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聖ジョルジュアンナ高等学園 1年J組 岡園恵一郎  第1部 恵一郎卒業す 32

2021年08月26日 | 岡園恵一郎(第1部全44話完結)
 翌朝、重く暗い気分で恵一郎は家を出た。イヤでイヤで仕方が無かったが、取りあえず学校へ向かう。
 行かないでいると、校長が迎えに来そうだ。それはそれで面倒だ。昨日の校長のはしゃぎっぷりから考えると、絶対に大騒ぎになる。両親に、ここで変な追い討ちはかけられない。完全に壊れてしまうだろうからだ。それだけ両親はもろくなっている。
 岡園家はいつも通りの朝を迎えた。母親が朝食を作り、父親が仕事用のスーツで食卓に着く。テレビのニュースを見ながら、たわいもない感想を言う父親に、母親がうなずいたり文句を言ったり笑ったりしている。そこへ恵一郎が二階から降りてきた。両親の会話が止まった。
「やあ、おはよう、恵一郎……」
「さあ、朝ご飯を食べなさい」
 両親はぎごちない。恵一郎は、両親が自分を遠巻きにしているように感じた。もうこの子は我が子ではない、そんなふうに感じた。それでも何とか平常の生活を続けようとする両親に、恵一郎は何も言えなかった。恵一郎は黙々と朝食を摂っている。
「学校に行って来るよ……」
「あら、そう?」母親がぎごちない笑顔で言う。「ハンカチとティッシュは持った?」
 訳の分からない事を言われたが、恵一郎はうなずいてみせた。
「さあて、父さんは仕事に行くかなあ」父親はぎごちなく言って食卓を離れる。「じゃあ、行って来るよ」
「いってらっしゃい」
 玄関に向かう父親の後に母親が従った。恵一郎は一人で食べていた。
「……まあ、良いか……」恵一郎はつぶやく。「僕が決定した事なんだ。僕はが全てを受け止めなきゃならないんだろうから。やれやれ……」
 そんな消極的な決意を新たにした恵一郎は、朝食を終えると家を出たのだった。
 ……逃げ場は無くなった。ならば、開き直って『聖ジョルジュアンナ高等学園』の生徒になってやろうじゃないか! ギャップに悩まされようが、馬鹿にされ笑い者になろうが、とにかく三年間通えば良いんだ! それから先の事は、またその時に考えれば良いのさ! 今回の事だって、数日前までは想像すらできなかった事なんだ。そうさ、先の事なんか、誰にも分からないのさ! くよくよくどくどしていたって、時間は同じだけ進んで行くんだからな! だったら僕は『聖ジョルジュアンナ高等学園』の特待生を受け入れて進むだけさ!
 外を歩いていても、いつもは下を向き気味でとぼとぼととしていた恵一郎だったが、今は胸を張って正面を見ている。
「ケーイチロー!」
 幼馴染の典子が声をかけてきた。恵一郎は鷹揚に典子の声のする方へと振り返る。典子が小走りで近付いてきて、目の前で止まる。
「やあ」
 恵一郎が呑気そうな声で挨拶をする。
「な~にが、やあ、よ!」典子はむっとした顔をする。「落ちたって聞いてから会えなくなっちゃってたのに! ずいぶんと余裕ね」
「まあ、ね」
「……二次募集とか何かで学校が決まったの?」典子は急に真顔で訊く。「それとも、マグロ漁船が決まったとか?」
「典子までそんな事を言うのかよう!」恵一郎は口を尖らせる。「……でも、まあ、大丈夫だよ」
「じゃあ、高校が決まったのね!」典子の表情がぱっと明るくなった。「良かったぁ! 本当に心配してたのよ! で、どこの高校に行くの?」
「え? 典子は知らないの?」
「知らないのって…… 何の事?」
 ……そうか、昨日の今日だもんな。恵一郎は思った。先生たちだけで盛り上がっているって事か……
「いや、何でもないよ」
「そう言われると、気になっちゃうわねぇ……」
「まあ、学校へ行こう」
 二人は並んで歩いた。と、通りを曲がった所で、勝也と取り巻きたちに出くわしてしまった。


つづく


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