先日、藝大で開催された「蓄音機で聴くウラディミール・ホロヴィッツ」という企画で素晴らしい音楽を体感しました。(詳しくは→ こちらから)当日は、ホロヴィッツを愛し、自らもピアニストである江口玲(えぐちあきら)氏が、当時のホロヴィッツ専用チューニングのスタインウェイ(器体番号CD75実物)のデモ演奏を披露して下さり、その極上の響きを堪能しました。そして、ホロヴィッツは勿論ですが、江口節にもすっかり魅せられてしまいました。その江口氏の貴重なCDを入手しましたのでご紹介したいと思います。
・ NYS CLASSICS NYS-80619 巨匠たちの伝説/江口玲(写真↑)
※ CD75を使用したカーネギーホールでの録音
このピアノは響きが良く、濁りも無く、音色の表情も豊かです。江口氏の演奏については後述するとして、まずは、この音の心地よさ、豊かさについての話題です。
音濁りの無さや音色の表情に関しては、調律に秘密があって、ここではその話題は省かせていただきますが、オーディオ装置で再生するにあたっては、いわゆる「低音/高音がどうとか、歪むかどうか」といった評価方法では扱うことの出来ない「音楽性」の表現力が重要になります。通常のピアノでは出ない響きなので、それがきちんと再現されないと、その良さが伝わらない事になります。
因みに、このCDの某販売サイトへの書き込みでは、酷い音のピアノである旨の評価がありました。本来は、CD75の実物を生演奏でお聴きいただくべきだと思いますが、残念ながらお手持ちのオーディオ装置自体に対する評価になってしまったのではないかと推察します。
さて、この芸術品たるCD75を保全し、その音を後世に残すために企画されたのが本CDです。そしてその企画者である高木裕氏(タカギクラヴィア(株)社長)によるライナーノーツに下記の一文がありました。この内容は、現代のオーディオ装置にもまったくそのまま当てはまる叱咤であると受け止めた次第です。コンクールを「スペック」に、ハンマーを「見た目や構造」に、楽器を「オーディオ装置」に置き換えます・・・(以下抜粋)
~ コンクール偏重主義の弊害か、芸術点より技術点が評価の対象になりやすい時代になり、音楽性よりアクロバティックなテクニックが優先される様になってしまった。そのため、まろやかで甘ったるい音がして、叩いても汚い音が出ないように、ハンマーはより大きく重くなり、音色の変化に乏しい<誰が弾いてもそれなりに聞こえる>個性の無い楽器と調整が増え、楽器も芸術性を失ってしまった ~
誤解なきように付け加えさせていただきます。スペックはどうでも良いと申し上げるつもりは毛頭ありません。しかし、スペックとして表す事の出来ない重要な音質要素(音楽性)があるのにもかかわらず、これを無視、或いは理解せずにスペック偏重主義に陥ると本末転倒になる、という事であります。
閑話休題
江口玲氏の演奏についてです。今日では、テクニックは一流でも音楽性の豊かさが感じられない演奏が多いと思っておりますが、その対極とも言える「歌うような」演奏の江口節には惚れ込んでしまいます。この事は、20年も前に録音されたご紹介のCDでも十分に感じられるかと思いますが、つい先日拝聴したCD75のデモ演奏では、更に洗練された深みのある音楽でした。今後の更なるご活躍を期待しております。
追加して、江口氏の関連記事に興味深いものがありましたので、ご参考にリンクを貼っておきます。
更に追加して、タカギクラヴィアのオンラインショップのリンクも貼っておきます。江口氏の最新録音盤やCD75による録音物等色々と掲載されています。