お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 21

2012年08月20日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
 豆蔵が先を行く。十手を左右に振りながら寄ってくる浮遊霊を追い払う。追い払われた霊体は、さとみを何とも言えないいやらし目つきで見ている。さとみは豆蔵の肩に手をかけながらついて行く。離れたら捕まってしまいそうだと思った。
「嬢様」隙間の前に立って豆蔵が振り返った。「これから入って参ります。よろしゅうございますね……」
 さとみはこくんとうなずいて見せた。滲み出ている闇が揺れ動いている。さとみたちを誘っているのだろうか。
 豆蔵は進んだ。さとみはその肩に手をかけたままで続いた。
 闇。
 絶望的に暗く、救いのない闇だった。来る者を拒むように、全身を貫く冷気が奥の方から吹き出てくる。濃い闇で豆蔵の姿も見えなくなった。さとみは肩にかけている手に力を入れる。空を見上げた。しかし、空の青は見えなかった。闇が覆っていた。
「豆蔵……」さとみは不安そうな声を出す。「ちゃんと居るわよね?」
「嬢様、ご心配なく。嬢様がつかんでいるのは、あっしの肩で間違いございません」
 さとみはほっと安堵の吐息を漏らす。
 しばらく無言で先へ進んだ。時々浮遊霊が不気味に笑う声がした。そのたびに豆蔵が十手を振り回す。
 突然、闇の中に蒼白い光が一つ、さとみの目の前で灯った。光は揺らめいている。ぼうっと浮かび上がった豆蔵の背中が、それに合わせて揺れる。。
「きゃっ!」
 思わずさとみは悲鳴を上げ、しゃがみ込んだ。
「嬢様、ご安心を」豆蔵が振り返り、強い口調で言う。「人魂です。奴ら、脅しをかけてきているんです。こんな子供っぽい手でね」
 人魂は豆蔵の言葉に不満気に揺れて見せた。豆蔵は十手を人魂に向かって繰り出した。人魂はすうっと消えた。さとみはよろよろと立ちあがった。大きく深呼吸をする。足腰がしゃんとなった。豆蔵はそれを認めると歩き出した。さとみはあわてて豆蔵の肩に手をかけた。
「……ねえ、豆蔵……」しばらくしてさとみがささやくように言った。「まだ辿り着かないのかしら? もうかなり進んだと思うんだけど…… ひょっとして、同じ所をぐるぐると歩き回されているんじゃないかしら?」
「……そうかもしれませんね」豆蔵が立ち止った。辺りの気配を探るように闇を見回す。
「……それにしても、さっきの人魂と言い、ここの主とやらは、ずいぶんと子供じみたことが好きなようですね。おつむの出来がどこかで止まっちまったのかもしれませんぜ……」
闇が揺れた。禍々しい気配がうねりとなってさとみたちに押し寄せた。
「なんだとおおおおっ!」
怒声が響いた。大きく恫喝的なものだった。



 つづく



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