そら」の赤い唇や、警戒心のほの見える薄茶色に光る瞳、「ネコ」の強い力を示す赤くなった細い腕、これら一つ一つのパーツの美しさが、「ネコ」を誘惑している様だ。


二人の動きは、「捕らえる男」と「捕らえられた女」の様な体勢で一旦休止。真顔となって鼻息も荒く、この急な展開で起き出した欲望を どうしても抑えきれない「ネコ」。 同じく息も荒く「・・・うそやろ・・・」と今後の展開を推し量りかねて、困惑する「そら」。  「そら」の細い首筋に汗が集まり、青筋の薄く浮いた鎖骨へ伝い流れ、熱くなったタンクトップの中へ透明な線を描き、「ネコ」はつばを飲んだ。  「ネコ」は、自分の捕らえた「そら」の両腕の、赤みのさした「めばえ」の様な筋肉の未成熟と、それを掴む男らしく完成された自らの腕とのコントラストに、”あらぬ方向” にかかったエンジンは、後戻りの効かぬ確かなものに。


「ネコ!!!あほか!!!おこるで!!はなせって!!!」 「そら」の笑顔は消えた。 はじめて見る「6号が何かを恐れる表情」は、酔いどれの「ネコ」には限りなくエロティックで、乱れたタンクトップから見え隠れする アルコールで桃褐色になった はだけたままの胸元が、一旦湧き上がった「ネコ」の欲望の「火」を「炎」に変える。


「6号!!」 「いやや!ネコ!!!もお、やめよおって・・・・言うてるやん!!!!!」 「ネコ」は暴れる「そら」を床に押し付け、再び覆いかぶさる様に強く抱きしめ、「そら」のジーンズのチャックを勢い 引き下ろし、力まかせに腕を差し込もうとした。生暖かい「そら」のジーンズの中に、汗で湿ったなめらかな肌の感触についで、伸びはじめたおだやかな陰毛が「ネコ」の指先に暖かい。 どこを目指して差し込まれた腕なのかを、本能的に察知した「そら」は自然に腰を引き、腕の到達を逃れようとするが、その仕草は今の「ネコ」には更なる甘い誘惑にしかうつらない。 


間近で見る「ネコ」の顔は、もう「そら」の知っている「ネコ」ではなく、いくら暴れても逃れる事のできない、大きな力を備えた、濡れた強い金属にしか見えない。 耳元に吹きかかる「ネコ」の荒い吐息は、アルコールに満ちた獣の様で、下半身では、はだけたジーンズの中に無理に押し入ろうとする手を、どうする事もできず、それなのにジーンズの奥で示し始めた ”反応” に、「ネコ」の荒々しい指先が時折触れる。 ”反応” している事を知られる、嫌な感じ。ーーこれは、いやな感じや!!!--そう思っているにもかかわらず、止められない敏感な14歳の反応を、どうする事もできない。これから展開される成り行きは「そら」にも容易に想像できた。その成り行きを否定したい気持ちで溢れれているのに、「ネコ」の力に触れられながらも何とか逃れている ”反応” は、気持ちとは全く逆に、勢いよく立ち上がる。 「そら」の言葉はとぎれながら、それでもなを「否定」の意思を伝えるしかない。 「・・・・・・ネコ!!、いややって!!やめろ!!おれ、そんなんしたくない!!したくない!!!」


 


無限に長く感じられる何分間。 「ネコ」は羽交い絞めの体勢はそのままに、ふっと「6号」の表情に目をやった。 怒りに満ちて涙で輝きはじめた「そら」の瞳を、なぜか見る事ができない。 それなのに、熱を帯びた「そら」の薄く濡れて口紅をさしたように真っ赤になった唇は、2人の今後がメチャクチャになっても味わってみたい、禁断の魅惑に満ち満ちて、「ネコ」はたまらない気持ちのままゆっくりと、そして少し震えながら、顔を近寄せた。 軽く触れる「そら」の唇。  甘く熱い「そら」の唇の ”はしっこ” に、「じゃがりこ」が少し残っている。


「そら」は自分の言葉を封じるようにピッタリ合わせられた「ネコ」の唇が、最初は優しく、そしてしだいに強く押し当てられ、欲望の塊となった「ネコ」の唾液のすっぱい匂いと共に、大きな舌先が強く自分の中に入って来るのを、顔を背けて抵抗する。しかし、いくら顔を背けても、もはや後戻りのきかなくなった「ネコ」を拒絶できない。「そら」は完全に「ネコ」の ”腕の中”だったから。


「そら」とも「ネコ」ともつかない唾液のすっぱさと、濡れる感覚が双方の顔中にねっとりと広がり、こすり付けるような大きな「ネコ」の顔が、近すぎてもう見えない。舌が分け入ったザラリとした異物感。時折触れる、歯と歯が痛い。 「そら」は抗いながらも、「逃げ切れない感覚」で、「んっ!!んんっ!!」と言葉にならぬ言葉を発しようとしたが、それも叶わない。 「そら」は口の中で大きな舌先が自分の舌を追い回すのを、いったんなすがままにして時を待つしかなく、「ネコ」の呼吸が自分の中に感じる程に、強くつむった目から涙がこぼれそうだった。


 


 


そらの物語14・「6号効果」

2010-02-05 15:40:43 | そらの物語


「6号効果」


 


おれは、あんな1号 見たくない。



そう「ヘビ」は言った。 「えびす」のメンバーは「6号」を外して皆、共同生活の中でのわだかまりを感じる時、「カイ」にそれを打ち明ける事でリセットする慣習があった。 この日は「ヘビ」が ”ちょっと話しがある” との事で「カイ」を誘い、京橋駅前の「水滸伝」に来ている。


 


「カイ」   とりあえず、熱燗2号!ししゃも!!たこぶつ!!それと・・サイコロ・ステーキ!!


「ヘビ」   ああ、オレは生中!から揚げ!焼き鳥のおまかせ!!あと・・その、ちっこいピザ!! それからぁ・・・とりあえず、以上で!!


「カイ」   おまえ、自分で払えよ。


「ヘビ」   ああ!わかってる、大丈夫!今日は持ってるから!  ところで「カイ」さん、この前そこのコンビニで「1号」を見たで。 そこのローソン。 ローソンの制服着て、「ありがとうございました!」ってやってたわ。


「カイ」   え?「1号」って、鳶やったんと違うか? あ、今ひまなんかな?たぶん、それ とりあえずの何日かだけと違うかな? お客さん、ビビってなかったか(笑)?


「ヘビ」   ははは!ちょっと微妙な感じやったな。いやいや、あのな「カイ」さん、オレ、あんな「1号」見たくないんや・・・何んて言うか・・明らかにおかしいやろ??全然おかしいで!「1号」がお客さんに「ありがとうございました」なんて!!似合ってなさすぎ!!


「カイ」    おかしくはないやろ?確かに似合ってなかったやろうけど(笑)。


「ヘビ」    そやろそやろ!! だいたい、鳶行きだしてからもそうやけど、今の「1号」は ”オーラ” が無くなってる!!”オーラ”!!「中大阪のTop」で走ってる時は、ごっつい ”オーラ” があったんや! 「カイ」さんは「族」の時からずっと「1号」の近くにおったから分からんかも知らんけど、オレは大勢の「族」の中にいてて、「1号」が合流してきたらすぐ分かったで! ”「1号」が入った” って。 本人の姿が見えへんかっても、あれだけ大勢いてる「族」の空気が変わるんや!!”どこかに「1号」が入ってる”って、すぐ分かる。みんな、口数も微妙に少なくなる。そこへ、先頭集団を引き連れた「1号」が鬼みたいな顔で、ゆっくりと現れる!!オレらは皆、サッと道を開ける。・・・・オレは鳥肌が立つくらい感激してたよ!!そんなオレらを睥睨するって言うんかな・・こう、睨み付けて見下ろすような感じで・・・こう・・・・


「ヘビ」が「1号」の ”武勇伝” を語りだすと終わらない事を熟知している「カイ」は、       「かわいいやんちゃぼうず」を見る様な優しい目で「うん、おお、なるほどな!」と相槌を入れるに止め、話しの腰を折らぬ様、しかし何を言いたくてここに誘ったのかを聞き取る事に集中し、2本目の熱燗と「ヘビ」の生中をオーダーする。


「ヘビ」    なあ!「カイ」さん、「6号」が来てから、3ヶ月?半年?くらいかな?


”それが本題か!”と「カイ」は思った。


「カイ」    そやな、あいつが「デビュー」したんが去年末の、「えびす」最後の”お勤め”ん時で、今、もう春やからなぁ、半年近くなるな・・


「ヘビ」    「1号」に ”オーラ” が無くなって来たんは、その辺からや。「1号」が、なんか、「普通」になってしまった!!


「カイ」    なんや?「6号」のせいで「1号」があかん様になった??ってか?


「ヘビ」    いやいや!違う違う!!「6号」には文句はないで。あいつはあいつのやり方でがんばってると思うよ!ちゃんと「カイ」さんの手伝いもやってるし、「たかおさん」の送り迎えも続けてるんやろ?十分やん!って言うか、何もしてへん「サソリ」よりは全然えらいと思う。「6号」じゃなくて、「1号」や。「1号」と「えびす」の雰囲気。 なんていうか・・・ぬるい感じ?平和な感じ! オレはそれがどうも・・・・・・・・こんなんで、いいの?


「カイ」    ええねん、「ヘビ」。これでええ。いい感じやと、オレは思ってる。「1号」はどっちにも転ぶ男や。 ”怒り” に我を忘れたら「1号」は大変な人になるんは知ってるやろ? 「中大阪」ん時は常にその危機感がオレはあった。だからいつもオレは、そんな状況にならん様に、あれやこれやと気を配ってたよ。今は、どんどんその危機感から遠い感じになって行ってるっていうんかな?  いい方向にちょっとづつ進んでるんやと思うで。


「なないろ」がスタートして同時に「6号」が来て、「1号」がそれを ”すっ” と受け入れて皆もそれで良しとした。 「6号」はなんやかんやとちょっとした問題を起こしてくれるけど、いつも「6号」の近くにいてる「ネコ」とか どや! どう思ったか知らんけど、朝寝坊せんようになった(笑) あと、当たり前やけど、自分の片付けとかも、せっせとやっとる。 あと、「1号」がよく笑うようになった! 「1号」が笑うと、みんな笑うやろ? 全体的に「笑い」が多くなった。オレも、「1号」も、「なないろ」の賃貸料の事で頭痛い時があるんやけど、笑ってるうちに「リセット」できとる!  おまえもそうやろ? しょっちゅうバイト先でモメて帰ってきてイラついてる時、「6号」を真ん中にして皆がゲラゲラ笑ってる空気の中で、知らん間に吹っ切れて、次の日また頑張れてるやん!実際、今のお前のバイト、今までで一番長続きしてるで! だいたいお前は1ヶ月以上続いた事が無いのに(笑)!!


「ヘビ」    ま・・・そうやな・・・確かに、そうやな。


「カイ」    これは、「6号効果」や(笑)。


「ヘビ」    「6号効果」か。 そういえば、おれもみんなも、”ちゃんと” してきてるよな・・・・・


「カイ」    そう! ”ちゃんと” してきてる!「6号効果」や。オレと「1号」はそう話してる。   「たかおさん」がちょくちょく来るようになってからは、その「6号効果」倍増やな(笑) 「たかおさん」が「6号」にいろんな事を長々と解説してるのを聞いてて、時々、オレらにとっても大事な事も言うてる時、あるで。


「ヘビ」    おれは「たかおさん」が来るようになってから、なんでか「6号」が苦手キャラでなくなったな。なんでか。 ん~、なんでやろ??


「カイ」    「6号効果」が倍増してんねやん(笑)!


 


 


「ヘビ」    ところで、「サソリ」やけど、あいつ最近おかしくない?


「カイ」    うん。おかしい。 最近と違うで。今年の正月からや・・・正月から微妙におかしかった。最近、それが目立ってきたんや。あいつだけ、「6号効果」の外におる、みたいな・・・・・どう言うんやろ?ほんまにおかしい。


「ヘビ」    ”薬” でもやってんやろか?


「カイ」    いや、それはないな。ちょっと心配やったからあいつの寝室も調べてみたんや。 特に問題はなかった。 ”薬” とかじゃないな。


「ヘビ」    でも、なんか、フラフラしてる時あるで?!あれ、なんや???


「カイ」    ・・・・・・・・さっぱりわからん。 ”薬” とかではない事は確かやけど、ほら、正月に「一日だけのバイト」って行きおったやろ??


「ヘビ」    あああ!!!あった!あった!!変なバイト!!思い出した!!あれからおかしいんか!!!あれやろ? ”夜のビラ撒き”!!!


「カイ」    そうそう!!ちょっと「変」やったんや!だいたい、「ビラ配り」の一日スポットのバイトで、なんぼ「夜勤」や、っていうても時間給1600円って、あり得へんやろ?! あれ行ってからやわ!!あれから、ビミョ~におかしい・・・・ 寝室調べた時に、あのバイトの「契約書」がでてきたんやけど、別に普通やったわ。その「時間給」以外は・・・今、持ってるわ。


 


雇用契約書


雇用者        :    ヒューマン・ワークス 株式会社


派遣先企業様    :    オフィス・和解マン   様


就業場所       :           大阪市城東区 全域


就労単価       :           時間給 1600円  時間外 ×1.25 (当日、基本は残業なし)


支払い方法     :    当日作業終了時  手渡し(振込みその他は不可)


 


新規登録スタッフの心得


服装は基本は自由(茶髪・ピアス ok)ですが、当日は夜間の作業ですので、音のする様な服装やスカート等、作業性の良くない服装はNG。(当社現場リーダーのチェック有り) また、作業中の私語、喫煙等もNG。 当日の食事、休憩等は、派遣先企業様(今回はオフィス・和解マン様)の監督より指示がありますので、個々の勝手な判断での行動は慎しんで下さいます様、よろしくお願いします。


集合場所に到着したら当社現場リーダーを中心に点呼を取り、定員が揃いしだい現場に入って頂きます。その際、派遣先企業様に、しっかりと「本日一日、よろしくお願いします」との挨拶をしましょう!!「ヒューマン・ワークス」のスタッフであるという事を忘れないようにお願いします。また、作業終了時にも同様に、「本日一日、ありがとうございました」との挨拶を忘れないで下さい。 当日、残業が発生した場合は必ず派遣先企業様の監督に、スタッフシートの時間外の欄に残業の開始時間、終了時間を記入して頂き、最後に監督のサインを頂いて下さい。サインが無い場合、残業は無かった事になってしまいますので、くれぐれも気をつけて下さい。


 


「ヘビ」    ・・・・・・・・・・別に、普通やん?・・・・


「カイ」    そうやろ。 ただ、明らかに、”これ”に行ってから、おかしいんや・・・・


「ヘビ」    「カイ」さん、この「なんちゃら和解マン」??って会社、「たかお」さんが調べてる何かじゃなかったっけ??


「カイ」     ・・・・・・う~ん・・・・何んか、言うてた様な・・・・・・


「ヘビ」    この「契約書」、「たかおさん」に見せたら喜ぶんちゃうかな!!


「カイ」    あっ!!!そうやな!!今までこれ持ってて、気がつかんかったわ(笑)!!


「ヘビ」    「カイ」さん、”もうろく” したらあかんでえ~!!!


「カイ」    ”もうろく”とかって言うな!!!


 


 


この後、二人はおおいに盛り上がって行った。


ちょうど同じ時、「1号」も「サソリ」も出かけたままの、誰もいない「なないろ」で、


一人で留守番をしていた、たいくつな「そら」と、


彼女とケンカして帰ってきた「ネコ」が、「問題行動」を起こしていた。