その日、わたしは、いつになく緊張して、いつもの公園へ向かっていた。
その事を告げられたのは前回のレッスン終了後だった。
今までずっと姿を隠し続けていた未来からの見学者たちが姿を現し、わたしとの交流の場をもうけてくれるというのだ。
「あの問題はクリアになったんですか?」おずおずとそう聞くわたし。
「あの問題とは?」マンジ氏はピンとこなかったようだ。
「未来人は現代人と服装がかなり違うから姿を現すと大騒ぎになるからって・・・」
「ああ、その問題ですか。それでしたら大丈夫です。解決策を考えました。
少し大変なのですが、どうにか間にあうように準備を進めておりますので、どうかご安心ください」
「見てからのお楽しみです」そう言うマンジ氏が、いつになく微笑んでるように見えたのはなんだったんだろう。
まだ見ぬ彼らの姿を想像した。その姿は頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。様々に形を変えながら。それはどれも、どこかで見た事のある未来人像そのものだったけど。
しかし、公園に足を踏み入れたとたん、目に飛び込んできた光景に、期待に膨らんだわたしの胸は一気にシュンと萎んでしまった。
いつもの公園にマンジ氏がひとりきり。
あいかわらずの玉虫色のスーツがデタラメに日差しを四方八方に弾いていた。まずは、このひとの服装からなんとかしてもらいたいのだが。
周りをキョロキョロ見回しながら、わたしはマンジ氏に詰め寄った。
「今日ですよね。見学者の方たちは?」マンジ氏は憎らしいほど顔色ひとつ変えない。
「そうあわてないでください。
万全の準備は整いましたが、念には念をいれませんとね。
他人の目を警戒しなければいけないのはもちろんの事、いきなりでは、あなたまで驚かしてしまうと思いまして」
わたしは、改めて周囲を見回した。鬱蒼とした樹木に取り囲まれている。頭上にぽっかり空いた空。
世間から忘れられたようなこの公園には、わたしたち以外誰もいないのはもちろんのこと、周辺に高い建物もないこの公園は、誰かが覗き込むような心配さえないように思えた。
「ご心配なく。見学者の方々ははもういらっしゃってます」
マンジ氏は、いつになくやさしい声で言うと、振り向いて何か合図を送った。
すると、木立ちの影から人影がさっと現れた。少し間をお置いて、またその隣の木からというように、次々に姿を現した。
30代くらいの主婦、サラリーマン風の年配の男、スーパーイートの配達員、それにスマイリング・ドーナツのエプロンをした女性・・・。
それは最終的には30人以上にふくらみ、ちいさな公園いっぱいになった。まるで職業の見本市みたいな彼らの姿。
(なんなのこのひとたち?わたしが会いたかった人たちと全然違う。
全然未来ぽくないどころか、その辺で会う人たちといっしょじゃない!何かちょっと変な気はするけど・・・)
思わずわたしはマンジ氏を睨んでいた。(どういうこと!?)わたしの顔には、そう書かれていたはずだ。
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