妖魔はエリを『斬鬼丸』の刀身へ向ける。
「お姉さん、わたし越しじゃ『斬鬼丸』は効かないわ!」エリが言う。妖魔の槍が再びエリの喉に食い込む。「痛いじゃないのよう! 馬鹿妖魔!」
腹を捕らえている槍が動いた。ワンピースが横に裂け、エリの白い腹が剥き出しになった。しばらくしてそこに赤い横線が浮き上がった。
「いたたたた・・・」からだをよじる。横線が開き、血が流れた。「止めなさいよう! 疵物にするつもりなの?」
妖魔は息の漏れるような声で笑った。胸を捕らえている槍が動いた。
それより一瞬速く、葉子の『斬鬼丸』の刀身が伸びた。妖魔はエリを盾にした。刀身がエリに当たり消えた。葉子はすかさず刀身を立て、妖魔に向ける。
「・・・葉子・・・」
エリの背後で、ややかすれたような男の声がした。生臭い臭いが消えている。エリは肩越しに振り返った。
若い男の顔があった。辛そうな、苦しそうな表情をしている。その顔が葉子を見据えた。
「・・・助けてくれ。俺はまだこいつの中に閉じ込められているんだ・・・」
エリは葉子を見た。呆然とした表情だった。そして、その中に、淫靡なものが見て取れた。
「・・・幸久・・・」葉子はつぶやくように言った。刀身が消えた。『斬鬼丸』を持った手が力無く下がる。「ああ・・・幸久・・・」
「お姉さん! ダメよ! これは妖魔よう!」
エリが叫んだ。妖魔が幸久の顔と言葉とどうしようもない淫らな思いとを真似ているのだ。葉子がそれに反応している。
「しっかりしてよう! お姉さんだけが頼りなんだからあ!」
葉子が再び操られようとしている。今戦えるのは葉子だけだ。その目を覚まさせなければ、全員ここで朽ち果てる。
「お願い! 妖介を助けてよう!」
倒れて動かない妖介を、赤い瘤と化した妖魔が少しずつ覆い始めている。妖介の命が尽きようとしていて、懼れる必要が無くなったと言うことかもしれない。
しかし、エリの叫びは届かなかった。
葉子の全身から漂っていた白い揺らめきが消えた。纏っている裂けた妖介のシャツを『斬鬼丸』を持たない手で引き千切った。一糸纏わぬ葉子が、艶然とした笑みを浮かべた。周りの瘤が活気付いたように赤さを増した。
「お姉さん、お姉さん!」もがきながらエリは叫び続けた。涙を浮かべている。「しっかりしてよう! こんな糞妖魔なんかに負けちゃダメよう!」
「・・・うるさいガキだな・・・」
エリの背後で幸久の声がした。
エリが振り返ると、幾本も緑色の筋の浮いた顔に、つりあがった白濁の目を細め、生臭い息を吐いていた。エリの手足の蔦が引き絞られた。エリが苦痛の呻きを漏らす。
「痛いじゃないのよ! それにわたしはガキじゃないわよ! うら若き乙女よ!」エリは妖魔を睨みつけた。「お姉さんは、妖介が見込んだんだから、お前ごときに負ける訳がないのよ! 覚悟しておくのね!」
エリは笑い声を立てた。
妖魔が雄叫びを上げた。
エリの笑い声が悲鳴に変わった。
エリを捕らえていた槍が、エリの喉を胸を腹を貫いたからだった。さらに背後から数本の槍が衝き抜け、その先端から赤い血を滴らせた。
つづく
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「お姉さん、わたし越しじゃ『斬鬼丸』は効かないわ!」エリが言う。妖魔の槍が再びエリの喉に食い込む。「痛いじゃないのよう! 馬鹿妖魔!」
腹を捕らえている槍が動いた。ワンピースが横に裂け、エリの白い腹が剥き出しになった。しばらくしてそこに赤い横線が浮き上がった。
「いたたたた・・・」からだをよじる。横線が開き、血が流れた。「止めなさいよう! 疵物にするつもりなの?」
妖魔は息の漏れるような声で笑った。胸を捕らえている槍が動いた。
それより一瞬速く、葉子の『斬鬼丸』の刀身が伸びた。妖魔はエリを盾にした。刀身がエリに当たり消えた。葉子はすかさず刀身を立て、妖魔に向ける。
「・・・葉子・・・」
エリの背後で、ややかすれたような男の声がした。生臭い臭いが消えている。エリは肩越しに振り返った。
若い男の顔があった。辛そうな、苦しそうな表情をしている。その顔が葉子を見据えた。
「・・・助けてくれ。俺はまだこいつの中に閉じ込められているんだ・・・」
エリは葉子を見た。呆然とした表情だった。そして、その中に、淫靡なものが見て取れた。
「・・・幸久・・・」葉子はつぶやくように言った。刀身が消えた。『斬鬼丸』を持った手が力無く下がる。「ああ・・・幸久・・・」
「お姉さん! ダメよ! これは妖魔よう!」
エリが叫んだ。妖魔が幸久の顔と言葉とどうしようもない淫らな思いとを真似ているのだ。葉子がそれに反応している。
「しっかりしてよう! お姉さんだけが頼りなんだからあ!」
葉子が再び操られようとしている。今戦えるのは葉子だけだ。その目を覚まさせなければ、全員ここで朽ち果てる。
「お願い! 妖介を助けてよう!」
倒れて動かない妖介を、赤い瘤と化した妖魔が少しずつ覆い始めている。妖介の命が尽きようとしていて、懼れる必要が無くなったと言うことかもしれない。
しかし、エリの叫びは届かなかった。
葉子の全身から漂っていた白い揺らめきが消えた。纏っている裂けた妖介のシャツを『斬鬼丸』を持たない手で引き千切った。一糸纏わぬ葉子が、艶然とした笑みを浮かべた。周りの瘤が活気付いたように赤さを増した。
「お姉さん、お姉さん!」もがきながらエリは叫び続けた。涙を浮かべている。「しっかりしてよう! こんな糞妖魔なんかに負けちゃダメよう!」
「・・・うるさいガキだな・・・」
エリの背後で幸久の声がした。
エリが振り返ると、幾本も緑色の筋の浮いた顔に、つりあがった白濁の目を細め、生臭い息を吐いていた。エリの手足の蔦が引き絞られた。エリが苦痛の呻きを漏らす。
「痛いじゃないのよ! それにわたしはガキじゃないわよ! うら若き乙女よ!」エリは妖魔を睨みつけた。「お姉さんは、妖介が見込んだんだから、お前ごときに負ける訳がないのよ! 覚悟しておくのね!」
エリは笑い声を立てた。
妖魔が雄叫びを上げた。
エリの笑い声が悲鳴に変わった。
エリを捕らえていた槍が、エリの喉を胸を腹を貫いたからだった。さらに背後から数本の槍が衝き抜け、その先端から赤い血を滴らせた。
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