「竜二ちゃん!」
虎之助が瞳をきらきらさせて竜二に後ろから抱きついた。竜二は思わず抱えていた子供たちを落としそうになった。子供たちは悲鳴を上げて竜二に強く抱きつく。竜二も子供たちをしっかり抱える。
「おいおい、危ないじゃないかよう!」竜二は困った顔で言う。「それに、そんなに強く抱きつかれたら、あばら骨が折れちまいそうだ」
「良いのよ! 良いの……」虎之助の力がさらに強くなる。「あああ、わたし幸せ……」
「あばら骨折るのが良いわけないだろうよ」背中に虎之助の頬擦りを感じながら竜二が言う。「それに、子供たちの前だぜ、ちょっと離れろよ」
「な~にを照れてんのよう!」虎之助は離さない。「もう、好き好き、大好き!」
「分かった、分かったよう」
竜二は面倒くさそうに言う。それからからだを屈めて子供たちを下ろした。まさきもきりとも竜二の前から離れず、竜二を見上げている。
「良いか、二人とも」竜二はしゃがみ込んで子供たちを交互に見る。「男ってのは、つまらない事はやらないもんだ。分かったな?」
「うん、わかった」まさきがうなずく。「……じゃあさ、なにをすればいいの?」
「そうだなぁ……」竜二は周りを見回す。ぽつんと立っているみきを見た。「男なら、女を守るんだ。あの子のそばに居て一緒に遊んでやるんだな」
「でもさ」きりとが口を尖らせる。「みきちゃん、ぼくらとはあそべないっていうんだ」
「そうなんだ」まさきも口を尖らせる。「ぼくらがこどもっぽくってつまんないっていうんだ」
二人は日ごろの不満を竜二にぶつけている。それだけ信用されたようだ。
「あのなぁ……」竜二がため息をつく。「男ってのはなぁ、女を守るようにできているんだ。女は弱い生き物だ」
「うそだ、みきちゃんはつよいよ!」
「そうだそうだ、きりとのいうとおりだ!」
「馬鹿野郎!」竜二が叱る。二人は黙ってしまう。「それはな、まさきもきりとも弱すぎるからだ。だからみきちゃんは安心できないんだ。お前らが強けりゃ、みきちゃんはお前らを頼りにする」
「たよるって?」
「そうだなぁ……」竜二は考える。「……まあ、可愛い子になるって事だな」
「えええ~っ!」
二人が同時に声を上げる。体育館の出入り口で朱音の悲鳴が聞こえた。
「みきちゃんがかわいくなるだって?」
「おんなばんちょうだぞ!」
二人は顔を見合わせている。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、みきちゃんの所に行くんだ。そして、一緒に遊ぶんだ」
竜二に言われ、渋々と言った態でまさきときりとはみきの方へと向かった。その様子に満足そうにうなずく竜二だった。
さとみとみつと豆蔵とが竜二の前に立った。
「……竜二、あなた、子ども扱いが慣れているみたいですごいじゃない!」さとみの言葉にみつも豆蔵もうなずく。「何か食べたの?」
「そんなわけないよ。でもさ、面と向かって、すごいなんて言われると照れちまうなぁ……」竜二が笑む。「まあ、オレの親父がこんな感じだったんだ。それを真似しただけさ」
「厳しいお父さんなのね。なのにその息子は……」
「でもね、親父、オレがガキの頃に病気で死んじまってさ。それからは母親一人だったんだ」
「まあ……」さとみは驚く。それから、ぺこりと頭を下げた。「ごめんなさい、わたし、知らなかったわ……」
「いや、良いんだ、気にしないでよ」竜二は笑む。「親父は厳しかったけど、母親は甘やかしって言うか、ほったらかしでさ、それでオレはこんなになっちまった。だから、あれくらいの子供が悪さしていると許せなくってさ。生きている時も、ああ言う悪さをしている子供を叱ったら、その母親に警察を呼ばれたよ。まあ、こんな格好してたら仕方ないかな?」
「馬鹿ね……」さとみは言う。しかし、その声に優しさがあった。「でも、これであの子たちも大人しくなりそうね……」
さとみは子供たちを見る。みきが腕組みしたまま、まさきときりとに何か言っている。言い返そうとしたまさきが振り返って竜二を見る。竜二は黙ったまま首を横に振った。まさきはみきに向き直り、うんうんとうなずいていた。それから三人は座ってしりとりを始めていた。
「ふふふ、しりとりなんて、平和的だわ」
「でもさ、さとみちゃん」虎之助が竜二の後ろから顔を覗かせる。「しりとりって、言葉を知っていなくっちゃ、出来ないわ。あのみきちゃんって子、頭良さそうね」
「そうね。さっきも言い負かされちゃったわ」さとみは先ほどの遣り取りを思い出す。「とにかく、あの子たちをあの世に送ってあげなくちゃ」
「そうだな」竜二がうなずく。「あのまま彷徨うのはかわいそうだよな」
「何でも幼稚園バスの事故だったらしいわ」さとみが言う。「他には亡くなった子はいなかったのかしらね?」
「……他にはいません。わたしとその子たちだけです」
不意に声がした。さとみたちは声の方を見た。
そこには、ひよこの大きなアップリケの付いたピンク色のエプロンをし、半袖のTシャツにジーンズ、運動靴と言う姿で、ショートカットの似合う、陽に焼けて健康そうな若い女性の霊体が、悲しそうな顔で立っていた。
つづく
虎之助が瞳をきらきらさせて竜二に後ろから抱きついた。竜二は思わず抱えていた子供たちを落としそうになった。子供たちは悲鳴を上げて竜二に強く抱きつく。竜二も子供たちをしっかり抱える。
「おいおい、危ないじゃないかよう!」竜二は困った顔で言う。「それに、そんなに強く抱きつかれたら、あばら骨が折れちまいそうだ」
「良いのよ! 良いの……」虎之助の力がさらに強くなる。「あああ、わたし幸せ……」
「あばら骨折るのが良いわけないだろうよ」背中に虎之助の頬擦りを感じながら竜二が言う。「それに、子供たちの前だぜ、ちょっと離れろよ」
「な~にを照れてんのよう!」虎之助は離さない。「もう、好き好き、大好き!」
「分かった、分かったよう」
竜二は面倒くさそうに言う。それからからだを屈めて子供たちを下ろした。まさきもきりとも竜二の前から離れず、竜二を見上げている。
「良いか、二人とも」竜二はしゃがみ込んで子供たちを交互に見る。「男ってのは、つまらない事はやらないもんだ。分かったな?」
「うん、わかった」まさきがうなずく。「……じゃあさ、なにをすればいいの?」
「そうだなぁ……」竜二は周りを見回す。ぽつんと立っているみきを見た。「男なら、女を守るんだ。あの子のそばに居て一緒に遊んでやるんだな」
「でもさ」きりとが口を尖らせる。「みきちゃん、ぼくらとはあそべないっていうんだ」
「そうなんだ」まさきも口を尖らせる。「ぼくらがこどもっぽくってつまんないっていうんだ」
二人は日ごろの不満を竜二にぶつけている。それだけ信用されたようだ。
「あのなぁ……」竜二がため息をつく。「男ってのはなぁ、女を守るようにできているんだ。女は弱い生き物だ」
「うそだ、みきちゃんはつよいよ!」
「そうだそうだ、きりとのいうとおりだ!」
「馬鹿野郎!」竜二が叱る。二人は黙ってしまう。「それはな、まさきもきりとも弱すぎるからだ。だからみきちゃんは安心できないんだ。お前らが強けりゃ、みきちゃんはお前らを頼りにする」
「たよるって?」
「そうだなぁ……」竜二は考える。「……まあ、可愛い子になるって事だな」
「えええ~っ!」
二人が同時に声を上げる。体育館の出入り口で朱音の悲鳴が聞こえた。
「みきちゃんがかわいくなるだって?」
「おんなばんちょうだぞ!」
二人は顔を見合わせている。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、みきちゃんの所に行くんだ。そして、一緒に遊ぶんだ」
竜二に言われ、渋々と言った態でまさきときりとはみきの方へと向かった。その様子に満足そうにうなずく竜二だった。
さとみとみつと豆蔵とが竜二の前に立った。
「……竜二、あなた、子ども扱いが慣れているみたいですごいじゃない!」さとみの言葉にみつも豆蔵もうなずく。「何か食べたの?」
「そんなわけないよ。でもさ、面と向かって、すごいなんて言われると照れちまうなぁ……」竜二が笑む。「まあ、オレの親父がこんな感じだったんだ。それを真似しただけさ」
「厳しいお父さんなのね。なのにその息子は……」
「でもね、親父、オレがガキの頃に病気で死んじまってさ。それからは母親一人だったんだ」
「まあ……」さとみは驚く。それから、ぺこりと頭を下げた。「ごめんなさい、わたし、知らなかったわ……」
「いや、良いんだ、気にしないでよ」竜二は笑む。「親父は厳しかったけど、母親は甘やかしって言うか、ほったらかしでさ、それでオレはこんなになっちまった。だから、あれくらいの子供が悪さしていると許せなくってさ。生きている時も、ああ言う悪さをしている子供を叱ったら、その母親に警察を呼ばれたよ。まあ、こんな格好してたら仕方ないかな?」
「馬鹿ね……」さとみは言う。しかし、その声に優しさがあった。「でも、これであの子たちも大人しくなりそうね……」
さとみは子供たちを見る。みきが腕組みしたまま、まさきときりとに何か言っている。言い返そうとしたまさきが振り返って竜二を見る。竜二は黙ったまま首を横に振った。まさきはみきに向き直り、うんうんとうなずいていた。それから三人は座ってしりとりを始めていた。
「ふふふ、しりとりなんて、平和的だわ」
「でもさ、さとみちゃん」虎之助が竜二の後ろから顔を覗かせる。「しりとりって、言葉を知っていなくっちゃ、出来ないわ。あのみきちゃんって子、頭良さそうね」
「そうね。さっきも言い負かされちゃったわ」さとみは先ほどの遣り取りを思い出す。「とにかく、あの子たちをあの世に送ってあげなくちゃ」
「そうだな」竜二がうなずく。「あのまま彷徨うのはかわいそうだよな」
「何でも幼稚園バスの事故だったらしいわ」さとみが言う。「他には亡くなった子はいなかったのかしらね?」
「……他にはいません。わたしとその子たちだけです」
不意に声がした。さとみたちは声の方を見た。
そこには、ひよこの大きなアップリケの付いたピンク色のエプロンをし、半袖のTシャツにジーンズ、運動靴と言う姿で、ショートカットの似合う、陽に焼けて健康そうな若い女性の霊体が、悲しそうな顔で立っていた。
つづく
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