かめよこある記

~カメもタワシも~
To you who want to borrow the legs of a turtle

スキップ・ガール 17

2017-08-04 16:10:00 | かめよこ手のり文庫

 公園に足を踏み入れると、すぐにあの男の姿が目にはいったきた。あれから一ヵ月ほどたっていた。
 あいかわらず例のヘンテコスーツを着ている。同じものをずっと着続けているのか、同じものを何着も持っているのか。
 わたしは顔を伏せ、目を合わせないように通り過ぎようとした。
「どうでした?はじめて時間をスキップした気分は」男の声に自然とため息がもれた。
「たしかに遅刻をしなかったことには感謝していますよ。でも、あの日受けたテストの結果は散々でした。もちろん、それはわたしの実力であって、あなたのせいだなんて言うつもりはありません。でも、あなたに会ってからというもの調子が狂ってしまって」
 ほんと、あの時のテストの点数ときたら、漫画やアニメでしかお目にかかれないような目を疑う数字だった。いくら探しても、いくら待っても「これはフィクションです云々」のお断りの類が目の前に現れることはなかった。
 この男が現れて以来、調子が狂ってしまったというのは本当だ。だって、その前のテストは上出来だった。それに浮かれてスキップをしてしまったくらいなんだから。
「どうもご迷惑をおかけしてしまったようですね。決してそんなつもりはなかったのですが」
 すまなさそうな男の態度に、むしろわたしはイラッときた。このつもりがないっていうのが一番たちが悪いんだよ。ナイフを振り回していた男が殺す気はありませんでしたと言う違和感。
「ずっと聞こうと思っていたんですけど、あなたの目的はなんなんですか?わたしなんかにつきまとたって、なんの得にもならないですよ」
「すみません。つきまとっているつもりはなかったのですが、そうとられていたならお詫びいたします。最初に申し上げました通り、あなたの素晴しい素質をみこんで、ぜひスカウトさせていただきたいと思いました」
 ほらきた、またつもりがないか。そのつもりのなさで、どんだけわたしが迷惑をこうむっていることか。
「だから、わたしをスカウトしてどうするんです?スカウトされたわたしは何をやらされるんですか」
「そうですね。まずは何から説明しましょうか。そう、未来の話をしましょう。タカラベ博士が、スキップが時間にあたえる効果についての歴史的発見を発表なされてから、これを有効に利用していこうという動きが世の中にひろがりました。それ以来、それまで誰も見向きもしなかったスキップという言葉を誰もが口にするようになりました。それは、まさに猫も杓子もという様相でした。そして瞬く間に世界的潮流となり、国際タイムスキップ宣言が採択されますと、人々が時代間を往来する時代がはじまりました。少子高齢化がこれから増々問題になっていくという話は、あなたも聞いたことがあるでしょう?」
「ええ。そんな話はよく聞く気がします」
「未来の世界では、この問題を国、地域間だけでなく各年度、年代間の人口の移動によってそれを解消しようとしたのです。未来人から過去へ最先端の学問や技術が伝えられ、過去人は未来に学びにといったように。または、その逆もしかりといった具合で年代間の交流が活発になっていったのです。それにより人類の発展、進歩は、それ以前に較べ劇的に加速していきました。協定を結んだ各年度や年代間では人々の往来が出来るようになり、それにより各年代間の競争が促されました。それぞれの年度年代は、より魅力的になるべく競い合うようになりました。そうでなければ他に人材がどんどん流出してしまいますから。時には、度を超えた誘致競争という弊害も見られはしましたが。そういう時代に生まれてくる子供たちは、そのような時代に生きるための教育を受けます。あなたの生きている現代では、まだ義務スキップ教育はありませんね?」「ぎっ、義務スキップ教育・・・?」
「子供たちは、スキップの基礎からはじまり、スキップ理論、スキップ基本技術及び実技、スキップ倫理等必要最低限の教育を受けます。義務スキップ教育を終えても、スキップできる時間の範囲というのは、個人差はありますが、だいたい1年から3年程度とかなり限られます。もちろん、それでは十分だとは言えません。ですから、幼少期のより早い段階からの英才教育や、より高度な専門教育に進むといったようなことも一般的になってきています。それを身につけているか身につけていないかによって、活躍の場や行動範囲が広がりもすれば制限されもするのですから。とはいえ、スキップについての教育は、他の分野に較べればいちじるしく遅れています。なにしろタカラベ博士が研究に着手なさるまでは、スキップの秘めた効能に誰ひとりとして目を留める者はいなかったんですからね」
 おそろしい。スキップが義務だなんて。今でさえ、あれこれと教科をこなすだけで大変だっていうのに、未来の子供たちは、これに加えてスキップまで詰め込まされているのか。これ以上どの隙間にそんなものを詰め込めっていうんだ。わたしは詰め放題じゃないんだ。
 とんだ話を聞かされたものだ。わたしにとっての未来は、今よりも確実に悪くなっている。かろうじて抱いていたほの明るい未来像が目の前でこなごなに叩き壊された気分だ。はずれの宝くじの結果を発表日前に聞かされてしまったような。これも、例のつもりがなかったの成せる技か。
 いや、だまされちゃいけない。未来のことを断定して語るヤツがいたとしたら、そいつは詐欺師だ。
 この男の話はいつ終わるんだ。この後も切りの悪い連載小説みたいに続くのか。で、わたしの問いにはいつになったら答えてくれるんだ?


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