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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 38

2022年06月30日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
「兄貴、なめられてるぜ!」一郎の後ろにいる中の一人が言う。「ここは一つ、やっちまわねぇと……」
「まあ、待て、二郎」一郎がたしなめる。「オレたちの役目はここを守る事だ。ぶちのめすことじゃねぇ」
「でもよう、二郎兄貴の言う事も分かるぜぇ」別の一人が言う。「守るって事はよう、ぶちのめすってのと同じじゃねぇかよう」
 ……うわあ、竜二みたいな話方だわ。さとみはげんなりとする。普段は竜二を思い出しもしないのに、こんなイヤな切っ掛けで思い出してしまう自分に腹を立てるさとみだった。
「まあまあ、三郎よ、落ち着きな」一郎は言うと、さとみと三人の祖母たちを見る。「向こうは、ちんちくりんの娘っ子とよぼよぼの婆あだ。慌てるこたぁねぇよ」
「一郎兄貴、油断は禁物だぜ」最後の一人が言う。三人と比べると、ややまともそうだ。「ここを守るようにって事は、ここを襲うヤツが居るって事だろ? オレたち四人で固めているんだから、そこそこ手強いはずだぜ」
「四郎は相変わらず心配性だな」一郎が笑う。「オレたち四人がそろえば無敵って事だよ。辰兄ぃもユリアの姐御も、それが分かっているから、オレたちに任せてんだよ」
「そうだと良いんだがな……」四郎はつぶやくと、二人の兄たちを見る。二郎も三郎も、自信ありげにうなずいている。「そうだな、オレたちは強い!」
 マハラジャ四兄弟は、さとみと祖母たちを睨み付けてきた。
「……さとみ、笑ってばかりいちゃいけないよ」静がさとみに言う。「あいつら、襲ってくる気だよ」
「え……?」さとみは笑いを引っ込めた。「そんなぁ……」
「さとみちゃんが笑ったからだよ」珠子が言う。「こうなったら、さとみちゃんが一番前に立って頑張ってくれなくちゃ」
「ふえぇぇぇぇ……」さとみは情けない声を出す。「わたし、暴力はダメなんですけど……」
「二人とも、さとちゃんを脅かさないでくださいな」冨が言い、さとみに振り向く。「さとちゃん、心配しなさんな。わたしたちは、さとちゃんを守るためにこうしているんだからね」
「な~にをぶつぶつやってんだあ、婆さんどもよう!」竜二に似た喋り方の三郎が怒鳴る。「やられたくなきゃあ、とっととどこかへ行きやがれってんだ!」
「オレたちはな」二郎が凄んでみせる。しかし、着ているの物のせいか、今ひとつ迫力がない。「女子供だからって、容赦はねぇ、地獄のマハラジャなんだぜ!」
「ふん、能書き垂れてないで、掛かっておいでな」静が小馬鹿にする。「それとも、こっちから行こうかい? ボクちゃんたち?」
「ふざけんじゃねぇぞ! 婆さんどもよう!」太郎が顔を真っ赤にして怒鳴る。「ボクちゃんじゃねぇ! 地獄のマハラジャ四兄弟だぁ! 野郎ども、遠慮すんじゃねぇ! やっちまえ!」
 言い終わると、四人はさとみたち目がけて、雄叫びを上げながら飛び出してきた。
「うわあっ!」
 さとみは悲鳴を上げると、目をつぶり頭を抱えてうずくまった。しばらくそのままでいたが、四兄弟の飛び出してくる雄叫び以降、音がしなかった。さとみは恐る恐る片目を開けた。
「……あれ?」
 四兄弟はあちこちに散らばって倒れていた。ぴくりともしていない。祖母たちは何も無かったかのように立っている。
「やっぱり、口ほども無かったねぇ……」静がため息交じりに言う。「漫才師の方がお似合いだよ」
「ちょっと気を飛ばしただけだよ?」珠子が呆れた顔をしている。「それなのにあっさりとやられちまって……」
「地獄のマハラジャ四兄弟ねぇ……」冨は苦笑している。「この子たちの生前を見ると、意気がって調子に乗っていたお馬鹿さんな四兄弟が、あるおっかない組織の倉庫に忍び込んで盗みを働こうとしたところを捕まって、いっぺんに始末されたんだねぇ。意気がるだけが取り柄だから、あの世に逝かずに、こんな事になっちまって……」
 祖母たちは近所の立ち話と言った様子だ。
「あのう……」さとみが祖母たちに話しかけた。「やっつけちゃったんですか?」
「見ての通りだよ」珠子が笑む。「弱すぎて、お話にならなかったよ」
「でも、どうしてそんなのを檻の見張りにしたんでしょう……?」
「さあねぇ……」
「それは多分……」片岡が言う。片岡は百合恵同様、生身で霊体と会話が出来る。静がすっと片岡の横に立った。「さゆりたちにとっては、捕らえたさとみさんのお仲間に執着が無いと言う事ではないでしょうか?」
「どう言う事ですか?」さとみが訊く。「捕まえても捕まえなくても、どっちでも良かったって事ですか?」
「お仲間が捕まった時、さとみさんはどう思いました?」
「……悲しくて、絶望的で、どうしたら良いのか分からなくなりました」さとみは正直に答えた。「でも、お婆さん方や片岡さん、百合恵さんのおかげで、踏ん張れました」
「さゆりは、さとみさんを屋上まで呼び出したい。その手段としてお仲間を捕らえた」片岡が言う。「でもね、遅かれ早かれ、さとみさんはさゆりの前に出る。さゆりはそう確信したのですよ」
「じゃあ、みんなを解放してくれるって事ですか?」さとみは言うと、青白い揺らめきを見つめる。「だったら嬉しいですけど……」
「そんな事をしたら、さゆりはみんなに総攻撃を喰らっちまうよ」静が言う。「わたしたちだっているんだよ? さゆりは不利なじゃないかねぇ」
「いえ、静さん」片岡は静に向かって言う。静は何となく嬉しそうにしている。「皆さんが束になって来ても、揺らぐ事はないと確信しているのですよ。日々集まって来る霊体の邪気や恨み辛みは高まって来ています。それらを吸収したさゆりは、昨日よりも今日と言う様に、さらに強く、凶悪になっているのです……」
「うわぁ……」さとみは思い切りイヤな顔をする。「そのさゆりが、わたしをどうにかしたいって言っているんですよね? どうしよう……」
「嬢様! そんな弱気じゃいけやせんぜ!」
 不意に声がした。振り向くと、青白い揺らめきから、豆蔵が出てきた。続いて、みつ、冨美代、虎之助と現われた。皆、力強くうなずいている。


つづく


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