相変わらず人気のない例の公園で、わたしは男と対峙していた。
「あの・・・。わたし、そのモデル・ガールっていうのに、ちょっと応募してみようかな・・・」
「応募ではありません。もう、既にあなたということで決定しているのです。それに、モデル・ガールですか、その呼び方は適当とは言えませんね。そのような狭いくくりではなく、あなたはこの時代を象徴する大きな存在なのですから」
「そそ、そうですか・・・。それで、わたしは何をしたらいいんですか?」
「とりあえず、何もして頂かなくてけっこうですよ。特に活動というものはありません」「え?ないんですか?」
「はい。あなたは、時代を象徴する存在ですから、何もせず、ありのままでいてくださりさえすれば、それでいいのです。むしろ、そうであることが求められます。それに、あなたは学生でいらっしゃいますし、学生生活に支障が出るような事があってはなりませんので。ただ、わたくし共が申請しまして、あなたが正式に認定されますと各時代から、あなたをご見学に来られる方々が大勢お見えになるかと思いますが」
認定?わたしを見学?「見学って。それは、ちょっとマズイかな・・・」
「ごめんなさい。心配させてしまったようですね。見学といっても、はじめ、それはごくごく限られた方々になるかと思います。未来では、あなたのような方々の生活に、くれぐれも支障が出ないよう様々な法整備がなされています。あなたのような存在を損なうことは、全人類にとっても大きな損失。そのような認識は、多くの人々の間で共有されています」「はあ・・・」
何にもしないでいいと言われるとかえって不安になる。わたしを見学に人々がぞろぞろと訪れるっていうし。それって、ほんとにわたしの生活が脅かされたりはしないのだろうか。
なんだか、自分が、どっかで掘り起こされた標本とか、どっかでみつかったネアンデルなんとーか人の骨になったみたいな気がしてきた。
何もしない、なんでもないそんなわたしを、人々がじろじろと見る。結局のところ、わたしは拾われた石ころなんだろうか。
「ほんとに何もしなくていいんですか?」
「そうですね。ただ、無理をしない範囲でかまいませんから、いまあるスキップの能力を落とさないように、あるいは向上させるために、いささかの鍛錬は必要といえるかも知れませんね。この時代区分では、あなたのような存在は、まだ発見されてはいませんが、今後、みつからないという保証はありません。そうなった場合、後発モデルのスキップ能力の方が、あなたに勝るということになってしまえば、今は安泰のあなたの地位も剥奪ということになってしまいかねません」「は、はく奪!」
男はこくりと頷いた。「それで、何をすればいいんですか?わたし」
「わたくしどもTSAでは、あなたのような恵まれた資質を持たれる方々の為の特別なプログラムをご用意しております。まずは、無理なく更に高度な技術に自然と移行できるように、はじめは週1程度からはじめてみましょうか?」「週1・・・」
「あなたのような優秀な方には、少々物足りなく思われるかもしれません。しかし、なにより重要な事は、それが途絶えてしまわないことですから。昔騒がれた神童が今はただの人ということはよくある話です。あなたの学生生活に決して負担にならないよう十分配慮もいたします」
「それで、そのレッスンはどこで受けることになるんですか?」
男は、ゆっくりとあたりを見まわしてから言った。「この公園で、というのはどうでしょう」「えっ、ここで?」
「あなたもご存知かと思いますが、ここには、ほとんどひとが立ち入る心配がありません。それに、あなたも毎日ここを通るわけですし、レッスンの場所としては、これ以上適格な場所は、なかなかみつからないのではないかと。わたくしどもTSA本社には、立派なレッスンルームが完備されているのですが、あなたの現在の時間スキップ能力30分では、弊社にたどり着くことが出来ません。それを考え併せましても妥当かと」
そうだった。彼の言う会社というのは、まだこの時代には存在していなかったんだ。
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