『斬鬼丸』・・・ 葉子は手の中のそれを見つめた。・・・わたしの唯一のお守りなんだわ。強く握った。頼れる人に寄り添った時のような、ほっとする温かさが、手の平から全身に伝わった。もう一方の手を添え、胸元に押し当て、目を閉じる。・・・『斬鬼丸』、わたしを助けて。お願い! 葉子は何度も心の中で繰り返した。
「下らない女だ!」
妖介は吐き捨てるように言うと、外へ出て行った。
「お姉さん・・・」エリが葉子の肩に手を乗せた。その優しい感触に、葉子は思わず目を開け、エリを見つめた。「大丈夫、その『斬鬼丸』は、お姉さんを選んだんだから、絶対に裏切らないわ・・・」
エリは『斬鬼丸』を握りしめている葉子の手に、優しく微笑みながら自分のそれを重ねた。
「エリ・・・ ちゃん・・・」涙が溢れた。・・・この娘、本当はとっても優しいのね。こんなにわたしを心配してくれて、こんなに優しくしてくれて。「ありがとう・・・」
「いいのよ。・・・だって、お姉さん、わたしの昔話に涙流してくれたから。・・・照れくさくって、平気な顔してたんだけど、嬉しかったわ」
「そうなの・・・」葉子も微笑んだ。気持ちがすっと軽くなる。「喫茶店では、ごめんなさいね。わたし、自分の事ばかり考えちゃって・・・」
「仕方ないわよ。恐くなって当然だもの。わたしだって逃げ出したくなる事があるもの」
エリは葉子の手を握りながら立ち上がった。葉子もそれに従った。しばらく見つめ合う。
「お姉さん・・・」
エリは小さな声で言うと、葉子に抱きついた。葉子の背中に手を回し、まだ熟していない膨らみを強く押し付けてきた。ミニスカートから伸びている脚が、下着一枚の葉子の脚に触れた。頬が触れ合った。どちらも滑らかで、それでいて熱い。エリの髪から立ち上がる甘い香りが葉子の鼻腔をくすぐる。
エリがふと頬を離した。すぐ目の前にエリの顔があった。整った大人びた顔の中に、まだあどけない少女がいた。葉子は垂らしていた両腕をエリの背中に回した。見つめ合う顔が少しずつ近づいて行く。
葉子は目を閉じた・・・
「おい、馬鹿女! そんな淫乱下着のままでエリと抱き合って、目まで閉じて、何をする気なんだ?」
乱暴な妖介の物言いに、葉子ははっと目を開けた。眼の前のエリは含み笑いを洩らしながら、下を向いて肩を震わせている。
葉子はエリを突き放し、座り込んだ。・・・何なのよう! 一体どう言う事なのよう!
「分かっただろう、馬鹿女。お前は隙があると男も女も関係なく欲情しやがるんだ!」妖介は忌々しそうにそう言うと、ソファに座り込んだ。「基本、淫乱なんだよ!」
「ごめんね、お姉さん。妖介が試すように言ったの。でも、目を閉じた時、ドキドキしちゃった。お姉さん、本気だったんだもん・・・」
ニコニコしながら言うエリを、葉子は睨みつけた。・・・二人してわたしを馬鹿にしているのね! わたしをオモチャだと思っているのね! ふと幸久の言葉を思い出した。
『お前は俺の大切な玩具だよ!』
・・・幸久もそうだったんだわ。わたしは嫌われないように、自分を押し殺してまで、付き合っていたのに。結局は捌け口でしかなかったんだわ。
「だがな」妖介は言った。「捌け口として扱われたが、それがお前にピッタリだったってわけだ」
葉子は妖介を睨みつけた。しかし、すぐに視線をカーペットに落とした。・・・そうかもしれないわ。変な格好や恥ずかしい格好は、最初こそイヤだったけど、いつの間にか馴染んでいたし、自分から進んで新しい格好をしたこともあったわ。恥ずかしいけど、それがとっても刺激的だったわ。葉子の脳裏に経験した格好が巡った。
「お姉さん、ちょっと、葉子お姉さん!」エリが大きな声で言った。真っ赤な顔をしている。「・・・止めてよ、未成年には刺激強すぎ!」
「あ・・・」葉子は我に返った。・・・この人たち、わたしの心が読めるんだったわ! 葉子も赤くなってしまった。「・・・ごめんなさい・・・」
「分かるか? 今のお前は淫乱全開なんだよ」妖介は犬歯を剥き出す。「気をつけないと、妖魔がうじゃうじゃと湧いて来るぜ」
妖介は立ち上がった。葉子が見上げる。
「オレ達は出て行く」
妖介は短く言った。エリも妖介の傍に立つ。葉子もあわてて立ち上がった。
「どこへ行くのよう! わたしを一人にするつもりなの?」
妖介はすがりつく葉子をうるさそうに見つめた。
「人を鎧った妖魔では、オレ達には何も出来ない。そして、オレ達がいたら、幸久はやってこない」
「じゃあ、どこかで見張っていてくれるの?」
「妖魔は鋭い。オレ達にすぐ気付く。気付くと機会をいつまでも待つだろう。イライラしている状態も、奴らには快でしかない」
「じゃあ、どうすれば・・・」
突然『斬鬼丸』が青白く光った。葉子はそれを見つめた。・・・頼れるものは、『斬鬼丸』だけ・・・
「・・・そう言う事だ」
妖介は犬歯を見せた。
つづく
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「下らない女だ!」
妖介は吐き捨てるように言うと、外へ出て行った。
「お姉さん・・・」エリが葉子の肩に手を乗せた。その優しい感触に、葉子は思わず目を開け、エリを見つめた。「大丈夫、その『斬鬼丸』は、お姉さんを選んだんだから、絶対に裏切らないわ・・・」
エリは『斬鬼丸』を握りしめている葉子の手に、優しく微笑みながら自分のそれを重ねた。
「エリ・・・ ちゃん・・・」涙が溢れた。・・・この娘、本当はとっても優しいのね。こんなにわたしを心配してくれて、こんなに優しくしてくれて。「ありがとう・・・」
「いいのよ。・・・だって、お姉さん、わたしの昔話に涙流してくれたから。・・・照れくさくって、平気な顔してたんだけど、嬉しかったわ」
「そうなの・・・」葉子も微笑んだ。気持ちがすっと軽くなる。「喫茶店では、ごめんなさいね。わたし、自分の事ばかり考えちゃって・・・」
「仕方ないわよ。恐くなって当然だもの。わたしだって逃げ出したくなる事があるもの」
エリは葉子の手を握りながら立ち上がった。葉子もそれに従った。しばらく見つめ合う。
「お姉さん・・・」
エリは小さな声で言うと、葉子に抱きついた。葉子の背中に手を回し、まだ熟していない膨らみを強く押し付けてきた。ミニスカートから伸びている脚が、下着一枚の葉子の脚に触れた。頬が触れ合った。どちらも滑らかで、それでいて熱い。エリの髪から立ち上がる甘い香りが葉子の鼻腔をくすぐる。
エリがふと頬を離した。すぐ目の前にエリの顔があった。整った大人びた顔の中に、まだあどけない少女がいた。葉子は垂らしていた両腕をエリの背中に回した。見つめ合う顔が少しずつ近づいて行く。
葉子は目を閉じた・・・
「おい、馬鹿女! そんな淫乱下着のままでエリと抱き合って、目まで閉じて、何をする気なんだ?」
乱暴な妖介の物言いに、葉子ははっと目を開けた。眼の前のエリは含み笑いを洩らしながら、下を向いて肩を震わせている。
葉子はエリを突き放し、座り込んだ。・・・何なのよう! 一体どう言う事なのよう!
「分かっただろう、馬鹿女。お前は隙があると男も女も関係なく欲情しやがるんだ!」妖介は忌々しそうにそう言うと、ソファに座り込んだ。「基本、淫乱なんだよ!」
「ごめんね、お姉さん。妖介が試すように言ったの。でも、目を閉じた時、ドキドキしちゃった。お姉さん、本気だったんだもん・・・」
ニコニコしながら言うエリを、葉子は睨みつけた。・・・二人してわたしを馬鹿にしているのね! わたしをオモチャだと思っているのね! ふと幸久の言葉を思い出した。
『お前は俺の大切な玩具だよ!』
・・・幸久もそうだったんだわ。わたしは嫌われないように、自分を押し殺してまで、付き合っていたのに。結局は捌け口でしかなかったんだわ。
「だがな」妖介は言った。「捌け口として扱われたが、それがお前にピッタリだったってわけだ」
葉子は妖介を睨みつけた。しかし、すぐに視線をカーペットに落とした。・・・そうかもしれないわ。変な格好や恥ずかしい格好は、最初こそイヤだったけど、いつの間にか馴染んでいたし、自分から進んで新しい格好をしたこともあったわ。恥ずかしいけど、それがとっても刺激的だったわ。葉子の脳裏に経験した格好が巡った。
「お姉さん、ちょっと、葉子お姉さん!」エリが大きな声で言った。真っ赤な顔をしている。「・・・止めてよ、未成年には刺激強すぎ!」
「あ・・・」葉子は我に返った。・・・この人たち、わたしの心が読めるんだったわ! 葉子も赤くなってしまった。「・・・ごめんなさい・・・」
「分かるか? 今のお前は淫乱全開なんだよ」妖介は犬歯を剥き出す。「気をつけないと、妖魔がうじゃうじゃと湧いて来るぜ」
妖介は立ち上がった。葉子が見上げる。
「オレ達は出て行く」
妖介は短く言った。エリも妖介の傍に立つ。葉子もあわてて立ち上がった。
「どこへ行くのよう! わたしを一人にするつもりなの?」
妖介はすがりつく葉子をうるさそうに見つめた。
「人を鎧った妖魔では、オレ達には何も出来ない。そして、オレ達がいたら、幸久はやってこない」
「じゃあ、どこかで見張っていてくれるの?」
「妖魔は鋭い。オレ達にすぐ気付く。気付くと機会をいつまでも待つだろう。イライラしている状態も、奴らには快でしかない」
「じゃあ、どうすれば・・・」
突然『斬鬼丸』が青白く光った。葉子はそれを見つめた。・・・頼れるものは、『斬鬼丸』だけ・・・
「・・・そう言う事だ」
妖介は犬歯を見せた。
つづく
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