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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第五章 駈け回る体育館の怪 19

2022年03月27日 | 霊感少女 さとみ 2 第五章 駈け回る体育館の怪
 まさきときりとが、また歓声を上げた。
 さとみが振り返ると、薙刀を持った冨美代が立っていた。男の子たちは、新たに現われた冨美代の周りを回っている。
「きものだ! それに、へんなかたな!」
「わあい、くつはいてるぞ! きものなのに!」
 明治のハイカラ娘のスタイルは、子供たちには滑稽なものに映ったようだ。
「ええい、お黙りなさい!」冨美代は騒ぐ子供たちを叱る。「どう言う躾をされたのですか! これでは野猿と変わりませんわ!」
「さるだって!」まさきは言うと、鼻の下を伸ばし、下顎を前に突き出して、猿のような顔をし、猿のような声を出した。「きっきっきいぃぃ~!」
「わあ、おもしろそう!」きりともまさきの真似をした。「きっきっきいぃぃ~!」
「黙らっしゃい!」冨美代は言うと、薙刀の切っ先を男の子たちに向けた。「大人をからかうような子供は万死に値します! そこに直りなさい!」
「ちょっと、冨美代さん!」さとみが慌てて冨美代に駈け寄る。「子供相手に真剣にならないで!」
「さとみ様、今の世は、斯様に子供を育てるのですか? 大人に敬意を持つように教えないのですか?」
「いや、そんな事はないと思うけど……」さとみは言うが、最近の若い母親と幼い子供の様子を見ていると、冨美代の疑問に納得する。「でも、まあ、個性って事かしら。あと、自由って言う事もあるし……」
「今の世は、個性と自由で済まされるのですか? 開国し、西洋に追い付け追い越せ、富国強兵と励んだ結果が、斯様な情けない子供を生み出す事だったとは……」
 冨美代は言うと、どこからか取り出したハンカチーフで流れる涙を拭い始めた。
「たしかに、わたしもこの子らを見ていると、腹立たしくなります」みつが加わる。「今は子供のした事だからで済ます風潮があるのでしょうね」
「でも、しっかりした子を育てている家庭だってあるわ」
「でも嬢様……」豆蔵も加わる。むっとした顔をしている。「そんなご家庭は、ほんの僅かなんじゃねんですかい?」
 さとみが困った顔をしていると、また歓声が上がった。見ると、虎之助と竜二が現われていた。猿の真似をしたままで、まさきときりとは、虎の助と竜二の周りを回る。
「なんなの? このうるさいがきんちょたちは?」
 虎之助の声が男の声だったのに驚いていたが、すぐに笑い出した。
「わああっ!」まさきが虎之助を指差して叫ぶ。「おかまだおかまだ!」
「おねえだおねえだ!」きりとも叫ぶ。「へんなひとばっかりだあ!」
 子供たちはわあわあ騒いで収まりがつかない。
 不意に竜二がきりとを抱き上げた。きりとを左肩に腹ばいで乗せると、右手で思い切りきりとに尻を叩いた。もの凄い音がした。突然の事に皆が竜二を見る。騒いでいたまさきは黙ってしまった。そして、あまりの痛さにきりとが泣き声を上げる。すると、もう一発、竜二が きりとの尻を叩いた。
「泣くともっと叩くぞ」竜二がきりとに言う。「大人がやめろって言ってんだ、やめないお前たちが悪い。悪い子はお仕置きだ」
 きりとは両手で自分の口を押さえた。泣き声を漏らさないためだ。
「おう、お前はどうなんだ?」竜二はまさきを見下ろす。「お前もお仕置きが必要なのか?」
 まさきは必死に頭を左右に振る。
 竜二はきりとを下ろした。きりととまさきは並んで立ち、竜二を見上げている。竜二は怒った顔のままで子供たちを見下ろしている。と、竜二はしゃがみ込み、子供たちと同じ目線の高さを取る。子供たちはびくっとからだを震わせるが、恐怖から逃げ出せない。
「……何だ、聞き分けの良い子たちじゃないか」そう言うと、竜二はにやっと笑い、まさきときりとの頭に手を置き、軽くぽんぽんと叩く。「じゃあ、次はどうしたら良いのか分かるよな?」
「……ごめんなさい……」
 きりとが下を向いたまま小さい声で言った。
「そうだ、良く言えたな」竜二がうなずく。それから、まさきを見る。「お前は、どうなんだ?」
「……ごめんなさい……」
 まさきも下を向いたまま小さい声で言う。
「よし、二人ともごめんなさいが言えたな」竜二が二人を交互に見ながら言う。「だがな、それじゃまだ二十点だ」
 子供たちは顔を上げ、竜二を見る。
「何が足りないと思う?」竜二が訊く。「それが分かれば百点満点だ」
「……みんなにごめんなさいっていう……」
「……わるいことをしましたっていう……」
「それだと五十点だ」竜二が言う。「どうしたら百点になる?」
 まさきときりとは、さとみたちの方に振り返った。
「ごめんなさい」
「わるいことをしました」
 まさきときりとは言うと頭を下げた。
「ようし、良く出来た! 百点満点だ!」竜二は言うと、二人を抱え上げて立ち上がった。「二人とも、偉いぞ!」
 竜二が笑顔で言う。まさきもきりとも笑顔になった。
「竜二……」
 さとみは、子供たちと笑っている竜二を、呆然と見つめていた。 


つづく


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