今、自衛隊の在り方を問う!

急ピッチで進行する南西シフト態勢、巡航ミサイルなどの導入、際限なく拡大する軍事費、そして、隊内で吹き荒れるパワハラ……

軍事要塞に変貌する奄美―種子島(馬毛島)―薩南諸島

2018年09月01日 | 自衛隊南西シフト
本日、9/1発売の拙著『自衛隊の南西シフト―戦慄の対中国・日米共同作戦の実態』第4章・第5章の一部を公開。
――今、先島諸島ー沖縄島とともに、この奄美ー種子島―薩南諸島の軍事要塞化が、恐るべき勢いで進んでいるが、この重要事態をマスメディアは一切報道しない!
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907127251
#自衛隊 #南西シフト #沖縄 #宮古島 #石垣島 #奄美大島

以下、拙著から
第4章 軍事要塞に変貌する奄美大島――陸海空の巨大基地が建設される!

 「薩南諸島は重大な後方支援拠点」と明記する自衛隊文書

 奄美大島の自衛隊駐屯地建設で驚くのは、その基地の巨大さだ。名瀬港に近い、旧ゴルフ場の跡地(大熊地区)に造られている奄美駐屯地(仮)の広さは、30ヘクタール(写真参照)。これは、地対空ミサイル部隊・警備部隊約350人規模の施設ではない。連隊規模の駐屯地、いや、それ以上の大部隊の駐屯(兵站基地など)を予定していると言えよう。

 2016年6月から始まった駐屯地造成工事は、奄美の島民にほとんど説明らしい説明もないまま、急ピッチで開始された。
 市主催の、自衛隊配備に関する説明会は、大熊地区、瀬戸内町ともわずか1回のみ。反対する住民らは、何度も市議会・市当局に、市民全体への説明会開催を求めているが、ここまで工事が進んでも、一向に開催する気配すらないのだ。

 要するに、防衛省も、市当局も、基地誘致派が多数だから、説明の必要はなし、としているのである。
 実際、奄美大島への自衛隊配備計画は、2012年ころから、「島民からの誘致」という形で始まった。2014年7月には、奄美市議会は、「奄美市への陸上自衛隊配備を求める意見書」を採択し、防衛省に陳情する(『標的の島』社会批評社刊、城村典文論文)。

 ところで、後述する2012年の統合幕僚監部「日米の『動的防衛協力』について」という、南西シフト態勢についての策定文書は、先島諸島への対艦・対空ミサイル部隊配備の記述がないと同様、奄美への部隊配備についても一切記述がない。
 その奄美配備についての初めての記述は、次々頁掲載の「奄美大島等の薩南諸島の防衛上の意義について」(2012年夏頃に作成された防衛省文書)である。それには「南西地域における事態生起時、後方支援物資の南西地域への輸送所要は莫大になることが予想」「薩南諸島は自衛隊運用上の重大な後方支援拠点」「薩南諸島は、陸自ヘリ運用上、重要な中継拠点」と明記されている(51頁図)。


 この文書作成以後、2014年には防衛副大臣が奄美を訪問、また同年「奄美市の誘致陳情」、そして、2015年には駐屯地用地取得費計上と、急激な勢いで基地建設が始まったのだ。
 つまり、この奄美大島への自衛隊配備問題が示しているのは、自衛隊が当初計画した南西シフト態勢は、先島――奄美への「自衛隊新配備」ということから凄まじい困難が予想され、あらかじめ対艦・対空ミサイル部隊配備や、奄美大島への配備を含む先島―南西諸島への大規模配備を、想定していなかったということだ。しかし、一旦、配備が強行された場合、自衛隊の増強・拡大は一挙に進むということがここには表れている。

 対艦・対空ミサイル部隊配備も知らない住民ら

 こうして、一旦決められた奄美大島への駐屯地造りは、住民らが驚くほど急激に始まった。住民全体への説明もなく、配備計画の全体までもが示されないまま、着々と進んだのだ。
 実際、今でもほとんどの奄美大島の住民らは、対艦・対空ミサイル部隊の配備は知らなかった、というのである。もう一つ、具体的資料を示そう。
 57頁に掲載した陸自の対艦・対空ミサイル部隊の運用図は、石垣島・宮古島はもとより、国会でも正確な説明がなされたかったものだ。この島中を対艦・対空ミサイル部隊が、移動し、発射するという運用図を、奄美・大熊の説明会では、何とパワーポイントでチラッと見せただけなのだ。たぶん、チラッと見ただけの人々は、何のことか意味がつかめなかっただろうと思う。

 この全文は、筆者が熊本防衛局に情報公開請求した「奄美大島への部隊配備について」(熊本防衛局、2016年6月)という文書にあるが、このミサイル部隊運用図は、文書としてはついに奄美住民らには公開されなかったのだ。



 次から次に新部隊の配備が発表される奄美

 さらに、驚くべきことに、奄美大島の住民動向を軽視したのか、同島には次から次に自衛隊の新部隊の配備が発表されている。
 陸自の警備部隊、対艦・対空ミサイル部隊の2カ所だけでなく、空自の移動警戒隊の配備が2017年度予算に組みまれた。
 この空自移動警戒隊は、言うまでもなく陸自対艦・対空ミサイル部隊との統合運用として使用されることになる。つまり、対艦・対空ミサイル部隊の最大の弱点は、部隊が搭載する、探知・誘導などのレーダーが、近距離でしか有効ではないということだ。この弱点を補うには、空自のレーダーサイトや海自・対潜哨戒機との連携――統合運用が必要になる。

 そして、防衛省は、新たに空自通信施設(湯湾岳)の設置を発表した。奄美大島には、すでに、沖縄―本土間を結ぶ空自通信施設が設置されているが(約30人規模)、これにプラスして、新たな通信施設を造るという(「本土・沖縄間の通信中継強化」)。
 問題は、この奄美大島に見るのは、ひとたび自衛隊配備がなされた場合、その部隊の増強はもとより、次々に新部隊の配備が行われることになるということだ。
 奄美大島の住民らは、奄美本島と加計呂麻島との間の大島海峡に位置する古仁屋港の軍港化を憂えているが、住民の厳しい批判がない限り、これは現実化する可能性が高い。なぜなら、この周辺の地形は、リアス式海岸で大小多数の湾入があり、旧日本海軍の拠点でもあったからだ。
 つまり、奄美大島は、「島嶼防衛戦」の後方支援拠点、先島などの機動展開の拠点としても位置付けられているが、このためには巨大な埠頭=軍港を必要とするからだ。

 奄美大島への自衛隊配備の全容

 熊本防衛局作成文書には、奄美大島への部隊配備の全容が示されているが、これはまだ、空自の新部隊配備前の概図である。しかし、この概図には重大な内容が示されている。「統合演習場の実施範囲」として明記されている江仁屋離島についてである(下図・次頁の防衛省文書)。
 大島海峡の入り江にあたるこの無人島は、すでに幾度か水陸機動団(発足前)などの上陸演習が行われているが、島の人々もこの島が一方的に統合演習場として指定されていることを、全く知らされていない。

 筆者はこの件について、本年1月の「政府交渉」で、防衛省に「東富士演習場など、演習場以外の土地などについては地元関係者との『使用協定』が締結されているが、奄美大島については結ばれているのか」と質問した。だが、この使用協定という問題自体、防衛省役人は「初めて聞いたので知りません」と返答するのみであった(頁左下は、江仁屋離島での訓練を通知する防衛省内文書)。



 地対艦ミサイル部隊・巨大弾薬庫が設置される瀬戸内町

 その大島海峡の、瀬戸内町の山間部に配備される予定の部隊が、地対艦ミサイル部隊であり、警備部隊だ(節子A地区、写真下、次頁写真上の右の造成地)。
 敷地面積 28ヘクタールというその広大な場所には、同部隊とともに「大規模火薬庫」も設置される(節子B地区、次頁写真上の左の細長い造成地、次頁下)。
 この節子地区配備の部隊は、防衛省発表では約200人としているが、間違いなくその規模は拡大されていく。
 57頁には、その瀬戸内に予定の駐屯地(仮称・奄美駐屯地瀬戸内分屯地)の概略図を示しているが、山頂を切り開き、その頂上近くに駐屯地が建設されようとしている。


 だが、こんな中国軍のミサイル攻撃の絶好の標的になる地点に、地対艦ミサイル部隊が常時、張り付く訳はあるまい。57頁の、対艦・対空ミサイル部隊の運用図のように、ミサイル部隊は島中を移動し展開するのだ。したがって、その大規模火薬庫も、山中に深く掘られ、造られていくのである。
 
 世界自然遺産に登録申請した奄美大島!

 この山々を無残にも切り崩し、破壊して造られようとしている自衛隊基地――。読者は信じられるだろうか。政府は、この奄美大島を沖縄北部地域などとともに世界自然遺産に登録申請したのだ!
 政府役人にしても、奄美大島の行政にしても、良識が根本から欠如しているようだ。これほどの自然破壊を推し進めておいてだ。
 実際に、例えば、この瀬戸内町節子地区は、島の天然記念物アマミノクロウサギの重大な生息地である。クロウサギは、 環境省によると絶滅危惧ⅠB類に指定されている。

 繰り返すが、この場所に配備される地対艦ミサイル部隊は、車載の移動式ミサイルであり、部隊を偽装し隠蔽するために、島中を移動する。しかも、上空からの攻撃を避けるためには、もっぱら夜間移動作戦が展開される。夜間といえば、クロウサギがもっとも活動する時間帯だ。
 現地を訪れると、自衛隊はクロウサギ対策用の小さな柵を敷地周辺に設けていることが分かるが、こんな柵でクロウサギの行動、自衛隊車両による事故を防げるわけがない。

 知床自然遺産は、旅行者が半島に立ち入ること、その立ち入るコースにも制限を設けているが、ここまで島を破壊して自然遺産申請とは、何という人々だろうか。当然ながら、この世界自然遺産登録は失敗し、政府は「推薦取り下げ、延期」を発表している。

奄美大島を蹂躙する「生地訓練」という市街地訓練(以下略)



第5章 南西シフトの訓練――事前集積拠点・馬毛島――島嶼上陸演習場・米軍FCLP訓練場 

 南西シフトのもう一つの展開拠点

 種子島の西12キロの沖合に浮かぶ、無人島の馬毛島――。ここには滑走路が南北に1本(約4千メートル)、東西に1本(約2千㍍)と十字を切るように造られている。
 馬毛島は、岩国基地に所属する米空母艦載機のFCLP(空母艦載機着陸訓練)、いわゆる、「タッチ&ゴー」の訓練予定地としては知られているが、自衛隊の事前集積拠点・「島嶼防衛戦」の上陸訓練地として予定されていることは、全く知らされていない。

 事実、昨年、この島の現状をリポートした東京新聞でさえ、自衛隊による使用については、意図的なのか一行も触れていない。
 なぜ、意図的と断言せざるを得ないのか? 馬毛島に予定される自衛隊の運用については、何年も前から防衛省がホームページで公開しているからだ。同省のサイトで「国を守る」と検索してみよう(次頁)。すると、9頁にものぼる馬毛島の、自衛隊による運用が紹介されている。
 「他の地域から南西地域への展開訓練施設、 大規模災害・島嶼部攻撃等に際しては、人員・装備の集結・展開拠点として活用、 島嶼部への上陸・対処訓練施設」(3頁)と。


 前頁資料にその運用方法を掲載しているが、「大規模災害」は単なる口実だ。つまり、この島は、南西シフト態勢の事前集積拠点であるばかりか、「島嶼防衛戦」の上陸・対処を兼ねた訓練施設として、多用途の活用が目論まれている。
 最新の報道では、ここに空自のF15、海自のP3C、そして、今後の配備予定のF35B(ヘリ空母「いずも」改修による本格空母への搭載)などの「南西拠点基地」を造ることも発表されている。文字通りの「要塞島」だ。

 
 債権者の「破産申請」とは?

 ところで、この馬毛島の土地は、東京・渋谷に本社を置くタストン・エアポート社が99パーセントの所有権をもっており、残りは市有地や個人の所有地である。
 防衛省にとっての問題は、この会社が土地の売買などについて、防衛省提示額の50億円を遥かに上回る、100億、150億円を要求して折り合いが付かなくなっているということだ。
 米軍のFCLPについては、2011年、硫黄島に替わる発着訓練の代替地として、日米の合意文書にも明記された。にもかかわらずである。報道では、防衛省も半ば諦めかけて馬毛島に替わる代替地を探し始めた、という。
 ところが、2018年6月27日、地元紙、朝日新聞によると、この会社の債権者が「破産申請」を申し立て、東京地裁は、これに保全管理命令を出したということだ。
 これは、間違いなく防衛省の策略だ。債権者に働きかけ、「破産」の上で買収を進めようとしているのだ。

 馬毛島――種子島に広がる軍事化反対の声

 仮に、馬毛島に日米共同施設、航空基地などの多数が造られたとするなら、その影響は、種子島にも及ぶ。先の同島に関する防衛省文書にも「部隊配置に伴い、所属隊員やその家族が居住するための宿舎を種子島に整備」と明記されており、相当の巨大な基地が、馬毛島――種子島にできることになる。
 そして、地元の人々が恐れるのは、こういう馬毛島の要塞化によって、自衛隊と米軍機の騒音被害が深刻になるだけでなく、種子島を含むこの薩南諸島全域が軍事化されることだ。

 すでに、種子島の南の奄美大島について見てきたが、この一帯の軍事化は、すでに「鎮西演習」を含む、恒常的なものとして行われている。
 写真下は、沖永良部島に鎮西演習で陸揚げされた陸自の戦車(「島嶼防衛戦」で、戦車が使用されることに注意!)。次頁写真は、同演習で、種子島の海岸地帯(南種子町の前之浜海浜公園)に降下する陸自空挺部隊だ。訓練場だけでなく、今や、自衛隊はこの地では、みさかいなく市街地で訓練・演習を始める状況に至っている。
 この、馬毛島――種子島――奄美大島という薩南諸島の軍事化が、急ピッチで進行している実態について、全国の人々に警鐘乱打すべきときが来ている。 写真は、西部方面隊の「鎮西演習」の南西シフト機動展開演習で、沖永良部島へ上陸輸送される陸自戦車(自衛隊専用フェリー「ナッチャンWorld」)