それまでのドタバタがウソのように、シトネといっしょにわたしは校門を通り抜けた。
門を通り抜けてしまうまでは内心ドキドキだった。門柱の影に隠れていた鬼が、わたしだけを捕まえやしないかって。
わたしを捕まえて不気味に笑う鬼を見て驚くシトネ。まわりの生徒たちのあちこちから悲鳴があがる。
「素知らぬ顔をしているが、こいつにはおまえといっしょにこの門を通る資格はない。本当は遅刻して当然の身だったのに。こいつはズルをしたんだからな」
「ウソでしょ?」と問うシトネに無言でうつむくわたし。校庭を鬼がわたしをズルズルと引きずっていく。まわりに群がっていた生徒たちの目が一斉にそっぽを向く。
シトネにだけは知られたくなかった。後悔先に立たずとはいえ、こんなの公開処刑だ。彼女の姿がみるみる遠ざかっていく。
確かにわたしはズルをしたのかも知れない。でも、それほど悪い事だろうか。
たとえば、こう考えてみる。数学の問題で、はじめからややこしい計算を、順を追ってひとつひとつ解いていたとする。
しかし、その問題にばっちりの公式を知っていたとしたらどうだ。公式に数字や文字をぱっぱっと当てはめるだけで、一足飛びに答えに到達できてしまう。
同じように遅刻をしないでいい方法を知ってしまったら、それを使わないという手があるだろうか。その方法をわたしだけが知ってたとしたら、それは確かに不公平なことかも知れないけど。
なんでスキップをして時間を後戻りすることができてしまったのかは訳わからないけど、訳もわからずに使っているのは公式だってそうだ。
先生だって、もどかしいくらいやさしく教えてくれる時があったかと思えば、公式なんかは、これはそういうものなんだ、だからマルマル暗記しときなさいで済ませてしまったりするんだよな。
だいたい、これだけ多くの生徒を毎日毎日学校に通わせといて、遅刻をする生徒がいないって思うほうがどうかしている。
そりゃ、遅刻はほめられたことじゃあない。でも、確かにそこにあるものを、ないから目線でしか見ないことに無理はないんだろうか。
確かにわたしは遅刻をしないで済んだ。だけど、あの時置いてきた遅刻するほうのわたしはどこへ消えてしまったんだろうな。
ぜったい遅刻はしたくはないといって、わたしはわたしをそこに置いてきた。わたしにとって、いまとなっては都合の悪いわたしを。
それにしても、あの男は何が目的なんだ。わたしをスカウトして何をしようっていうんだ?
わたしも聞かなかったけど、男からも特にそれについての説明はなかった。やっぱり、あの男はなにか隠している。まず、わたしに恩を売っておいて後でなにか要求してくるつもりなんじゃ。
あの男、名前なんて言ったっけ。確かマンゲ・・・・・・、そうマンゲ・マジュウローだ。いかにもコピってぺーしたような名前だ。それに、見るからに胡散臭いキラキラ七色スーツ。ひとを決して名前や恰好で判断したくはないが、オレオレ詐欺だってもう少しうまくやるよ。
朝から、こんなことを繰り返し考えてしまっている。糸口が見えたと思うと、また見えなくなって。頭の中はグルグルいそがしく回ってるのに、開いてない回路の扉の前まで来ては行きつ戻りつを繰り返している。
まわりではカリカリカリカリ・・・。目の前の答案用紙は真っ白だ。カリカリカリカリ・・・。まわりの時間だけは刻一刻と過ぎていく。わたしの時間はふんずまり。いけない、早く同じ流れに乗らないと。
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