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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

聖ジョルジュアンナ高等学園 1年J組 岡園恵一郎  第1部 恵一郎卒業す 40

2021年09月03日 | 岡園恵一郎(第1部全44話完結)
 恵一郎は自室のベッドの上に寝転んでいた。
 卒業式までの数日は学校に行っても行かなくても良かった。
 同じ高校に通う同士が集まってわいわい楽しくやっていたり、別々になっても友情は変わらないと誓いを立てながら泣いたり、気分はすっかり高校生とばかりに少し規則に反する髪型や化粧をしてみたり。そんな所に行く気のしない恵一郎だった。
 恵一郎が『聖ジョルジュアンナ高等学園』の特待生と知れ渡ってから、上流社会の一員と思われてしまったのか、誰も近づいて来なかった。
 勝也と取り巻きが何もしてこなくなったのは嬉しい事だった。恵一郎に下手な事をして、上流社会独特の秘密ルートを駆使してされて、とんでもない報復を受けるかもしれないと怖れているのだろうか。
 典子もあれ以降は話しかけては来なかった。目が合ってもすっと避けられた。ひょっとして、典子の両親から関わらないようにとでも言われたのだろうか。
 そう思うのには理由があった。恵一郎の両親だ。恵一郎をすっかり腫れもの扱いしている。我が子を誉れと思うのではなく、困ったお荷物と思っているようだった。「とにかく、お前が行くと言うからジョルジュアンナに行かせるんだ。何があっても迷惑をかけるなよ」父親は迷惑そうな顔で言う。「父兄参観とか三者面談とかあったら、どうしたら良いのかしらねぇ……」母親は口癖のようにつぶやいてはため息をつく。親戚中も喜ぶよりは怖れが先に立っている。「恵一郎、お前の行動一つで、我が一族は崩壊してしまうかもしれんのだぞ。どうしてそんな高校に入ったんだ。今からでも取り消せるだろうが」一番上の伯父がむっとした顔で説教をしに来る。……僕の家って言うのは、そんなに御大層な一族だったのか? 恵一郎は思う。どう思いを巡らせても、親戚一同は平凡以外の何者でもない。
 平凡な者はその平凡さゆえに非凡を怖れているのかもしれない。
 とは言え、なぜ誰も素直に喜んでくれないんだろう? 伯父さんが言うように、入学を取り止めにして、中学浪人にでもなったら良いのか? いや、それならそれであれこれ言って来るんじゃないか? 中学浪人なんて平凡な世界ではあまりないからなぁ。
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」
 恵一郎はベッドの上で声に出してみる。もちろん、答えは返ってこない。
 ふと、恵一郎の脳裏に禁断の言葉が浮かんだ。
 ……やっぱり、僕は居ない方が良いんだ。僕が居るからみんな困っているんだ。僕が居なくなればみんな困らなくなるんだよ、どうしてそれに気が付かなかったんだ? 僕が居なくなれば、ちょっとは悲しんでくれるかもしれない。でも、それ以上にみんながほっとして笑顔になるんだ。今なら「身分違いの学校へ通うプレッシャーに負けた気の毒な少年」と見てくれるんじゃないかな? そうさ、僕が居なくなっても世界は何にも変わらない。僕が居なくても陽は昇り陽は沈むのさ……
 恵一郎は悲しく微笑むとベッドから起き上がった。


つづく


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