今、自衛隊の在り方を問う!

急ピッチで進行する南西シフト態勢、巡航ミサイルなどの導入、際限なく拡大する軍事費、そして、隊内で吹き荒れるパワハラ……

●政府・自衛隊と一体化した、与那国町長が独裁で進める、与那国島の要塞化――棄民政策を糺す!

2022年12月30日 | 自衛隊南西シフト

引用の糸数町長のインタビュー(読売新聞)に明らかな、島の要塞化計画、そして安保関連3文書が計画する島の要塞化をみてほしい。この計画は、住民には、全く知らされていない町長独断の計画だ。

*「政府は国家安全保障戦略に、防衛に活用できる公共インフラ(社会基盤)整備の促進を盛り込み、同町においては、▽自衛隊のF35戦闘機の離着陸を可能とする与那国空港の延伸▽自衛隊の護衛艦などを接岸できる岸壁などの整備――を目指している。町が求める国民保護の観点も踏まえ、調整が本格化」

*「糸数町長は台湾有事を見据え、大型旅客機・大型船舶による町民の島外避難体制を確立するため、与那国空港滑走路の500メートル延伸と、島南部・比川集落への港湾新設を政府に要望」

*「町議会は12月、シェルターの早期設置を国に求める意見書を可決した。一方、糸数町長は「国が設置するのなら歓迎するが、私は町民を一人たりともシェルターに押し込むことはしたくない。そういう事態になる前に、島外避難の道筋を付けるのが先だ」と強調」

*「町は17年、有事に全町民が島外避難することを念頭に国民保護計画を策定」

*「糸数町長は、島外避難を前提に町独自に設けた「危機事象対策基金」についても言及。有事となる前に島外に自主避難する町民に旅費や生活資金を支給するための基金で、9月議会で設置条例案が可決され、積み立てを進める方針[1人あたり100万円]と」

与那国町議会に提案された避難計画基金条例案
*「政府はF35戦闘機の空港利用や護衛艦などの港湾利用などを想定している。沖縄県の玉城デニー知事は自衛隊による利用拡大に懸念を示しており、与那国島での空港・港湾整備についても協議が難航する可能性」

●そして、安保関連3文書で決定されたのは、既存の陸自沿岸監視隊・同電子戦部隊、空自移動警戒隊に加えて、空自警戒監視部隊(固定レーダー基地)、陸自地対空ミサイル部隊の配備である(予定地の町有地の買収についても町長の独断)。



加えて、与那国空港の軍事化、与那国島港湾の軍港化の決定である。


要するに、与那国島は、島の全てが文字通り軍事化=要塞化され、住民は排除・棄民化されるということだ。

――まさに今、与那国島で行われるつつあることは、22年度内に地対艦・地対空ミサイル部隊開設予定の石垣島で、既開設の宮古島・奄美大島で、間違いなく進行する事態である。



●この恐るべき琉球列島の軍事化を、いつまで「本土」の人々、知識人、反戦運動団体は放置するのか? 

この急ピッチで突き進む、琉球列島の戦争態勢(文字通りの「沖縄戦」の再来)と対峙することなく(無視・軽視)、軍拡反対・軍事費2倍化反対、改憲反対一般だけを主張するのは、琉球列島軍事化の容認だ。

また、この恐るべき琉球列島軍事化の実態を一言も批判することなく、この実態を知ることもなく「(安保関連3文書は)戦争が近いと煽り立てる国内向けのプロパガンダ」(内田樹・AERA23/1)にすぎないとして、軽視・無視することも、琉球列島軍事化の容認であり、その協力者だと言うべきだ!


https://www.yomiuri.co.jp/national/20221229-OYT1T50064/...


海洋プレッシャー戦略によるアジア太平洋戦略の大転換⑫

2022年12月27日 | 自衛隊南西シフト
海洋プレッシャー戦略によるアジア太平洋戦略の大転換⑫(「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」の連載⑫)


●海洋プレッシャー戦略とは

 さて、「海洋プレッシャー戦略」(MPS:Maritime Pressure Strategy)は、CSBAが2019年5月に「西太平洋における海上プレッシャーの戦略の実施」として発表した報告書である。

 この戦略の核心を結論から言うと、米軍のエアーシー・バトルなどによる対中国の「撤退戦略」を大きく転換し、米軍が対中戦争の初期作戦段階から西太平洋の「シー・コントロール」(SC制海権)確保を目指すとしたことだ。

これは具体的には、中国の日米軍事基地への初期ミサイル飽和攻撃に対処する、米軍の沖縄等からの「撤退戦略」を基本的に修正し、戦争の初期から第1列島線内に「インサイド部隊」が防衛バリアを確立、このインサイド部隊を第2列島線内に配置された「アウトサイド部隊」がバックアップして、「縦深防衛ライン」を確立するということである。そして、これらの「インサイド・アウト防衛」部隊によって、戦争の初期から米軍による西太平洋の「シー・コントロール」を確保する、というものだ。

新たに提案された、この「海洋プレッシャー戦略」の根幹にあるのが、「インサイド・アウト防衛」という作戦構想である。

この作戦構想の実戦的運用指針は、「第1列島線に沿って、精密な攻撃ネットワーク、特に陸上の対艦・対空能力を配備し、生命、財産などという多大なコストを払わずに、迅速に侵略によって利益を得る中国の能力に対抗すること」と同報告書は提示する。つまり、琉球列島へのミサイル配備網の構築だ。

「海洋プレッシャー戦略」の全体的概要について、もっと詳細に見ておこう。 
同報告書は、第1章の冒頭で「戦略の概要」として「陸軍と海兵隊が地上戦を開始することを含む海洋プレッシャー戦略」と銘打っている。ここに海洋プレッシャー戦略の核心的な実戦的指針がある。


つまり、従来の自衛隊による第1列島線配備である南西シフトを、米国の陸軍・海兵隊が、共同作戦として担うということであり、この具体的内容は、米海兵隊、米陸軍を第1列島線へ配備するということだ。

この戦略概要では、具体的には第1列島線に沿って、生存性の高い精密攻撃ネットワーク(ミサイル網)を構築すること、海軍、航空、電子戦、その他の能力を背景に、米国と同盟国は海上の目標に対して「地上配備の対艦ミサイル」を発射する態勢を作ること、「地上配備ミサイルの数」を増やすことを求めている。

また、これら精密攻撃ネットワーク(ミサイル網)は、作戦上、西太平洋の島嶼に沿って「地理的に分散配置」され、これは中国軍のA2/AD脅威の範囲内から中国軍を攻撃するための「インサイド」部隊として機能し、さらに遠く離れた場所からも戦闘に参加する「アウトサイド」の空軍と海軍の支援を受けることになるとしている。

そして、「前方配置された航空部隊」は、新しい基地構想の下、「遠征用飛行場に分散」する。海軍は、第1列島線の背後の位置する場所に出撃するか、あるいは海岸線に沿って出撃して、危険度を減らすという。

これを報告書は、フットボールに例えるならば、生存可能な内部の攻撃網が防御ラインとして機能し、機動力のある外部の空軍と海軍がラインバッカーとして機能することになるという(ラインバッカーとは、ディフェンスラインとディフェンスバックの間、守備陣の真ん中に位置する選手)。

●海洋プレッシャー戦略が想定する戦場

 最後になったが、海洋プレッシャー戦略が想定する有事とは、どのようなものか、想定される戦場はどこか。2021年4月の日米首脳会談以後、日本では、「台湾有事」キャンペーンが異様に強調されているのだが、果たして「台湾有事」はあり得るのか。

海洋プレッシャー戦略では、この有事について「地理的設定・西太平洋」として、「アメリカと同盟国のアナリストは、西太平洋における中国との衝突は、台湾、南シナ海、東シナ海のいずれかで起こると想像している」として、それぞれの可能性について詳述している。

まず台湾だが、「中国が台湾を攻撃した場合、米国は戦争に巻き込まれる可能性があり、米国の指導者たちは、中国が軍事力によって現状を変えようとしないようにとの長年にわたる公然とした警告を行っている」とし、中国軍の作戦計画の多くが、「主な戦略的方向」として台湾を指定していることに言及する。しかし、提言書はいう。

「中国が主目的から注意をそらすために戦域内でフェイントをかけた場合、複数の場所で紛争が発生する可能性がある。米国と中国の間の将来の紛争は、特に中国の利益とそれをパワープロジェクションによって保護する中国軍の能力が高まるにつれて、北朝鮮や西太平洋の向こう側でも起こるかもしれない。そのような場合でも、中国海軍は中国沿岸の基地から第1列島線を経由して出撃する必要がある。また、遠方での軍事行動を行う際には、中国本土を攻撃から守らなければならない。したがって、第1列島線における紛争シナリオを理解することは、そこでの戦争であれ、遠くでの戦争であれ、必要不可欠である」と。

また、提言書は具体的に「南シナ海」では、「中国の南シナ海の軍事化が進行しているため、米軍を巻き込んだ紛争が発生する可能性がある」とし、「南シナ海における中国の軍事化は、意図的な攻撃以外にも、不用意な衝突を引き起こす危険性がある。中国軍と航行の自由作戦を実施している米艦船を含む他国の軍隊との間で対立を引き起こす可能性がある」としている。

さらに「東シナ海」では、「中国が日本と東シナ海の領有権問題で好戦的な態度を続ければ、日本との相互防衛条約に揺るぎないコミットメントを持つ米国を巻き込んだ戦争に発展する可能性がある」とし、「軍事力が互いに近接して影を落とす中で、艦長やパイロットの1つのミスが各国を軍国主義的な危機へと突き動かす可能性がある」としている。

●海洋プレッシャー戦略下の「ライトニング空母構想」と海自の空母運用

ここで付記しておきたいのが、「ライトニング空母構想」と言われる海軍・海兵隊の計画と海自の空母運用についてである。

この「ライトニング空母」構想は、米海兵隊による、2017年の海兵隊航空計画(2017 Marine Aviation Plan)で発表されたもので、具体的には、2025年までに185機のF35Bを運用し、7隻全ての最新鋭強襲揚陸艦にそれを搭載・配備するというものだ。つまり、米強襲揚陸艦にF35Bを搭載した多数の「小型空母」を揃え、既存の大型の攻撃型空母に替わる、「安上がりの空母」を大量に配備するという計画だ。


左が強襲揚陸艦「アメリカ」(ホワイトビーチ)

この構想は、すでに実施されつつある。米海軍佐世保基地には、現在、最新鋭の大型強襲揚陸艦「アメリカ」(全長約260メートル、約4万4000トン)が配備されているが、「アメリカ」には、すでに米岩国基地のF35Bを搭載し、運用する訓練が行われている。

岩国基地では、2017年に16機のF35B(第121戦闘攻撃中隊)が、すでに配備され、以後、これにプラスして32機態勢へ増強されると発表されている。この数は、2~3個の「強襲揚陸艦・空母部隊」が作戦態勢に入るのに充分である。

明らかなように、海自のF35導入と「いずも」「かが」型護衛艦の改修による「空母保有」計画は、この米海軍の「ライトニング空母」構想と連動し、一体化して進行しているのである。

まさしく、すでに始まった「いずも」改修後の米海軍との共同運用の始まりは、露骨なまでの「日米ライトニング空母」計画である。つまり、日米共同作戦による「西太平洋の海上・航空優勢の確保」(制海・制空権)ということだ。

これらライトニング空母計画の背後にあるのは、米海軍の新たな作戦構想である。それが「分散型海上作戦(DMO)」として2018年に発表された。公表したリチャード海軍作戦部長の「海上優勢維持のための構想』では、大型艦船、小型艦船、戦闘艦、揚陸艦、無人艦艇などの戦力を分散して、さまざまな水上艦艇に長射程の対艦・対空ミサイル等の攻撃力を持たせて分散配備するとともに、それらを高度なネットワークで連接する。分散しながらも一体化した攻撃力を発揮する。つまり、敵に攻撃対象を絞らさせず、A2/ADを広く強化するというものだ。

●海洋プレッシャー戦略下の「遠征前方基地作戦」(EABO)

 このように、米国は海洋プレッシャー戦略下で、アジア太平洋の制海権・制空権を確保する、新たな戦略に入りつつある。これが「紛争環境における沿岸作戦(LOCE)」、「遠征前方基地作戦」(EABO)であり、「フォース・デザイン2030」という米海兵隊の大転換戦略だ。


米海兵隊の「フォース・デザイン2030」では、「最初のステップとして、単一の海兵沿岸連隊(MLR)形成を作成する」としており、この部隊が、在沖縄第3海兵遠征軍(3MEF、うるま市のキャンプコートニー)に編成される「海兵沿岸連隊」として、すでに発表されている。

海兵沿岸連隊は、このEABOを実現するために特化された部隊である。これらは、現部隊である3個海兵連隊を改編し、ハワイ、沖縄およびグアムに配備するという。また、この海兵沿岸連隊は、歩兵大隊、対艦ミサイル中隊を基幹とする沿岸戦闘団、沿岸防空大隊、兵站大隊から編成される予定である。この部隊は、2022年までに仮編成され、その後沖縄などへ配備されるという。

「台湾有事」の日米共同作戦計画で明らかになった、琉球列島の40の島々への海兵隊ミサイル配備計画が、この「遠征前方基地作戦」(EABO)として計画化されているのは明らかである。

小西誠(軍事ジャーナリスト・当会オブザーバー)

●参考資料 『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907127282

安保3文書に見る琉球列島の島々の恐るべき「有事の住民避難」―果たして自衛隊は住民避難を行えるのか?

2022年12月19日 | 政治・沖縄・日米共同作戦

(表紙写真は、1944年8月22日、沖縄から九州へ避難する児童生徒らを載せた輸送船・対馬丸で、米潜水艦の攻撃に遭い、児童ら1484名の悲惨な犠牲をだした)

●安保3文書は「沖縄文書」(南西シフト

安保3文書の大改定と問題点については、その歴史的大軍拡(防衛費の2倍化など)について、メディアがさまざまな論評を行っている。特に沖縄の各紙は「沖縄戦の再来」として、連日厳しい論評を加えている。
確かに、この安保3文書は、自民党国防族がいうように「沖縄文書」であり、自衛隊および米軍の南西シフト態勢の大強化――急速な有事=戦時態勢づくりめざす文書であり、このための国民への宣言(宣伝・煽動)だ。

ただ、ここで再度強調しなければならないのは、この安保3文書が「沖縄文書」すなわち、琉球列島の要塞化、とりわけ、この列島が中国へのミサイル攻撃基地(拠点)になることについて、メディアはもとより、反戦平和運動を担っている人々、知識人のほとんどの認識が欠落していることについてだ。
この歴史的大軍拡――軍事費大増強の内容、真の意図を私たちは正確に認識しなければならない。今政府・自衛隊(米軍)が行っているのは、一般的軍拡でもなければ、軍事費2倍化の大増強一般でもない。
繰り返すが、政府・自衛隊が目論み、政治的・軍事的目標にしているのは、琉球列島のミサイル攻撃基地化(拠点化)であり、対中国への戦争態勢だ。

そのために、12式地対艦ミサイルの長射程化(地上発射・空中発射・艦艇発射・潜水艦発射)、ミサイル量産化であり、(極)超高速滑空弾の開発配備であり、極超音速ミサイルの開発配備、米軍のトマホークの配備(500発)である。
安保3文書の発表を見ての通り、琉球列島の島々に、これらのミサイルがズラリと隙間なく配備されるのだ。
この軍事的実態を観ることなく、今なお「軍拡一般」を語る人々は、現実をまったく見る知識も判断力もないのかと、厳しく批判しなければならない。

事態は、決定的に重大な段階に来ている。
「国家安全保障戦略(NSS)」によれば、「現下の我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえれば、我が国の防衛力の抜本的強化は、速やかに実現していく必要がある。具体的には、 本戦略策定から5年後の 2027 年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受 けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する」としているのだ(2021年3月インド太平洋軍司令官デービットソンの「台湾有事」デマに乗っかる)。

●沖縄ー先島の国民保護・住民避難を明記した安保3文書

さて、この琉球列島のミサイル要塞化をはじめ、安保3文書には、沖縄への陸自師団の設置・増強(現在は旅団)――常設の統合司令部を創設、地対艦ミサイル部隊の7個連隊(琉球列島へ2個連隊)への増強、与那国島などへの地対空ミサイル部隊配備、ミサイル弾体など(弾薬庫増強)の継戦能力強化など、有事事態ー戦争へのさまざまな態勢づくりが唱えられている。

私は、この中において、特に多くの人々が認識・把握できていない「国民保護ー住民避難」問題について、重点的に見ておきたいと思う。
この問題は、政府・自衛隊が「有事事態」をどのように見ているのかを如実に現しているだけではない。この問題は、沖縄ー琉球列島住民にとって、ひじょうに緊迫した、厳しい切実的問題となりつつあるからだ。

結論から言えば、安保3文書は、沖縄ー琉球列島住民への「島外避難」を初めて唱え、現実に「島外避難」(棄民政策)を押し進めようとする、とんでもない、非人道的な、政府決定文書だということだ。しかも、その避難とは「武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現」するという、つまり、「平時の避難」であり、文字通り沖縄ー琉球列島の人々の「棄民政策」である。

では、2022年12月16日発表の安保3文書が、有事の住民避難について、どのように明記しているのか、その文面から見てみよう。

●国家安全保障戦略(NSS)
「国民保護のための体制の強化  国、地方公共団体、指定公共機関等が協力して、住民を守るための 取組を進めるなど、国民保護のための体制を強化する。具体的には、 武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現すべく、円滑な避難に関する計画の速やかな策定、官民の輸送手段の確保、空港・港湾等の公共インフラの整備と利用調整、様々な種類の避難施設の確保、国際機関との連携等を行う。 また、こうした取組の実効性を高めるため、住民避難等の各種訓練の実施と検証を行った上で、国、地方公共団体、指定公共機関等の連携を推進しつつ、制度面を含む必要な施策の検討を行う」

●国家防衛戦略(NDS現大綱)
「機動展開能力・国民保護  島嶼部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保し、我が 国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止するため、平素配備している部隊が常時活動するとともに、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開させる必要がある。 このため、自衛隊自身の海上輸送力・航空輸送力を強化するとともに、民間資金等活用事業(PFI)等の民間輸送力を最大限活用する。 また、これらによる部隊への輸送・補給等がより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施していくと ともに、全国に所在する補給拠点の近代化を積極的に推進する。 自衛隊は島嶼部における侵害排除のみならず、強化された機動展開能力を住民避難に活用するなど、国民保護の任務を実施していく。 このため、2027 年度までに、PFI船舶の活用の拡大等により、輸送能力を強化することで、南西方面の防衛態勢を迅速に構築可能な能力を獲得し、住民避難の迅速化を図る。」

●防衛力整備計画
「機動展開能力・国民保護 自衛隊の機動展開や国民保護の実効性を高めるために、平素から 各種アセット等の運用を適切に行えるよう、政府全体として、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する施策に取り組むとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として使用するために必要な措置を講じる。さ らに、自衛隊の機動展開のための民間船舶・航空機の利用の拡大について関係機関等との連携を深めるとともに、当該船舶・航空機に加え自衛隊の各種輸送アセットも利用した国民保護措置を計画的に行えるよう調整・協力する。その際、政府全体として、武力攻撃事態等を念頭に置いた国民保護訓練の強化や様々な種類の避難施設の確保を行う。また、国民保護にも対応できる自衛隊の部隊の強化、予備自衛官の活用等の各種施策を推進す る。」

皆さんは、下記のマークを知っていますか?

東京都国民保護計画の表紙


だが、待てよ!
自衛隊は「軍民分離の原則」、および上のマーク(特殊標識)をご存じか。

ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第48条は、以下のように規定する。
「基本原則 紛争当事者は、文民たる住民及び民用物を尊重し及び保護することを確保するため、文民たる住民と戦闘員とを、また、民用物と軍事目標とを常に区別し、及び軍事目標のみを軍事行動の対象とする。」

引用のように、ジュネーヴ諸条約は、「戦闘員と非戦闘員」「軍事目標と非軍事目標」の区別を「基本原則」とし、「軍民分離の原則」を明確に定めている。
この規定は、現代戦(総力戦)において、非戦闘員の住民・市民の戦争による犠牲が膨大化しつつあることが背景にある。第1次世界大戦では住民の死亡5%、第2次世界大戦では45%、ベトナム戦争では95%に及んだ。
この事態から、戦後の1977年ジュネーヴ諸条約第1追加議定書が制定された。そして、2004年成立の国民保護法も、同法に基づく住民避難計画を規定することになったのだ。

さて、マーク(特殊標章)とは、オレンジ色地に青の正三角形で、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書「識別に関する規則」にいう特殊標章だ。
赤十字標識と同様、国民保護に従事する航空機・船舶・建物・地区等に目立つように掲げる義務がある。この特殊標章により有事に避難する住民が軍事目標になるのを防ぐ。


*標章は、東京都国民保護計画の表紙にも、沖縄県を始め自治体の保護計画や消防庁、海上保安庁の同計画にも明記。ジュネーヴ諸条約は、以下のように明記する。

第66条 識別 
1 紛争当事者は、自国の文民保護組織並びにその要員、建物及び物品が専ら文民保護の任務の遂行に充てられている間、これらのものが識別されることのできることを確保するよう努める。文民たる住民に提供される避難所も、同様に識別されることができるようにすべきである。

2 紛争当事者は、また、文民保護の国際的な特殊標章が表示される文民のための避難所並びに文民保護の要員、建物及び物品の識別を可能にする方法及び手続を採用し及び実施するよう努める。

3 文民保護の文民たる要員については、占領地域及び戦闘が現に行われており又は行われるおそれのある地域においては、文民保護の国際的な特殊標章及び身分証明書によって識別されることができるようにすべきである。

4 文民保護の国際的な特殊標章は、文民保護組織並びにその要員、建物及び物品の保護並びに文民のための避難所のために使用するときは、オレンジ色地に青色の正三角形とする。

なお、この規定を受け、政府の「赤十字標章等及び特殊標章等に係る事務の運用に関するガイドライン」(2005年8月2日)においても、「特殊標章」を規定している。


●防衛省・自衛隊の国民保護規定
ところが、驚くことに、国民保護を謳う「防衛省・防衛装備庁国民保護計画」(2005年)等には、これらの「特殊標章」の規定が全く記されないのだ。
これについて、救急救助専門の国士舘大中林啓修は「自衛隊に特殊標章規定がないのは専従部隊の提供を予定していない」と解説する。

つまり、自衛隊が予定する国民保護なるものは、当初から住民保護を予定していないのだ。
実際、防衛省の国民保護計画は「国民保護措置の基本的考え方」として「我が国に対する武力攻撃の排除措置に全力を尽すことが主たる任務」であり、「排除措置に支障の生じない範囲で可能な限り国民保護措置を実施」とする(統合幕僚監部の『統合運用教範』も同様の記述)。

ここに規定するように、自衛隊が国民保護を実際上行い得ないのは、圧倒的輸送力不足からである。したがって、安保3文書でも自衛隊は、PFI船舶を含む輸送力の強化を謳っているのだ(自衛隊のPFI船舶は「なっちゃんワールド、はくおうの2隻であり、大型輸送艦は3隻のみ)。
ちなみに、1982年のフォークランド戦争では、英国は1個旅団の兵力と兵站3カ月分を輸送するのに、100隻の大型船舶を要した。『フォークランド戦争史』防衛研究所)。

しかし問題は、この輸送力の圧倒的不足だけではない。もっと根本的大問題が背後にあるのだ。
安保3文書の規定をみてほしい。住民避難が「機動展開能力・国民保護」とセットで記述されている。

つまり、自衛隊は、先に見たように、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書がいう、「軍民分離の原則」をまったく認識していない、ということだ。自衛隊がこの原則を認識できていれば、「機動展開能力・国民保護」を一体的に記述するはずがない。

いわば、「強化された機動展開能力」というが、ジュネーヴ諸条約が厳格に規定する「特殊標識を付けた避難専用船舶等」の規定が、どこにも見当たらないのである。
繰り返すが、ジュネーヴ諸条約には、赤十字標章同様、特殊標識を国民保護に従事する航空機・船舶・地区等に目立つように掲げる義務があるだけでなく、この船舶等は、いったん住民保護に使用されたならば、これを再び軍用に使用することは許されないのだ。

ちなみに、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書には、次のように明記されている。
*第67条 文民保護組織に配属される軍隊の構成員及び部隊
1 文民保護組織に配属される軍隊の構成員及び部隊は、次のことを条件として、尊重され、かつ、保護される。
(a)要員及び部隊が第61条に規定する任務のいずれかの遂行に常時充てられ、かつ、専らその遂行に従事すること。
(b)(a)に規定する任務の遂行に充てられる要員が紛争の間他のいかなる軍事上の任務も遂行しないこと。
(c)文民保護の国際的な特殊標章であって適当な大きさのものを明確に表示することにより、要員が他の軍隊の構成員から明瞭に区別されることができること(以下略)

このジュネーヴ諸条約の規定は、ひじょうに重要な規定だ。つまり、自衛隊が一旦、避難民の輸送に当たった場合、この当該軍用輸送船等は、今後いっさい、軍用には使えないということだ。
輸送力の圧倒的不足にある自衛隊が、このような住民避難専用任務につくということは、全く不可能というべきだ。これは、以前から、制服組からも度々指摘されていたことである。
にもかかわらず、安保3文書が初めて国民保護法に基づく住民避難について明記することになったのは、沖縄戦の文字通りの再現を危惧する、沖縄等の人々の「反対運動の沈静化」を謀るためだ。

例えば、有名な「対馬丸事件」。1944年8月22日、沖縄から九州へ避難する児童生徒らを載せた輸送船が、米潜水艦の攻撃に遭い、児童生徒ら1484名の悲惨な犠牲をだした。この船は、もともと民間船であったが、戦争中、軍事輸送任務につつき、撃沈されたときも「往路は軍事輸送、復路は疎開輸送」ということであった。


まさに、この対馬丸の悲惨な事態に見るように、安保3文書にみる政府・自衛隊の「国民保護・住民避難」の規定は、「軍民分離の原則」を全く考慮しない、とんでもない暴策と言わねばならない。
それとも、政府・自衛隊は、「有事事態」では避難しない、「平時の避難」だと強弁するのか?
だが、自衛隊は、繰り返し防衛白書などでも明記しているではないか。「平時と有事はシームレスに発展する」と。

結論から言うと、現実は「有事の住民避難は不可能」であり、政府・自治体が行えるのは「厳然たる平時の避難」、つまり、平時からの沖縄ー琉球列島の人々の疎開である。そして、これは何年も続く、沖縄島などからの棄民である。

「国家安全保障戦略(NSS)」の国民保護・住民避難についても「武力攻撃より十分に先立って」避難を進める、と明記する。この文書は、決定的に重要だ。

「台湾有事」キャンペーンに見るように、住民に戦争を煽り、不安にさせ、平時から避難を強いる。
しかし、このような沖縄ー琉球列島の人々の生活を全面的に破壊する避難計画こそは、問題の転倒だ。必要なのは、琉球列島の軍事要塞化を凍結し有事を招かない、中国との徹底した平和外交だ。

安保3文書には、この平和外交の記述がほとんど見られないばかりか、「中国脅威論」がうんざりするほど、繰り返し繰り返し書かれている。この岸田自公民政権の歴史的横暴を私たちは徹底して糺さねばならない。

参考文献 『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』
参考資料 2022/12/18付沖縄タイムス