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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 46

2008年12月15日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 こりゃあ、大変だ!
 コーイチはあわてて会場内へと向かった。・・・なんだか分からないけれど、芳川さんが危ない。それに僕も本格的に敵認定をされてしまったようだ。とにかく、どう言う事なのか、話を聞かなければ!
 会場に入ると、多くの人たちがあちこちでグループを作っていた。誰がどこにいるのか、全く分からなかった。コーイチはその中できょろきょろと洋子の姿を探した。・・・そう言えば、さっき林谷さんが呼び出していたな。コーイチは林谷を探した。すぐに見つかった。林谷はどう見てもお偉いさんと言った人たちと楽しそうに話をしていた。しかし、そこに洋子の姿はなかった。
「あのう、すみません・・・」コーイチはすぐそばにいる若い男性に声をかけた。「今日の主役、芳川洋子さんの紹介は終わったのでしょうか?」
「ええ、済みましたよぉ・・・」男性は明らかに酔っ払っていた。手にはウィスキーがなみなみと注がれたグラスを持っていた。「あの娘、可愛いねぇ。オレ、ファンになっちゃいそうだよぉ」
「で、今どこにいるんでしょうか?」
「ええと・・・あっちだね」男性は右側を指差した。コーイチはそちらへ行こうとした。「・・・あ、ちょっと待って! よ~く考えたら、向こうだ!」男性は反対方向を指差した。コーイチはくるりと踵を返した。「・・・いやいや、そうじゃないぞぉ。確か、あそこだぁ!」男性は天井を指差した。そして、そのまま床に倒れてしまった。途端に大いびきをかき出した。しかし、グラスからは一滴もこぼしてはいなかった。
「・・・いやいやいやいや、まいったなぁ・・・」
 コーイチは幸せそうにいびきをかいている男性を呆れた顔で見ていた。・・・こんな事をしている場合じゃなかった! とにかく芳川さんを探し出して、話を聞かなければ! 
 コーイチは会場内を見回した。光る山がのっそりと動いていた。・・・あれは・・・ カメラのフラッシュをバチバチさせながら歩き回っている滑川だった。・・・そうだ、滑川さんなら知っているかもしれない。あんなに芳川さんに興味津々だったものな。コーイチは人を掻き分け掻き分け進んだ。途中でぶつかった人ににらまれたり文句を言われたりし続けた。
「林谷さん、人集め過ぎ・・・」
 コーイチはぶつぶつ言いながら進んだ。
 やっと滑川のそばに来た。滑川もコーイチに気が付いたらしく声をかけてきた。
「あら、コーちゃん! 何をそんなにあわてた顔をしているの?」
「実は芳川さんを探しているんですが、人が多くて見つからないんです。滑川さん、見かけませんでしたか?」
「あの可愛いお嬢ちゃんね! う~ん、挨拶した後、どこに行ったのか分からないわねぇ・・・」
 不意にコーイチの背筋に殺気が走った。思わず振り返る。
「・・・逸子さん!」
 すぐ後ろで、逸子が赤いオーラを揺らめかせ、金色の光線を放つ瞳で、コーイチをじっと見つめていた。
「何なの、コーイチさん・・・」逸子が低い声でゆっくりと言った。「そんなにあのぽっと出の娘が気になるわけ?」
 逸子の周りに空気が流れ込み始めた。
「逸子ちゃん! やめて! コーちゃんは一途で心変わりをする人じゃないわ!」滑川が必死に逸子を説得する。「それは、逸子ちゃんが一番分かっている事でしょ!」
 逸子のすうっとオーラが消え、瞳がいつもの黒目勝ちなものに戻った。と、今度は大粒の涙がこぼれ落ちて来た。
「分かっているわ! そんな事!」逸子は顔を両手で覆って泣き出した。「一途で心変わりしない人だから、逆に一途で心変わりしちゃったら、わたしに全く振り向いてくれなくなっちゃうわ!」
 逸子は大声で泣き出した。周りが何事かと振り返る。
「逸子さん・・・」コーイチは逸子の両肩に手を置いた。「僕はそうはならないよ」
「コーイチさん・・・」逸子は涙でぐしょぐしょになった顔に笑顔を浮かべてコーイチを見上げた。「信じていいのね・・・」
「当たり前じゃないか、そんな事・・・」
 コーイチは言って笑顔を返した。その時、向かいの壁に洋子の姿を見つけた。コーイチは逸子の肩から手を離した。
「芳川さーん!」
 コーイチは叫んで、手を大きく振りながら壁の方へと向かって行った。
 行ってしまったコーイチを呆然とした表情で見ていた逸子は、思い出したように再び大声で泣き出した。

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(公演前のシングル発売。う~ん、なんとなくイヤな感じがしますねぇ・・・)



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