念願の種子島訪問
種子島・西之表市の市議会議員・和田香穂里さんらの「戦争をさせない種子島の会」の招きで、9月24日から種子島を訪れた。あいにく種子島は、台風の影響で予定していた馬毛島の視察はとりやめになったが、そのぶんだけ日米共同演習や要塞化が目論まれている種子島の各地を見学することが出来た。
拙著『自衛隊の南西シフト―戦慄の対中国・日米共同作戦の実態』でもリポートしたが、種子島ー馬毛島は、近くの奄美大島とともに自衛隊の南西シフトの事前集積拠点・機動展開拠点・上陸訓練拠点という位置付けがなされているのだが、この重大な政治的・軍事的意味について、メディア、平和勢力はもとより、全国のほとんどの人々がまったく知らない、知らされていない重大問題である。以下、種子島からのリポート。
長浜海岸・旧種子島空港を使った日米海兵隊の共同訓練
今、種子島の喫緊の課題は、10月上旬から中種子町で始まろうとしている、日米海兵隊(水陸機動団+在沖米海兵隊)の共同演習の阻止をめぐる闘いだ。自衛隊は、中種子町長に対して、すでにこの共同演習の申し入れを行っており、中種子町・西之表市などの住民団体は、これを厳しく批判し、訓練の中止を求めて全島から起ち上がっている。
この日米海兵隊が上陸演習に予定しているのは、中種子町の長浜海岸だ。写真に見るように、長浜海岸は、真っ白な砂浜が約15キロも続く、日本のビーチの中でも有数の長さを誇る。しかも、この長大なビーチは、今や貴重な生物となったウミガメの産卵場所でもある。
このビーチを、日米海兵隊は、ホバークラフトで上陸し(将来は水陸両用車(AAV7))、ウミガメの産卵地を荒らし回るというのだ。さらに、ここから上陸した日米海兵隊部隊は、武装し、行軍ー戦闘隊形をとりながら、旧種子島空港で演習しようというのだ。この旧空港では、間違いなくオスプレイを含むヘリが騒音をまき散らしながら、降下ー戦闘訓練を行うことだろう(海自の輸送艦「おおすみ」なども参加予定、人員は陸自と海自から計約200人規模。米海兵隊は第3海兵師団とみられる約100人規模が参加)。
国内で初めての日米海兵隊の共同演習
周知のように、2002年の西部方面普通科連隊(水陸機動団の前身)の発足以来、米海兵隊との共同演習は、もっぱらアメリカ・サンディエゴなどで行われてきた。この西部方面普通科連隊は、米海兵隊から上陸作戦を始め、全ての戦技を教わってきたのだ。こうして、今年3月、新たに水陸機動団として新編成された部隊は、南西シフト態勢の「離島奪還」作戦を担う主力部隊として大増強され(2個連隊・水陸両用車・オスプレイ導入)、訓練・演習を重ねている。
ーーところで、本年5月8日には、水陸機動団は、海自の掃海隊群と初の上陸演習を始めた。九州西方沖や種子島周辺で、離島奪回作戦などを念頭に陸海の連携を深め、海自輸送艦からの水陸両用車(AAV7)の発進や上陸訓練、空中輸送訓練などを行い、水陸両用作戦能力の強化を図るとしている。陸自からは、この水陸機動団のほか、第1ヘリコプター団など計450人が参加、海自は輸送艦「しもきた」や護衛艦「ひゅうが」などが派遣。
種子島で演習を繰り返す水陸機動団
そして、日本型海兵隊である、水陸機動団(新)の水陸両用戦演習は、すでに種子島では昨年から開始されている。
2017年11月16日、この部隊の着上陸訓練が、同日の深夜から南種子町・前之浜海浜公園で行われたのだ。これは、2017年度自衛隊統合演習(実動演習・29JX)の一環である。
なお、この自衛隊統合演習の種子島での訓練は、メディアに公開されて行われたが(写真参照)、この前段の演習である「鎮西29」(西部方面隊)は、主要訓練地・奄美大島での演習を含めて全て非公開であったのだ!
さて、この昨年の南種子町での着上陸訓練は、その規模といい、演習内容といい、種子島での演習・訓練の常態化を狙った重大なものであった。
演習は、西部方面普通科連隊(現水陸機動団)の主力を基幹に、 陸自からは第5施設団、西部方面特科隊、同通信群、同方面航空隊、同後方支援隊、同衛生隊、水陸機動準備隊の各部隊から所要の部隊が参加。また、海自からヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」、輸送艦「くにさき」、高機動車などの車両×約20両、LCAC(エアクッション型揚陸艇)×2艇、CH-47チヌーク×1機などの大量の兵力が投入された。
着上陸訓練目的は、「本隊の着上陸の援護」のために、まず、小型偵察ボートを用いた夜間潜入から開始され、この後、ヘリCH-47を使った空路による中距離多目的誘導弾および120mm迫撃砲とその要員の着上陸、そしてLCACを使った海路から作業車両及び人員の着上陸が行われた。言うまでもなく、種子島で水陸両用作戦のための着上陸訓練の実施は、今回が初めてである。
種子島の南西シフト態勢のための恒常的訓練・演習基地化を狙う自衛隊
さて、自衛隊統合演習はもとより、西部方面隊の「鎮西演習」においても、種子島では、2014年から、南種子町・前之浜海浜公園を中心にして、この上陸演習が行われている。つまり、種子島は、南の奄美大島とともに、南西シフト態勢の上陸・機動展開拠点として位置付けられたということだ。
最近、筆者の情報公開請求で出された防衛省の「奄美大島等の薩南諸島の防衛上の意義について」という文書では、「南西地域における事態生起時、後方支援物資の南西地域への輸送所要は莫大になることが予想」「奄美大島の名瀬港は、海自輸送上、重要な中継拠点」「薩南諸島は、自衛隊の運用上、重要な後方支援拠点」「南西地域における事態生起時、本土における陸自部隊の南西方面への緊急展開は、主にヘリコプターにより実施」と明記されている。
種子島の新基地化は?ー馬毛島の上陸訓練基地・機動展開基地・事前集積基地・米軍のFCLP基地(空母艦載機着陸訓練)
後述する拙著『自衛隊の南西シフト―戦慄の対中国・日米共同作戦の実態』に記述したように、種子島ー馬毛島が、早くも2012年から、自衛隊の上陸訓練基地・機動展開基地・事前集積基地・米軍のFCLP基地(空母艦載機着陸訓練)として位置付けられ、防衛省・自衛隊による必死の工作が行われてきたことは知られている(最近の報道では空自のF-15、海自の対潜哨戒機(P-3C)の基地化も!)。
しかし、ここにきて、この自衛隊、特に水陸機動団の恒常的な演習場としての使用は、もはや単なる演習場だけの問題ではなくなりつつあると言える。つまり、馬毛島とともに種子島全島が、自衛隊の南西シフトのための「大規模な基地」として位置付けられつつあるということだ。これは、演習・訓練などの一時的な「基地化」だけでなく、新部隊の配備を伴う基地化が進むということだ。
現実に、自衛隊の南西シフト態勢下の、琉球列島弧防衛論=第1列島線防衛論では、宮古海峡、与那国水道などとともに、大隅海峡の「通峡阻止」も作戦化されている。となると、この海峡戦争のために、「陸上大部隊の基地化」も想定されてくるだろう。馬毛島の文字通りの空自・海自基地による要塞化が、この事態を推し進めていくことになる。
日米共同演習反対、馬毛島の要塞化反対の闘いへの、全国の支援と注目を!
したがって、冒頭に述べてきた、今年10月の、水陸機動団と米海兵隊との共同演習阻止の闘いは、切迫する馬毛島の要塞化反対の闘いと連動する、重大な闘いとなったということだ。この日米共同演習を許したとするなら、種子島ー馬毛島の軍事化が一挙に進行するだけではない。種子島ー馬毛島は、文字通り、奄美大島と並ぶ要塞島に変貌することになるのだ。
現在、中種子町でも、西之表市においても、市民・住民らの激しい抵抗と運動が粘り強く行われている。島のあちこちには、住民らの幟・立て看が掲げられ、島民らに反対の意思を確固として伝えている。
知られるように、種子島も、奄美大島も、自衛隊員を数多く出している保守的な島だ。しかしながら、他方で住民らの米軍のFCLP(空母艦載機着陸訓練)基地化に対する反対の声は、島民多数の声となっており、だからこそ防衛省の必死の宣撫工作が続いている(自衛隊OBを動員として)。この声を米軍反対から、米軍と共同する自衛隊演習基地化反対の声に広げなければならない。
全国から支援・応援のメッセージを種子島へ!
*種子島の旧種子島空港には、石垣島・宮古島・沖縄本島と並ぶ、「淮天頂衛星システム」の追跡管制局が設置されている。この淮天頂衛星システムとは、アメリカのGPSを補完し、地上物体の位置を数㎝にまで精度を高めるというシステムである。つまり、「自動運転」などの民需よりも、もともと安全保障の観点から、GPS誘導の巡航ミサイル、対艦・対空ミサイルの運用のために導入されたシステムだ。
この基地局の一つが、種子島が設置されたことも、琉球列島弧防衛論における種子島の戦略的位置を現している(写真は旧種子島空の淮天頂衛星システム管制局)。
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*馬毛島の基地化については、拙著『自衛隊の南西シフト―戦慄の対中国・日米共同作戦の実態』の章を参照してください。
第5章 南西シフトの訓練――事前集積拠点・馬毛島――島嶼上陸演習場・米軍FCLP訓練場
南西シフトのもう一つの展開拠点
種子島の西12キロの沖合に浮かぶ、無人島の馬毛島――。ここには滑走路が南北に1本(約4千メートル)、東西に1本(約2千㍍)と十字を切るように造られている。
馬毛島は、岩国基地に所属する米空母艦載機のFCLP(空母艦載機着陸訓練)、いわゆる、「タッチ&ゴー」の訓練予定地としては知られているが、自衛隊の事前集積拠点・「島嶼防衛戦」の上陸訓練地として予定されていることは、全く知らされていない。
事実、昨年、この島の現状をリポートした東京新聞でさえ、自衛隊による使用については、意図的なのか一行も触れていない。
なぜ、意図的と断言せざるを得ないのか? 馬毛島に予定される自衛隊の運用については、何年も前から防衛省がホームページで公開しているからだ。同省のサイトで「国を守る」と検索してみよう(次頁)。すると、9頁にものぼる馬毛島の、自衛隊による運用が紹介されている。
「他の地域から南西地域への展開訓練施設、 大規模災害・島嶼部攻撃等に際しては、人員・装備の集結・展開拠点として活用、 島嶼部への上陸・対処訓練施設」(3頁)と。
前頁資料にその運用方法を掲載しているが、「大規模災害」は単なる口実だ。つまり、この島は、南西シフト態勢の事前集積拠点であるばかりか、「島嶼防衛戦」の上陸・対処を兼ねた訓練施設として、多用途の活用が目論まれている。
最新の報道では、ここに空自のF15、海自のP3C、そして、今後の配備予定のF35B(ヘリ空母「いずも」改修による本格空母への搭載)などの「南西拠点基地」を造ることも発表されている。文字通りの「要塞島」だ。
債権者の「破産申請」とは?
ところで、この馬毛島の土地は、東京・渋谷に本社を置くタストン・エアポート社が99パーセントの所有権をもっており、残りは市有地や個人の所有地である。
防衛省にとっての問題は、この会社が土地の売買などについて、防衛省提示額の50億円を遥かに上回る、100億、150億円を要求して折り合いが付かなくなっているということだ。
米軍のFCLPについては、2011年、硫黄島に替わる発着訓練の代替地として、日米の合意文書にも明記された。にもかかわらずである。報道では、防衛省も半ば諦めかけて馬毛島に替わる代替地を探し始めた、という。
ところが、2018年6月27日、地元紙、朝日新聞によると、この会社の債権者が「破産申請」を申し立て、東京地裁は、これに保全管理命令を出したということだ。
これは、間違いなく防衛省の策略だ。債権者に働きかけ、「破産」の上で買収を進めようとしているのだ。
馬毛島――種子島に広がる軍事化反対の声
仮に、馬毛島に日米共同施設、航空基地などの多数が造られたとするなら、その影響は、種子島にも及ぶ。先の同島に関する防衛省文書にも「部隊配置に伴い、所属隊員やその家族が居住するための宿舎を種子島に整備」と明記されており、相当の巨大な基地が、馬毛島――種子島にできることになる。
そして、地元の人々が恐れるのは、こういう馬毛島の要塞化によって、自衛隊と米軍機の騒音被害が深刻になるだけでなく、種子島を含むこの薩南諸島全域が軍事化されることだ。
すでに、種子島の南の奄美大島について見てきたが、この一帯の軍事化は、すでに「鎮西演習」を含む、恒常的なものとして行われている。
写真下は、沖永良部島に鎮西演習で陸揚げされた陸自の戦車(「島嶼防衛戦」で、戦車が使用されることに注意!)。次頁写真は、同演習で、種子島の海岸地帯(南種子町の前之浜海浜公園)に降下する陸自空挺部隊だ。訓練場だけでなく、今や、自衛隊はこの地では、みさかいなく市街地で訓練・演習を始める状況に至っている。
この、馬毛島――種子島――奄美大島という薩南諸島の軍事化が、急ピッチで進行している実態について、全国の人々に警鐘乱打すべきときが来ている。