新大綱と新中期防の発表
政府は、12月18日の閣議で新「防衛計画の大綱」と新「中期防衛力整備計画」(2019~23年度)を決定。5年間の軍事費整備の金額27兆4700億円という過去最大規模を打ち出した。前大綱の「統合機動防衛力」に替えて「多次元統合防衛力」という基本概念を打ち出したが、単なる言葉遊びだ。なるほど、宇宙、サイバーなどの新領域を「死活的に重要」とし、陸海空自衛隊の「領域横断(クロス・ドメイン)作戦」を展開するとしているが、最大の戦略は、中国脅威論ー対中抑止戦略に基づく、南西シフト態勢にある。
(写真は「いずも」型空母「かが」)#自衛隊 #南西シフト #沖縄 #宮古島 #石垣島 #奄美大島 #種子島 #防衛計画の大綱
*「防衛計画の大綱」は、10年先の日本の安全保障を見通して作成するとしており、前大綱は2013年に策定されている。わずか5年で改定された、その意図は、明らかだ。つまり、前大綱に明記されていない、「攻撃型空母」の導入、「高速滑空弾部隊」「弾道ミサイル防衛部隊」などの導入がその目的だ。
実際、前大綱に比べて、新大綱は、北朝鮮脅威論に替えて、中国脅威論を全面に押しだした(前大綱は、第1に北朝鮮脅威論、新大綱は、第1に中国脅威論)。それは以下のように言う。
「米国の中国やロシアとの戦略的競争」(筆者注、2018年国防総省「国家防衛戦略(NDS)」など)を前文として、次のように言う。
「中国は、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした一方的な現状変更を試みるとともに、東シナ海を始めとする海空域において、軍事活動を拡大・活発化させている。我が国固有の領土である尖閣諸島周辺においては、我が国の強い抗議にもかかわらず公船による断続的な領海侵入や海軍艦艇による恒常的な活動等を行っている。太平洋や日本海においても軍事活動を拡大・活発化させており、特に、太平洋への進出は近年高い頻度で行われ、その経路や部隊構成が多様化している。南シナ海においては、大規模かつ急速な埋立てを強行しその軍事拠点化を進めるとともに、海空域における活動も拡大・活発化させている。」
「中国は、……高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している。」
「中国は、……また、ミサイル防衛を突破するための能力や揚陸能力の向上を図っている。このような軍事能力の強化は、周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する軍事能力、いわゆる「接近阻止/領域拒否」(「A2/AD」)能力の強化や、より遠方での作戦遂行能力の構築している」
前大綱に比べて、驚くべき中国脅威論の鼓吹だ。そして、剥き出しの対中国の対抗戦略を唱えている。
新大綱・新中期防で新たに新設される部隊
さて、この新大綱の饒舌な、まとまらない長文よりも、新中期防で「新設される部隊」を検討した方が、新大綱の内容を理解するのに都合がよい。それは、以下の新部隊として明記されている。
●陸海空の共同部隊
*サイバー防衛部隊・1個防衛隊
*海上輸送部隊・1個輸送群
●陸自
*島嶼防衛用高速滑空弾部隊・2個高速滑空弾大隊
*弾道ミサイル防衛部隊・2個弾道ミサイル防衛隊
●海自
*護衛艦・掃海艦艇部隊2個群(13個隊)
●空自
*無人機部隊・1個飛行隊
*空中給油・輸送部隊ー1個飛行隊を新編
*空自戦闘機部隊・13 個飛行隊(1個飛行隊新編)
(上記の戦闘機部隊 13 個飛行隊は、STOVL機で構成される戦闘機部隊を含む)
攻撃型空母搭載のF35Bの運用は空自に!
上の新中期防の編成表を見ると、「いずも」型の改修空母に搭載するF35Bの運用は、空自ということになる。STOVL機とは、Short TakeOff/Vertical Landing、短距離離陸垂直着陸機、F35Bだ。これは、新中期防ではこう述べている。
「柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機を含む戦闘機体系の構築等により、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ない我が国太平洋側を始め、空における対処能力を強化する。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性を更に向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる。」
空母を「多用途運用護衛母艦」と称するとしていたが、その名称は新大綱などでは明記されていない。報道では、F35B・42機を運用するとしているが、この新中期防での調達は、F35Bは、18機(新中期防別表に、「戦闘機(F-35A)の機数 45 機のうち、18 機については、短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機を整備するものとする」と)
この新中期防のF35B・18機という態勢は、まずは「いずも」型空母2隻改修ということだろう。そして、これはいずれ、F35B・42機態勢ー3隻の「空母機動部隊」編成となるだろう。
これら攻撃型空母の運用態勢は、新中期防では「太平洋側の空の対処能力強化」とあるから、琉球列島弧の太平洋側での運用となる。つまり、琉球列島弧の配置された対艦・対空ミサイル部隊に守られ(島々の影に隠れ)、運用されるということだ。しかし、「動く棺桶」と蔑称される空母を本格的に運用するということは、将来は、南シナ海・インド洋まで進出する「帝国海軍」を目指しているのは間違いない。
「島嶼戦争」の新部隊編成
しかし、新大綱で政府が盛んに宣伝する「多次元統合防衛力」構想に基づく「領域横断(クロス・ドメイン)作戦」として、「サイバー防衛部隊1個防衛隊」及び「電磁波作戦部隊」が新編されるが、それ以上に大編成、新編成されるのが、「島嶼戦争」態勢のための新部隊である。
新中期防によると、陸自には、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊」として、「2個高速滑空弾大隊」の編成が決定された。もはや、単なる研究開発段階ではなかったということだ。そして、「弾道ミサイル防衛部隊」として、「2個弾道ミサイル防衛隊」ーイージス・アショアーの新編成だ。さらに、海自では、「海上輸送部隊1個輸送隊」が、空自では、「空中給油・輸送部隊1個飛行隊」、「無人機部隊1個飛行隊」が新編成される。この他に、さらに、「スタンド・オフ・ミサイル(JSM、JASSM及びLRASM)の整備を進める」ほか、「新たな島嶼防衛用対艦誘導弾及び極超音速誘導弾の研究開発を推進」として、引き続き「島嶼戦争」用の「対艦・極超音速巡航ミサイル」導入が検討されている。
水陸機動団の3個連隊目の新編成
そして、引き続き南西シフト態勢のために「機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団・機動旅団)」の新編成に加え、「航空機等での輸送に適した機動戦闘車等を装備し、各種事態に即応する即応機動連隊」が、引き続き新編される。そして、この機動師団・機動旅団に加え、「1個水陸機動連隊の新編等」により強化された水陸機動団が編成される。つまり、九州・佐世保にすでに編成された水陸機動団2個連隊に加えて、1個連隊が新編されるが、この配備先が沖縄島と予定されているのだ。
新中期防では「また、引き続き、南西地域の島嶼部に初動を担任する警備部隊の新編等を行うとともに、島嶼部への迅速な部隊展開に向けた機動展開訓練を実施」として南西シフトの機動展開演習を重視している。
機動展開能力強化と統合衛生
さらに、新中期防では、「機動・展開能力」と称して、「島嶼部への攻撃を始めとする各種事態に実効的に対応するためには、……状況に応じた機動・展開を行うことが必要である」とし、「このため、水陸両用作戦能力等を強化する。また、迅速かつ大規模な輸送のため、島嶼部の特性に応じた基幹輸送及び端末輸送の能力を含む統合輸送能力を強化するとともに、平素から民間輸送力との連携を図る。」としている。
この南西シフト態勢のために、奄美大島・種子島(馬毛島)などの、機動展開拠点の基地化・要塞化が押し進められているが、この海上輸送力の強化として民間船舶・ナッチャンWorldなどのフェリーがすでに動員されている。これに加えて、新中期防では、新たに陸自に「島嶼部への輸送機能を強化するため、中型級船舶(LSV)及び小型級船舶(LCU)を新たに導入するとともに、今後の水陸両用作戦等の円滑な実施に必要な新たな艦艇の在り方について検討」として、米軍などが保有する「上陸用舟艇」などが、初めて陸自の船舶輸送部隊として配備がなされる。
また、新中期防では、「島嶼戦争」の実戦態勢強化の一環として、すでに謳われていた「統合衛生」についても明記されている。「各種事態への対処や国内外における多様な任務に対応し得るよう、衛生機能を強化する必要がある。このため、隊員の生命を最大限守れるよう、第一線から最終後送先までのシームレスな医療・後送態勢を強化する。その際、地域の特性を踏まえつつ、南西地域における自衛隊の衛生機能の強化を重視する。また、自衛隊病院の拠点化・高機能化等により、効率的で質の高い医療体制を確立する。」
この、いわゆる「野戦病院」が、埼玉県入間市の空自基地の近くに建設される自衛隊病院である。
最後に明記すべきなのが、従来、「民生用」として盛んに言われていた「淮天頂衛星システム」が、この新中期防で軍事用として明らかになったことだ。「準天頂衛星を含む複数の測位衛星信号の受信や情報収集衛星(IGS)・超小型衛星を含む商用衛星等の利用等」と。これは、石垣島・宮古島・沖縄島・種子島を始めとする琉球列島弧を拠点に、すでに設置されているものだ。精度数㎝というこの衛星システムは、地対艦ミサイルや巡航ミサイルのGPS誘導のための軍事用であったということだ。
対中・日米共同作戦態勢下、新冷戦を作りだそうとする新大綱・新中期防をストップせよ
安倍政権下の、この新大綱・新中期防のもくろみは、もはや明白である。安倍政権は、この戦後最大の南西シフト態勢を突破口とする大軍拡において、新冷戦態勢を作り出そうとしているのだ。
米日中の(米日の仕掛ける)、アジア太平洋全域を巻き込んだ軍拡競争が、今、始まろうとしている。重要なのは、このような安倍政権の軍拡政策が、民衆の社会保障費などを徹底して削り落とし、消費税などの増税を行い、つまり、民衆の多大の犠牲の上になされようとしていることだ。自民党・自衛隊制服組の中からは、すでに「防衛費2倍化」が打ち出されている。
この状況のなか、私たちは、真剣に「軍拡停止・軍縮」の要求を掲げ、先島―南西諸島の「非武装地帯化」を求めるべき秋にきている。
*新大綱・新中期防の他の重要点
・「グレーゾーンの事態は、国家間の競争の一環として長期にわたり継続する傾向にあり、今後、更に増加・拡大していく可能性がある。こうしたグレーゾーンの事態は、明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらんでいる。」
・「安全保障協力の強化 自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、地域の特性や相手国の実情を考慮しつつ、多角的・多層的な安全保障協力を戦略的に
推進する。その一環として、防衛力を積極的に活用し、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援、軍種間交流等を含む防衛協力・交流に取り組む。」
――「オーストラリアとの間では、相互運用性の更なる向上等」
――「ンドとの間では、戦略的な連携を強化する観点から、「2+2」等の枠組みも活用しつつ、海洋安全保障を始めとする幅広い分野において、共同訓練・演習や防衛装備・技術協力を中心とする協力を推進する。また、日米印三国間の連携を強化」
――「英国やフランスとの間では、インド太平洋地域における海洋秩序の安定等のため、「2+2」等の枠組みも活用しつつ、より実践的な共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、二国間で連携した第三国との協力等を推進する。欧州諸国並びにNATO及び欧州連合(EU)との協力を強化する。カナダ及びニュージーランドとの間では、共同訓練・演習、二国間で連携した第三国との協力等を推進する。」
・「統合幕僚監部において、自衛隊全体の効果的な能力発揮を迅速に実現し得る効率的な部隊運用態勢や新たな領域に係る態勢を強化するほか、将来的な統合運用の在り方として、新たな領域に係る機能を一元的に運用する組織等の統合運用の在り方について検討の上、必要な措置を講ずるとともに、強化された統合幕僚監部の態勢を踏ま
えつつ、大臣の指揮命令を適切に執行するための平素からの統合的な体制の在り方について検討の上、結論を得る。」(これは、「南西統合司令部」設置の件だ!)
*新大綱全文
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/20181218.pdf
*新中期防全文
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/chuki_seibi31-35.pdf
政府は、12月18日の閣議で新「防衛計画の大綱」と新「中期防衛力整備計画」(2019~23年度)を決定。5年間の軍事費整備の金額27兆4700億円という過去最大規模を打ち出した。前大綱の「統合機動防衛力」に替えて「多次元統合防衛力」という基本概念を打ち出したが、単なる言葉遊びだ。なるほど、宇宙、サイバーなどの新領域を「死活的に重要」とし、陸海空自衛隊の「領域横断(クロス・ドメイン)作戦」を展開するとしているが、最大の戦略は、中国脅威論ー対中抑止戦略に基づく、南西シフト態勢にある。
(写真は「いずも」型空母「かが」)#自衛隊 #南西シフト #沖縄 #宮古島 #石垣島 #奄美大島 #種子島 #防衛計画の大綱
*「防衛計画の大綱」は、10年先の日本の安全保障を見通して作成するとしており、前大綱は2013年に策定されている。わずか5年で改定された、その意図は、明らかだ。つまり、前大綱に明記されていない、「攻撃型空母」の導入、「高速滑空弾部隊」「弾道ミサイル防衛部隊」などの導入がその目的だ。
実際、前大綱に比べて、新大綱は、北朝鮮脅威論に替えて、中国脅威論を全面に押しだした(前大綱は、第1に北朝鮮脅威論、新大綱は、第1に中国脅威論)。それは以下のように言う。
「米国の中国やロシアとの戦略的競争」(筆者注、2018年国防総省「国家防衛戦略(NDS)」など)を前文として、次のように言う。
「中国は、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした一方的な現状変更を試みるとともに、東シナ海を始めとする海空域において、軍事活動を拡大・活発化させている。我が国固有の領土である尖閣諸島周辺においては、我が国の強い抗議にもかかわらず公船による断続的な領海侵入や海軍艦艇による恒常的な活動等を行っている。太平洋や日本海においても軍事活動を拡大・活発化させており、特に、太平洋への進出は近年高い頻度で行われ、その経路や部隊構成が多様化している。南シナ海においては、大規模かつ急速な埋立てを強行しその軍事拠点化を進めるとともに、海空域における活動も拡大・活発化させている。」
「中国は、……高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している。」
「中国は、……また、ミサイル防衛を突破するための能力や揚陸能力の向上を図っている。このような軍事能力の強化は、周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する軍事能力、いわゆる「接近阻止/領域拒否」(「A2/AD」)能力の強化や、より遠方での作戦遂行能力の構築している」
前大綱に比べて、驚くべき中国脅威論の鼓吹だ。そして、剥き出しの対中国の対抗戦略を唱えている。
新大綱・新中期防で新たに新設される部隊
さて、この新大綱の饒舌な、まとまらない長文よりも、新中期防で「新設される部隊」を検討した方が、新大綱の内容を理解するのに都合がよい。それは、以下の新部隊として明記されている。
●陸海空の共同部隊
*サイバー防衛部隊・1個防衛隊
*海上輸送部隊・1個輸送群
●陸自
*島嶼防衛用高速滑空弾部隊・2個高速滑空弾大隊
*弾道ミサイル防衛部隊・2個弾道ミサイル防衛隊
●海自
*護衛艦・掃海艦艇部隊2個群(13個隊)
●空自
*無人機部隊・1個飛行隊
*空中給油・輸送部隊ー1個飛行隊を新編
*空自戦闘機部隊・13 個飛行隊(1個飛行隊新編)
(上記の戦闘機部隊 13 個飛行隊は、STOVL機で構成される戦闘機部隊を含む)
攻撃型空母搭載のF35Bの運用は空自に!
上の新中期防の編成表を見ると、「いずも」型の改修空母に搭載するF35Bの運用は、空自ということになる。STOVL機とは、Short TakeOff/Vertical Landing、短距離離陸垂直着陸機、F35Bだ。これは、新中期防ではこう述べている。
「柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機を含む戦闘機体系の構築等により、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ない我が国太平洋側を始め、空における対処能力を強化する。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性を更に向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる。」
空母を「多用途運用護衛母艦」と称するとしていたが、その名称は新大綱などでは明記されていない。報道では、F35B・42機を運用するとしているが、この新中期防での調達は、F35Bは、18機(新中期防別表に、「戦闘機(F-35A)の機数 45 機のうち、18 機については、短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機を整備するものとする」と)
この新中期防のF35B・18機という態勢は、まずは「いずも」型空母2隻改修ということだろう。そして、これはいずれ、F35B・42機態勢ー3隻の「空母機動部隊」編成となるだろう。
これら攻撃型空母の運用態勢は、新中期防では「太平洋側の空の対処能力強化」とあるから、琉球列島弧の太平洋側での運用となる。つまり、琉球列島弧の配置された対艦・対空ミサイル部隊に守られ(島々の影に隠れ)、運用されるということだ。しかし、「動く棺桶」と蔑称される空母を本格的に運用するということは、将来は、南シナ海・インド洋まで進出する「帝国海軍」を目指しているのは間違いない。
「島嶼戦争」の新部隊編成
しかし、新大綱で政府が盛んに宣伝する「多次元統合防衛力」構想に基づく「領域横断(クロス・ドメイン)作戦」として、「サイバー防衛部隊1個防衛隊」及び「電磁波作戦部隊」が新編されるが、それ以上に大編成、新編成されるのが、「島嶼戦争」態勢のための新部隊である。
新中期防によると、陸自には、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊」として、「2個高速滑空弾大隊」の編成が決定された。もはや、単なる研究開発段階ではなかったということだ。そして、「弾道ミサイル防衛部隊」として、「2個弾道ミサイル防衛隊」ーイージス・アショアーの新編成だ。さらに、海自では、「海上輸送部隊1個輸送隊」が、空自では、「空中給油・輸送部隊1個飛行隊」、「無人機部隊1個飛行隊」が新編成される。この他に、さらに、「スタンド・オフ・ミサイル(JSM、JASSM及びLRASM)の整備を進める」ほか、「新たな島嶼防衛用対艦誘導弾及び極超音速誘導弾の研究開発を推進」として、引き続き「島嶼戦争」用の「対艦・極超音速巡航ミサイル」導入が検討されている。
水陸機動団の3個連隊目の新編成
そして、引き続き南西シフト態勢のために「機動運用を基本とする作戦基本部隊(機動師団・機動旅団)」の新編成に加え、「航空機等での輸送に適した機動戦闘車等を装備し、各種事態に即応する即応機動連隊」が、引き続き新編される。そして、この機動師団・機動旅団に加え、「1個水陸機動連隊の新編等」により強化された水陸機動団が編成される。つまり、九州・佐世保にすでに編成された水陸機動団2個連隊に加えて、1個連隊が新編されるが、この配備先が沖縄島と予定されているのだ。
新中期防では「また、引き続き、南西地域の島嶼部に初動を担任する警備部隊の新編等を行うとともに、島嶼部への迅速な部隊展開に向けた機動展開訓練を実施」として南西シフトの機動展開演習を重視している。
機動展開能力強化と統合衛生
さらに、新中期防では、「機動・展開能力」と称して、「島嶼部への攻撃を始めとする各種事態に実効的に対応するためには、……状況に応じた機動・展開を行うことが必要である」とし、「このため、水陸両用作戦能力等を強化する。また、迅速かつ大規模な輸送のため、島嶼部の特性に応じた基幹輸送及び端末輸送の能力を含む統合輸送能力を強化するとともに、平素から民間輸送力との連携を図る。」としている。
この南西シフト態勢のために、奄美大島・種子島(馬毛島)などの、機動展開拠点の基地化・要塞化が押し進められているが、この海上輸送力の強化として民間船舶・ナッチャンWorldなどのフェリーがすでに動員されている。これに加えて、新中期防では、新たに陸自に「島嶼部への輸送機能を強化するため、中型級船舶(LSV)及び小型級船舶(LCU)を新たに導入するとともに、今後の水陸両用作戦等の円滑な実施に必要な新たな艦艇の在り方について検討」として、米軍などが保有する「上陸用舟艇」などが、初めて陸自の船舶輸送部隊として配備がなされる。
また、新中期防では、「島嶼戦争」の実戦態勢強化の一環として、すでに謳われていた「統合衛生」についても明記されている。「各種事態への対処や国内外における多様な任務に対応し得るよう、衛生機能を強化する必要がある。このため、隊員の生命を最大限守れるよう、第一線から最終後送先までのシームレスな医療・後送態勢を強化する。その際、地域の特性を踏まえつつ、南西地域における自衛隊の衛生機能の強化を重視する。また、自衛隊病院の拠点化・高機能化等により、効率的で質の高い医療体制を確立する。」
この、いわゆる「野戦病院」が、埼玉県入間市の空自基地の近くに建設される自衛隊病院である。
最後に明記すべきなのが、従来、「民生用」として盛んに言われていた「淮天頂衛星システム」が、この新中期防で軍事用として明らかになったことだ。「準天頂衛星を含む複数の測位衛星信号の受信や情報収集衛星(IGS)・超小型衛星を含む商用衛星等の利用等」と。これは、石垣島・宮古島・沖縄島・種子島を始めとする琉球列島弧を拠点に、すでに設置されているものだ。精度数㎝というこの衛星システムは、地対艦ミサイルや巡航ミサイルのGPS誘導のための軍事用であったということだ。
対中・日米共同作戦態勢下、新冷戦を作りだそうとする新大綱・新中期防をストップせよ
安倍政権下の、この新大綱・新中期防のもくろみは、もはや明白である。安倍政権は、この戦後最大の南西シフト態勢を突破口とする大軍拡において、新冷戦態勢を作り出そうとしているのだ。
米日中の(米日の仕掛ける)、アジア太平洋全域を巻き込んだ軍拡競争が、今、始まろうとしている。重要なのは、このような安倍政権の軍拡政策が、民衆の社会保障費などを徹底して削り落とし、消費税などの増税を行い、つまり、民衆の多大の犠牲の上になされようとしていることだ。自民党・自衛隊制服組の中からは、すでに「防衛費2倍化」が打ち出されている。
この状況のなか、私たちは、真剣に「軍拡停止・軍縮」の要求を掲げ、先島―南西諸島の「非武装地帯化」を求めるべき秋にきている。
*新大綱・新中期防の他の重要点
・「グレーゾーンの事態は、国家間の競争の一環として長期にわたり継続する傾向にあり、今後、更に増加・拡大していく可能性がある。こうしたグレーゾーンの事態は、明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらんでいる。」
・「安全保障協力の強化 自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、地域の特性や相手国の実情を考慮しつつ、多角的・多層的な安全保障協力を戦略的に
推進する。その一環として、防衛力を積極的に活用し、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援、軍種間交流等を含む防衛協力・交流に取り組む。」
――「オーストラリアとの間では、相互運用性の更なる向上等」
――「ンドとの間では、戦略的な連携を強化する観点から、「2+2」等の枠組みも活用しつつ、海洋安全保障を始めとする幅広い分野において、共同訓練・演習や防衛装備・技術協力を中心とする協力を推進する。また、日米印三国間の連携を強化」
――「英国やフランスとの間では、インド太平洋地域における海洋秩序の安定等のため、「2+2」等の枠組みも活用しつつ、より実践的な共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、二国間で連携した第三国との協力等を推進する。欧州諸国並びにNATO及び欧州連合(EU)との協力を強化する。カナダ及びニュージーランドとの間では、共同訓練・演習、二国間で連携した第三国との協力等を推進する。」
・「統合幕僚監部において、自衛隊全体の効果的な能力発揮を迅速に実現し得る効率的な部隊運用態勢や新たな領域に係る態勢を強化するほか、将来的な統合運用の在り方として、新たな領域に係る機能を一元的に運用する組織等の統合運用の在り方について検討の上、必要な措置を講ずるとともに、強化された統合幕僚監部の態勢を踏ま
えつつ、大臣の指揮命令を適切に執行するための平素からの統合的な体制の在り方について検討の上、結論を得る。」(これは、「南西統合司令部」設置の件だ!)
*新大綱全文
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/20181218.pdf
*新中期防全文
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/chuki_seibi31-35.pdf