国籍不明飛翔物体は朝五時ごろに忽然と消えた。
登校しようと二階から降りて来た明は、点けっ放しだったテレビを観た。リモコンを操作したが、どのチャンネルを見ても、報道番組の特集が組まれ、そればかりを扱っていた。各新聞も一面に写真を載せており、世界中でも報道されていると特集番組の司会者が真剣な顔で言っている。また、人気コメンテーターはテレビ局の指示なのか、「UFO」とか「宇宙人」とかの言葉を敢えて使わず、歯切れが悪くてわけのわからない解説をしていた。明は鼻で笑うと、リモコンを使って画面を消した。
明の両親はずっとテレビを見ていたようで、ソファに座ったまま寝ていた。いいのか? 今日はまだ平日だぞ? 明はそう思ったが、両親をそのままにして家を出た。
外に出ると、いつもと変わらない光景だった。昨日と同じ明るい陽が射し、会社へ向かう社会人たち、走りながら学校へ向かう小学生たち、わあわあ騒ぎながら歩いている中学生たち、部活の格好のまま登校している高校生たち…… どの顔にも共通しているのは、眠たそうだと言うところだ。皆遅くまでテレビやインターネットなどを見ていたのだろう。
それにしても、宇宙家族の一員だとかなんだとか言ってたけれど、吸血騒ぎをうやむやにするためだけに派手な事をするものだ。これが宇宙のスケールなんだろうか? でも、あのジェシルの事だ、楽しんでやったのかもしれない。国籍不明飛翔物体の真相を世界で唯一知っている明は思った。
ぽんと肩を叩かれた。明は振り返る。くるみがにっこり笑っていた。
「おはよう……」くるみは照れくさそうに下を向いた。「おはよう、明……」
「あ、おはよう……」明は答えてから気が付いた。「あれ? へっぽこじゃないのか?」
「昨日の活躍を見たら、へっぽこなんて言えなくなっちゃったわ。あれから白木先生の家で、そんな話になったのよ」
「そう……」
いつもなら、くるみが散々明をからかい、明がそれに文句を言いながら歩くのだが、今日は二人とも黙ったままだ。行き交う人たちは国籍不明飛翔物体の話ばかりしている。
「昨日の明の活躍、誰も話題にしてないね」くるみが詰まらなさそうに言う。「新聞にも載ってなかった。地方版にも……」
「いいさ」明は平然とした顔をくるみに向けた。「そんな事よりも、あの国籍不明飛翔物体だよ」
「そう! そうよね!」この手の話が好きなくるみの目が輝く。「あれは、どう考えてもUFO、宇宙人よ! 白木先生の所でもわたし力説していたわ。でも、あの形のUFOって見たことが無いわ。しかも、国会議事堂の真上でしょ? 何かのメッセージがありそうよね!」
「どんなメッセージだと思う?」明は話に乗った。詰まんなさそうなくるみより、こんな風に明るいくるみの方が、明は好きだった。「地球を侵略するぞってメッセージ?」
「そうじゃないと思うわ。だって、何もしないで消えちゃったでしょ? だから、『地球人よ、諸君は宇宙家族の一員となったのだ』みたいなメッセージだと思うわ」
うわ、ジェシルと同じような事言ってるぞ。……そう言えば、姿こそ似てないけど、くるみの性格ってジェシルに似ているかもな、明は思った。
「おい、明!」
声が掛けられた。明が声の方を向くと、はるみ以下札付き不良娘たちが立っていた。
はるみが近づいてくる。その後に桂子、千草、文枝と続く。文枝はなぜか目がキラキラしている。
「昨日は大活躍だったな」はるみが言った。「やっぱり、男ってすごいなって思ったよ」
「そうかなぁ……」
「そうさ!」文枝がずいっと明の前に立った。「あたしのためにガンバってくれてさ。嬉しいよ!」
文枝が明に抱きつこうとするのを、はるみが止めた。
「抱きつくのは文枝じゃないよ」はるみはにやにやしながらくるみを見た。「『明に何かあったら、相手をただじゃおかないわ!』なんて言ってたくるみだよ」
「え?」明は驚いてくるみの顔を見る。「え?」
「バ、バカぁ……」くるみは耳まで真っ赤になった。「やめてよう!」
「まあ、いいさ」
はるみは笑いながら仲間たちと先へ学校へ向かった。どうせ保健室行きなのだろうが。
「変な話になっちゃって……」くるみが小声で言う。「……気にしないでね」
「分かった、気にしない」
「何よ、その言い方ぁ!」
くるみはそう言うと、怒った顔で、すたすたと先に行ってしまった。
いつもと同じじゃないか。でも、それで良いのかもな、明は思った。
つづく
*次回、最終回(の予定)!
登校しようと二階から降りて来た明は、点けっ放しだったテレビを観た。リモコンを操作したが、どのチャンネルを見ても、報道番組の特集が組まれ、そればかりを扱っていた。各新聞も一面に写真を載せており、世界中でも報道されていると特集番組の司会者が真剣な顔で言っている。また、人気コメンテーターはテレビ局の指示なのか、「UFO」とか「宇宙人」とかの言葉を敢えて使わず、歯切れが悪くてわけのわからない解説をしていた。明は鼻で笑うと、リモコンを使って画面を消した。
明の両親はずっとテレビを見ていたようで、ソファに座ったまま寝ていた。いいのか? 今日はまだ平日だぞ? 明はそう思ったが、両親をそのままにして家を出た。
外に出ると、いつもと変わらない光景だった。昨日と同じ明るい陽が射し、会社へ向かう社会人たち、走りながら学校へ向かう小学生たち、わあわあ騒ぎながら歩いている中学生たち、部活の格好のまま登校している高校生たち…… どの顔にも共通しているのは、眠たそうだと言うところだ。皆遅くまでテレビやインターネットなどを見ていたのだろう。
それにしても、宇宙家族の一員だとかなんだとか言ってたけれど、吸血騒ぎをうやむやにするためだけに派手な事をするものだ。これが宇宙のスケールなんだろうか? でも、あのジェシルの事だ、楽しんでやったのかもしれない。国籍不明飛翔物体の真相を世界で唯一知っている明は思った。
ぽんと肩を叩かれた。明は振り返る。くるみがにっこり笑っていた。
「おはよう……」くるみは照れくさそうに下を向いた。「おはよう、明……」
「あ、おはよう……」明は答えてから気が付いた。「あれ? へっぽこじゃないのか?」
「昨日の活躍を見たら、へっぽこなんて言えなくなっちゃったわ。あれから白木先生の家で、そんな話になったのよ」
「そう……」
いつもなら、くるみが散々明をからかい、明がそれに文句を言いながら歩くのだが、今日は二人とも黙ったままだ。行き交う人たちは国籍不明飛翔物体の話ばかりしている。
「昨日の明の活躍、誰も話題にしてないね」くるみが詰まらなさそうに言う。「新聞にも載ってなかった。地方版にも……」
「いいさ」明は平然とした顔をくるみに向けた。「そんな事よりも、あの国籍不明飛翔物体だよ」
「そう! そうよね!」この手の話が好きなくるみの目が輝く。「あれは、どう考えてもUFO、宇宙人よ! 白木先生の所でもわたし力説していたわ。でも、あの形のUFOって見たことが無いわ。しかも、国会議事堂の真上でしょ? 何かのメッセージがありそうよね!」
「どんなメッセージだと思う?」明は話に乗った。詰まんなさそうなくるみより、こんな風に明るいくるみの方が、明は好きだった。「地球を侵略するぞってメッセージ?」
「そうじゃないと思うわ。だって、何もしないで消えちゃったでしょ? だから、『地球人よ、諸君は宇宙家族の一員となったのだ』みたいなメッセージだと思うわ」
うわ、ジェシルと同じような事言ってるぞ。……そう言えば、姿こそ似てないけど、くるみの性格ってジェシルに似ているかもな、明は思った。
「おい、明!」
声が掛けられた。明が声の方を向くと、はるみ以下札付き不良娘たちが立っていた。
はるみが近づいてくる。その後に桂子、千草、文枝と続く。文枝はなぜか目がキラキラしている。
「昨日は大活躍だったな」はるみが言った。「やっぱり、男ってすごいなって思ったよ」
「そうかなぁ……」
「そうさ!」文枝がずいっと明の前に立った。「あたしのためにガンバってくれてさ。嬉しいよ!」
文枝が明に抱きつこうとするのを、はるみが止めた。
「抱きつくのは文枝じゃないよ」はるみはにやにやしながらくるみを見た。「『明に何かあったら、相手をただじゃおかないわ!』なんて言ってたくるみだよ」
「え?」明は驚いてくるみの顔を見る。「え?」
「バ、バカぁ……」くるみは耳まで真っ赤になった。「やめてよう!」
「まあ、いいさ」
はるみは笑いながら仲間たちと先へ学校へ向かった。どうせ保健室行きなのだろうが。
「変な話になっちゃって……」くるみが小声で言う。「……気にしないでね」
「分かった、気にしない」
「何よ、その言い方ぁ!」
くるみはそう言うと、怒った顔で、すたすたと先に行ってしまった。
いつもと同じじゃないか。でも、それで良いのかもな、明は思った。
つづく
*次回、最終回(の予定)!
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