不意にモニタースクリーンが消えた。
メンバーだった者たちは残らずいなくなり、タロウの絶叫もその顔と共に消え、急にしんとなった。午後の陽射しがいきなり強く感じる。
「暑いわねぇ……」
逸子は雲一つない空を見上げてつぶやいた。
「テルキ先輩!」
ステージからのろのろと降りて、こちらへ歩いて来るテルキに向かって、タケルは手を振りながら駈け寄って行った。
「あらあら……」逸子は呆れたように、タケルの後ろ姿を見ている。「元気ねぇ……」
「それだけじゃないと思う……」ナナもタケルの後ろ姿を見ている。「やっぱり、テルキさんは『ドベラッターのテルキ』だったのね」
「ドベラッターねぇ……」逸子はつぶやく。「ま、良いか……」
テルキはタケルと共に戻って来た。タケルは目をきらきらさせている。……まるで、動物園でナマケモノを見たコーイチさんみたいだわ。逸子はそう思うと、口元が少しほころんだ。
「さあて……っと」テルキは両腕を高く上げて伸びをした。「オレのここでの仕事は終わりだな」
「やっぱり先輩の仕事って、『ブラックタイマー』の壊滅だったんですか?」
「う~ん、どうかなぁ……」勢い込んで話しかけてくるタケルに、テルキは少々困惑気味な笑顔を向ける。「元々は『ブラックタイマー』の動向を探るのが目的だったからねぇ……」
「じゃあ、やり過ぎだったって言うんですか?」ナナが驚いたように言う。「これは目的外の事だったって言うんですか?」
「そうなるかなぁ……」テルキは髭をぽりぽりと掻いた。「今回は色々と良いタイミングが重なったから、ええい、やっちまえ! って感じになったんだけどね。こりゃあ、叱られるかもなぁ……」
「でも、あのダメ長官は更迭されたから、咎める者はいないと思います」ナナが言う。「もし、文句を言う人がいたら、わたしが相手になります」
「そりゃ、心強いねぇ」テルキがナナに笑顔を向ける。「でもさ、ナナちゃんって、そんな性格だった? もう少し大人しいイメージがあったんだけどなぁ」
「えへへ…… ちょっと影響を受けちゃいまして……」
ナナは照れくさそうに言った。タケルはちらと逸子を見た。逸子と目が合った。タケルは素早く逸らせたが、逸子はじっとタケルをにらんでいる。
「じゃあ、オレはもう行くよ」テルキは言うと、タイムマシンを取り出した。「もう、オレの役目は終わったからね」
「ねえ、ちょっと待って!」逸子が声をかける。テルキは何事と言った感じで逸子を見る。「……色々と、ひどい事を言ってごめんなさい……」
「ははは、気にしちゃいないよ」テルキは明るく笑う。「今回の事はたまたま上手く行っただけさ。普段は本当にダメダメ潜入捜査官だよ。それに、今回は君やナナちゃんやタケルのおかげかもしれないしさ。むしろ、感謝しているよ」
「そう言ってもらうと、言葉も無いわ……」逸子は答え、頭を下げた。頭を上げた逸子の表情が厳しいものに変わっていた。「……それでね、一つ聞きたい事があるんだけど……」
「おや、何だい? 改まっちゃって」テルキは意味ありげな表情をする。「オレのスリーサイズでも聞きたいのかい? それとも、住所と電話番号かな?」
「違うわ」逸子はあっさりと否定する。「あの天守閣に行く方法、本当は知っているんじゃないかと思って」
「ああ、それかぁ……」テルキは大仰に両手を広げてみせた。「まあ、ね……」
突然、逸子はテルキの胸ぐらをつかむとがくがくと前後に揺すった。テルキの頭は成す術無く揺すられている。
「教えて! さっさと教えて! 今すぐ教えて! ねえ、黙っていないで教えてよう!」
逸子の揺する速度が速くなる。テルキの頭が残像になって行く。
「ちょ、ちょっと、逸子さん!」タケルが止めに入った。「落ち着いて! それに、そんなに揺すっちゃ、話したくても話せないよ!」
「あ……!」逸子は今気がついたとばかりに手を止め、あわてて放した。「……ごめんなさい。コーイチさんの事となると、つい……」
「……いや、良いんだ。大丈夫だよ」テルキは笑顔を向ける。しかしそこには誰も居ない。まだ目の焦点が戻っていないのだろう。「君は一途なんだねぇ」
「テルキさん、わたしたちはコーイチさんを取り戻しに来たんです」ナナが言う。「ですから、天守閣への行き方を知ってるんなら、ぜひ教えて欲しいんです」
「分かったよ……」テルキの視点がやっと合ったようで、逸子とナナに笑顔を向けた。「……じゃあ、タケル、お前のタイムマシンを出しな。説明が面倒だからセットしてやるよ」
タケルはうなずきながらタイムマシンを取り出した。テルキはそれを受け取ると操作した。光が生じる。
「さあ、これで良いよ。ここに入って出りゃあ、天守閣さ。時間は今の続きにしてあるから、問題はないだろう」テルキは言うと、自分のタイムマシンを操作した。「じゃ、オレは失礼させてもらうよ。さっさと帰って本部に報告して、冷たいアサリンビールを飲みたいんでね」
「でも、先輩」タケルが言う。「長官は更迭されて、今は長官がいない状況です」
「ふうん…… でも、誰かいるだろう? 帰ってから調べるさ。それよりもビールだ、ビール!」
テルキのタイムマシンが光を生じた。テルキは三人に手を振ると光に中に入って行った。しばらくして光は消えた。
「……テルキさんって、意外とあっさりしているのね」逸子が言う。「コーイチさんとは別のタイプだけど、面白い人ね」
「いつもあんな感じだったよ、テルキ先輩は……」タケルが言う。「さ、ボクたちも先へ行こうか」
三人は光の中に入った。光はすうっと消えた。
つづく
メンバーだった者たちは残らずいなくなり、タロウの絶叫もその顔と共に消え、急にしんとなった。午後の陽射しがいきなり強く感じる。
「暑いわねぇ……」
逸子は雲一つない空を見上げてつぶやいた。
「テルキ先輩!」
ステージからのろのろと降りて、こちらへ歩いて来るテルキに向かって、タケルは手を振りながら駈け寄って行った。
「あらあら……」逸子は呆れたように、タケルの後ろ姿を見ている。「元気ねぇ……」
「それだけじゃないと思う……」ナナもタケルの後ろ姿を見ている。「やっぱり、テルキさんは『ドベラッターのテルキ』だったのね」
「ドベラッターねぇ……」逸子はつぶやく。「ま、良いか……」
テルキはタケルと共に戻って来た。タケルは目をきらきらさせている。……まるで、動物園でナマケモノを見たコーイチさんみたいだわ。逸子はそう思うと、口元が少しほころんだ。
「さあて……っと」テルキは両腕を高く上げて伸びをした。「オレのここでの仕事は終わりだな」
「やっぱり先輩の仕事って、『ブラックタイマー』の壊滅だったんですか?」
「う~ん、どうかなぁ……」勢い込んで話しかけてくるタケルに、テルキは少々困惑気味な笑顔を向ける。「元々は『ブラックタイマー』の動向を探るのが目的だったからねぇ……」
「じゃあ、やり過ぎだったって言うんですか?」ナナが驚いたように言う。「これは目的外の事だったって言うんですか?」
「そうなるかなぁ……」テルキは髭をぽりぽりと掻いた。「今回は色々と良いタイミングが重なったから、ええい、やっちまえ! って感じになったんだけどね。こりゃあ、叱られるかもなぁ……」
「でも、あのダメ長官は更迭されたから、咎める者はいないと思います」ナナが言う。「もし、文句を言う人がいたら、わたしが相手になります」
「そりゃ、心強いねぇ」テルキがナナに笑顔を向ける。「でもさ、ナナちゃんって、そんな性格だった? もう少し大人しいイメージがあったんだけどなぁ」
「えへへ…… ちょっと影響を受けちゃいまして……」
ナナは照れくさそうに言った。タケルはちらと逸子を見た。逸子と目が合った。タケルは素早く逸らせたが、逸子はじっとタケルをにらんでいる。
「じゃあ、オレはもう行くよ」テルキは言うと、タイムマシンを取り出した。「もう、オレの役目は終わったからね」
「ねえ、ちょっと待って!」逸子が声をかける。テルキは何事と言った感じで逸子を見る。「……色々と、ひどい事を言ってごめんなさい……」
「ははは、気にしちゃいないよ」テルキは明るく笑う。「今回の事はたまたま上手く行っただけさ。普段は本当にダメダメ潜入捜査官だよ。それに、今回は君やナナちゃんやタケルのおかげかもしれないしさ。むしろ、感謝しているよ」
「そう言ってもらうと、言葉も無いわ……」逸子は答え、頭を下げた。頭を上げた逸子の表情が厳しいものに変わっていた。「……それでね、一つ聞きたい事があるんだけど……」
「おや、何だい? 改まっちゃって」テルキは意味ありげな表情をする。「オレのスリーサイズでも聞きたいのかい? それとも、住所と電話番号かな?」
「違うわ」逸子はあっさりと否定する。「あの天守閣に行く方法、本当は知っているんじゃないかと思って」
「ああ、それかぁ……」テルキは大仰に両手を広げてみせた。「まあ、ね……」
突然、逸子はテルキの胸ぐらをつかむとがくがくと前後に揺すった。テルキの頭は成す術無く揺すられている。
「教えて! さっさと教えて! 今すぐ教えて! ねえ、黙っていないで教えてよう!」
逸子の揺する速度が速くなる。テルキの頭が残像になって行く。
「ちょ、ちょっと、逸子さん!」タケルが止めに入った。「落ち着いて! それに、そんなに揺すっちゃ、話したくても話せないよ!」
「あ……!」逸子は今気がついたとばかりに手を止め、あわてて放した。「……ごめんなさい。コーイチさんの事となると、つい……」
「……いや、良いんだ。大丈夫だよ」テルキは笑顔を向ける。しかしそこには誰も居ない。まだ目の焦点が戻っていないのだろう。「君は一途なんだねぇ」
「テルキさん、わたしたちはコーイチさんを取り戻しに来たんです」ナナが言う。「ですから、天守閣への行き方を知ってるんなら、ぜひ教えて欲しいんです」
「分かったよ……」テルキの視点がやっと合ったようで、逸子とナナに笑顔を向けた。「……じゃあ、タケル、お前のタイムマシンを出しな。説明が面倒だからセットしてやるよ」
タケルはうなずきながらタイムマシンを取り出した。テルキはそれを受け取ると操作した。光が生じる。
「さあ、これで良いよ。ここに入って出りゃあ、天守閣さ。時間は今の続きにしてあるから、問題はないだろう」テルキは言うと、自分のタイムマシンを操作した。「じゃ、オレは失礼させてもらうよ。さっさと帰って本部に報告して、冷たいアサリンビールを飲みたいんでね」
「でも、先輩」タケルが言う。「長官は更迭されて、今は長官がいない状況です」
「ふうん…… でも、誰かいるだろう? 帰ってから調べるさ。それよりもビールだ、ビール!」
テルキのタイムマシンが光を生じた。テルキは三人に手を振ると光に中に入って行った。しばらくして光は消えた。
「……テルキさんって、意外とあっさりしているのね」逸子が言う。「コーイチさんとは別のタイプだけど、面白い人ね」
「いつもあんな感じだったよ、テルキ先輩は……」タケルが言う。「さ、ボクたちも先へ行こうか」
三人は光の中に入った。光はすうっと消えた。
つづく
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