「だいじょうぶですか?」
目を開けた時、マンジ氏がのぞきこんでいた。私は横になっているようだ。
「私、あの誰も行ったことのないという2120年代に行っていたみたい」「えっ?」
マンジ氏がめずらしく驚いた表情をみせた。
私を見に集まってくれた未来人は、なんとなくヘンテコではあったけど、現代人と変わらない格好をしていた。
それは、奇抜な未来人たちを見た現代人たちを驚かせないようにとのマンジ氏の作戦だった。
その後、にぎやかにサイン会、握手会、撮影会が行われた後、いよいよ私のスキップをお披露目することになったのだ。(その頃には、私はすっかり疲れてしまっていた)
いつものようにマンジ氏とスタートラインに立ち(大勢の目に晒されていた事はいつもと違っていた)、緊張の中、いつものようにスタートを切った。(やはり、いつもとは違っていたのだ)
思い出した。アクシデントがあったのはその直後だった。
いつもとは違うぎこちないスキップに不安を覚えながらも、いつもの水飲み場めがけて走っていた私とマンジ氏は、歪んで渦を巻きだした空間に飲み込まれてしまったのだ。
その時ばかりは、マンジ氏の手を必死に離すまいとしてつかんでいた。
マンジ氏とつないだ手を中心にグルグルと回るなかで、私の意識は深く遠のいていった。
「本当ですか、それは。で、どうでした?2120年代の世界は」
体を起こした私に、やはり抑えきれないのだろう、興味津々という感じでマンジ氏がみつめる。
「そこは、いつもと変わらないこの公園で、見るとベンチにおじさんが座って、こちらを見ていました」
「おじさんですか?」
「はじめ、マンジさんかと思った。そのひとは、マンジさんみたいなキラキラした光沢のある服をきていたから。ただ、その服は破れたり汚れていて、ずいぶん見すぼらしくみえたけどね。
そして、今は2120年代だと教えてくれた」
「それはすごい。あなたは、2120年代に行って戻ってこれた初めて人間ですよ」
そうなのだ。今まで2120年代に行って戻って来たひとはいないと聞かされてた。長い間、2120年以降の世界は謎に包まれていたのだ。
「何か話しましたか?そのひとと」
「おじさんは、ここで生活しているって言ってた。それに・・・」「それに?」
「この公園から外へ出てはならない。止めたにもかかわらず、出ていった者で帰ってきたものはいないって、すごく睨みつけるの」
「公園の外の世界で何か起こっているんでしょうか」
「わからない。それ以上は何も教えてくれなかった。私だって、今までのひとたちみたいに元の世界に戻れなくなったら困るし、外には行かなかった。なにより、おじさんの顔が怖くて・・・」
「あなたが公園の外に出ていかなかったのは賢明でした。そして、よく戻って来てくれました」
私はすぐに戻ってこれたわけではなかった。向こうで着地した時、片足にケガをしてしまったからだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます