「それで、彼氏とはうまくいってるの?」シトネが真顔で聞いてきた。
「なにそれ?」「だって、彼氏できたんでしょ?」「やめてよ。そんなんじゃないわよ」
「だって、最近付き合い悪いからさ」「ごめん。いろいろと忙しいんだ・・・」
レッスンのこともあって誘いを断ることも増えていたから、シトネはそう思ったらしい。
ウソをつくなんてしたくないけれど、まさかスキップのレッスンを受けてるなんてこと、正直にはとても言えないから、いつも曖昧な返答をしてたせいもある。男とふたりっきりで公園にいることが知れたら、ゲスな勘繰りをされるだけだ。
じゃあ、シトネの誘いを断ってまでして貴重な時間を割いている肝心のレッスンがうまくいってるかというと、そうでもない。
相変わらず45分前後の時間をいったりきたりの足踏み状態が続いている。
タイムスキップ(わたしたちはそう呼んでいた)はしているという感覚は確かにある。あの例のUFOキャッチャーのアームにつかまれ(つかまれる箇所は、頭とは限らず毎回違った)、ウネウネと波うつ空間を漂った後、ポトンと下に落とされる。
落ちる先は、もといた公園だ。すかさず、公園に据えられた丸時計を見上げる。運動選手が記録を確かめるみたいに。前回より10分記録が伸びてよろこぶ日があったかと思えば、次の回からはぜんぜんダメになったり。成果が見えずに、ほんと何をしてるんだかわからなくなる。
それに、このレッスン風景は多くのひとびとに見学されているのだ。こんなみっともない姿を人目にさらしているのかと思うとみじめにもなる。もう、頑張ったけどダメでしたじゃ済まなくなっている、わたしだけの事じゃなくなってるんじゃないか。
マンジ氏は、わたしに才能があると見込んでくれた。でも、いつまでたってもこんな具合じゃ、そのうちに見限られるんじゃないか・・・。マンジ氏をはじめ、見えざるひとびとは、こんな先の見えないわたしに、いったい何を求めているのだ? いつしか無言のプレッシャーがわたしをジワジワとしめつけていた。
時計で数字を確かめるだけだから、時間移動からは、何かが変わったという実感はほとんど得られない。ウネウネ空間を漂うという体験だけが、それをしているんだという認識を助けはしたが、やはり幻覚を見せられているだけなんじゃないかという疑念は拭えない。
いつになったら、ここじゃないどこかに行けるんだ!?(タイムスキップでは、場所は移動できないんだけどね)わたしは叫び出したい気分だった。
そこには、ドラマみたいに未来だか過去の時代にいって、困っているひとを助けるとかいう華々しい活躍はない。今までタイムスキップが何か役立ったかといえば、あの日、遅刻をまぬがれたというただの一度きり。そんな成功体験も遠い昔のように思われ、いい加減薄れてきていた。
わたしは、いつしかマンジ氏の会社にあるというレッスンルームに辿り着くことを目指していた。(それは、氏にも言っていない)
広くて立派だというレッスンルーム。散々レッスンをした行く末がレッスンルームって、どうかとは思うが、こんな誰も寄りつかない公園よりずっといい。なにか目標でもみつけなければやっていられない。
だが、そこに行くにしたって、時間を何十年と飛び超えなければならない。今のわたしの実力からすれば気が遠くなる話だ。
「わたしのほうはうまくいってるよ」目の前に、わたしの顔をのぞき込むシトネの顔があった。ちょっと待った。シトネ、彼氏いたの?
「ごめんね。わたしたち、けっこう先に進んじゃってるんだ」「へえ・・・」シトネが急に遠くにいってしまったような気がした。
そうか。じゃあ、わたしも頑張んなきゃだね。って、何を?
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